もういくつか寝るとフジ・ロック! みなさんも今頃タイム・テーブルと睨めっこしながら、各ステージをどう回ろうか頭を悩ませているところでしょう。今年は海外でもヘッド・ライナーを飾るような大物はもちろん、まさかこのタイミングで来日が実現するとは思わなかったスーパー・バンドから、国内ポップ・シーンの最前線を走るアクトまで、まさに豪華絢爛。もしかして入り口付近のメイン・ステージ周辺で終日の予定を固めてしまっていませんか? ちょっと待った! 今回のフジは他にも見どころが盛り沢山なんです。ということで、今年も参加予定だという滝沢くんと共に、いくつかテーマを挙げながらプランを考えてみました。
対談 : 渡辺裕也×滝沢時朗
文 : 渡辺裕也
ひとつのフェスでダブ、トリップ・ホップ、ダブ・ステップっていう流れを体験できる
渡辺裕也(以下W) : 今年のフジ・ロックはビッグ・ネームも目立つし、もちろんそこも楽しみなんだけど、各ステージを見渡していくと、今の海外で起こっている動きをしっかりと捉えた顔触れになってるし、まさにフジならではのセレクトだなっていうのもたくさんある。普段なかなか知り得ないような音楽と出会うきっかけを提供してくれるフェスっていう意味でも、フジってやっぱり唯一無二だと思うんだ。なので今回は、みんなが狙ってるメイン・アクトの裏で、実はこんなにすごいのがやってるっていうのを提案出来ればと思います。まあ、マニアックっていう言い方はちょっと語弊があるんだけどね(笑)。あと、フジって土地が広いからさ。上手に回ってもらって、会場全体の雰囲気を楽しんでほしいなと。
滝沢時朗(以下T) : 毎年普通にマニアックなアーティストはいっぱい出てるんだけど、今年のフジはメインストリームをうまく強化してる感じ。
W : 個人的な目玉は何なの?
T : 単純に一番楽しみにしているのはMassive Attackなんだけど、一日目の深夜に80年代から活躍してるダブの大御所のMad Professorが出るんだ。Mad ProfessorはMassive Attackのリミックス・アルバムを出してるんだよね。その後がRuskoっていうダブ・ステップで今一番人気があるアーティストなんだけど、Mad ProfessorとRuskoの流れでMassive Attackを観れるのがすごく楽しみ。
W : だったらRuskoの後に出てくるMagnetic Manも見逃せないよ。Skream、Bengaっていうシーンの顔役が所属している、まさにスーパー・グループ。ダブ・ステップはイギリスのアンダーグラウンドから生まれた最先端のクラブ・ミュージックなんだけど、なかなかその盛り上がりが日本に伝わってこなかった。それが今年のフジの<レッド・マーキー>でようやく体感できそうだね。しかもMad Professorと続けて観られるっていのは、フェスならではだよね。
T : ひとつのフェスでダブ、トリップ・ホップ、ダブ・ステップっていう流れを体験できるんだからね。
W : 海外のムードを体感できるっていう意味では、今回はブルックリン周辺のバンドが数多く出演するんだよね。ここ数年はブルックリンを中心としたエリアから個性的なバンドが次々と頭角を表してきていて、今のブルックリンの音楽的に豊かな状況を、今年のフジ・ロックで改めて実感できそう。MGMTとVampire Weekendはもはや言わずもがなだけど、その他にもこれから注目を集めていきそうな新進気鋭も揃ってる。
T : Animal Collectiveの耕した畑の芽がいっぱい出て、フジ・ロックにやってきた感じだね。
W : Dirty Projectorsはこの前の単独公演が語り草になってるね。
T : すごかったよ。男1人と女2人のヴォーカル3人でハモるんだけど、1人がフェイクをかけたりしてて、すごく歌がうまいんだよ。ブルックリンの中でも際立ってユニークなバンドだよね。ビートもヒップホップとかポスト・ロックを通過してて、民族音楽っぽいテイストもある。去年のアルバムは本当に最高だった。Dirty ProjectorsとThe xxのどっちを観るかが、今年のフジで一番悩ましいところかも。
W : あとMatt & Kim。これまたブルックリンから出てきた、ミニマルなポップ・ソングを聴かせる鍵盤とドラムの男女デュオなんだけど、彼らは3日間通して各所に登場するみたいだから、今回のフジをきっかけにして一気に認知も広がりそう。Yeasayerは、ここ数年のフォークロアとサイケっていう二つの大きな流れをどちらも受けているバンドだね。ブルックリンと一言で括ってみたけど、とにかくサウンド的には多種多様だよね。各々がルーツ・ミュージックを独自に解釈してユニークな音楽を作ってる。
T : ブルックリン一派って、みんな古い音楽を元にしているんだけど、どのバンドもリズムに対する意識が高いんだよね。これはブルックリンではないけど、Local Nativesも今のUSインディの中で話題になっているバンドだね。ヴォーカルのハーモニーを使ったサイケで、去年の12月にリリースしたファースト・アルバムも評判になってた。
W : ルーツ・ミュージックっていう流れだと、今回はビートルズ以前のロックンロールやブルーズ、大衆音楽を鳴らすバンドも目立つね。
T : そこだとKitty, Daisy & Lewisだね。
W : Kitty, Daisy & Lewisは姉兄妹のトリオ・バンドなんだけど、母親がこの前来日したThe Raincoatsのメンバーだったらしいよね。
T : 母親も来るのかな?
