シャムキャッツ、盟友・王舟と作り上げるカジュアルなポップ・ミュージック──新作『はなたば』配信開始
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2009年、1stアルバム『はしけ』でデビューを果たした、シャムキャッツ。今年活動10周年を迎え、そのソングライティングはさらに円熟味が出てきた彼ら。盟友、王舟を共同プロデューサーに迎えた新作『はなたば』では、歌詞、サウンド、歌、どこをとっても、まさに彼らの魅力でもある“遊び心”が存分に発揮されている。10年の活動を通して、彼らはどのように音楽と向き合ってきたのか。そのひとつの正解がこの作品には詰まっているのではないだろうか。ということで、今回はシャムキャッツを活動初期から知る音楽ライター、岡村詩野による、フロントマンの夏目知幸へのインタヴューで、『はなたば』をじっくりと掘り下げていこう。
王舟を共同プロデューサーに迎えた新作、配信開始
今作収録“我来了”のMV今作収録“我来了”のMV
INTERVIEW : 夏目知幸(シャムキャッツ)
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デビュー・アルバム『はしけ』以降のシャムキャッツのこの10年は、彼らのポップ・ミュージックの哲学を丁寧に時間をかけて提案するための10年だった。それはつまり、普通であることの美徳をさりげなく伝えること。ナチュラルにいい音楽であることの意味とは一体なんなのかを、彼らは持ち前のカジュアルなソングライティングとパフォーマンスでコツコツと表現してきた。
ギミックをあからさまに表出させない演奏やさりげないアレンジ、カジュアルな歌とフックのあるメロディ、そしてちょっぴりユーモラスな歌詞がおりなす、実によくできているけどあくまで普通の感触を持つ包容力あるポップ・ミュージック。それらは、どんな趣味趣向の人にも合う真っ白なコットン・シャツやブルーのデニムの素晴らしさ感じさせることに近いと言ってもいいかもしれない。もちろん、一定のリファレンスやテーマを持って作品作りに挑んでいた時期もあったし、そもそもが彼らは4人ともリスナーとして敏感で、たとえばソングライティングを担当する二人…… 夏目知幸はヒップホップやクラブ・ミュージックに夢中になったりもしているし、菅原慎一に至ってはアジアのインディー・ロックにすっかりハマっている。だが、そうした影響をそのままバンドでカタチにすることを目的とせず、ただただ自然に内部から生まれてくるものと、ちょっとしたアイデアやプラス・アルファによって誰もが「いい曲」と思えるものへと昇華させていくことに腐心。その結果、彼らは、普通にいいということをしっかりとした作業の裏付けによって作品化させることに成功してきたのではないかと思う。そのプロセスはあまりにも自然だった。まるで新しいシャツとデニムが洗濯のたびに肌に馴染んでいく過程を見ているかのように。
そんなシャムキャッツは今年2019年にデビュー10周年を迎えた。12月には単独公演としては初となる最大規模の会場である新木場スタジオコーストでワンマン・ライヴを行う。そして発売されたばかりののニューEP『はなたば』は、10年という節目でたどり着いたのが…… もちろんそれはまだまだ変化の過程ではあるものの、ナチュナルでプレーンな定番アイテムも実はホームスパンによって丁寧に作られていて、その工程にこそ自分たちのこだわりと遊び心があるという自負であることを改めて伝える重要な5曲入り作品だ。ヴォーカル / ギターの夏目知幸に、朋友・王舟が共同プロデューサーとして関わったこの『はなたば』とこの10年について語ってくれた。文末にあるこれまでのシャムキャッツのアルバムへの自主採点もお見逃しなく!
インタヴュー&文 : 岡村詩野
写真 : 作永裕範
新しいハードルを準備してくれる人が欲しかった
──まず、今回、王舟くんを共同プロデュースとして迎えることになった理由から聞かせてもらえますか?
