電子音と生楽器が織りなす人肌のぬくもり。Ishige Akira、3rdアルバム『 Dark Becomes Light』をリリース
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早いもので、石毛輝のソロ・アルバムもこれが3作目のリリースとなる。まずはフロントマンを務めるthe telephonesが絶え間なくリリースを重ねるなか、それでも収まらない創作欲求をぶつけた2010年の初作『from my bedroom』。エレクトロニカやIDMをひろく捉えつつ、世界的なムーヴメントとして隆盛を迎えつつあったチルウェイヴにも呼応したあの作品は、石毛のフランクな思いつきと柔軟な姿勢がそのまま導き出したような、いまにしてみれば習作的な意味合いの強いものだったと思う。そして2012年の2作目『My Melody(Diary Of Life)』では、フィールド・レコーディングを取り入れたフォークトロニカ的なサウンド・メイキングに挑戦。ソングライターとしてはもちろん、歌い手としても彼はここで新たな可能性を切り開いた。
そうした変遷を追ってみると、新作『Dark Becomes Light』はその前作の延長線上で生まれた作品であることがよくわかる。エレクトロニック・サウンドに生楽器の音色を掛け合わせたスピリチュアルな音像はさらに洗練され、作品としての完成度は飛躍的にアップ。ロック・バンドのフォーマットを主体としてきた石毛は、ソロ3作目にしてついにもうひとつの強固なアウトプットを築き上げたようだ。では、ここからはそんな作家としての充実期を迎えている石毛の発言をもとに、ソロ活動のことはもちろん、テレフォンズの現状についてもじっくりと迫ってみたい。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
Ishige Akira / Dark Becomes Light
【配信価格】
mp3 単曲 150円 / まとめ購入 1,500円
【Track List】
01. Youthful, Utopia, Innocent / 02. Gleam Of Dawn, Dawn Of Wonders / 03. 言の葉 / 04. Amour / 05. Pororoca / 06. August 5th / 07. Birth And Death / 08. Amour – Ishige's Toy Museum Ver. - / 09. 時間が止まった部屋 / 10. Velonica(Youthful Utopia Innocent #2) / 11. Light Song
「ソロでやれることって、これか」みたいな実感が掴めたというか
――こうして3作目となると、ソロとして作品を出すことの意味合いもいくらか変化してきたんじゃないかなと思うんですが。
そうですね。やっぱりファーストのころは「バンドではなかなかやれないことを試してみよう」くらいの気持ちだったんです。それがセカンドで少しずつソロの方向性が見えてきて、今回でようやく「ソロでやれることって、これか」みたいな実感が掴めたというか。
――ソロ・ワークで具現化したいものが、3作目にしてより明確になったと。
いまにして思うと、やっぱりファーストのころはいろいろと思うことがあったんでしょうね。バンドはやっぱり共同作業だし、そこで自分のキャラクターを押し出すのは違うだろう、と。あのころはそういう気持ちがすごく強かったんだと思う。
――そもそも石毛さんはいつごろからこういうエレクトロニックな音楽を好むようになったんですか。
18歳くらいかな。少しずつエレクトロニカやIDMなんかを聴くようになって、ひとりでつくる音楽の世界観にすごく感銘を受けていた時期があったんです。でも、その当時は打ち込みなんてぜんぜんわからなかったから。それがテレフォンズの活動を通していろんな経験を積んでいくなかで、そのころにやりたかったものがちょっとずつやれるようになってきて。
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――ひとりで完結させる音楽をつくりたいという思いは、ずいぶん前からあったんですね。でも、石毛さんのソロ作品って、その時期のトレンドに感化させてきたところもあるじゃないですか。それこそファーストならチルウェイヴとか。
もちろんそこは意識してました。僕、新譜をチェックするの好きなので、やっぱりおのずといまっぽいものに音像を寄せようとするんですよね。
――そういう「いまっぽさ」に意識を向けた作り方は、今回のアルバムでも変わってない?
