よりタイトに、肉体的に、生々しくストレートに──新アルバム『Multiple』でつくりあげたLITEの色
音数を極限まで減らしたタイトな音が鳴らされるLITEの新作『Multiple』。美濃隆章(toe)、J.Robbins(Jawbox)、三浦カオル、楠本構造(LITE)という4人のエンジニアとともに作り上げられたこの作品。これはアメリカ、ヨーロッパ、アジアなどでのツアーをはじめ、様々な刺激を感じ取りながら活動を行なっているからこそ生まれた音だ!
昨年に15周年を迎えながらも、 “インスト・バンド”という形態を貫き、進化を続けてきた彼らが完成させた6枚目のフル・アルバム。新たにつくりあげられた"LITEの色"はどのように作り上げられたのかリーダーの武田信幸に話を訊いた。
よりタイトに重なったLITEの音がここに
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INTERVIEW : 武田信幸(LITE)
これまでリリースされた5枚のフル・アルバムでも“インスト・バンド”という枠組みの中でさまざまな変化を経てきた、日本を代表するインスト・ロック・バンド、LITE。国内外で数々のライヴを成功させる彼らも今年で結成16年目。はっきり言ってベテランと言われてもおかしくない。そんな彼らは2年7ヶ月ぶりにリリースした『Multiple』で、とても刺激的な音を完成させた! それは海外での活動からインスピレーションを受けたタイトで肉体的な音だった。バンドとして“やりたいこと”を出し尽くした傑作を完成させ、これからLITEはどういった音を鳴らすのだろうか。インタヴューで解き明かそう。
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
文 : 東原春菜
写真 : 大橋祐希
よりフィジカルに
──アルバムの構想はいつ頃からあったんですか?
前作『Cubic』の制作段階から、今作の根幹のコンセプトはありましたね。というのも、『Cubic』の収録曲を作りながら、やりたかったことがだんだん変わってきていたんです。その“やりたかったこと”がいまに続いているという感じで。「もっと音数を絞り込もうよ」という話から前作『Cubic』の制作もスタートしていたんですけど、いろいろと色気が出てきてしまって。そこでやりきれなかったことを次の作品で落とし込もうと、すぐに曲作りをはじめた感じですね。
──今回、音数が少なくタイトな音源になっていることにとても驚いたんですが、そうなってきたのはなぜですか?
海外ツアーの影響もあると思います。海外だと「シンセの音は聴こえているのかな?」と、外音も信用できない環境でライヴをしないといけないんですが、僕の中ではその状態のライヴってダイレクトじゃない感じがしていたんです。日本でライヴをしていると、サウンド・システムもいいし、お客さんもしっかりと音を聴いてくれるから、そういうことはあまり感じなかったんですけど。そこで「もっと肉体的に、直接的に伝えるものは、フィジカル=弦楽器だよね」という話が出てきて。「よりフィジカルに」というものが、『Cubic』制作の前段階ですね。
──なるほど。すごい話だなぁ。
僕たちのバンドは歪みすぎるわけでもなく、それこそ生音に近い音でライヴをして。そういう音で4人の楽器が合わさるパンチ力って相当なものだと思うんですよ。16年続けてくると、みんながどうしてもブレてしまうところも、キュッと決まっていくようになるんです。
──表現の方法は音源とライヴで全く変わってきますよね。
うん、違いますね。やっぱりこのやり方は、海外ツアーに行ったことで“体感した”感じかもしれないですね。
──音源ではどんな音を表現しようと思っているんでしょうか。
ライヴだと臨場感があるので、自然にそうなるのですが、音源では音数を極限まで減らして、より生々しくてストレートなLITEを詰め込みたかったんです。音数が少なくなったことによって個々の楽器がハッキリしてきたんですけど、楽器の重ね方にLITEの色が出ていると思います。
──なるほど。今回は4人のエンジニアが参加した作品になっていますが、これはなぜですか?