まず、王舟の最新作(『Big fish』)にアドバイザーとして僕がちょっと絡んだんですよ。『Roji』(彼らがよく飲みにいく阿佐ヶ谷駅近くのカフェ)で飲んでいるときに王舟が僕に「曲は60曲くらいあるんだけど、アルバムにするとどうしたらわからないし、相談する人もいない」って相談を持ちかけてきて。それで「バンドだったらこういう風にやるから、一回そのやり方でやってみようよ」って、選曲してあげたんですよ。そこからアレンジとかは一切触っていないんですけど。アーティスト本人以外が絡んでいくという良さは、王舟も僕もそのときに感じていて。
また別の流れで、3作前くらいから「プロデューサーを入れたい」と個人的にずっと思っていたんですよ。というのは長く4人でやっていると、やり方もマンネリ化するし、外から見たバンドの良さが何なのかがよくわからなくなってくるんですよね。だからちょっと客観的な視点が欲しいなと思っていたんです。
そういういろんなタイミングで、今年の春過ぎに王舟から〈シャムキャッツを手伝いたいんだよね〉って言ってきてくれて。曲作りの段階から絡んでやってみたいっていうことだった。王舟はそもそもがプロデューサー気質な人だからいいんじゃないかなと思って。
──初期のプロデューサーだった古里おさむさんが離れてからは、シャムキャッツはずっとセルフ・プロデュースとしてやってきました。外部からのアドバイスや意見がほしくなった理由はどういうところにあるのですか?
うーん、なんだろうなぁ。やっぱメンバーがどういうリアクションをするかっていうのが予想ができるようになってくるんで、どんなリアクションが返ってきても、あんまり自分の創作意欲を駆り立てないというか。「まぁそう言うよね〜。そこは折り込み済みでやってんだけどなぁ」っていう状態にはなっていたんですよね。なのでちょっとおれを困らせてほしいというか、「ここをクリアしなさい」という新しいハードルを準備してくれる人が欲しかったんですよ。そうじゃないと自分の中から新しいものが出て来ないような気がする。
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──夏目くん自身が新しいハードルを設定するというのも、すぐにはアイデアが浮かばない状態まで来ていたってこと?
いや、浮かぶんですけど、自分が準備したハードルとか作品のテーマをメンバーと共有していくと、僕がエゴイスティックに作品の方向性や音楽性を決め付けている感じになっちゃうからやっぱり難しくて。バンドを窮屈にしてしまうなと。ほんとは自分のやりたいことを押し付ける意識はしていないんだけど。
──そういう雰囲気は去年の『Virgin Graffiti』の制作中から伝わっていたってことですか?
どっちかと言うと『Friends Again』のときかな。『Friends Again』は流れをすごい決めて作ったんですよ。サウンドも「多重録音をなるべくしない」と決めたり、歌を骨にしてあとの要素を足していったりして、重ねないことによて4人それぞれの良さを濃く出していくイメージで作ったんです。
そのあとにもうちょっと自由にやりたいという反動はやっぱりあって。僕としては自由にやりつつも、作品としてまとめたいという気持ちもあったから、よりプロデューサーを入れたくなったんですよね。プロデューサーを入れないで『Virgin Graffiti』を作ったはいいけど…… ぶっちゃけ言うと、『Virgin Graffiti』はそんなにいい作品にならなかったなと思っていて。いい作品というか、もうちょっと行けたのになという物足りなさが残ったんです。それで余計に「やっぱりプロデューサーって必要だな」って。
──そういう空気は、夏目くんだけが感じていたもの? それともメンバー全員がそれとなく感じていたのかな?
それはわかんないな。ただ、口には出していなけど、普段の会話からなんとなく感じましたね。『Virgin Graffiti』をつくってから、そこから先がどういう曲が必要になるのか、わからなくなっていた。だから王舟がプロデュースに入ってくれてありがたかったし、おれとしては「なるべく曲を作らない」というやり方で作ったって感じ。
──曲を作らないというやり方で曲を作る?
