大好評だったOTOTOYのFUJI ROCK特集「マニアックに行こうぜ! 」。みなさん参考にして頂けましたでしょうか? 前回の特集で今年のFUJI ROCKマニアック・プランを提案してくれたOTOTOYライター渡辺裕也と滝沢時朗も、3日間FUJI ROCKを満喫してきました。会場に足を運んだ方も、そうでない方も、両者のライヴ・レポートを読んで今年の夏を乗り切ってください!
渡辺裕也が振り返るFUJI ROCK FESTIVAL 2010
開催前にお届けした対談でもお伝えしたように、今年は観たいアクトが目白押しで、なかなか予定通りとはいかなかったものの、とにかく歩き回りました。その一方で大半の人からすれば今回のラインナップは若干地味に映ってるんじゃないかという不安も正直あったんですが、VAMPIRE WEEKENDやMGMT、!!! といった、所謂スタジアム・ロックとは違う、それぞれの毛色を持ったバンドがグリーンやホワイトで大勢を沸かせている様を見ていると、ここ何年かでロックやポップスに対する価値観はずいぶん更新されたんだなとしみじみ感じました。間違いなく3日間で最も多くの人を集めたATOMS FOR PEACE、入場規制がかけられたONE DAY AS A LIONのパフォーマンスはやはり隙なし。そういったありがちなロック観からはみ出すアーティストに何度も圧倒されてると、やっぱりみんなが頭をすっからかんにして大合唱するような、いい意味での予定調和も楽しみたくなるもんなんですが、今年はあまりそういう瞬間はなかったのかも。JOHN FOGERTYが「雨を見たかい」を歌い出した時はやっぱりみんな「待ってました! 」って感じで、大声で歌わずにはいられませんでした。そういえば、難波章浩の声でHI-STANDARDの「stay gold」がホワイトから聞こえてきてダッシュしていく人の群れもすごかったな。トム・ヨークがグリーンを沸かせている裏で、Gellersのトクマルシューゴが「Creep」を歌ったというのは、この3日間で最も粋でかっこいいエピソードだと思います。
ひとつひとつ書いていくときりがないので、最も印象に残ったアクトを3つ挙げてみます。個人的ベスト・アクトは断トツでDIRTY PROJECTORS。アカデミックなブルックリン勢の中でも一際知的な音楽集団というイメージが強かったけど、ステージ上で観た彼らはキラキラと輝く自由奔放なロック・バンドだった。楽曲の緻密さや完成度以上に、その飾らない立ち振舞いや歌声に胸を打たれまくった。まさかこのバンドのライヴで涙が止まらなくなるとは思いませんでした。
あまりリーゼントの人は見かけませんでしたが、KITTY DAISY&LEWISは予想以上の大人気っぷりでびっくり。初日深夜のクリスタル・パレスには大勢の人が詰め掛け、後方からはまったくステージ上の姿が見えないほどの大盛況。翌日のフィールド・オブ・ヘヴンでようやくゆっくり楽しんで、みんなハンド・クラップとチーク・ダンス。大衆音楽における最も美しいシーンが目の前に現れました。
大雨の中で疲弊しきった状態でもSCISSOR SISTERSのパフォーマンスには踊り出さずにはいられませんでした。ザッツ・エンターテイメント。ジェイク・シアーズがお尻をプリプリさせながら小指を立てて歌う立ち姿に、もう私うっとりしちゃったわ。今年最後の苗場の夜にやってきた、最高にセクシーで笑えるダンス・タイム。ラストでジェイクはついに黒ブリーフ一丁に。完璧。
3日間続けて大雨に見舞われた今年のFUJI ROCK。いったん山に登れば天気予報なんてあてになりません。しかしそんな過酷な状況をどう乗り切って楽しむかもFUJI ROCKの醍醐味なのです。スタッフもお客さんも天候の変化にはもう慣れたもの。各ステージの進行も滞りなく進み、大盛況のうちに幕を閉じました。楽しかっただけじゃなくて、家に帰ってきた時、出発する前よりも自分が少しだけ成長しているような気がした。そんな気持ちにさせてくれるFUJI ROCKは、やっぱり特別です。(text by 渡辺裕也)
滝沢時郎が振り返るFUJI ROCK FESTIVAL 2010
