ROVOの20年目、2008年-2013年のベスト・セレクション・アルバムをハイレゾ配信
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イギリスの地で約30年もの昔、音楽に訪れた2度目の「愛の季節」と呼ばれたダンス・カルチャーの美しき熱狂。あの季節はまだまだ終わらない。その熱はいまだにダンス・ミュージック、いやポップ・ミュージックのそこかしこに音楽の刺激的な花を咲かしている。1990年代後半、この国で、さらにその熱狂を引き継いだインディペンデントなレイヴ・カルチャーのなかで、DJの横で、自由なる音楽を奏でダンスするバンドたちがいた。まさにROVOは、そうしたレイヴ・カルチャーとバンド・カルチャーの間に生まれ、ダンスのみならずさらに大きなフィールドを歩んだバンドと言えるだろう。20年の間、彼らはそうしたスタンスのもと、ダンスフロアで、フェスの会場で、山奥のレイヴの会場でひとびとをダンスさせてきた。
2016年に20周年目を迎えるにあたって、2度目のベスト・セレクション・アルバムをリリースした。今作には現在も在籍するレーベル〈wonderground music〉からリリースされたオリジナル・アルバム『NUOU』(2008年)、『RAVO』(2010年)、『PHASE』(2012年)、そしてROVO and System 7「Phoenix Rising LP」(2013年)の中から代表曲5曲と、2012年の日比谷野音LIVEアルバムから1曲を収録。選び抜かれた6曲70分、その密度は桁違いだ。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信。特集では勝井祐二(Vln)と益子樹(Syn)にインタヴューを行った。
結成20周年記念、2008年〜2013年のベスト・セレクション・アルバムをハイレゾ配信!!
ROVO / selected 2008-2013
【Track List】
01. ECLIPSE
02. BATIS
03. HINOTORI
04. MELODIA
05. D.D.E.
06. SINO DUB
【配信形態 / 価格】
[左]24bit/48kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
[右]16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
アルバムのみ 1,543円(税込)
『selected 2008-2013』トレイラー『selected 2008-2013』トレイラー
INTERVIEW : 勝井祐二&益子樹(ROVO)
2001年夏、京都大学の西部講堂前大テントでROVOを目撃して、震える程感動した。その体験は、僕の人生を大きく変えるものだった。あれから15年。ROVOは20周年だ。彼らが凄いのは、それでも曲が変化し続けること。あと、バンドであり続けることだ。今回、僕に大きな影響を与えたROVOの勝井祐二と益子樹にインタビューができたことは本当に光栄だったし、ROVOがハイレゾで音源を配信してくれたことが、とても嬉しい!
インタヴュー : 飯田仁一郎
構成 : 鶯巣大介
写真 : 大橋祐希
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バリバリにやってるつもりなんだけど(笑)、それが伝わってないことが当然ありえる
──バンド結成20周年の節目ということもあると思いますが、ベスト盤『ROVO selected 2008-2013』リリースには何かほかの理由もあったんでしょうか。
益子樹(以下、益子) : やっぱりいままで出した音源を聴いてもらいたいっていう気持ちがありました。僕らのライヴ・アルバムは会場限定盤も含めて、たくさん出ているんですが、スタジオ・レコーディングでもこういうものがあるんですよって。前に1回ベスト盤を出しているので(2009年リリース『ROVO Selected 2001-2004』)、それ以降から最近までって感じでまとめて。選曲をしたのは勝井さんです。
勝井祐二(以下、勝井) : 前のベスト盤っていうのは、中西宏司がいた7人編成の時期から選曲をしたんですね。今回はいまのオリジナル・メンバー6人に戻ってからの音源をまとめようと。前のベスト盤以降の作品は小川くん(小川雅比古 / ROVOマネージャー)が始めたレーベルから出しているので、今回のアルバムはベスト・オブ〈wonderground music〉でもあるわけ。でも〈wonderground music〉から最初に出したのが2006年の『CONDOR』っていう作品なんですけど、それは1曲55分の曲なんで、ベスト盤に入れると終わっちゃう(笑)。なのでこれは除外しましょうと。あとはこれは代表的な曲ではなかろうかというものをバランスを考えて各アルバムから選曲しました。
益子 : 選んだのはライヴでやったら盛り上がる曲っていうか、そういうところになりましたね。
勝井 : 「MELODIA」だけちょっと違うんだけどね。これはほかと曲調が違うので、中身のバランスも考えて入れました。
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──ROVOは活動のなかでライヴをかなり重要視しているバンドですよね。益子さんが先ほど「聴いてもらいたい」っておっしゃったのは、逆に言えばスタジオ盤が届いてないという感覚があった?