いや、それが今回はあまり意識してないんですよ。少なくとも、曲づくりの段階では考えてませんでした。というか、その「いまっぽさ」って、曲よりもミックス処理とかの方が大きいんですよね。そこに気づいたというか。
――たしかに今回のアルバムって、セカンドのフォークトロニカな作風をさらに押し進めた感じがありますよね。音像もよりオーガニックな質感に仕上がってるし。
そうですね。リズム・パターンの作り方なんかにしても、エンジニアの人やナカコーさん(中村弘二)からいろいろヒントを得て、少しづつわかってきて。だから、今回はベーシック・トラックをつくるのが早かったんです。
――じゃあ、リリックに関してはどうでしたか。楽曲のスピリチュアルなムードに寄り添った内容になってる気がしたんですが。
歌詞については、音と一緒に浮かんだ言葉をもとにしていくような感じだから、どんなことを歌いたいっていうのは特にないんですけど…… でも、今回はラヴ・ソングが多いかもしれないですね。まあ、そうは言っても、僕はずっとラヴ&ディスコなんですけど(笑)。
――今回はそのラヴの方を強調したってこと?
まあ、無理やりそうまとめることもできるかもしれないですね(笑)。でも、ホント言葉に関しては特になにも意識してないんですよ。僕はそんなにヴォキャブラリーもないし。ただ、ソロだと狙ってる感じがあまりないのかもしれないですね。より自然体でやれているとは思う。
――そうそう。逆にいえば、テレフォンズからはものすごく狙いが感じられるわけで。
まあ、コンセプチュアルなバンドですからね(笑)。
頭のなかで鳴っている音の再現率がかなり高まった気がしてます
――そういえば、石毛さんはテレフォンズより先に、ソロで日本語詞の曲を出してますよね。いまさら訊くことでもないかもしれないけど、やっぱりそれまでは日本語で歌うことに抵抗があったんですか。
ありましたね(笑)。というか、とにかく恥ずかしかったんですよ。小学校のころからずっと洋楽を聴いていたし、日本のバンドで思春期にコピーバンドでやってたのはハイスタとか英語で歌う人たちでしたし。あと僕、ハードコアがすごく好きだったんですけど、当時は自分に崇高なハードコア精神がなかったから、曲に乗せたい言葉がなにも見つからなくて(笑)。自分で曲をつくるようになってからも、昔は「なんで歌詞なんて書かなきゃいけないんだよ」みたいな感じだったし。
――僕もいわゆる洋楽かぶれだったので、「恥ずかしかった」というのはなんとなくわかります。
まさに僕もそれです(笑)。たとえば、学校の教室で聞こえてくる会話に「あの歌詞いいよね」とかはあっても、曲や演奏に関する話題ってほとんど出てこないじゃないですか。僕、それにものすごく嫌悪感があったんです。で、そういう気持ちは音楽をつくる立場になっても変わらなくて、昔は「歌詞がいいとか、絶対に言われたくねえ!」と思ってました(笑)。でも、こうしてバンドを続けていくうちに、たとえばandymoriとかThe Mirrazみたいな、日本語詞ですごくかっこいい歌をつくる人たちと出会うことができて、それで少しずつ考え方が変わっていって。
――じゃあ、現在の石毛さんはどうやって歌詞の題材を見つけているんでしょう。たとえば、身のまわりで起きていることが自分の音楽に影響を与えたりすることはあるのかな。
どうだろう。でも、少なくともそういうことを具体的に書こうとすることはないですね。ただ、たとえば街の雑踏から拾った音を曲に入れたりするのは、ものすごく好きなんですよ。
――たしかに今回のアルバムにはフィールド・レコーディングで拾った音が採用されてますよね。ちょっとビビオの作品を思わせる感じもあって。
そうなんです。去年ビビオが出したアルバムとか、最近のクラークとか、ああいう電子音楽家の人がギターと歌を使ってつくった音像にものすごく刺激を受けて。そうやって日常の音を音楽に反映させる作業は、けっこう好きなのかもしれない。でも、僕の場合はそういう音を用いることで、むしろ現実逃避しようとしているような気がする。やっぱり音を聴いているあいだはあんまり他のことを考えたくないんですよ。音楽はただ純粋に音楽であればいいし、その音楽になにかを込めるのは、作り手じゃなくて聴き手だと僕は思ってるので。たとえば、僕のつくった音楽を聴くといつかのデートを思い出すっていう人がいたら、それはそれですごくいいですよね。それはもう、なんだっていいんですよ。
