新しい時代の旗をなびかせる4人組、現る
東京都内を中心に活動するバンド・ミツメ。飾り気のない佇まいで淡く爽やかな直球のインディー・ポップを奏で、ライヴ・ハウス・シーンを中心にじわじわと注目を集めている彼らが、活動最初期から演奏してきた曲を新たに録音し直したファースト・アルバムと、カセットでリリースしたシングルを、それぞれ配信にて販売開始します! 70年代日本語ロックへの憧れや、90年代への郷愁、サイケ、オルタナ、ローファイ、ネオアコ、フォークなどがいびつに詰め込まれた本作は、DIY精神でアレンジや録音からアートワークに至るまで、全ての行程をメンバーと友人のエンジニアで敢行したもの。シンプルだからこそ映える珠玉のメロディーの数々は必聴です!
左) 1stアルバム『mitsume』
【トラックリスト】
1. クラゲ / 2. 怪物 / 3. 三角定規 / 4. 部屋 / 5. タイムマシン / 6. migirl / 7. サマースノウ
右) 1stシングル『Fly Me to the Mars!!!』
【トラックリスト】
1. Fly Me to the Mars / 2. 煙突
mitsume INTERVIEW
新しい時代の音はいつも思わぬところから聴こえてくる。
2009年から都内を拠点に活動を続けるバンド、ミツメ。ファースト・アルバムのリリースから約半年を経て、この4人組の存在はようやく世間から発見され始めている。元々は流通を通さない範囲での販売だったこの『ミツメ』というアルバムは、周囲からの好評を経て昨年末から全国販売に至った。しかし、そこからバンドを取り巻く状況は確実に変わりつつあるようだ。早速この4人がバンド結成に至るまでの経緯から始めよう。まだメンバー全員が20代前半という若さの彼らだが、どうやらミツメとして活動を開始するまでには、さまざまな紆余曲折があったようだ。
「音楽をずっと続けたそうな人を探していたんです」
屈託のない表情でまず話を切り出したのは、ミツメのフロントマンでメイン・ソングライターの川辺素(以下、川辺)。高校時代までを奈良で過ごしていた彼は、バンドとして活動することに憧れを抱きつつ、地元でホーム・レコーディングを続けていたのだという。
川辺 : 高校の時にサンプラーと4トラックのMTRを買って。それで曲を作っては録る作業をずっと繰り返してました。その頃の音源はみんなには聴かせたこともないんですけど、今聴くと恥ずかしい感じですね。でも、それを経て今があるというか。近くにライヴ・ハウスもスタジオもなかったし、“大学に入ったらオリジナルのバンドやろう”と、悶々としながら曲を書いていました。
こうして川辺が進学の機会を待ちながら宅録に勤しんでいた一方、のちに彼の創作パートナーとなる大竹雅生(以下、大竹)は一足先にバンド活動を開始していた。音楽に関心を持つのが比較的早かった彼は、小学校の頃はたまが好きだったという。
大竹 : 曲を書くようになったのは高校でやっていたバンドからですね。そこからはいろんな形態のバンドも組んで。人の曲をアレンジしたりするのも当時から好きだったんだと思う。
大学で出会って意気投合した川辺と大竹は、互いのデモ音源を交換し始める。どうやらここで始まった二人のやりとりがミツメの出発点になっているようで、現にミツメのマイスペースはURLが〈maomotokari〉となったままだ。そして川辺は大竹との共同制作を始める前の2007年から、念願だったバンド活動も別でスタートさせてもいる。そこで共に活動していたのがドラマーの須田洋次郎(以下、須田)だった。
須田 : 僕はみんなと比べると音楽を始めた時期が遅かったんですけど、大学に入ってから彼(川辺)とバンドを始めて。2年くらい続けたんですけど、もう試行錯誤ばっかり。これも違う、あれも違うみたいな感じで。ライヴが終わったあとも、みんなでため息ついてましたね(笑)。アレンジの仕方もなにもわからなかった。
メンバーそれぞれの意向もあってそのバンドは活動休止。ここで「継続して活動できるバンドがやりたいという気持ちが余計に強くなった」という川辺は、デモを交換し続けていた大竹と共に新しくバンドを立ち上げることに決め、須田を誘う。
川辺 : 思い出した。ファミレスでしゃべったんだよね。
須田 : ベースはどうしようかと3人で話し合って、その場ですぐ三四郎に電話したんです。しばらくはサポートだったんだよね。
3人よりふたつ年下のナカヤーン(以下、ナカ)もまた、この時点ですでに活発な創作活動を始めていた。
ナカ : ミツメに誘われた時には、すでに他のバンドを3つくらいやってたんです。このバンドに入ってからはメンバーに影響されてローファイやインディものにも興味を持つようになって、いろんな音楽に関心が拡がっていきました。