もう1回昔みたいなやり方に戻したいなというのもあって。1フレーズしか決まっていないのにスタジオに入って、とにかく30分くらいずっとセッションをしてみるみたいな。今回収録しているおれの曲は、「こんな状態でレコーディングできるのか?」という、かなりふわふわな状態でスタジオに入って、とりあえず録ってみてそこから組み立てるというやり方だったんですよ。
──ということは、前作までのここ最近の作品ではちゃんと曲を作りあげてからスタジオに入るようにしていたわけですね。
そうそう、デモをきっちり作って。だけど今回は相当作っていない。
──アウトラインを決めずに、なんとなくのイメージを持ってきて、スタジオで出たとこ勝負みたいなやり方で曲を作る。そうすることでなにか新しいことが生まれるかもという。
そうそう! まさしくそうです。だからバンドのマジックみたいなものを信じるというか。少なくとも俺の作った3曲(“おくまんこうねん”、“かわいいコックさん”、“はなたば〜セールスマンの失恋〜”)は基本的にはそういうやり方でした。
──それについては、王舟くんが関わることが決まってからの作業?
そうです。それまでも曲は作っていたし、貯めてもいたんですけど、なんか気持ちが変わってきてそれを1回全部放棄して。「王舟が来るならこのくらいふわっとしててもきっと曲になるんじゃないかな」という感じでイチからやってみた。久しぶりにメロディーとか一切決まっていない状態で曲を作っていましたもん。
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──結構スリリングだね。
うん。でも経験があるので、できるなという感覚はあるんですよ。「これくらいできていれば、絶対に最終的にちゃんとできている」って。
──てことは、王舟くんが関わることが決まる前に夏目くんが作った曲は、今作には一切入っていないと?
ほぼそうですね。“おくまんこうねん”はなんとなくのネタとしてあったかな。でも、「ループでこんな雰囲気があったらいいな」っていうなんとなくのイメージがあったくらい。ただ、やってみて思ったのは、昔はおれ以外のメンバーが「本当にこれでできるのか?」って不安がっていたけど、いまはおれ以外のメンバーも「まぁできるんじゃん」くらいのテンションで取り組んでいたんじゃないかなってこと。それに、王舟がいいアドバイスを投げてくれるんですよ。たとえば「ここには語尾を切っちゃった方がいいタイプの歌が入るべきだ」とか「リフがかっこいいから、それを生かすための歌を入れたら?」とか「この曲は隙間を作っておいて、あとからアレンジを考えた方がいい」みたいな。まぁ勘ですよね。でもその直感が自分たちも理解できるものだから。
やっぱり歌は強い
──菅原くんに話を訊いたときに言っていたことなんだけど、王舟くんは、夏目くんの歌をバンド・サウンドのなかで生かすためのイメージを明確に持っていたとのことで。つまり、王舟くんの中で、シャムキャッツの音全体というよりも、歌を生かしていくというテーマが最初からあったから、外部プロデューサーとして入った時に目指しているものがぶれずに最後までいけたと。
その通り。やっぱり歌のチョイスって1番難しくて。それこそ『Friends Again』を作ったあとに、僕がプロデューサーの候補としてあげたのは、KIRINJIの(堀込)高樹さんで。実際メンバーにも口に出したこともあったんですけど。高樹さんも「ぜんぜんやれるけど、本当に役に立てることがあるとすれば、たぶん歌についてだと思う」って言っていて。「歌の良い / 悪いとかではなくて『この曲だったらもっとこの歌い方が良い』とか『ここでもうちょっと情緒をつける』というディレクションだったらできる」と言ってくれていて。僕としてもそこは欲しかったし…… まあ、王舟も同じようなことを感じていたんでしょうね。
僕も弾き語りでマイクも使わずに生音でライヴをして全国を回ることをずっとやっているんですけど、「やっぱり歌は強い」ということは日々感じていましたね。歌そのものが持っているものは強いし、人前に出て言葉をメロディーとして発していくことは、プリミティヴに心動かすものがあるな、と。
──夏目くんの歌って基本的には、ガッツのある歌い方でも朗々と歌い上げる歌い方でもないし、どちらかと言うと声質も柔らかいですよね。声質や歌のタッチだけで強さを表現するにはなかなか外に伝わりにくい。となると、夏目くんとしてはどんな部分で“強さ”が出していこうとしたのでしょう?
