小谷美紗子、キャリア初の弾き語りオールタイムベストをハイレゾ先行配信

その小さな身体からは想像のつかない、大きく力強い歌を歌うことから「小さな怪物」と称された小谷美紗子。そんな彼女を体現したかのような作品『MONSTER』が到着した。
2015年11月にはMr.Childrenが行ったツーマン・ツアーのうち、札幌公演の相手として指名され、2016年のはじめには安藤裕子の新作に楽曲提供するなど、各所からのラブ・コールも止まぬ彼女。そんななか、デビュー20周年プロジェクトの第1弾として発表された今作は、これまで小谷が発表した曲の中からオールタイムベストな全10曲を、新たにピアノと歌のみで新録した作品である。意外にもこれまで弾き語りアルバムのリリースはなく、満を持しての誕生と言えるだろう。
本作を一般発売の5月20日に先駆けて、OTOTOYではハイレゾ配信がスタート。音作りには、Mr.Childrenやエレファントカシマシ、秦基博などの作品を手がけてきた平沼浩司が録音、およびミックスを、岡村靖幸、電気グルーヴ、クラムボンなどの仕事で知られる木村健太郎がマスタリングを手がけた。シンプルであればあるほど、表現力と技量があらわとなるハイレゾにおいて、本作は小谷が"モンスター"と称されることに今一度納得せざるを得ない仕上がりであった。より繊細に、圧倒的な熱量を再現するハイレゾで、ぜひとも本作を聴いてほしい。
小谷美紗子 / MONSTER
【Track List】
01. 手紙
02. Who
03. Off you go
04. 自分
05. 嘆きの雪
06. 子供のような笑い声
07. The Stone
08. 手の中
09. こんな風にして終わるもの
10. 3月のこと
【配信形態】
[左]24bit/96kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
>>ハイレゾとは?
【価格】
単曲 259円(税込) / アルバム 2,376円(税込)
小谷美紗子 / 『MONSTER』ダイジェスト小谷美紗子 / 『MONSTER』ダイジェスト
INTERVIEW : 小谷美紗子
デビュー20周年にあてて、小谷美紗子が初のピアノ弾き語り作品『MONSTER』を完成させた。ステージ上では幾度となく弾き語りを披露しているだけに、彼女がこうしたピアノと歌だけのシンプルな作品を出してこなかったのは、いささか意外な気もするが、それだけに、ファンにとってはまさに待望のアルバムだ。しかも、今作は彼女の20年におよぶキャリアの中から10曲を厳選した、まさにベスト・オブ・ベストな1枚。小谷美紗子という歌い手の稀有な才能にまだ触れたことがない方にこそ、ぜひ手にとってほしい作品だ。
ということで、今回は『MONSTER』の発売を記念して、本作に収録された全10曲について、ひとつひとつ小谷自身に語ってもらった。デビューから20年目を迎えた小谷のキャリアが一望できる内容になったので、『MONSTER』のサブテキストとして読んでもらえれば幸いだ。ちなみに、このアルバムのハイレゾ音源を試聴した小谷に感想をうかがったところ、「エンジニアがこだわったリヴァーブの細部も、はっきりと再現されているんですね。スタジオで録音しているときのサウンドに、ものすごく近い」とのこと。実際、『MONSTER』はハイレゾの真価がわかりやすく発揮された作品なので、ぜひとも、その臨場感をみなさんにも体感してほしいです。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
今回のアルバムに選んだ曲は、そうやって素直に生まれた曲が多いのかもしれない
──『ことの は』がリリースされた頃のインタヴューで、小谷さんはこんなことをおっしゃってたんですよ。「デビューしたらきっとフル・バンドを従えて歌えるんだと信じていたのに、気がついたら弾き語りのアーティストになっていた」って。