今作はいきなり10曲をレコーディングするのではなく、2曲ずつ余裕を持って作っていくような進め方をしていったんですね。そのほうが1曲に集中して時間をかけられて効率がいいと思って。そのやり方をしていったときに、「この曲はこの人に録ってもらいたいよね」というエンジニアさんが4人いたという感じですね。
──LITEとして4人のエンジニアさんは、それぞれどういう属性として捉えてるんですか?
美濃(隆章)さんは”直接的に音を伝える”のが得意な方だと思ってたので、LITEっぽい「Double」、「Deep Layer」、「Zone 3」の3曲を美濃さんにお願いしました。J・ロビンズにお願いした「One Last Mile」と「Temple」は、ポスト・ハードコアっぽい楽曲になったので、彼に録ってもらいたかった。「Ring」、「Clockwork」の2曲に関しては、シンセ、歌、スティールパンとかが入ってきたので、カチッとした編集は三浦(薫)さんとツーカーの仲でやれるということでお願いしました。ドラムの打ち込みをメインにしたりとかインタールード的な曲だったりする「Blizzard (Album Ver.)」、「Maze」、「4mg Warmth」の3曲はメンバーの意見を1番反映できるということで楠本にエンジニアをしてもらいました。それぞれ、その人にしかできないことを期待した選び方ですね。
──楠本さんはもともとエンジニアもしていたんですか?
仕事としてはしてなかったんですけど、その分野に昔から興味があったみたいで。もともと機材とかも持ってたり、知り合いのバンドも手伝ったりしてたみたいで。だから今回本格的にやってみようと。
──今回のアルバムは楠本さんの味がすごい効いていますよね。4人の凄腕エンジニアを並べてしまうと、カチッとしすぎてしまう部分もあると思うんですけど、そのなかに楠本さんが入ることで温かみが出るというか。特に「4mg Warmth」のミックスはすごい好きでした。
あ、本当ですか! 「4mg Warmth」は最後まで悩んでいた楽曲で。だからめっちゃ喜ぶと思います。今回、楠本にエンジニアをお願いしたことは今後にも影響があることだと思っていて。16年目にして、僕らだけである程度まで完結できるという実例ができたのはすごいことだなと思ってます。そうすると、デモのクオリティーもスピード感もあがるし、自分たちがやりたいことがもっとできるようになる予感がしていますね。
掛け算をしていままでない音を
──いいですね! このアルバムだからこそ表現したかったことはありましたか?
やっぱり統一感だと思います。アルバムだと上から下まで聴いたときに、LITEというバンドがどんな音楽をするのかという“色”が伝わりやすいですよね。1曲、2曲だと「こういう曲もあるんだ」で終わってしまうんだけど、アルバムの場合はそれが文脈になってる。そこの曲の繋がりは重要だと思ってますね。アルバムとして作品をつくるときは、スピーチのように“起承転結がある表現”をする場として考えています。
──『Multiple』というアルバム・タイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか。
“Multiple”とは「掛け算」とか「倍数」という意味もあって。4人のエンジニアと僕らで掛け算をしていままでない音を作るという意味ですね。
──なるほど。この『Multiple』を完成させる上で実は1番苦労したことは?