大学時代に同じ音楽サークルに所属していた彼らは、コピー・バンドを含めれば、ミツメ以前に取り組んでいたバンドが他にも無数にあったという。それぞれの宅録活動に加えて、こうしたコピーを通して国内外のさまざまなインディ・ポップに触れた経験が、バンドの下地となっていまの音作りに活かされているようだ。こうしてそれぞれが別個に交わりながらもそれぞれ交流を深めてきた4人がついに揃った。彼らはバンド名をミツメに決める。
川辺 : なんかイメージの湧いてこないところがいいかなと思って。あんまりコンセプチュアルな名前にすると、それこそ長く活動できないような気もしたし。アルバムをセルフ・タイトルにしたのもただ思いつかなかったからで、今から次はどうしようか悩んでます(笑)。
さあ、こうしてミツメはついに動き出した。しかしバンドの滑り出しは快調と言えるものではなく、さっそくの試行錯誤が始まった。
須田 : 音楽の好みは合うけど、共通点ばかりでやってもしょうがないと思って。そこでまずスタジオを6時間取って。
川辺 : それを1週間に2回やったんだよね。
ナカ : 確かにめちゃくちゃ時間かけてた。
大竹 : でも、さすがにずっとそんな感じだと“うーん”ってなってきて。
初期段階から楽曲制作に妥協点を持ち込まなかった彼らは、ライヴ活動を始める前に音源制作をスタートさせる。この選択がバンドの方向性を決定づけるひとつのターニング・ポイントとなった。
須田 : 最初の音源を作るときは細かいことばかり言ってたよね。ギターも“ストロークしちゃだめ”とか。“サビで勢いに乗る感じにはならないように”とかね。
川辺 : (笑)。そういう展開になると、なんか“あーあ”ってなるんだよね。サビで突き抜けるみたいなやつに少し限界も感じ始めていて。自分たちがありきたりじゃないなんて、とても思えなかった。曲にサビみたいなところがあると、そこを自分たちが気に入るアレンジにするのが難しくて、自然とサビが淘汰されていって(笑)。
大竹 : 迷走してたなぁ。でも、録音したものを聴いた時に、初めて“いいかも”と思えたんです。
時にいくつもの制限を設けながら、彼らは3つのデモ作品を立て続けに完成させていく。実際にこの3作を聴くと、演奏面と録音面のどちらもまだ発展途上ではあるものの、彼らの特徴であるゆったりと音色を紡いでいくようなアレンジ・ワークはこの時点ですでに芽を出しているのがわかる。こうして彼らはライヴ活動も始めつつ、音源制作に重点を置いた動きを活発化させていく。さらに彼らはミツメの活動と並行しながら、クリエイティヴィティを各々の形で発揮し始める。
川辺 : 一時期、俺の曲作りがうまくいかなくて、“みんなも作ってよ! ”みたいな感じでナカヤーンに無理やり作らせたら、それから1週間に1、2曲のペースでマイスペースに新曲をアップするようになっちゃって(笑)。なんかいけない扉を開けてしまったような気分だったな(笑)。
ナカ : MTRを買ってからは、完全に個人的な趣味を爆発させたものばかり、夜中にひとりで録るようになって(笑)。
キング・クリムゾンをフェイヴァリットに挙げるナカヤーンだが、実際に彼個人のマイスペースで聴ける楽曲は、どれもヘヴィでダークなものが多く、彼のこうしたセンスはミツメのアレンジ・ワークでも片鱗を見せ始めている。そして大竹はミツメ以外のバンドでもギタリストとして活動の場を設けている。彼のこうした動きは音楽面の向上だけでなく、ミツメを取り巻く交流の広がりにもつながっているようだ。
大竹 : クラブ界隈で活動することもあって、そっちでいい出会いもけっこうあったんです。
須田 : そこで僕らも知らない音楽をたくさん教えてもらえたんですよね。
それぞれが独立した作家性を持ちつつ、リスナーとしての貪欲さを持っているのはこのバンドの大きな原動力だ。ひとりひとりが新しいアプローチを覚えながら、それをバンドに還元していくのが彼らの基本姿勢なのかもしれない。
川辺 : 常にバンドに曲を持っていきたいと思いながら作ってるけど、メンバーからの反応がなかったものは自然とボツになります。最近聴いている音楽に感化されてそのままみたいなのもバツだしなぁ。そういう時は次の曲に取り掛かるといった感じで。でもさすがに1、2ヶ月もなにも形にできないと焦ります。なんか、スタジオでもみんなが“ちょっと飽きてきたなぁ”みたいな雰囲気を出してくるんですよ(笑)。
須田 : えー! うそうそ、そんなつもりはないんだけどなぁ(笑)。
大竹 : 〈三角定規△〉という曲は僕のアイデアがきっかけで、最初はノイ! みたいなハンマー・ビートだったんだけど、もはやコードくらいしか原型がなくて(笑)。僕らの曲はほぼすべてがそういう作業の繰り返し。アレンジが決まっても、もう1回壊してみたり。