たぶんそもそもシャムキャッツがメッセージとして持っているものって、「大きい声を出せる人が勝つような世の中は間違っているんじゃない?」っていうのがあると思うんですよ。それを具現化したときに、実際に大きい声で歌ってもなんの説得力もないというか。それこそ高田渡さんみたいに、そこら辺のおじさんがペペッてしゃべってるみたいなことでも刺さるぜ、という声の出し方じゃないとダメだと思うんですよね。だからそういうものを目指したい。
──ある種パンクの精神性。
そうそう、だから逆にいっちゃってるんですけど、エリオット・スミスとかがそうだったように、その精神はありますよね。ここ最近で、さらにその自覚が強くなってきたという感じだと思います。ライヴをするフィールドもアジア圏に広がったり、先輩後輩が増えてきたりして、自分たちの芯となる部分はどこなんだろうって考えるタイミングが増えて、それで余計に自覚するようになったというか。でもね、たぶん歌い方はソフトに聞こえるんですけど、実際に生で観たら僕の声って結構出てるんですよ。実際、歌い方もぜんぜん変えてないんですよ。ただ録音物になるとああなるんですよね。
──なるほどね、そこに悩んだ時期とかある?
いや、一切ないです。「違くて当然じゃん」くらいに思ってます。
──(笑)。では、自分の声質を、あとから録音物として聴いたときに、「こういう歌を歌うから俺たちかっこいいんじゃん」みたいなことに気づいたのはいつ頃ですか?
どうなのかなぁ……。いまも気づいていないのかもしれない(笑)。まだ足りないとは思っているんですけどね。もうちょっと変な声にならないとなぁというか。たとえばYO-KINGさんの歌って、意識して聴いてなくても「あ、YO-KINGの歌だ」ってわかるじゃないですか。やっぱそういう声じゃないとダメなんですよね。そこにはまだ届いてないなと、自分では思ってます。自分としては少しずつ進化はしているんですけど、まだ足らないんですよね。
──それは意識的に進化させているってこと?
ちょっとずつさせているはずです。もうあとちょっとで化けると思うんですけどね。前野健太くんも最新作で歌い方をだいぶ変えたじゃないですか。あれも振り返って聴くと、数枚前からその予感はあったんだなって感じるんですよ。少しずつ少しずつ変えてきたものが最新作で表に出てきたけど、彼の中にも葛藤があったんだなってわかる。たぶん僕にもそういうタイミングがもうちょっとでくるような気がする。だからヴォーカリストとして「これぞ、夏目知幸」というものができたらいいですね。次の次くらいにはできるんじゃないかな。
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──自分のヴォーカルが変わってきていることは、自分で曲を作っていく中でいくらか左右されることもあるんですか?