そうですね…… 全部難しかったです(笑)。全曲難産でしたね。このアルバムの中で1番はじめにできたのが「Double」だったんですけど、この曲が完成するまでに悩みまくって。いまはラップトップで曲を作ってしまうこともあるんですけど、昔はジャムでしか曲を作っていなかったんですね。さっき言ったように肉体的な部分を狙ってこの曲はジャムで作ってみようと思ったんですけど、それもなかなかうまくいかなくて。何度もボツになりながら、ようやくブレイク・スルーして「Double」が完成したんです。そこから堰を切ったようにいろんなことに挑戦してみようという気持ちになってきて。だから「Double」がこのアルバムのイメージを作ってる感じはありますね。
──レコーディングではなく曲作りの段階で苦労したんだ。
そうですね。口では「タイトで、LITEっぽいものを」と言っていたんですけど、それを実際に音にするところで時間がかかりましたね。LITEっぽい音を目指したときに、1stアルバム(『Filmlets』)と2ndアルバム(『Phantasia』)の音を意識していたんですよ。ただそれと思いっきり同じ音にも戻れない。そうだとしたらどんな音なんだという答えがわからなくなっていた。でも今回は、完全に真新しいものだけを求めてたわけではなくて、寧ろ昔のものに戻っていったという感じもあって。なんとなくリイシューみたいな感じですね。
──2019年のLITEっぽさを言葉で表すとどんな感じなんですかね。
なんだろうな……。いままでは、僕らの思い描いてるものと、お客さんがいいと思えるものって、一致はしない気がしていて。だからいままでは僕らだけが良いと思ったものを作るっていう感じだったんですけど、いまは柔軟に作れる幅ができてきたんです。それは16年やってきたからこそ広がった幅なのかなと思いますね。
──なるほど。今回、maco maretsがゲスト・ヴォーカルとして参加した「Ring」が収録されていますよね。LITEにとって歌がある曲はアルバムの中でどのような位置づけなんですか?
この曲は『Cubic』に11曲目として入る予定で、もともとは僕が歌っていたんです。ミックスまでしたんだけど最後の最後で外したんですよ。この曲に関しては前作の流れがあったので、今回のコンセプトからは少しズレてる感じもあるかもしれないですね。
──なぜ前作に収録するのをやめたんですか?
僕が歌ったことで思い描いていた歌にならなかったんですよね。
──今回の「Ring」はどのようにして作られたんですか?
前に作っていた段階で僕が歌詞を書いていたんですけど、その歌詞をmaco maretsに渡して。maco maretsに歌ってほしい場所だけメロディーを渡して歌ってもらったんです。
──トム・ワトソンがゲスト・アーティストで参加してる「Blizzard」もそういう作り方?
そうですね。あの曲もある程度僕が考えた歌詞をトム・ワトソンが修正していく感じで。だから合作という感じですね。「Blizzard」はフレーズができた時点で、ギターでもシンセでもないものを足したかったんです。そうなったときに歌を入れてみようと。
──なるほどね。ヴォーカルが入ってないインストのバンドにとって、ヴォーカルがいる楽曲はどのような存在になっていくんでしょうか。
トム・ワトソンが歌ってる「Blizzard」は楽器として声がある感じですよね。今後歌が入っている楽曲がどういう位置付けをされるのか、いまはなんて答えたらいいかわからないですね。でも歌が入ってる楽曲のみを収録したコンセプト・アルバムみたいなのを作ってもいいかなとも思っていて。やっぱり歌は特別なものだと捉えてますね。
LITE武田が見た海外のインスト・シーン
──ちょっと話は変わるのですが、いま世界中を周っているLITEは、海外のインスト・バンドの状況をどう見ていますか?
去年の12月に、CHONというインスト・バンドとアメリカ・ツアーを一緒にまわったんです。CHONは日本で言うところのZeppみたいなところでワンマンができるような規模で。アメリカのネクストブレイク世代という感じですね。彼らは高校生の時にLITEを聴いていたみたいで(笑)。
──そういう世代が出てきてるんですね。
そうなんです。シーンを牽引するバンドがいくつも出てきていて、過去にない規模で盛り上がっている感じはあります。そういう世代のバンドは、高校生の時に僕ら世代のバンドを聴いていて、それをさらにテクニカルな方に寄せていった人たちで。アメリカのその感じはおもしろいなと思いますね。逆にヨーロッパとかは元気がない感じがしています。
──日本のポストロック・シーンはどんな風に見ているんですか?
