【BiSH】Episode76 WACK代表・渡辺淳之介、BiSHの“メジャー3.5th”アルバム『LETTERS』について語る

"楽器を持たないパンクバンド”BiSHが、“メジャー3.5th”アルバム『LETTERS』を7月22日にリリースする。もともとシングルの発売を予定していたが、コロナ禍の現状を踏まえ、追加で新曲を制作してアルバムへと発展させた。また、7月8日には全27曲収録の自身初となるベストアルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』を緊急発売。同作は、全国のCDショップ、及びCDショップの運営するECサイトのみで販売され、販売元であるエイベックス、及びWACKの収益全額は、BiSHがかつてワンマンや自主企画を開催した30を超える都道県、70以上のライヴハウスに寄付される。そんなBiSHのプロデューサー渡辺淳之介に、『LETTERS』を中心にコロナ禍の音楽を巡る状況について話を訊いた。
INTERVIEW : 渡辺淳之介
BiSHが7月22日に全7曲収録のメジャー3.5thアルバム『LETTERS』をリリースすると連絡があった。嘘でしょ、このタイミングで? まだ彼女たちの歌さえ入ってない仮音源を聴かせてもらいその歌詞を見せてもらって、もう涙が止まらなかった。BiSHやWACKが得意なひねくれた部分はなく、まっすぐにBiSHの気持ちが描かれていた。言葉通りの『手紙』だった。このアルバムで、何人の清掃員が勇気をもらうのか。そして何人の清掃員がBiSHを好きで良かったと思うのだろうか。このアルバムを聴いた後、みんなが口を揃えて言うだろう。「BiSH、ありがとう!」と。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 井上沙織
写真 : 大橋祐希
改めてデジタル配信は生とは代替できないないものだなと思ったんです
──WACKは新型コロナの影響を大いに受けていますよね。ライヴができなくなって約2ヶ月経ちますが、渡辺さんは現状をどう捉えているのでしょうか。
渡辺淳之介(以下、渡辺) : 僕らは基本的に生で体験してもらうことを大事にしていたので、ネット課金するようなシステムを使ってこなかったし、いわゆるデジタルコンテンツに対してお金を取ることを一切してこなかったんですよね。それは今回の状況に対しては反省することが沢山あるなと思っていて。生でできることが絶たれた状況の中でどうしたらいいのか分からなくなりましたね。それこそBiSHはライヴ体験自体を伝説にするということを目標にやってきたので、まさかこんな時代がくるのかと。なのでこの状況下でなにかをみんなに届けたいなと。なので『LETTERS』というタイトルのアルバムを作りました。
──なぜ『LETTERS』?
渡辺 : 僕たちも無観客ライヴをやりましたけど、やってみて改めてデジタル配信は生とは代替できないないものだなと思ったんです。そのときに何か他の体験ができないかなということで考えたのが手紙と言うタイトルのついたアルバムでした。
──これまでのWACKの活動と比べると随分ストレートな選択ですね。
渡辺 : そうですね。WACKはストレートというよりは基本斜めから攻めたいというのはあるんですけど。当日まで発表しないでいきなり店舗に並べるゲリラ・リリースとかも、漫画でいうところの店頭で新刊が出たことを知って喜び勇んで買ってすぐ帰って読むみたいな、そういう体験をしてほしいと思っているんですよね。だから最近ではBiSの新曲「DESTROY」をゲリラ・リリースしたりしました。店頭に行かせてはできなかったのでオンラインで探してもらう形にはなってしまったのですが、それも体験の一つかなと。
──そんな中でBiSHはその直接的なタイトルのニュー・アルバム『LETTERS』のリリースを発表しました。どのような思いで制作に至ったのでしょうか。
渡辺 : 能動的に、BiSH自身もこちらから向かっていかないと届かないかもしれないという気持ちになっているんですよね。一番危惧しているのは、僕たちの動きが止まっちゃうことでみんなが興味をなくしちゃうんじゃないかということなので。最近インスタライヴでファンと交流したりするんですけど、学生の子が学校に行けてない中で結構なダメージを受けてたり、相当フラストレーションが溜まっているんですよね。「エステ店に新入社員として入ったのに4日後にクビになりました」みたいな子もいたし。全員が不安になっていてでも何かしようにも何もできないみたいな状況になってしまっているので、いまだからこそ伝えなきゃいけないと思っています。あと、ライヴハウスとか音楽業界が生きるか死ぬかみたいな状況になったとき、こんなにまで僕たちの業界は軽視されてしまうのかと思いましたね。生活必需品ではないから切り捨てられるということが現実に起こっているのを肌で感じました。