小谷 : あはは(笑)。たしかに言ってましたね。でも、弾き語りのアルバムって、これまで1枚も出してなかったんですよ。今年は20周年ということなので、これを機にやってみるのもいいかなと思って。
──ミニ・アルバムもあわせると、小谷さんはこれまでに11作を発表しているわけで。そこから10曲をチョイスするのも、なかなか大変だったと思うのですが。
小谷 : すごく難しかったですね。というのも、今回はまず曲数を先に決めたんですけど、そこで私が選ぶ10曲と、スタッフがこれだと思う10曲って、けっこう違うもので。
──ほぼ全作から取り上げられた選曲ですが、『OUT』(2007年作)の曲だけは収録されていませんね。
小谷 : ホントだ! それは今言われて気づきました(笑)。今回はなるべくどのアルバムからも1曲ずつ入れたかったんですけど、アルバムとしてのバランスを考えると、あまり曲数を増やしたくもなかったから…。でも、たとえば『OUT』に入ってる「消えろ」とかは、もちろん候補に入ってたんですよ。なので、それはまた次の機会ってことで(笑)。
──わかりました(笑)。では、早速ここからは『MONSTER』に収められた10曲を、順に振り返っていきましょう。まず1曲目は、2010年のミニアルバム『ことの は』に収録されていた「手紙」。最近公開になったミュージック・ヴィデオからも、「手紙」は小谷さんの個人的な記憶と密接に結びついた曲であることがうかがえます。
小谷 : 「手紙」は、京都の実家でひと時を過ごしたあと、またこれから東京に帰るという時に、電車の中で書いた曲なんです。技術とかアーティスト云々みたいなことをすべて取っ払って、ただ私が書きたくて書いた曲。この曲を歌い続けてきたことによって、私自身が救われたようなところもあるんですよね。
──その一方で、“ああ 大統領選挙みたい 互いの足の引っ張り合い"という一節が象徴するように、「手紙」は現代社会を辛辣に突いた曲でもあって。聞き手の解釈も、この6年間でかなり変わってきた曲だと思うのですが。
小谷 : たしかにそうですね。「手紙」は本当に個人的な想いを綴った曲なので、一時期は歌うと必ず涙が出ちゃってたんですよ。それくらい、「手紙」は“私個人の歌"って感じだったんですけど、そんな私の歌で泣いているお客さんの姿を見たりしていくうちに、だんだんと「これはもう私だけの歌じゃないのかもしれない。みんなの抱えている気持ちを歌っている曲なんだ」と思うようになって。それからは、あまり感情的にならず、しっかり歌えるようになりました。
──2曲目の「Who」も、リリースから10年を経て、特別な意味をもつようになった曲ですよね。ちなみにこの曲が収録された『CATCH』(2006年作)は、玉田豊夢さんと山口寛雄さんとのトリオ編成で録った2枚目のアルバムで。小谷さん自身も、ピアノ・トリオでつくる意識が非常に高まっていた時期かと思うのですが。
小谷 : この曲は、曲作りの段階で「ドラムやベースがこんな風に鳴っていて欲しい」というイメージはすでに浮かんでいました。なので、「この曲は弾き語り向きじゃないな」と思っていた時期もあるんですけど、弾き語りで試してみたら意外とよくて。それからは、ひとりでもよく演奏するようになりましたね。
──そして3曲目の「Off you go」。この曲をリリースした2003年は、他にも“odani misako・ta-ta"(玉田豊夢 、二宮友和 、田渕ひさ子、池田貴史を擁する5人組バンド) を結成するなどの、あらたな試みがありましたね。
小谷 : 「Off you go」は、山手通りを歩きながら書いた曲ですね。駒場から山手通りを代々木上原の方に向かって歩く途中にスタジオがあるんですけど、そこに向かう途中にできた曲。
──どうやら小谷さんは移動中に曲を思い浮かべることが多いようですね。
小谷 : はい(笑)。この曲、聴いた人は日本語と英語の絡め方だったり、メロディの進行をしっかり練った曲だと思うのかもしれないけど、私の中ではけっこうスルッと出来た曲で。これも無意識ですけど、もしかすると今回のアルバムに選んだ曲は、そうやって素直に生まれた曲が多いのかもしれない。