――日常にある音をサンプリングすることで、むしろ現実とかけ離れた音像に仕上げているってことか。
あと、今回は「リヴァーブの使い方」が裏テーマでした。だいたいの曲でギターにリヴァーブをかけてるんですよ。で、それを綺麗に響かせられる方法をけっこう追求して。あとは曲の雰囲気かな。頭のなかで鳴っている音の再現率が、今回のアルバムではかなり高まった気がしてます。
――イメージと仕上がりのズレがかなり少ないってことですね。でも、そういうこだわりって作り手によってはいくらでも時間をかけそうですけど、石毛さんの場合は作品を完成させていくまでのスピードがものすごく速いから。
そこは急いでるんですよ(笑)。レコーディングできる日数が限れているぶん、自分が宅録で作りこめるスキルをどんどん上げていかないと、ソロなんていつまでも完成できませんから。
――そういう時間の問題はもちろんですけど、それよりもきっと石毛さんはつくりたい音楽の移り変わりが激しいんだろうなと思って。
確かにそれはありますね(笑)。というか、そもそも僕は時間をかけて曲をつくったことがないんですよ。特にデビューしてからはそう。
――だって、ミニとフルを合わせると、テレフォンズってもう10枚以上もアルバムを出しているわけじゃないですか。結成からまだ10年も経ってないのに。
たしかにテレフォンズのファーストをいまになって聴くと「うわー!!」って言いたくなりますね(笑)。でも、その一方であのアルバムにしかない勢いって間違いなくあるんですよ。歌も演奏もヘタクソなんだけど、「こいつら、ホント楽しそうだな!」みたいな、そういうエネルギーをものすごく感じるというか。いまでもあれを聴くと「テレフォンズっていいバンドだな」って思えるんですよね。
――いまのテレフォンズはそのころのエネルギーを維持できてる?
うん、維持できていると思います。やっぱりそれはメンバー全員が失いたくないと思ってるものだし、けっこうみんなハングリーなんですよ。それに、元々がライヴハウスの店員だったのもあって、変に業界人間バンドマンみたいになりたくないっていう気持ちが、僕はすごく強いから(笑)。それにいまはこうしてソロもやれている。これがもしバンドだけだったら、「もっと自分はタフにならなきゃいけない」とか、いろいろ考えてたと思うんです。
――ソロを始めたことで気が楽になった部分もあるんですね。
テレフォンズのときも普段のままでOKな感じがしたというか、こういう音楽を自分がやってもいいと許可できたというか…。とにかく、僕はけっこうややこしい人間なんですよ(笑)。いろんなルールを自分のなかで勝手に決めちゃってるところがあって。そこはけっこうメンバーに助けられているんです。一応、テレフォンズのリーダーは僕なんですけど、僕らの関係ってものすごくフラットなんです。基本的にぜんぶ多数決で物事を決めてるし(笑)。逆にもし僕がバンドを独裁的にやってたとしたら、こっち(ソロ)はやってなかったと思う。
「テレフォンズがロック・バンドじゃなきゃなんなんだよ」と言いたい(笑)
――そのテレフォンズも、早いものでもうすぐ結成から10年になるんですよね。
そうなんですよ。ホント10年って早いわぁ。
――活動の規模も大きくなりましたよね。それこそさいたまスーパーアリーナでのワンマンもありましたし。
ああいうのはまたやりたいですね(笑)。でも、よほどのものでない限り、基本的にはどんなイヴェントにも僕らは出たいと思ってるんです。どんな場でも通用する音楽がやれてるっていう手ごたえを、いまはメンバー全員が感じてるので。昔はみんな劣等感を抱えてたんですけどね(笑)。地元でバンドを組んだ頃の僕らは「絶対に売れない」って言われてたから。でも、こうやってキャリアを重ねていくことができたし、去年はヨーロッパ・ツアーもやれた。「ディスコ」っていう単語も外人にウケたし。
――それはうれしいですね(笑)。
ひたすら「ディスコ」と言い続けたこの8年間は無駄ではなかったと(笑)。で、それを証明するようなでかいことをこの先にもっとやりたいですね。
――その「ディスコ」を押すことに迷いが生まれたときって、これまでなかったんですか。