──エンターテインメント自体がですよね……。
渡辺 : エンターテインメントは心を豊かにする上では絶対必要なのに、とりあえず必要ないものとして扱われるというか。それこそライヴを開催するかしないかという瀬戸際のときに、一般の方から「職場の同僚がWACK好きで、彼はいまライヴに行こうとしている。新型コロナに感染したらどうするのか。自分には子どもがいて生活がかかっているので仕事を休むわけにはいかないけど、同僚がライヴで感染して職場に来たら仕事ができなくなる」みたいなメールがきたりもしていて。生きるか死ぬかならもう仕事行くなよとも思うしこっちも生活かかってんだよと。ただ、その送ってきた方にはその方の正義があると思うので、その気持ちはわからなくもないんです。
──一時期は本当に殺伐としていましたよね。自粛が始まってから、音楽業界はデジタルコンテンツを取り入れ始めたじゃないですか。配信ライヴをはじめ、投げ銭やクラウドファンディング、アイドルだとZoomチェキ会やオンライン特典会とか。WACKはデジタルコンテンツとどう付き合っていこうと思っていますか。
渡辺 : 今の人はデジタルで提供されるものをどこか無料だと思っている節があるのではと感じていて。漫画村もそうだし、Music FMとか無料で音楽が聴けるものがあるじゃないですか。インターネットを自分たちのHDDだと捉えているというか、無料で見られると思っているものに大多数の方たちはお金を払わないんじゃないかなと正直なところ思っています。でもメリットもあって、オンラインに変わることによって海外のファンとも交流できるんですね。国内でも仕事や学校があってなかなかライヴに来れない人たちにも届けることができるというのはひとつのメリットとしてあるんだなというのは感じられました。
普通の生活を噛み締めた後に行き着くのが音楽とか芸術なのかなと
──『LETTERS』は4枚目ではなくて3.5枚目のアルバムなんですよね?
渡辺 : もともと7月にシングルを出す予定で動いていて、4枚目はもっと準備して出したいと考えていたんです。今作は満を持して出すというよりいまの感情を思いっきり吐き出したものとして作りたかったので、3.5枚目という感覚でやっています。

──デモの状態で聞かせていただきましたが、『LETTERS』はどんな作品になりそうですか。
渡辺 : 新型コロナの感染が拡大してから作りはじめた曲も多いので、いまの状況を表せられたらいいなと思っていますね。こういうときにアルバムを作る過程で音楽と向き合ってみると、改めて音楽が好きだなという原点に戻っていく感じがありました。アユニ・Dが作詞した新曲(タイトル未定)で「僕を救ってくれたスーパーヒーローは 永遠に鳴り止まない音楽たち」って歌詞があるんですけど、結局音楽を必要としていることを伝えたい、という気持ちがメンバーの中にもあるのかなって。
──中でも表題曲「LETTERS」の歌詞はこれまでにないくらいエモーショナルですね。
渡辺 : 松隈さんの仮歌に「あなたの無事を祈る」という言葉があったんですけど、時代というか、この状況に同じ方向を向かされている感じがあったので、なるべくしてそうなったのかなという気がします。

──さきほど渡辺さんが“正義”という言葉を使っているのが意外でした。
渡辺 : 1人ひとりの正義ってあるじゃないですか。さっきのメールをもらった人にも言えることですけど、その人の中では新型コロナに感染しないということが正義なんですよね。だから「感染が起こりやすい状況のライヴハウスでどうしてやるんだ」っていう正義になる。一方で飲食店や僕たちは止められちゃうと生活ができないから、「僕たちはこれをやらないと借金を抱えちゃうし、落とし所を見つけていかないとどうしようもないんだ」っていう正義で。飲食店で働いている友達がいたら「しょうがないよね、生活のためにやるしかないもんね」って言えるんですけど、友達じゃなかったら「みんなが自粛して頑張っているときになんで営業しているんだ」になっちゃう。各々の価値観の違いが顕在化したというか、お互いに言っていることは分かるんだけど、絶対に交わることはないんだと感じたんですよね。
──なるほど。それはSNSで喧嘩ばっかりしているような感じとはまた違いますよね。
渡辺 : そうですね。もっと人と人の根本的なところというか。その正義を突き詰めると逆に悪になっちゃうというか、そこはあんまり語られることがなくて。諦めに似た状況だなと思いますね。
──なるほど。ではこの後の世界はどうなっていくと思いますか?
渡辺 : しばらくしたらこの状況にみんな飽きると思うんですよ。新型コロナが落ち着いて、最初は外に出たいとか、しっかり仕事をしたいとか、みんなで飯食いに行って楽しみたいとかあると思うんですけど、その後もう1回その状況に飽きると思っていて。普通の生活を噛み締めた後に「あれ、自分をもっと豊かにしていたのはなんだったっけ?」と行き着くのが音楽とか芸術なのかなと。結構後になるとは思うんですけど、実際みんな渇望するんじゃないかと思っているし、熱狂が生まれそうな気がしています。もしかしたら音楽をはじめる人や音楽の道を目指したかったと言って仕事を辞める人もいるかもしれない。この後の世界のためにも、そこまで踏ん張らないとなと思っていますね。
──揺り戻しきてほしいですね。
渡辺 : きてくれないと死にますけどね(笑)。
いまは自分たちを客観的に見れる時期