今年も日本最大の音楽祭FUJI ROCKが無事に終了した。事前に公開したマニアックに行こうぜ! の対談で出したキーワードを受けて、ひとつレポートさせてもらいたいと思う。
まず、今年のFUJI ROCK出演のロック・バンドのひとつの特徴である、ブルックリンのインディー・ロック・バンドたちから。最初に音楽としてはDIRTY PROJECTORSが頭ひとつ抜けていた。ヒップ・ホップやポスト・ロックを通過している現代的なビートに、民族音楽的なテイストもありつつ三声のコーラスで場を包むヴォーカルなど、複雑な音楽性がライヴになるとより濃密な音像で迫ってきて圧巻。しかし、彼らは出演したブルックリンのバンドの中では一番活動が長いので、ひとつの到達点とみるべきかもしれない。今年セカンド・アルバムを出し、好セールスを記録しているMGMT、VAMPIRE WEEKENDはどちらも大きいステージで登場。インディー・ロックをあえてメジャーのフィールドでやるという役目をきっちりこなしていた。今年ファースト・アルバムを出して話題を呼んだLOCAL NATIVES 、YEASAYERはANIMAL COLLECTIVEのようなコーラスとダンサブルなビートをより享楽的かつ逃避的な方向に発展させようとする音楽性のバンド。ライヴで聞くコーラスは気持ち良く、もっと洗練されればフェスによく合う音楽性になりそうだと思った。MATT&KIMは諸事情で見ることができず、残念。ざっと書いたが、ブルックリンのバンドが現在のロック・シーンの様々な側面で重要な立ち位置にいることが、フェスを通してみることでよくわかったと思う。全部好みでなくともこういう楽しみ方が出来る場は貴重だ。
次にダブ/ダブ・ステップ。1日目の深夜にダブ/ダブ・ステップのDJタイムが開かれていて、色々な都合でダブの大御所MAD PROFESSORを見逃して本当に残念だったけど、名うてのダブ・ステッパーRUSKOから見ることができた。やはりイギリスの若者を熱狂させているだけあってそのDJはすごいの一言。なにせRUSKO本人もDJをしながら独特の動きで踊って煽りまくるし、かける曲も幅広い。すべてダブ・ステップだけど、ミニマルな曲もあればレゲエ色の強い曲、ハウス調の流麗な曲もあり、リズムにしても通常のテンポのダブ・ステップとその倍速の曲を巧みに使い分け、テンポ・アップする前にカウントを自ら取って丁寧に盛り上げてくれる。最後には今年出した自身のアルバムから一曲かけ、VJのスクリーンに映る自分の顔を指差しておれおれとアピールするチャーミングさもあり、本当に楽しかった。続いて、BENGAが急遽来れなくなってしまったが、ダブ・ステップのスーパー・ユニットMAGNETIC MAN。Kraftwerkのようなシャツとネクタイで登場し、その姿どおりスタイリッシュなDJで楽しませてくれた。派手さはないもののテクノらしい電子音をまとったダブ・ステップで徐々にフロアを暖めていって、コンスタントに踊れるいいプレイだった。RUSKOの後には本当にぴったりで、良い仕事をしてるなあという感じ。
そして、3日目のグリーンのトリだったMASSIVE ATTACK。MAD PROFESSORが出てくるかもと期待したが、特にそういうこともなし。音楽的にもロック寄りになってきていたが、その幽玄でクールなサウンドは健在だった。それに加えて、ステージでLEDを使ってキング牧師などの名言を流したかと思えば、逆にゲッペルスの言葉を流したり、無作為に日本のニュースを流したりと、総合的なショウとしてとても面白かった。ダブの持っている反骨精神を最も独自な形に昇華しているのは彼らだと納得。こちらも全体を通してダブの過去と現在を体感的に知ることができ、未来が楽しみになった。
全体としては3日ともある程度雨は降ったものの、やっぱり前評判通り音楽的には充実していた。キーワードのアーティスト以外にも1日目はキセル、BROKEN SOCIAL SCENE、2日目はKITTY DAISY&LEWIS、3日目はLCD SOUNDSYSTEMとSCISSOR SISTERSが最高なライヴを見せてくれた。音楽好きとして来年のFUJI ROCKにも期待大だ。(text by 滝沢時郎)
FUJI ROCK FESTIVAL 2010出演アーティスト音源