ありますよ。やっぱり、声だけで説明できれば言葉はどんどんいらなくなると思うから。表現力がつけばつくほど、俳句みたいな歌詞が可能になるんじゃないかなとか思いますね。逆にいうと言葉の自由度は増すから、〈君〉という言葉を使わなくても〈君〉がいるように聞こえさせることができたら、言葉としては〈君〉はいらなくなりますよね。状況を言葉で説明するのは割と得意な方だと思うから、自分としてはそうじゃないところを伸ばしていきたいですね。
『Virgin Graffiti』のツアーを回っているときに実は1個大きなきっかけがあって。岡山の『ペパーランド』でライヴをしたときに、能勢伊勢雄さんがいらっしゃって。いまはめったにライヴハウスに顔を出さないみたいなんですけど、リハからずっとニヤニヤしながら観ていて。白髪のおじいちゃんと言ったら失礼だけど、もうベテランの方ですよ。
だけど打ち上げまで来たいって言い出して、焼肉屋で僕の隣に座ったんですよ。「夏目くんに伝えられることがあると思って来た」ってハッキリ言われて。そんなこと滅多に言われないじゃないですか。それで話を聞いていたら「ライヴを観ていると、日本の人が持っている感性を感じるし、日本語をすごい大事にしているでしょう。テクニックとしては海外の歌詞を見て学ぶのもありだけど、芯となる感性の部分はもっともっと“日本”を意識してもいいかもよ」って急に言われて。「『雪が降ってスタッドレスタイヤを履かなきゃ』みたいな感性じゃダメだ!」と(笑)。
──(大爆笑)。
それで「日本人の詩をもっと読みなさい」って言われて、明治とか大正、昭和の時代の詩人をいくつか教えてくれたんですよ。
大手拓次、吉田一穂、このふたりは是非読んで欲しいと言われて、すぐ読みました。そのあとネットで調べて、藤富保男という方を知って「やべ~」ってなったり、戦後の女流詩人である石垣りんさんの詩を読んで「生活することと創作すること、それ自体が戦いだな」なんてことを思ったり。最近の方だと松井啓子「くだもののにおいのする日」に感銘を受けました。
そういう人たちの作品を読んでいると、説明せずに説明するというか、言葉の流れの中でものを感じさせるというのはたしかにあるな、という気持ちにはなりましたよ。それこそ『はしけ』を出した時は結構意識していたんですよ。でも最近はしていなかったですね。
──気がついたら日本語の持っている表現に距離を置いてしまっていたと。
やっぱり、そもそもイギリスとかアメリカの音楽への憧れが強いから、歌詞もそっちを見てインスピレーションをもらっていたんでしょうね。でも、いまは、実際に自分でまだ分析したことはないけど、すごい日本人的な感性、出てるんじゃないかな。ひらがなが増えたのもそのひとつだと思うし。
──タイトルからしてそうですね。“おくまんこうねん”も“かわいいコックさん”も。
ね、そうですね。隙間で語ることができないかな、と。『Friends Again』と『Virgin Graffiti』のときは、時折歌詞を書くことが苦しかったんですよ。伝えたいことを最短距離で伝えたいとか、自分としては一番伝わりやすい形にしたいとか、これはもうやったことあるなとか、これは誰かの曲でもうやられているなとか。そういうことをいろいろ考えちゃって。そうするとがんじがらめになって言葉が出てこなくなるんです。
でも今回はオケができてから歌詞を書く感じだったんだけど、すごく歌詞を書くことが楽しかったという記憶があって。それを言葉遊びというのかもしれないけど、歌詞を書くという行為がちょっと遊びになってきているというか、楽しんでやっている。「これとこれをつなげたらどうかな」みたいな感じで。最近はそういうやり方をしてこなかったんですよ。自分としては映画を作る感覚で、プロットを決めて。主人公は何歳で、その日は晴れているのか雨の日なのか、どこの国にいて、どういう人と付き合っているか、みたいにある程度人物像を決めて書いていたんです。だけど、今回はもう一切そういうことをしていない。
いかに高田純次になるかを考えますよ(笑)
──なるほど。今回トラックリストを見ていたときに“かわいいコックさん”って、あの“かわいいコックさん”のカヴァーかと思ったのね。
もちろん。あれをネタにしていますからね。
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──昔からある伝承歌の“かわいいコックさん”って絵描き歌でしょ? 誰が作ったとか何を表現しようとか、そういう視座で作られた曲ではなく、とにかく多くの人の口から歌い継いでもらえれば、みたいな希望があの曲にはあると思うんですよ。それと同じ視座が夏目くんが作った方の“かわいいコックさん”にもある。子供達でも絵描き歌として遊べるくらいの柔軟な言葉の広がりを持っていると思って。
そう! うれしい! 本当に遊びです。あと“おくまんこうねん”という曲は、大事な友達に子供ができたっていうこともあったりして、テーマと言われたら「受精」ですよね。精子が卵子に突入するときの歌を作ろうと思って。だからなんとかタイトルに「マンコ」という言葉を入れたかったんですよ!
──あははは!