私の曲は、ほとんどが“ピアノにすがるようにして書いた曲"なんですよ
──そして次はセカンド・シングル「自分」、デビュー曲「嘆きの雪」と、キャリア初期の楽曲が並んでいます。それにしても、「嘆きの雪」をいま聴くと、あらためて驚かされるというか。当時19歳が書いた曲とは、にわかに信じがたいんですが…。
小谷 : あはは(笑)。「嘆きの雪」を書いたのは、15歳の頃でしたね。
──マジですか…! この頃の小谷さんって、どんな感情に駆り立てられて曲を書いていたんですか。たとえば「嘆きの雪」からは、人の愚かさに対する苛立ちみたいなものを感じるのですが。
小谷 : そうですね。当時はそれこそ学生だったので、学校の先生に対する反乱を起こしていました(笑)。あと、わざわざイヤな情報を持ち込んでくる近所のおばさんとか。そういう人達にグサッとくるような曲を書こうかなって。ちなみに「自分」は18歳の頃に書いた曲なんですけど、これを書いていた頃も、教師への怒りがありました。
──主にどんなところで教師への反感を抱えていたんですか。
小谷 : 教師が子供の一生懸命な言葉を頭ごなしにあっさりと退けてしまう様な時。そこで、「どうやったら先生にうまく思いを伝えられるんだろうか。どんな言葉を選んで、どう歌えば相手に伝わるんだろう」っていうようなことを試行錯誤し始めたのが、「自分」を書いたころだったと思う。例えば「教師が生徒を傷付けるな!」と歌うのではなく、むしろその人自身になったつもりで、自己啓発してみる。あの曲を書いているときは、そういう気持ちだったと思う。

──6曲目は「子供のような笑い声」。この曲のストリングス・アレンジは、ベックの父としても知られるデヴィッド・キャンベルが務めています。そして、この曲が収録されている『Then』(2002年作)は、ゲスト・ミュージシャンとのコラボレーションに取り組んだ作品でしたね。
小谷 : デヴィッド・キャンベルについては、ファーストの頃からずっとお世話になっていますね。eastern youthとの夢の共演も叶いましたし。これはずっと思ってることなんですけど、どうやら私は自分の曲よりも、人が書いた曲のほうが上手に歌えるみたいで(笑)。というのも、やっぱり自分の曲って感情が先立ってしまうので、どうしても客観性がもてないというか、「うまく歌おう」みたいなことを考えられなくなるんです。つまり、その曲に込めた感情ばかりに集中しちゃって、歌手としての役割みたいなものを果たす余裕がなくなるというか…。それが、たまにライヴで洋楽をカヴァーしたりして、あとからそれを自分で聴いてみると、「私、わりとうまいな」と思うこともあったりして(笑)。
──まあ、実際にそうですから(笑)。
小谷 : そういう思いもあったので、他の人が書いてくれた曲を歌ってみるのはどうかなと思ったんです。そこで、スタッフから「誰の曲を歌ってみたい?」と言われた時、ぽろっと「筒美京平さん」と言ったら、それが本当に叶ってしまって(笑)。今思うと、『Then』は自分が表現しきれていないところを探している時期のアルバムだったんじゃないかな。おもちゃ箱をひっくり返したみたいなアルバムというか。
──なるほど。そして7曲目は、セカンド・アルバム『i』(97年作)に収録されている「The Stone」。この曲は、恋人との別れをとても詩的に綴っているのが印象的です。
小谷 : これもまた、歌詞に書いてある内容のことを強く思いながら、ピアノで一気に書いた曲ですね。たしか5分くらいで作ったんじゃないかな。こうして昔を思い返していくと改めて思うんですけど、要するに私は何も考えてないんですね(笑)。ただその時の感情をそのまま吐き出しているだけというか。つまり、私の曲は、ほとんどが“ピアノにすがるようにして書いた曲"なんですよ。自分に何か悲惨なことが起きた時は、自分が曲を書く上では1番いい状態というか(笑)。
──つまり小谷さんの楽曲は、そのほとんどが実体験をもとにしたノン・フィクションだということ?
