内側から外側へ、物語を動かす視点の転換

──ジャケットは井上さんが担当されたんですよね。
井上:この一連のアートワークは、私と澁谷萌夏さんで担当しました。まず、『walls』のジャケットを大きな壁に映し出したい、というアイデアから始まって。映し出された自分たちを俯瞰的に見ている登場人物という構図にすることで、多重的かつ複合的な意味を持たせられると思ったんです。水面に映る像は、ふたりの関係が抱える影の部分を象徴しているイメージです。歌詞と同じように、なにかひとつに限定するのではなく、ジャケットからも様々な解釈が生まれるようにしたかった。
──この構図で撮影場所を探すのは大変じゃなかったですか?
井上:大変でした(笑)。とにかく大きな壁を探して、多摩川の高架下の柱を見つけて。同じ柱が並ぶなかで、川の中に少しだけ陸が出ている位置を選び、あの構図にたどり着きました。
──1曲目の“何光年?|how far...?”の冒頭にある「(公団)」は、どういった構造なんでしょうか?
鈴木:“何光年?|how far...?”の中に「(公団)」という小曲を内包させています。『walls』のラスト曲“渚で会いましょう|on the beach”から物語をつなげようとしたとき、いきなり“何光年?|how far...?”から始まると少し唐突に感じたんですよね。そこで、地続きの情景を補うために最終段階で「(公団)」を入れました。
──先行シングルとしてリリースされた“ライター|lighter”は、MVの世界観もとてもユニークでした。
井上:映像作家の小島央大さんにお願いしました。小島さんがいろんな解釈をしてくださって、その発想がとてもおもしろかったので、委ねました。同じ画面に複数の時間軸に存在する何通りもの“ふたり”を重ねることで、「あり得たかもしれない未来」の可能性を提示しているんです。
──鈴木さんは、小島さんの解釈をどう受け取りましたか?
鈴木:すごくいいなと思いました。「選んだもの/選ばなかったもの」という概念はこのアルバムに通底していますし、特に“ライター|lighter”でその側面がフィーチャーされているので。歌詞の「別の未来があったんじゃないか」というニュアンスを映像に落とし込んでもらえて嬉しかったですね。
──“分かってる知ってる|yes, I know”では変拍子に挑戦したとのことでした。ドラムは大変でしたか?
礒本:変拍子の曲はこれまでも何曲かありましたし、リズム隊としては、むしろこういう曲を楽しみにしていた部分もありました。実際に叩いてみて気づく発見も多かったです。
──“プラトニック|platonic”の最後には、先行シングルにはなかった展開が新たに付け加えられていますよね。
鈴木:“プラトニック|platonic”の次に“ランニング・イン・ザ・ダーク|running in the dark”を置く流れは最初から決めていたのですが、心情から外の景色に視点が切り替わる際に繋がりの弱さを感じました。“ランニング〜”は世界と自分の関係性を描くような、景色を描写する曲なので、外の気配へ意識が向かう感覚を補うためにフィールドレコーディングなどを最後に追加しました。
──“ランニング・イン・ザ・ダーク|running in the dark”の歌詞には「何光年」という言葉が出てきますが、1曲目“何光年?|how far...?”とのリンクが意図されているのでしょうか?
鈴木:そうですね。同じフレーズを別の曲に入れるなど、細かいリンクを散りばめることでアルバムに統一感を持たせています。
「光年」は距離を表す単位で、1光年は光が1年かけて進む距離ですよね。昔、あるミュージシャンがこの「何光年」を“時間の長さ”として誤用しているのを見かけたことがあって。その勘違いが起きるある種のファンタジー性と、本来の科学的な意味合いの二面性が、今回の作品とすごく相性が良いと思ったんです。
──続く“肌と雨|skin and rain”ではどういった心情を描いているんでしょうか?
鈴木:この曲は前編の“subtle scent|微香性”と同じシーンを描いています。前編では、登場人物は花の名前を思い出せないんですよね。“肌と雨|skin and rain”の最後では、これまでの物語を経て、登場人物が解決のヒントとなる「気付き」に至るという、物語のなかで最も大きな出来事が起こる場面を描いています。
──その「気付き」というのは?
鈴木:最後の歌詞の「思い出した!花の名は合歓る」の「合歓る(ねむる)」は、この作品の中では花の名前として登場しています。この曲では、「歓ぶ(喜ぶ)」「合う(会う)」といった漢字が示すように、長い物語を経て登場人物たちが「自分がどう思うか」ではなく、「相手と世界を分かち合うこと」に意味を見いだし、視点が外側へ向かっていく変化を描いています。そこまでの物語は「分かり合えないこと」ばかりに焦点が当たって、思い通りにいかないもどかしさに行き詰まっていた。その果てに得た気付き、というイメージですね。
──一気に壮大なサウンドに展開していくアレンジが印象的でした。
鈴木:意識が混濁していくような、現実と記憶の境目が溶けていく感覚を、ダブっぽい残響で表現しました。











































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































