今年のフジロックではなにが起こっていた?!──〈フジロック 2019〉
今年も新潟県の苗場スキー場にて23回目の開催となった〈FUJI ROCK FESTIVAL '19〉。 今や夏に欠かせない恒例のイベントとなっており、今年は1、2日目のチケットが完売した。 観に行きたかったけど行けなかったかた、観たいアーティストが被って観れなかったかた、必見! 映像に映し出すことのできない、生で実感した会場の雰囲気をお届けします。 今年は、約10年ぶりの復活となった国内メジャー・アーティストの出演により例年とは違った盛り上がりかたが見受けられ、海外アーティストの激アツなライヴ・パフォーマンスにくぎ付けとなった3日間の様子をレポートでご体感ください!
FUJI ROCK FESTIVAL '19
2019年7月26日(金)、27日(土)、28日(日)@新潟県 湯沢町 苗場スキー場
出演 : 国内外約200アーティスト
詳細 : http://www.fujirockfestival.com (オフィシャル・サイト)
レポート :
文・構成 : 渡辺裕也
写真 : 大橋祐希
FUJI ROCK FESTIVAL '19
2019年7月26日(金)、27日(土)、28日(日)@新潟県 湯沢町 苗場スキー場
来場人数 :
7月25日(木)前夜祭 15,000人
7月26日(金) 40,000人
7月27日(土) 40,000人
7月28日(日) 35,000人
延べ 130,000人
今年のフジロックはどうでした?
2014年以降、動員数をゆるやかに伸ばしているフジロック。インバウンドの増加やファミリー層のさらなる安定、あるいはインターネット中継の効果など、近年の集客面における好調ぶりの背景には当然いくつかの要因がありそうだし、逆に言うとラインナップ云々はあくまでその一部に過ぎないんだろうな、とも思う。
ただ、今年1日目のチケットが即完したことについては、どうやらその理由は「エルレガーデンの出演」に尽きるようだ。彼らの出演が発表された途端にチケットは一万枚売れたらしいが、実際に当日を迎えてみると、その状況は想像以上のものだった。越後湯沢駅に降りた段階から、目に付く人はとにかくエルレガーデンのTシャツを着用した人でいっぱい。グッズ売り場も別ブースが用意されるなど、このバンドの絶大な人気ぶりをいたるところで痛感させられることになった。
そんな筆者が初日もっとも楽しみにしていたのはジャネール・モネイで、いま振り返っても個人的にはジャネールのライヴが今年のハイライトだった。プリンス、ジェームス・ブラウン、マイケル・ジャクソン、デヴィッド・ボウイなど、歴史的ポップ・スターたちの引用に満ちたサウンドとヴィジュアル。ギタリスト以外はすべて女性で揃えた9人のメンバー。あるいはそのパフォーマンスに裏打ちされた社会的メッセージ。非常にハイコンテクストなライヴであるのと同時に、そんな文脈をひとつも知らなくても最高に楽しめる、まさに極上のエンターテインメントだった。
ライヴ終盤、彼女はフジロックのオーディエンスに向けてこんな言葉を投げかけている。
「黒人、女性、LGBTQIA、障害をもつひと、労働者階級、移民たちと共に権力と闘おう。私たちはトランプ大統領を弾劾しなければならない」
オーディエンスに連帯と共闘を呼びかけていたのは、なにもジャネールだけではない。とりわけ、今年の3日間は女性たちのコンシャスなパフォーマンスに何度もハッとさせられた。たとえばステラ・ドネリー。ストリーミング中継での評判も相まって見事に今年バズを起こした彼女がそこで歌っていたのは、いまだ男性支配的な社会への痛烈な批判と皮肉だった。あるいは、コートニー・バーネット。タンクトップ姿のコートニーがギターを掻き鳴らし、その腕を振り上げるたびにのぞかせていた脇毛は、彼女がステレオタイプな女性像から解放されていることをたしかに象徴していたし、何よりその姿はとても美しかった。