いやぁ、迷ってましたよ(笑)。いまはもうないですけど、特に2009~2010年くらいはすごく悩んでました。まわりの目をすごく気にしてた。でも、いまは自分たちがかっこいいと思えたら、もうそれで大丈夫だって思えるんですよね。だから、いまはすごく単純な話、とにかくいい曲をつくりたいんですよ。それもなるべく流行とかを気にせずに。あるいは自分から流行をつくってみたい。やっぱりいまの僕は流行を知ったうえで音楽をつくってるから。
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――まずは時代の流れを掴んで、それを自分の音に昇華させていく。そのスピードの速さは間違いなく石毛さんの強さだと思いますけどね。でも、もっとその先にある音楽をつくりたいという気持ちもやっぱりあると。
それは音楽をつくる人ならみんな思いますよね。ただ、ひとつ気をつけたいのは、流行を履き違えないこと(笑)。というのも、90年代までの音楽ならともかく、2000年代以降のものから影響を受けるようになっていくと、どうしてもセンスを問われるじゃないですか。いま流行っている音楽がどうやって生まれたものかをまったく突き詰めずにそのままやっちゃうと、どうしたってすごく薄っぺらいものになるから。
――トレンドの背景にあるものをどこまで把握できるかが重要だってことですね。
そうそう。ある程度それを掴んだうえで、「じゃあ、自分だったらこれをどんな感じにするかな」って。そういう作業のなかで、他の人がまだ発見していないものを見つけたいんです。特に最近はバンドのフォーマットから生まれた音楽に心をときめかせることがすごく減ってきてるから。そういう刺激的な新しいバンドが出てきてほしいと思ってるし、できれば自分のバンドでそれがやりたいなぁとも思ってて。
――そうなると次のテレフォンズがどういうカードを切るのか、ものすごく楽しみですね。
いまプリプロ中なんですけど、そこでノブ(岡本伸明)がよく「なんかこれ、本物感があるぞ」と言ってて(笑)。ちゃんと音楽の深いところを愛してテレフォンズのフォーマットでやれば、必然的に音は本物になっていくと信じています。
――本物感か。これは完全に蛇足ですけど、「ロック」という言葉を使うのがちょっと恥ずかしい時期ってありませんでした? ちなみに僕はあったんですけど。
(笑)。僕もけっこう苦手ですね。ちゃんと本来の意味合いで伝わればぜんぜんOKなんですけど。
――でも、ここ最近のインディー音楽とかって、もはやロックは劣勢じゃないですか。そうなってくると、むしろ「ロック」って積極的に使っていきたいような気もしてきて。
それ、なんかわかりますね(笑)。僕も最近はけっこう「自分たちはロック・バンドだ」と言ってます。たとえば、70年代のサイケとかプログレとか、多分当時はぜんぶまとめてざっくり「ロック」と呼んでいたのではないかと。そのロックがいつからかダサい言葉になっちゃってる。でも、ロックそのものはまったく色あせてないと思うんですよね。
――いいですね。テレフォンズはロック・バンドだと。
むしろ「テレフォンズがロック・バンドじゃなきゃなんなんだよ」と言いたい(笑)。
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LIVE INFO
インストア・ミニ・ライヴ
2014年3月7日(金)@タワーレコード渋谷店 1Fイベントスペース(東京)
2014年3月8日(土)@FLAKE RECORDS(大阪)
2014年3月15日(土)@タワーレコード名古屋近鉄パッセ店 9Fイベントスペース(名古屋)
イベントへの参加方法は、the telephonesのOfficial HP、または各イベント店舗のHPをご覧下さい。
PROFILE
Ishige Akira
2005年埼玉の北浦和にて結成された4人組ロックバンドthe telephones(ザ・テレフォンズ)のフロントマンでコンポーザーとして知られる石毛輝のソロ・プロジェクト。アイスランドなどの北欧の音楽テイストを日本の風土に置き換え、自らのフィールド・レコーディングによる自然音を散りばめたノスタルジックな楽曲を制作している。今までに2枚のアルバムを発売。2014年2月26日に3rd Album『Dark Becomes Light』を発売する。