益子 : いや、そうじゃなくてROVOを知らない人にも聴いてもらいたかったんです。アルバムが結構たくさん出ているから、どれを買えばいいのかって分かりにくいと思うんですよね。だから、まずは試食のためっていうか。
勝井 : でも実際ROVOのライヴによく来ているけど、CDを買ったことないって人たくさんいるんじゃない? この間、山本(精一)さんとも話したんですけど、僕らは個人でもいろいろやっているから、お客さんとかに「いまROVOってやっているんですか?」って普通に訊かれることが多くて。バリバリにやってるつもりなんだけど(笑)、それが伝わってないことが当然ありえるわけで。だからベスト盤は敷居が低くて、届きやすいかなと。
2011年いっぱいで迫田悠(映像作家 / VJ担当)が去ったことで新たな局面が僕らにやってきた
──ではここからは2008年以降のROVOの活動を改めて振り返っていきたいと思います。
勝井 : 2008年くらいはバンドのなかで迫田悠(映像作家 / VJ担当)さんの存在がより大きくなっていったころですね。音楽はやってないからクレジットはしてないけど、感じとしてはメンバーでしたね。やっぱり2004年以降の一番最初の大きな課題は、メンバーが7人から6人になったってことだったんです。バンドとしてどう純度を高くしていくか。
益子 : 中西くんがバンドをやめるときに(2004年脱退)、勝井さんから「誰かほかにキーボードいない?」って話をされたことがあったんです。もちろんキーボードとかシンセサイザーを弾く人は何人もいますけど、でも俺はそのなかで中西くんの代わりになるような人は見つけられないから「ちょっと考えられないですね」って言ったんですね。
勝井 : すごく単純に言うと7人でやっていたことを6人でするわけだから、それだけ頑張らないとなって。そういうこともあって、“ライヴ”というものの表現、僕らが日比谷野音なんかを中心にやっているなかで(ROVO主催イベント〈MDT FESTIVAL〉2003年より毎年5月に日比谷野音にて開催)、6人で音を出すっていうことにプラス、15年以上一緒にやっている音響や映像、照明を含めたチームが、ひとつの輪として制作やライヴをしていく。そういう時期だったと思うんです。そのなかで迫田悠の存在が大きくなっていったし、逆に2011年いっぱいで迫田悠が去ったことで新たな局面が僕らにやってきたんです。
──ちなみに迫田さんや小川さんのような、ROVOにとってキーパーソンとなるような方々を教えていただけますか?
勝井 : メインPAの前川典也、主にモニターPAの広津千晶、楽器ローディーテックの松村忠司、照明の高田政義です。彼らを含めて完全にファミリーですね。
──中西さんが抜けたことによって、迫田さんの映像表現が必要になったということだったのでしょうか?
益子 : うーん。音を出す人と、映像って表現の仕方が違うからね。もちろん基本的には、僕らはライヴ中リアルタイムで映像を見ることはできない。だから相互作用的な何かを期待してってことではないから、それはちょっと違うんじゃないかな。
勝井 : 中西くんが抜けたから映像入れようとか、そういう意識はないですよ。でも時期は重なっていたね。それまでは大きい会場でプロジェクターとスクリーンがあれば彼女に演出をやってもらいましょうって感じだったけど、でもプロジェクターごと自分たちの車にのっけて、ライヴハウスでのツアーにも全部迫田悠を連れて行くようになったのはこの時期だったと思う。
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──では迫田さんが2011年にROVOを離れたときは、やはり大事な映像表現がなくなるということで、これは大きな問題だったんではないでしょうか?
益子 : それ以降は高田くんが頑張ってくれたとしか言いようがないね。
勝井 : うん。そもそも高田がうちのチームに入ったのは、迫田悠ありきだったんですよ。高田はもともと西部講堂のスタッフとして照明をやっていて。ROVOが西部講堂でライヴをしたあとに、迫田悠が「これからは照明を高田くんにしてください」って言ったんです。どうしてもプロジェクターの表現と照明ってぶつかってしまうことが多いんですよ。でもそういうことが一切なくてやりやすかったって言って。
──なるほど。
勝井 : 実は2012年はROVOが野音でイベントをするようになって10周年だったんですよ。だから12年までは一緒にやってくれって俺は頼んでたの。でも本人の都合でそういうわけにはいかなくて。だから迫田悠がいないのであれば、高田に演出を全部考えてくれってお願いしたんですね。あとで彼に話を聞いたら、いままで自分は迫田悠の映像がいかに機能するかってために動いていたけど、考え方を完全に変えなきゃいけないから大変でしたって言ってましたね。でも彼はやりきりました。野音ですばらしい演出をしてくれた。迫田悠の非常にカラフルな映像の世界に対して、彼は色を使わないんですよ。光のあるないだけで表現するっていう。
同じ人間であってもそのなかで細胞が入れ替わっているじゃないですか。そういうことが曲にも言える
──今作にも収録されてますが、System 7とのコラボレーションもありましたよね。これは大きなプロジェクトだったと思うんですが、いま振り返ってみるとどうですか。例えばその後の作品作りに何か影響があったりとか。
勝井 : 当然その経験はみんなで共有したわけだから大きく残っていますよ。でも「System 7と演奏やったことで、テクノのテイストを取り入れるようになりました」とかそういうことはない。
益子 : でも一緒にやっていて思ったのは、彼らの出す音は打ち込みの音だったりするけど、まったく異なるものとやっているって感覚はなくて、ある種の自然さがあったんです。ちょっと雑な言い方かもしれないけど「いまの時期はROVOにメンバーが2人増えているんだ」みたいな。
──System 7との共作や共演は、ROVOというバンドに何か変化を与えたかったような意図はあったのでしょうか?