それをどうにかして入れたかった(笑)。だから“おくまんこうねん”だ、と。それで、マンコの曲を作るならチンコの曲も必要だなと思って“かわいいコックさん”。そういう数珠繋ぎの遊びです。
──コックってそっちのコックか!
同時にやってはいるんですけど、“おくまんこうねん”って決まってからは、もう「コック」だし「かわいいコックさん」だなと。〈棒がいっぽんあったとさ〉…… あぁもうチンコだな、できるなって。レンジの〈チン!〉もチンコだし、全部成り立つなと。
──もともと夏目くんは下ネタOKの人だからね。
なるべく下ネタだけを言って生きていきたいですからね(笑)。
──そういう意味では“はなたば 〜セールスマンの失恋〜”も、10周年のタイミングで4人でみんなでひとつになって力を合わせて頑張ろうという大きな意味の傍らで、実はエロスを伝えているのかな、花もエロスの象徴とも言えるしな、そういう解釈もあるのかな、といま気づきました。
たしかに! いま思い出しましたけど、歌詞を書こうとなったときに、エロをやれる人ってあんまりいないなって思って。桑田佳祐くらいだなと。若手のエロ歌詞枠空席じゃん! って(笑)。だからいまその席に座ろうと思ってるんですよ(笑)。だから早く『an・an』の表紙をやりたいんですけどね(笑)。ま、冗談ですけど(笑)。ただ、30代になって、エロでもちょっと余裕は出てきていますからね。会社の若い子に変な下ネタを言いまくるようなおっさんにはなりたくないから、いかに高田純次になるかを考えますよ(笑)。
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──…… というような話は王舟くんには伝えてあったのですか?
わざわざ「こういう意味だよ」って伝えてはいないので、半分くらい理解していないと思うんです。でも要所、要所で王舟も掴んでいて。“おくまんこうねん”の歌詞とかだと、〈目玉のカイトを揚げるのは君だろう👀 / この町でたったひとつ 真実を見上げる顔〉っていう歌詞があって。でももともとは「この町で揚がっているカイトはひとつだけど、見上げている人はいっぱいいる」っていう表現方法をしていたんです。でも王舟が「夏目くん、ここはやっぱ、〈真実を見上げる顔〉のままにしておいたほうがいいよ。『真実はちょっと顔を上に向けないとわからないんだ』というメッセージが込められてると、俺は思っていたんだ」って。
──王舟くん、うまいこと言うなあ。さすが!
そうそう。それでたしかにそうだ! それにしよう! って決めたりして。“かわいいコックさん”だと、「最初は少し投げやりでいい」とか「ここはちょっと伸ばすけど、ここは切る」とか、細かい指示はいっぱいありました。仮で歌入れをするんですけど、それを聴いて、王舟のなかで「ここはこうしよう」という世界観があったんですよね。耳に聞こえる部分でのプロデュースって意味でも、すごく大きな役割を果たしてくれましたよ。“おくまんこうねん”とかに関しては、なるべく僕の癖が出るようなチョイスをしている。ピッチが合っているとかいうレベルではなくて、耳に聞こえてきたときに残るものを選んでいるって言ってました。やっぱりそこはとてもうまいですよね。自分も歌う人だしね。
いつまでも山菜みたいなバンドがいいですよね
──こんな言い方をしたらよくないかもしれないけど、今回の夏目くんの歌い方はすごく適当な感じがしたんですよ。適当じゃなく適当じゃないことをやっている感じ。
ははは! それ最高ですね(笑)。いや、うれしい。『Friends Again』と『Virgin Graffiti』のときはちゃんと歌おうとはしていたんですよ。もっと言えば、『Friends Again』を録る直前くらいまで、俺は〈歌を歌おう〉と思ったことがなくて。歌詞を表現するために声を出しているけど、歌っていうのがどういうものかを考えたことがなくて。
だから、そもそも「歌おう」と思いはじめたのが最近なんですよね。歌おうと思ってめちゃくちゃちゃんと歌ったのが『Friends Again』と『Virgin Graffiti』で、それがあって「もうちょっと歌わない方が俺らしいな」と思いはじめてる。それが今回の作品。もうちょっとしゃべるように歌おうと。だから、まさにそう言われて、ほんとその通り! メロディはもちろんあるんだけど、もうちょっとしゃべるように──ルー・リードみたいにできればなと。そこまでいっちゃうと本当に歌ではなくなるけど(笑)。
──それはソロとして弾き語りで歌っていることも影響している?