小谷 : はい。そうだと思います。
「3月のこと」がどれだけのひとに届いたのかはわからないけど、今の自分があるのは、この曲があるから
──その次の8曲目「手の中」が収められたアルバム『us』(2014年作)は、小谷さんの最新作であるのと同時に、それこそ東日本大震災以降の時代性を捉えた作品で。
小谷 : そうですね。ちなみにこの曲の歌詞って、実は私がツイッターでつぶやいた言葉がそのまま使われているんですよ。〈自由はいつも背中に 孤独はいつも手の中に〉のところなんですけど。ツイッターのフォロワーには、やっぱり自分のお客さんが多いから、フォロワーに言葉をかけたいなと思って。つまり、「自分の歌を必要としている人を想って書きたいな」という思いで書いたのが、この曲なんです。それは、たとえば「手紙」みたいに、自分が歌わずにはいられなくて書いた曲とは、またちょっと違うというか。意識としては、“私"より先に“みんな"のことを頭に思い浮かべて書いた曲ですね。震災もあったので、今はやさしい曲が必要だなって。その「手の中」は心の奥底に重く響くような曲なので、曲調的にもそこで一旦リセットさせるイメージで入れたのが、「こんな風にして終わるもの」ですね。
──「こんな風にして終わるもの」は、3作目『うた き』(98年作)に収録されている曲ですね。このときの小谷さんはどんなモードでしたか。
小谷 : このときは小谷美紗子というアーティストのより深い部分を、私はもちろん、スタッフも引っ張り出そうとしていた時期だったと思います。なかでもこの曲は、自分の素直な部分がつるっと出せた曲でしたね。
──そして、最後に収められたのが「3月のこと」。東日本大震災を受けて書いた曲が、このアルバムのエンディングを飾ります。
小谷 : 3月11日のことは、私自身もトラウマというか、それこそ当時はショック状態でしたね。人間としても、アーティストとしても、自分にできることが少なすぎると思って、自己嫌悪に陥った時期もあったし。
──そんな時期に、小谷さんはどのような気持ちでこの曲を書いたんですか。
小谷 : たしかその頃は、世の中に「がんばれ!」みたいな曲がすごくあふれていたんですよ。もちろん、そういう曲は必要だと私も思うんです。でも、その一方で“がんばれ"と言われるのが辛くてしょうがない人も、きっといるはずだと思って。この「3月のこと」と「手紙」は、ここ5〜6年の中でも特に忘れられない曲というか。実際、「3月のこと」がどれだけの人に届いたのかはわからないけど、今の自分があるのは、この曲があるからだと思ってます。
──その「3月のこと」と最新作『us』を経て、現在の小谷さんはどういうモードなのでしょうか。
小谷 : もちろん、新曲も書いてます。あと、その他にも安藤裕子ちゃんに楽曲提供したり。今はそうやって誰かのために曲を書いてるなかで、曲を書くことの楽しさを改めて実感している時期でもあるのかもしれないですね。まあ、もちろんピアノにすがるようにして書くことは、今でもよくあるんですけどね(笑)。
過去作
小谷美紗子 / ことの は
ただ潔く、ただ真っすぐに──「Odani Misako Trio」として活動を共にした、100sなどで活躍する玉田豊夢(Dr)、山口寛雄(Ba)と制作。小谷節全開なバラード「青さ」「手紙」をはじめ、ゆったりとした幕開けからスタートするもサビではアップテンポに転調し、その美メロ/曲展開ともに名曲"Who"を彷彿とさせる「線路」や、まるでレッドツェッペリンのような重量感あるリズム隊がリードするバンドサウンドに達観したような小谷のヴォーカルが特徴の「空の待ち人」なども収録。
LIVE INFORMATION
弾き語りTOUR「MONSTER」
2016年6月8日(水)@札幌COO
2016年6月10日(金)@仙台Cafe Mozart Atelier
2016年6月16日(木)@名古屋CLUB QUATTRO
2016年6月18日(土)@大阪GANZ toi,toi,toi(大阪公演1日目)
2016年6月19日(日)@大阪GANZ toi,toi,toi(大阪公演2日目)
2016年6月23日(木)@広島Live Juke
2016年6月25日(土)@福岡ROOMS
2016年6月30日(木)@東京Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE
PROFILE
小谷美紗子
1996年、シングル『嘆きの雪』でデビュー。これまでに11枚のオリジナル・アルバム、16枚のシングルをリリースしている。その歌で、音楽ファンのみならず、多くのミュージシャンや著名人からも支持を得ている。本物の音楽を作り続け、歌い続け、2016年にデビュー20周年を迎える。