益子 : ROVOはその時々でバンドのなかでトレンドを出して、それに向かってやっていこうっていうバンドではないですね。メンバーそれぞれにいろんなタイミングがあって、一緒に音を出すことで、いままでなかった世界を探すっていうことはできますが。
──こういう質問をしたのは、長く続いているバンドって変化をすることに対して、苦心することが多いという印象が僕のなかであるからなんです。なのでROVOがSystem 7と、そして昨年ナカコー(Koji Nakamura)さんとコラボしたっていうのも、バンドとして意図的に変化を求めた結果だったのかなと。でもいまのお話を聞く限り、どちらとも自然な流れだったんですね。
益子 : 自然っちゃ自然だよね。別に常に誰か一緒にやる人を探しているとか、何か変化をさせるために新しい音を入れようとか、そういうつもりで動いているわけではなくて。System 7との作品に関しても勝井さんと彼らの繋がりがきっかけだったわけだし、ナカコーと一緒にやったのも元々は〈dohb discs〉っていう過去にスーパーカーやROVOがいたレーベルのイベントがあって。そこで一緒になんかやったらおもしろいんじゃないかって話があったからなんです。でもバンド自体は常に変化はしているんですよ。
勝井 : そう。曲もやっていくうちにどんどん変わっていく場合があるんだよね。
益子 : その変化っていうのは、装いを変えるようなものではないから、傍から見てると分かりにくいかもしれないけど、でもそれこそ古いアルバム聴き直してみると、随分変わったなとか思う部分もある。でも逆にここは絶対に変わんないねっていうところもあったりして。僕らは新しいことをやりたいっていうか、新しい曲をやりたい、常に自分らが飽きないようにしたいとは思ってる。曲作りの話になっちゃうんですけど、ROVOの場合、スタジオのなかだけで、曲が完成することはまずなくて。ツアー、ライヴをやってから完成する。要するにお客さんがいるっていう状態がすごく大事なんですね。
──それはお客さんのノリとかを重視してるんですか?
益子 : いやそれだけじゃないんですよ。でも音を出すのは僕らなんだけど、それを受けてもっと楽しみたいとか、もっと踊りたいって反応を返してくれるのはお客さん。その曲がちゃんと機能しているかどうかがライヴだと痛いくらいにわかる。「ここ無駄に長いな」とか「ここあったほうがもっと踊れるな」とか。そういう局面を何度か迎えたあとで、レコーディングするようにしてますね。でも録音が終わったからって、その曲が終わったわけじゃなくて、いまでもその曲をもう1回やるとまったく別の形になるパートもあったりするし。
勝井 : この間思ったんだけどさ、今年リリースした結成10周年記念のライヴ音源|https://ototoy.jp/_/default/p/62121に「SPICA」が入ってるんだけど、そのときは11分台なんだよ。でもいま18分くらいあるんだよね。大体の曲はコンパクトになっていく傾向が本当はあるんだけどね。
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──それは長くなろうが短くなろうが、どちらも成長してるっていうことなんでしょうか?
