バンドはサービス業じゃない──FINLANDSにとっての「LOVE」は? 最新作『LOVE』をハイレゾ独占配信
オリコン・インディーズ・チャート2位ランクインや、数々のサーキット・イベントやフェスに出演し、着々と全国にリスナーを増やしているFINLANDS。そんな彼女たちから1年ぶり最新アルバムが届いた。塩入冬湖(Vo. / Gt.)の1度聴いたら忘れない、一瞬で空気を支配するような歌声に、コシミズカヨ(Ba.)を筆頭につくり出す骨太なサウンド。そして言葉選びが秀逸でまるで小説を読んでいるような、塩入の作り出す歌詞がFINLANDSの魅力だろう。今作『LOVE』にはどのような思いが込められたのか。塩入にインタビューを敢行し語ってもらった。『LOVE』のハイレゾ配信はOTOTOYのみ! インタビューと共にFINLANDSの音楽に堕ちてみませんか?
FINLANDSの1年ぶり新作。OTOTOYでハイレゾ配信スタート!
FINLANDS / LOVE (24bit/96kHz)
【配信形態】
FLAC、ALAC、WAV(24bit/96kHz)
>>ファイル形式について
>>ハイレゾとは?
【配信価格】
単曲:250円 / アルバム価格:1000円
【収録曲】
1. カルト
2. フライデー
3. Back to girl
4. 恋の前
5. Baby sugar
6. サービスナンバー
7. オーバーナイト
INTERVIEW : FINLANDS (Vo./Gt.) 塩入冬湖
FINLANDSの通算4作目となるアルバムのタイトルは、ずばり『LOVE』。素直に受け止めれば、すなわちこれはポップ・ミュージックの普遍的なテーマである「愛」と向き合った作品なのだろう。とはいえ、そこはFINLANDS。もちろん『LOVE』は形骸化されたラヴ・ソング集とかではなく、むしろここにはそうしたクリシェから逸脱した、じつに多種多様な7曲が収められている。では、彼女たちがここでいう「ラヴ」とは一体なんなのか。塩入冬湖との対話は、まずそんなところから始まった。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 大橋祐希
バンドはサービス業じゃない
──まずは今作の『LOVE』というタイトルについて訊かせてください。このアルバムはところどころに社会的なモチーフも見当たるし、いわゆる「恋愛」をテーマとした作品とはまた違うようにも感じたのですが。
塩入冬湖(以下、塩入) : そうですね。この『LOVE』って、私のなかでは「興奮」に近いというか。「興奮」という言葉をなにか別の言葉に置き換えようとしたら、それが「ラヴ」だったんです。もちろん、そこで興奮を「音楽」とか「恋」に置き換える人もいると思うんですけど、私の場合はそうじゃなかったんですよね。だから、ここでいう『LOVE』は、愛しているとか、そういうことじゃないんです。
──では、このアートワークも「興奮」というテーマを表したもの?
塩入 : そうですね。持っている傘を投げ捨ててでも雨のなかに飛び込んでいくっていう。そういう悪癖みたいな感じというか、「わかっちゃいるけどやめられない興奮」を1枚で表現するっていうのが、今回のコンセプトでもあったので。
──なるほど。たとえば今作には「フライデー」という曲がありますけど、恐らくこれは某週刊誌のことを指しているんですよね?
塩入 : はい。ああいう週刊誌って、たぶん誰かの秘密を暴こうとするものなんだろうと思うんですけど、そうやって人の秘密を知ることでなにかしらの興奮を得るのって、すごく虚しい行為だと思うんです。誰にだって知られたくないことはあるじゃないですか。それはああいう記事を書いている人自身だってそう。そういう自分の得体も知れてないようなひとが他人の秘密を暴いて作り出した興奮なんて、ホント安っぽいなって。そう思ってつくったのが「フライデー」ですね。
──たしかにいまはインスタントな興奮ばかりが溢れていますよね。そして、それは日本のポップスについても言えることだと思うんです。よくも悪くも、わかりやすくて即効性のあるものばかりが求められるというか。
塩入 : 実際、そういうものは多いと思います。バンドをサービス業とか宗教みたいなものとして捉えているというか。
──サービス業とか宗教…… というのは?