かなりしていると思います。弾き語りだと自由だから、たとえばシャムキャッツの代名詞になっている“GIRL AT THE BUS STOP”とかも、バンドでやる状態だと最初から〈バスを待つ 彼女はなんだかちょっと〉って歌わないといけないでしょ。でも弾き語りだともうちょっとミュージカルみたいにできるでしょ。自由度が高いというか。ポップスという枠組みからははみ出ているかもしれないですけど、音楽の枠組みの中でできることをもっと広く試していきたい。余計に声そのものとか声の出し方自体に説得力を持っていないといけなくなるから。
──その結果、曲そのものも出てくるものがそのまま形になっている感じがしました。曲それ自体の狙いが意識的ではないというか。
そう、解放ですよ。気がついたら元ネタを意識するようなことをやらなくなってたっすね。
──新しい音楽とかも相変わらず聴いているけど。
めちゃくちゃ聴いてますね(笑)。
──でも参考資料にすることがなくなった。
そうですね。しなくなりましたね。
──それはなんでだと思いますか?
うーん……。なんでかなぁ。大きくあるのは、体を動かしたくなる音楽を作りたいというのはあって。ダンス・ミュージックじゃなくても、聴いたときに体が反応する音楽を作りたいなと。そういうのがあると、それだけが大きなテーマになって、小さな参照点を持たなくてもそれで曲は作れるんですよね。そうすると「この曲はバンビのベースが活きるかな」とかみたいに、他のところから曲を作っていける。だからそれに気付いてからは細かな参照点は持たなくなったかもしれないです。
──新しい音楽は聴いて、いくらか参考にする部分はあるけど、そういうところからヒントを得るということはシャムキャッツにとってはおもしろい作業ではなくなってしまったということ?
まさしくそうです!
──しかも、メンバーへの信頼はより強まっているし。
そう、信頼はすごくしているんです。俺が根詰めて考えていかなくても、絶対に形になるという自信とか信頼があるからこそ、煮詰めない状態でも曲作りに迎える。だからこそ偶然の産物を取り入れることが多くなる。技術的には高くなってくるから、そこら辺ではポジティヴに変化している。だけど、実は最初から信頼度というのは変わっていなくて。音楽的なテクニックがあるとか、理論を理解しているとか、そういうところとは別の部分で「こいつにやらせればおもしろくならないことはないだろう」という信頼は最初からあるから。だからそのまんまっちゃそのまんま。ズバリ、そこが揺らいだことは1度もないですね。
──その結果、もはやいまのシャムキャッツのお手本になるような存在がなくなった。シャムキャッツでしかなくなった。
そうなんですよ。でもなったらなったで大変だなというのはあるんですけど(笑)。やっぱり、よくわからないものにはなりたいんですよ。最近メンバーを見ていても、全員が変なおじさんになりつつあるんで。〈お前、それどういう人間なの!?〉っていうね(笑)。藤村とかさ、変なピンク色の六角形のメガネしてるしね。誰がどう見ても変なおじさんなんですよ。いよいよいい感じに熟してきたなっていう(笑)。頼もしいですね。
──人としてのなんとも言えないえぐみみたいなものが出てきた感じがある。
そうそう! もともとおれらもそういう先輩が多いところから出てきたしね。えぐみのあるおじさんたちに囲まれてきたから。いつまでも山菜みたいなバンドがいいですよね。アクを抜かないとめちゃめちゃえぐいんだけど、「やっぱりフキノトウは爽やかな香りするな~」とかね。山菜を目指したいですね(笑)。
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──新木場STUDIO COASTでのライヴもあるし、これから11年目に向かっていくわけですけど、来年以降はどういう予定なんですか?