勝井 : そうですね。曲が変化し成長するんです。
益子 : だって毎回同じことできないですもんね。飽きるし(笑)。特にROVOの場合は自分の演奏するパートは自分で作曲するんです。だからそれの集合体でひとつの曲になる。だから曲っていうひとつの縛り、枠組みはあるけど、そのなかでそれぞれがその時々にやりたいことをやっているというか。だから常に同じ人間であってもそのなかで細胞が入れ替わっているじゃないですか。そういうことが曲にも言えるんです。
勝井 : 続けていくと、どうしてもいろんなことが滲み出ているっていうかさ。みんな違うバックグラウンドがあって。ジャズ、ラテン、インディー・ロック。俺とか山本さんはオルタナだし。曲を作ったり、ライヴの練習をするとそれが滲み出てくるわけじゃん。でもそれを無理に抑えるっていうこともない。益子くんが言ったようにメンバーのパート一個一個がそれぞれの音のラインになっている。ROVOはシンセの音だけとか、ドラムだけとか、その6つのラインをひとつずつを追いかけていくこともできる。そのラインが一個の束になっているのがROVOってバンド。
バンドとして攻めるなら強いわけ
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──ちょっと訊いてみたいんですが、いままでROVOって解散や活動休止を考えたことはありませんでしたか? 僕はROVOやDCPRG(菊地成孔が主宰するDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、現在はdCprGに改名)の音楽に衝撃を受けた世代だったんですね。DCPRGは活動休止をすることもありましたが、一方でROVOはずっと続いてきたじゃないですか。
勝井 : 要するに僕らはいわゆるバンド・スタイルなんですよ。だから同じメンバーだし、絶対このメンバーじゃなかったらやらない。だからバンドとして攻めるなら強いわけ。このピースが揃ってる状態でしかやらないからね。ただ守りは弱い。1人怪我したらできないからね。でもデートコースはその逆をやってる。菊地くんは「攻めるのはROVOみたいなバンドのほうが強いかもしれないけど、僕らのほうは守りが強いですよ」って言ってた。1人、2人メンバーが変わっても菊地くんのコンセプトは変わらないから。それは菊地くんが選んだ、彼なりの方法論なんじゃないですか。
──あぁなるほど。“バンド”なんですね。ROVOがどういうものなのか、今日の話を聞いてすごく腑に落ちました。では最後に、いま新しいアルバムを制作してると伺ったんですが、これはどんな作品になりそうですか。
勝井 : 新しい要素もあるし、もともとROVOってこういう要素あるよなって部分も聴こえてくると思うし。バンドのなかでいろんなふうに楽曲が変化しているっていうことをビビットに捉えてる局面もあるし、いまは言えないけど、これは完全に新しい試みっていう部分もある。そういう意味では20周年を記念するアルバムらしい気はしています。いまはやっぱりバンドを20年やるとおもしろいもんだなと思って。20分とかある曲を終わりとかなにも決めてなくても、何回やっても毎回ライヴやレコーディングでもほとんど同じ長さになっているんですよ。
益子 : あれは不思議ですね。
勝井 : 毎回内容全然違うんだよ? テンポを変えてもね。それはやっぱり長い時間かけてやってるメンバーだからできることだと思いますね。
配信中の過去作
LIVE INFORMATION
FUJI ROCK FESTIVAL 2016
2016年7月23日(土)@新潟県湯沢町苗場スキー場
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2016 in EZO
2016年8月12日(金)@石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
濱 Jam 祭 presents ROVO 結成 20 周年記念 LIVE at 横浜 THUMBS UP
2016年8月26日(金)@横浜THUMBS UP
中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2016
2016年9月11日(日)@中津川公園内特設ステージ
富山ホットフィールド
2016年9月17日(土)@黒部市宮野運動公園
PROFILE
ROVO
勝井祐二(Vln) / 山本精一(Gt) / 芳垣安洋(Dr/Per) / 岡部洋一(Dr/Per) / 原田仁(Ba) / 益子樹(Syn)
「何か宇宙っぽい、でっかい音楽をやろう」と、勝井祐二と山本精一を中心に'96年結成。バンド・サウンドによるダンスミュージックシーンの先駆者として、シーンを牽引してきた。驚異のツインドラムから叩き出される強靱なグルーヴを核に、6人の鬼神が創り出す音宇宙。音と光、時間と空間が一体となった異次元時空のなか、どこまでも昇りつめていく非日常LIVEは、ROVOでしか体験できない。〈フジロック・フェスティヴァル〉、〈ライジングサン・ロックフェスティヴァル〉、〈メタモルフォーゼ〉、〈朝霧JAM〉、〈アラバキ・ロックフェスティバル〉など、大型フェス / 野外パーティーにヘッドライナーとして連続出演。2011年は、世界中のダンス・ミュージック・シーンで活躍し続けるイギリスのテクノ・ユニット「SYSTEM7」とのコラボレーション・プロジェクトを始動し、京都と東京での合体LIVEを大成功させた。 毎年恒例となったROVO主催の日比谷野音「MDTフェスティヴァル」は、2012年で10回目の開催を迎える。 国内外で幅広い音楽ファンから絶大な信頼と熱狂的な人気を集める、唯一無二のダンス・ミュージック・バンド。