塩入 : 「誰もが幸せになれる」とか、そういうことを公言しちゃっているような音楽ですね。実際、そういう音楽って結構あると思うんですけどでも、それって見たくないものから目をそらしているだけというか。ああいうのを見るとゾッとしますね。
──(笑)。そういう点でいくと、塩入さんのリリックは決してわかりやすいものではないですよね。散文的だし、けっこう抽象性が強いというか。
塩入 : たしかに、ちょっと伝わりにくいのかもしれないですね(笑)。でも、たとえばひとつの曲を100人が聴いたとして、その100人がみんな同じように感じるなんてことはないわけで。私は、そこが音楽のおもしろさだと思ってるんです。だから、FINLANDSの曲を聴いてくれた人には、その人が好きなように受け取ってほしい。実際、私自身もそういうふうに音楽を聴いてきたし。理解できなかったら、それでもいいんです。私はむしろ「よくわからないんだけど、これを理解したい」と思わせられるような音楽がやりたい。誰にでもわかるように噛み砕いたものを発表するだけなら、別にバンドなんてやらなくていいし、それよりも自分で咀嚼することのほうが大事なんじゃないかなって。さっきもお話したように、バンドはサービス業じゃないので。
歌詞は言葉としてのおもしろさで選んでいる
──まさに。では、塩入さん自身はどういうことを歌にしていきたいと考えていますか?
塩入 : 身近なことを自分の言葉で歌うことがいちばん大事なのかなって。時にはそれで共感を得ることもあるだろうし。誰かを幸せにしたいだとか、社会に対してなにかを言いたいとか、そういうことはまったく思わないですね。ただ、基本的に怒りはずっとあって。それが途切れないからこうして曲をつくり続けてるっていうところは、あるかもしれないです。もし自分が100パーセント幸せな状態だったら、こんなにたくさん曲はつくってないと思う。
──では、塩入さんが作詞家として影響をうけたアーティストというと、たとえば誰になるんでしょうか。
塩入 : えーっと。私、本を読む時は、けっこう偏りがあるというか。ひとり好きな作家ができたら、その人の本をぜんぶ買ってきて一気に読むようなタイプで。山田詠美さんの作品はホント何度も繰り返し読んでるから、文章の面に関してはけっこう影響あると思います。何度も読んで体に染み付いたものだから、きっと根深いところでインプットされていると思う。
──それは主にどういう点で影響をうけているのですか?
塩入 : それこそ言葉のチョイスとかリズム、スピード感ですね。山田詠美さんの作品って、なかにはすごく官能的なものもあるんですけど、それがいやらしく感じないというか、私にとってはすごく心地よいものなんですよね。テンポよく書かれた言葉って、こんなに心地いいんだなって。それに私、言葉遊びが好きなんですよ。日常的な言葉と、逆に普段あまり耳にしないような言葉を、あえてつなげてみたりとか。歌詞はそうやって言葉としてのおもしろさで選んでいるところがけっこうありますね。多分それは、スピッツの影響でもあると思うんですけど。
──スピッツ。確かにそれはわかる気がします。
塩入 : そもそも私がバンドというものに興味をもったのも、スピッツがきっかけなんです。友達から誘われて、中学1年くらいの頃に仙台の〈ロックロックこんにちは!〉に行ったことがあるんですけど、そこではじめてスピッツのライヴを観たときの衝撃がホント大きくて。私、そこで初めてバンドというものを知ったんです。それこそ当時はベースっていう楽器の存在も知らなかったので(笑)。こういう編成で音楽が成り立ってるんだっていうことにも衝撃をうけました。それで、私もバンドやりたいなって。
──なるほど。そこから実際にバンドを始めるまでは、どれくらいの時間がかかったんですか。
塩入 : そこはもう、すぐでしたね。そのとき一緒にスピッツを観に行った友達とふたりで「ギターをはじめよう」ということになって、それでまずはアコギを買ったんです。で、その子はすぐに飽きちゃったんですけど、私はのらりくらりと続けていくうちに、もうそのことしか考えられなくなったというか。
──スピッツ以降は、どんな音楽家に刺激を受けてきましたか。
塩入 : 自分もギターを弾きたいと思うようになったのは、ソニック・ユースのキム・ゴードンが大きいですね。彼女って、いい意味ですごく蓮っ葉というか、堕落しているような感じもあるんだけど、それがステージ上で豹変するんですよね。その姿が中学生ながらに衝撃的で、私もギターやりたいなって。
──いちギタリストとしてはもちろん、女性ミュージシャンのスタンスという点においても、キム・ゴードンはすごく重要なアーティストですよね。
塩入 : そうですね。女の子ミュージシャンのなかには「ナメられたくない」みたいな気持ちもよくあると思うんですけど、彼女はそういうものを感じさせないというか。ただ、ひとりの女性としてステージに立っているっていう。そういうところにもすごく影響を受けていると思う。あと、うつみようこさん。うつみさんのライヴを見てから、女性がバンドをやっているイメージが私のなかですごく身近なものになったんです。バンドはこうやってやるんだなって。そうしたらもう、どうしてもバンドがやりたくなって。
興奮が続いていく限り、ずっとバンドをやっていく