日本のバンドって、海外で活動して、しっかりと評価を獲得してきているバンドが多いですよね。アメリカのバンドに聞くと、やっぱり〈After Hours〉に出ているような日本のバンドは結構知っていて、“ジャパニーズ・ポストロック”として一目置かれている感じがあるんです。
──そうなんですね。
MONO、envy、toeは絶対名前が出てくるし、世界のバンドと引けをとらない評価を得ていますね。なんなら現地のバンドよりも有名みたいなこともあるんですよ。
──LITEも変わらず世界に向けて活動をしていきたい?
前までは日本8割で海外2割みたいな活動の仕方をしていたんですけど、日本だけで活動するのはもったいないなと思っているので、同じレベルで海外でも活動していく感じですね。
──日本と海外で同じようなスタンスで活動しているいちばんのおもしろさはどういうところですか?
自分たちの音楽を聴いてくれる人が世界にもいるので、海外を回るとそれが実感できるんですよ。あと現地のバンドと対バンをすると、ネットではしれない情報を知ることができる。そうやって肌で感じることが、僕らのなかでも重要かなって思います。そこで感じたものがアルバムに反映されているかもしれないし。そういうところが活動にフィードバックされる気がするので、やっぱり海外での活動も広げて行きたいですね。
──LITEのように“インスト・バンド”という制限の中で発展し続けるのってすごいことですよね。
もっとすごい人たちもいっぱいいるし、僕らも常に成長したいので終わりはない気がしますね。作品に関してもライヴに関してもそうですけど、足りないところを埋めていく行為が僕らのモチベーションになっていて。それの繰り返しかなって思いますね。
──5枚目のアルバムではできなかったことが今作につながっているということですよね。
今回は少し特別で、作り終わったときにすごい満足したんですよ。みんなとも「今回はやりたいことができたね」と話をしていて。2ndアルバム『Phantasia』を出したときにも同じ感覚があったんですよね。ただやりすぎてしまって「次、どうしようか」ってなってしまったんですけど(笑)。十分出し切ったという共通認識はあります。僕らのなかでは傑作ができたと思っています。
──なるほど。じゃぁ、また「次、どうしようか」ってなる?
たぶん(笑)。でも転がりながらバンドを続けて、雪だるまを大きくしていくところがこのバンドのテーマなので、これからもやりたいことが出てくると思います。自分たちのペースで続けて、次は20周年を目指して頑張っていきたいですね。
編集 : 鈴木雄希
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LIVE SCHEDULE
〈Multiple One Man Tour 2019〉
2019年6月18日(火)@中国・広州 MAO LIVEHOUSE
2019年6月19日(水)@中国・深圳 B10
2019年6月20日(木)@中国・杭州 MAO LIVEHOUSE
2019年6月21日(金)@中国・上海 MAO LIVEHOUSE
2019年6月22日(土)@中国・北京 OMNI SPACE
2019年7月04日(木)@日本・名古屋 JAMMIN'
2019年7月05日(金)@日本・梅田 Shangri-La
2019年7月13日(土)@日本・渋谷 WWW X
【詳しいライヴ情報はこちら】
http://lite-web.com/shows
PROFILE
LITE
2003年結成、4人組インスト・ロック・バンド。今までに5枚のフル・アルバムをリリース。独自のプログレッシブで鋭角的なリフやリズムからなる、エモーショナルでスリリングな楽曲は瞬く間に話題となり、アメリカのインディレーベル〈Topshelf Records〉と契約し、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどでもツアーを成功させるなど国内外で注目を集めている。国内の大型音楽フェス〈FUJI ROCK FESTIVAL〉や〈SUMMER SONIC〉をはじめ、海外音楽フェスの〈SXSW〉への出演や、UKの〈ArcTanGent Festival〉、スペインの〈AM Fest〉、メキシコの〈Forever Alone Fest〉ではヘッドライナーでの出演を果たすなど、近年盛り上がりを見せているインストロック・シーンの中でも、最も注目すべき存在のひとつとなっている。
【公式HP】
http://lite-web.com
【公式ツイッター】
https://twitter.com/lite_jp