来年はね、前半はちょっと休む! そのあとは休んでる間に考えようかなと思っているんで。あと、おれもソロを出すし、菅原も出すって話がある。おれらね、1年間に1枚はずっとリリースしてきているんですよ! 楽しいからやっていたんですけど、メンバーも「これをずっと続けるのは無理じゃね?」ってなっていて。ゆっくり作りたいからちょっとペースを考えようと。でも馬車馬のように働かされていたわけではなく、楽しいからってギャーギャーはしゃいでいたらいつの間にかめっちゃ疲れてたというか…… ほんと子供ですね(笑)。一旦そういうタイミングがあってもいいかなって。ほら、やっぱりもう大人だから(笑)。
──では最後に、『はしけ』から『Virgin Graffiti』まで、これまでのリリースをいまの段階で点数をつけてもらえるかな? まず『はしけ』から。
『はしけ』は、いま聴くと10点なんですよね。でも当時の評価で言えば4点くらい。いまは10点! 「天才現る」という感じ(笑)。
──『GUM』は?
『GUM』はね、6.5点かな。好きなアルバムではあるんですけどね。おもしろさはあるけど、それ以外はないってところでマイナス3.5ですね。
──『たからじま』は?
う〜ん、でも『GUM』と同じかな、6.5点! 楽曲の良さは増したけど、アルバムとしてのまとまりがなさすぎるかな。でもそこがいいところではあるんですよね。あと作っているときに自分が辛かったという思い出があるから。自分がやりたくてやっているんだけど、やらされている気になりはじめちゃったというか。環境も変わったし、震災もあったし。しかもやる気はあるけど、実力とかは一切なくて。まぁ勉強にはなったかな。
──『AFTER HOURS』と『TAKE CARE』。
このふたつは8.5点くらいだと思います。まぁよく作りましたね。
──『Friends Again』。
これも同じ8.5点くらいかな。
──『Virgin Graffiti』は?
うーん、7.5点かな。
──厳しいなあ。ということは過去最高の点数は『はしけ』になりますけど(笑)。
あははは! まあ、いつも10点を目指しているんですけどね!
編集 : 鈴木雄希
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LIVE SCHEDULE
シャムキャッツデビュー10周年記念全国ワンマンツアー
2019年11月22日(金)@福岡 BEAT STATION
時間 : OPEN 19:00 / START 19:30
2019年11月30日(土)@札幌 KRAPS HALL
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
2019年12月5日(木)@名古屋 CLUB QUATTRO
時間 : OPEN 18:30 / START 19:30
2019年12月6日(金)@大阪 umeda TRAD
時間 : OPEN 18:30 / START 19:30
シャムキャッツ デビュー10周年記念公演「Live at Studio Coast」
2019年12月13日(金)@新木場STUIO COAST
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
【詳しいライヴ情報はこちら】
http://siamesecats.jp/shows
PROFILE
シャムキャッツ
![](https://imgs.ototoy.jp/feature/image.php/2019110602/siamescat2019.jpg?width=500)
メンバー全員が高校三年生時に浦安にて結成。
2009年のデビュー以降、常に挑戦的に音楽性を変えながらも、あくまで日本語によるオルタナティヴ・ロックの探求とインディペンデントなバンド運営を主軸において活動してきたギターポップ・バンド。サウンドはリアルでグルーヴィー。ブルーなメロディと日常を切り取った詞世界が特徴。
2016年からは3年在籍した〈P-VINE〉を離れて自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立。より積極的なリリースとアジア圏に及ぶツアーを敢行、活動の場を広げる。
代表作にアルバム『AFTER HOURS』『Friends Again』、EP『TAKE CARE』『君の町にも雨は降るのかい?』など。
2018年、〈FUJI ROCK FESTIVAL ‘18〉に出演、5枚目となるフル・アルバム「Virgin Graffiti」を発売した。
【公式HP】
http://siamesecats.jp
【公式ツイッター】
https://twitter.com/s_cats
【公式インスタグラム】
https://www.instagram.com/s_catsarehere