──BiSHのメンバーの何人かに最近インタビューしたら、ファンに対しての感覚が変わったと言っていましたが、渡辺さんはいかがですか?
渡辺 : 無観客ライヴで誰からも反応がない状況で前説をやったときに、いままでどれだけお客さんに助けられて喋っていたのかと改めて感じましたね。でも僕は大きくは変わっていないかもしれない。もちろん彼らがいないと僕たちは生きていけないので、大事な存在だということは分かっているんですけど。
──昔からTwitterでファンと交流していて、いまも幅を広げてInstagramでファンと交流している様子を見ると、意図的にファンとの接点を増やしているのかなと思ったりもしたのですが。
渡辺 : ファンと話すことによって僕が元気をもらっているというか、待ってくれている人がいるんだなということを確かめているのかもしれないですね。「外出られないんですよ」とか「学校に行けていないんですよ」とか、みんな悩んでいるわけですよ。
──自粛期間中のWACK所属メンバーのことはどう感じていますか。
渡辺 : いままで毎日のように何かしら仕事があった子たちが何もない状況に置かれて、何をしていいのか分からなくなっているんじゃないかな。「曲書いたよ」とか僕に連絡してきてもいいんですけどね。BiSHのメンバーは数か月前まで個人個人が忙しく活動していることが多くて話せていなかったんですけど、最近は話す機会がちょっと増えました。いま考えていることややりたいことを聞けるようになったので、いろんなものに対して考える時期になっているのかなっていう気はしています。
──BiSHは今後どんな未来を描いていくのでしょうか。先行きが見えずとても言える状況ではないと思いますけど、とはいえ立場的には来年、再来年を見据えないといけないですよね。
渡辺 : 実は数年後までのプランはあったんですけど、今いろいろなものができなくなっているのでどうするのかは考えなきゃいけないところですよね。いまは自分たちを客観的に見れる時期なので、元々やりたかったことや新たにやりたくなったことを準備できる期間なのかなと思っています。BiSHもそうですし、他のグループも自分の会社もそうですけど、どれだけこの期間に準備ができるのかみたいなところはありますね。最近AKB48の柏木由紀さんとラジオをやったんですけど、ニュースでBiSHを知ってもらっていたりしたので、”なんとなく知っている”みたいな状況に対してより攻めていけるものを作りたいなと思っています。
取材を終えて
インタビュー後、BiSHのベスト・アルバムを考えていると言っていた。そしてその4日後には、もうその情報は世の中に公開されていた。しかも、同ベスト・アルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』は、全国のCDショップのみでの販売、エイベックス、及びWACKの収益全額は、BiSHがかつてワンマンや自主企画を開催した30を超える都道県、70以上のライヴハウスに寄付するとのこと。これほどの企画をたった4日で発表するまで持っていくその行動力、スピード感、そして音楽業界を支えたいと言う気持ちに脱帽だ。僕は、BiSHが結成してから何度この言葉を思ったことだろう。
「BiSHを好きで本当に良かった!」
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RELEASE INFORMATION
全7曲収録メジャー3.5thアルバム
BiSH / LETTERS
発売日:2020年7月22日(水)
【形態】
初回生産限定盤 BOX仕様
AL+LIVE CD2枚組+Blu-ray Disc+写真集(100P)
品番:AVCD-96529~31/B
価格:¥10,000(+tax)
DVD盤
AL+DVD
品番:AVCD-96532/B
価格:¥5,800(+tax)
CD盤
AL
品番:AVCD-96533
価格:¥2,000(+tax)
初回仕様:有(詳細未定)
【収録内容】
AL ※3形態共通
「TOMORROW」(TVアニメ「キングダム」オープニング・テーマ)
「ぶち抜け」(テレビ東京系ドラマ24「浦安鉄筋家族」エンディングテーマ)
「co」(リアル脱出ゲーム「夜のゾンビ遊園地からの脱出」テーマソング)
他新曲4曲の全7曲収録曲
LIVECD2枚組 ※初回生産限定盤収録
LIVE CD2枚(22曲)収録
2020.01.23 NEW HATEFUL KiND TOUR FiNAL at NHK HALL
Blu-ray ※初回生産限定盤に収録
NEW HATEFUL KiND TOUR FiNAL NHKホールでのライヴ映像を完全収録
メンバーによる副音声収録
2020.01.23 NEW HATEFUL KiND TOUR FiNAL at NHK HALL
Music Video「TOMORROW」
DVD ※DVD盤収録
NEW HATEFUL KiND TOUR FiNALNHKホールでのライヴ映像を完全収録
2020.01.23 NEW HATEFUL KiND TOUR FiNAL at NHK HALL
BiSH初のベストアルバム
BiSH / FOR LiVE -BiSH BEST-(読み:フォーリヴ)
発売日:2020年7月8日(水)
https://www.bish.tokyo/news/detail.php?id=1083695

PROFILE
アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなる楽器を持たないパンク・バンド。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。ツアーは全公演即日完売。1stシングルはオリコン・ウィークリーチャートで10位を獲得するなど異例の快進撃を続けている。