W : それもマニアックな楽しみかもね(笑)。
今年のフジは、男子はリーゼント、女子はポニーテールで行こう!
W : フランスから来る2バンド、MustangとMoriartyも、ロックンロール聡明期とか、それ以前の大衆音楽がベースになってて面白いよね。Mustangは演奏からファッションから、Elvis PresleyとかBo Diddleyのコスプレみたいなんだけど、そこに80'sっぽいシンセが被さったりして、ユニークでちょっとダサかっこいい感じ。
T : この辺りのバンドって、ただアナクロな音楽をやってるんじゃなくて、ヒップホップとか、サンプリング文化を通った耳だからこそ、今の時代にああいうグルーヴを出せているんだと思うんだ。今回はその辺をしっかり確認したいな。
W : そうだね。うちらにとってはシロクロの世界の音楽だったんだからね。それが目の前で、カラーになって現れるんだから(笑)。今年のフジは、男子はリーゼント、女子はポニーテールで行こう!
T : (笑)。今の日本でも勢いがあるバンドも、そういう感覚を持って過去の音楽を引っ張ってくるバンドだと思う。OKAMOTO'Sとか毛皮のマリーズとか。
W : 今回の出演者で言うとThe Bawdiesがそうだよね。その辺りに夢中になっているリスナーにとっても、今年のフジは新しい発見がたくさんあると思う。Kitty, Daisy & LewisもMustangもMoriartyも、3日間通していろんな場所に現れるみたいだし、必ずどこかで観よう。あと、これは今回のフジの目玉と見ている人もたくさんいると思うんだけど、22-20s。本格的なブルーズを鳴らす新世代バンドとして注目されて、デビューした翌年にはフジにも出演してるんだけど、06年にいきなり解散しちゃったんだよね。それがついに復活してフジで再来日。これは誰もが臨んだ再結成だよね。
T : そうだね。これは俺も楽しみにしてる。
W : そういう新しい音楽の動きも楽しみつつ、世界中のローカルな音楽もたくさん聴きたい。ああいうのは本当に楽しいんだよね。普段聴きに行く機会もあんまりないからさ。
T : 情報も入ってこないし。
W : そうそう。来たとしても地方の公民館とかだったりね(笑)。しかも野外で楽しめる機会なんてそうはないよね。2日目は朝いちで<オレンジ・コート>に向かって、Narasirato Pan Pipersで踊ってる予定。ソロモン諸島から来たガチの民族音楽で覚醒しようかと思ってる(笑)。
T : それいいね(笑)。山奥でこういう音楽を聴いてたら「本当にここは日本なのか? 」って感じになりそう。
W : あと、Flogging Molly!
T : アイリッシュ音楽をパンキッシュに演奏するバンドだね。これは盛り上がりそう。
W : 2日目の深夜でちょっと気になってるのが、go chicっていう台湾のバンド。アジアも含めて、エレクトロはもう世界同時進行で盛り上がってたんだねー。
T : うん。韓国とか台湾って意外と情報が伝わってこないからね。
FUJI ROCK FESTIVAL '10
開催日 : 7月30日(金) 31日(土) 8月1(日)
開場・開演 : 開場 9:00 開演 11:00 終演予定 23:00
開催地 : 新潟県湯沢町苗場スキー場
入場券 : 3日通し券 ¥39,800/1日券 ¥16,800
駐車券 : ¥3,000(1日1台、2名様以上〜受付)
キャンプサイト券 : ¥3,000(1名様料金/開催期間中有効)
オフィシャル・サイト : http://www.fujirockfestival.com/
1997年に創始され、現在は毎年7月下旬から8月上旬に開催される日本のロック・フェスティヴァル。
ライヴもさることながら緑豊かな会場やさまざまな演出も魅力のひとつで、思い思いの楽しみ方ができる。