──The Vitriol(FINLANDSの前身バンド)を組んだのはいつ頃ですか? 出来ればこのThe Vitriolというバンド名の由来についても訊いてみたいんですが。
塩入 : それは高校2年くらいですね。バンド名については特に意味はないというか。辞書をひいてみて、そのページにあった1番かっこいい単語を選んだってだけです(笑)。でも、これはあとになって知ることなんですけど、“Vitriol"には「皮肉」みたいな意味合いもあるんですよね。そこはちょっと自分でもしっくりくるなと思ってました。
──実際、“Vitriol"という言葉はFINLANDSのイメージとも連なっている気がしました。The Vitriolの音源もすこしだけ聴いたんですけど、音楽的な指針は当時からさほど変わってないようにも感じたし。
塩入 : 確かにそこは変わってないですね。自分たちは歌モノでギター・ロックをやってるっていう認識も当時から変わってないし、とにかく自分のなかでしっくりくる音楽をやろうとすると、おのずとこういう感じになるというか。
──ただ、塩入さんの歌唱スタイルはかなり変わりましたよね。
塩入 : それは1回声をつぶしているからなんです。高校生の頃からずっと高い声で歌い続けてたんですけど、そうしたらFINLANDSを組んだあたりで1度声がでなくちゃって。それで3ヶ月くらい歌えない時期を経て、また歌い出したらこういう声になったんです。
──あぁ、そういうことがあったんですね。でも、結果的にそれが功を奏したというか、塩入さんの高い音域にすこし掠れた響きを混ぜていくヴォーカリゼーションは、間違いなくFINLANDSというバンドのチャームになっていると思う。
塩入 : 歌い方の癖は、最初はイヤだったんですけどね(笑)。でも、こうなったらこれで歌うしかないなって。あと、その声がつぶれて何もできなかった時期に宅録を始めたんですよ。うちのサポート・ギターから機材をもらったのがきっかけだったんですけど、それからはすっかり宅録にハマっちゃって。自分以外のパートについても考えられるようになったし、いろんなことに意識を向けられるようになりました。
──宅録をはじめたことによって、レコーディングに対する向き合い方もだいぶ変わったと。実際、FINLANDSはここまでコンスタントにリリースを重ねていますよね。
塩入 : そうですね。ライヴをたくさんやるのは当たり前として、私はとにかく作品をずっとつくり続けていきたいんです。18歳くらいから年に1枚は出してるんですけど、これを死ぬまで続けていったら、たぶん人生で50枚くらいはつくれるわけじゃないですか。未来のことはまだわからないけど、できればそこまでやってみたいなと思ってて。
──それはかなり長期的な目標ですね。年に1枚のペースを保っていくのはなかなか大変そうだけど。
塩入 : でも、そういう指針がないと新鮮な興奮は味わえないと思うんです。私にとってはアルバムが完成したときが1年でいちばん無敵だと思える瞬間だし、やっぱりそこがいちばん楽しいんですよね。つくったばかりの曲のデータを携帯に入れて、それを車のなかで聴きながらミックスのことを想像したりしていると、すっごくワクワクする。そういう興奮が続いていく限り、私はこれからもずっとバンドをやっていくんだろうなって。
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LIVE SCHEDULE
〈LOVE TOUR FINAL ONEMANLIVE〉
2017年10月6日(金)@札幌COLONY
2017年10月22日(日)@大阪CLAPPER ★SOLD OUT!!
2017年10月29日(日)@新代田FEVER ★SOLD OUT!!
その他ライヴ
2017年9月19日(火)@仙台MACANA
2017年9月22日(金)@名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
2017年9月23日(土)@新代田 FEVER
2017年9月30日(土)@新代田FEVER
2017年10月1日(日)〈マグロック 2017〉
2017年10月8日(日)〈MINAMI WHEEL 2017〉
2017年11月5日(日)@新宿JAM
2017年11月23日(木)〈BUTAFES 2017 -NAMAKEBUTA METABOLIC ROCK FESTIVAL-〉
2017年12月2日(土)〈下北沢にて'17〉
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PROFILE
FINLANDS
塩入冬湖とコシミズカヨからなる女性ロック・バンド。 『RO69JACK』での入賞経験を持ち、一昨年辺りから全国各地で話題のフェスやイベント、大型サーキットフェスにも多数出演。早耳ロック・リスナーたちの間でたちまち話題となる。2015年に『ULTRA』『JET』と2枚のミニ・アルバム、2016年にはフル・アルバム『PAPER』をリリース。『JET』に収録の「さよならプロペラ」は北海道日本ハムファイターズのテレビCMに起用されるなどポピュラリティも併せ持つ。 またFINLANDSを象徴する、どんなに暑い真夏の屋外ステージでも決して脱がない厚手の冬物コートを着用してのライヴも話題。
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