ジェイ・ソムの素朴な佇まいも忘れがたい。飾り気ない恰好でステージに現れた彼女がバンド・メンバーと共に鳴らした音は、音源よりもはるかに強靭で粗暴。そのザラザラした手触りは北米オルタナの遺伝子をまさに継承したものだった。そして、ミツキ。ステージ中央にテーブルと椅子を配置し、その上に横たわりながら体操服で歌うミツキの姿はやはりシュールで、見様によっては痛々しくすら映るが、それ故に胸を打たれた。あのぎこちないパフォーマンスには、日系アメリカ人のミツキがこの世界に感じてきた居心地の悪さが投影されているのだと思う。
素晴らしかったのはもちろん彼女たちだけではない。ホワイトステージに巨大な8分割テレビをセットしたヴィンス・ステイプルスのライヴ・パフォーマンスは今年のフジロックでも一際シリアスで、重低音のデカさも段違い。喉の不調と直前の機材トラブルによって急遽セットの変更を余儀なくされたジェイムス・ブレイクは、むしろそうした困難な状況を楽しんでいるようだったし、ミスター・アシスター(ドラム)とエアーヘッド(ギター)を従えた3人編成はあらためて鉄壁。あの布陣はバンドとして最強だと思う。
他にも、フォニー・ピープルの見事なライヴ巧者ぶり、サブリナ・クラウディオの目のやり場に困るほどセクシーな佇まい、ハイエイタス・カイヨーテの超絶技巧ぶりなど、素晴らしかった瞬間は枚挙に暇がない。世界各地から新旧のアーティストが集うフジロックは、今年もさまざまな音楽との出会いに満ちていた。
一方でこうも思う。フジロックにはいま何が求められているんだろう。僕は音楽的な多様さがこのフェスの最大の魅力だと思ってるし、だからこそこのフェスに通い続けているんだけど、もしかするとそういう楽しみ方をしている人はいまや少数派なのかもしれないな、と。
ジャネール・モネイのライヴは本当に感動的だったが、それだけに次のエルレガーデンの登場を待つ人たちがジャネールのライヴ中も前方数列を陣取っていたのは、本当に残念だった。こうしたファンの場所取り、いわゆる「地蔵」問題はフジロックやサマーソニックで毎回のように取り沙汰されている。さまざまなジャンルを混ぜることでオーディエンスに新たな音楽との出会いをオファーしても、実際はそこで分断が起きてしまっているのが現実なのだ。こうした状況を見るにつけ、洋邦/ジャンルを横断させたラインナップを組むことは今後さらに難しくなっていくような気がしてならない。
各方面で指摘されているマナーの悪化についても、問題の根本は同じだと思う。モッシュピット前方で場所取りするひとも、ヘリノックスをたたまないひとも、ゴミを会場のそこらへんに捨ててるひとも、要はみんな他人や環境に配慮するだけの余裕がないのだ。これはフジロックというよりも日本社会全体の問題で、こうした社会の変化を踏まえつつ、これから先もフジロックがフジロックらしく存続していくことは、決して簡単なことじゃないと思う。オリンピック・イヤーとなる2020年、フジロックフェスティバルは8月21日~23日の開催が決定している。
FUJI ROCK FESTIVAL 2019 ギャラリー DAY1
FUJI ROCK FESTIVAL 2019 ギャラリー DAY2
FUJI ROCK FESTIVAL 2019 ギャラリー DAY3
出演アーティストの音源は下記から購入可能!!
7月26日(金)出演アーティスト
7月27日(土)出演アーティスト
7月28日(日)出演アーティスト
過去のフジロック特集ページはこちらから!!
フジロック事前特集
・OTOTOYフジロック・ガイド2013〜フジロックから広げる洋楽入門〜
https://ototoy.jp/feature/2013070800
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事後レポート
・OTOTOYフジロック・レポート2014
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