こうしたエディトリアルな製作過程と録音の経験を経て完成に至ったのが、彼らの正式な1作目『ミツメ』だ。ジャケット写真のように、どこかモノクロームの色合いを思わせる音像は、一聴するとメロディを基軸としたギター・ポップにも思えるが、繰り返すほどにアレンジの創意工夫が見つかり、その度に耳が奪われる。
川辺 : アレンジをスカスカにしているのは、そっちの方がわくわくする感じがするからなんです。例えばエフェクターでやっていることがきれいに聴こえたりして。ただ“ジャーン! ”しか聴こえない演奏よりは、プツッと切れたあともディレイが残っていたりする方が気になるし、そういうワクワクが積み重なっていったから、あんな感じの音に仕上がったんだと思う。
大竹 : 演奏している人の顔が浮かばないようにしたいとはいつも話していて。トータルで一つの雰囲気を出すようにしたいので、自己主張を禁止しているようなところはあるかも。
ミツメの音楽に現代的なものを感じるのは、なにもアレンジや音響だけではない。川辺によるリリックもまた、上の世代では見当たらなかった感性が見て取れる。筆者が特にそれを顕著に感じたのが、イントロのリヴァース音が印象的な曲〈タイムマシン〉だ。かつては未来への期待を示す言葉だったタイムマシンを題材にして、彼は“90年に戻りたい”と歌う。
川辺 : 単純に“90年”という響きがよかったのと、ちっちゃい頃が楽しかったなというだけなんですけど(笑)。過去って、思い出そうとすると良いことだけをピックアップして見ることができるじゃないですか。逆に未来みたいなものが僕はちょっと怖くて。これからまた戦争や災害なんかが起きたらどうしようって。最近は実際に起きたし。
彼らの楽曲にはどこかノスタルジックな雰囲気が宿っているが、同時にそれは新しい世代から生まれたファンタジーでもあるのだ。ファースト・アルバムの全国発売を経て、彼らは間髪を入れず『fly me to the mars !!! 』という2曲入りのシングルを発表している。しかもリリース形態はカセット・テープだ。
大竹 : サウンドがカセットっぽかったんだよね。コンプレッションが強くかかってて。
川辺 : あとは見た目が面白いと思って。でもMP3のダウンロード・コードがついてないと買わないかなって。
このシングルで聴ける、ミニマルなビートにスペイシーなシンセが重なっていくサウンドは明らかに新機軸だ。ファースト・アルバムが評判を上げるなか、彼らが次のステップに進んでいるのを実感させられる。現在のミツメはナカヤーンが一時的に離脱しているため、3人体制での活動となっている。バンドとしては試練の時期とも言えるが、彼らはそうした状況も新たなグルーヴを探求してみる機会として楽しんでいるようにも見える。川辺がギターの代わりにヘフナーのベースを弾きながら歌う3ピースで、現在も彼らは相変わらず野心的な音楽を鳴らしている。来たるべきセカンド・アルバムに向けて、彼らはすでに動き出しているようだ。今年の後半は、どうやらこのバンドの2作目を最大の目玉として待つことになりそうだ。
大竹 : とりあえず1枚目とはまったく違うものになるよね。
ナカ : とにかく面白い音楽になれば、それでいい。
川辺 : 曲調にしても音響にしても、いまは80年代のものを面白がってるかな。でも、何かっぽいっていう感じではなく、自分達の曲に関してはいろんな解釈が生まれる余地を残せたら良いなと思ってて。普遍的というか、100年くらい経ってもいいと思えるものにしたいんです。
ナカ : おっ、志高いなあ!(笑)。
須田 : 久々に川辺のビッグ・マウスがでた!(笑)。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
写真 : Takuroh Toyama
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ミツメ LIVE SCHEDULE
2012年3月30日(金) @渋谷7thFLOOR 【7e.p. 10 Years Anniversary Tour Vol. 2 Little Wings Japan Tour 2012】
2012年4月27日(金) @南池袋ミュージックオルグ 【Solid Afro Presents "Return To River】
2012年5月4日(金) @新宿MARZ 【LIVE! SECOND ROYAL ~NEW HOUSE×Turntable Films~ (O.A)】
2012年5月26日(土) @秋葉原CLUB GOODMAN 【ヤーチャイカ × ミツメ × ?】
2012年7月1日(日) 【下北沢インディーファンクラブ】
ミツメ PROFILE
2009年東京都にて結成、2010年からライヴ活動を開始した4人組のバンドです。2011年8月にファースト・アルバムをリリースしました。その時の気分で色々なことにチャレンジしています。