
通算8枚目のアルバムを、日本先行で配信開始!!
Radiohead / The King of Limbs
英国を代表する最も革新的なロック・バンドとして、揺るぎない評価と絶大な人気を誇るRadiohead。2007年『イン・レインボウズ』以来約3年ぶり、通算8作目となる待望の新作アルバムは、長年のコラボレーターでありバンドとともに数々の名作を生み出してきた、ナイジェル・ゴッドリッチが再びプロデュースを手掛けている。
【TRACK】
1. Bloom / 2. Morning Mr Magpie / 3. Little by Little / 4. Feral / 5. Lotus Flower / 6. Codex / 7. Give Up The Ghost / 8. Separator
Produced by Nigel Godrich
Engineered and mixed by Nigel Godrich
Additional engineering by Drew Brown
Additional assistance from Darrell Thorp and Bryan Cook
Mastered by Robert C. Ludwig.
「歌」を作り続けてきた彼ら
幾度となくやってくる余震を気にしながら、この原稿を書いている。震源地が気になるが、テレビは付けないことにした。ツイッターも見ない。ただ、ヘッドホンから聴こえてくる音楽だけを流したままにしている。いまの自分に必要なものは情報ではなく、この音だということだけははっきりとわかっている。
オフィシャル・サイトでの先行配信から既に1ヶ月以上が経過している。いまこれを読んでいる人の中にも、既に作品を耳にした人は少なくないはず。実際に届いたこの『ザ・キングス・オブ・リムス』という作品から聴こえてきたのは、これまで彼らの諸作を語る際に引き合いにされてきた感情とはまったく別のところで作られた音楽だ。徹底して削ぎ落された音像と、ヒプノティックな展開。ただきめ細やかなサウンドの美しさだけが、先行配信が始まってから現在に至るまで、一度も揺らぐことなく響いてくる。
思えば昨年は、彼らがポップ・ミュージックの歴史に金字塔を打ち立てた作品『キッドA』が世に出てから10年目を迎えた年だった。あの作品がリリースされた当時、モダン・ジャズやラップ・トップ・テクノを咀嚼したサウンドと、前後の脈絡なく継ぎ接ぎされた言葉が感情表現を限りなく抑えた声で歌われていくのを聴きながら、まるで海の向こうの悲惨な現実が淡々と映し出されていくのをただ眺めているような気持ちになったことを今でもよく覚えている。高揚を感じながらも、なぜか虚しさが拭えなかったのはそのせいだったのだろう。
ところがそれ以降も何度となくあの作品と向き合っていくうちに、自分の抱いている印象が少しずつ変化していることに気がついた。それは時代背景からの影響もあるのだろうけど、彼らのその後のキャリアとも無関係ではないように思う。
双子作『アムニージアック』は言うに及ばず、iPodに端を発する音楽メディアの移り変わりを意識し、あえて作品の方向性を定めずに臨んだ『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』、先行ダウンロードで価格は購入者に委ねるという販売方法が物議を醸した『イン・レインボウズ』、そしてまたしても唐突に完成がアナウンスされた今作と、この10年でRadioheadはサウンド面の更新だけでなく、作品性や販売方法等でも旧来のシステムに対する挑戦的なアクションを見せるようになった。その姿勢は、常に敗者の側にいたそれまでの彼らにはなかったものだった。そこで『キッドA』の最後を締めくくる言葉を思い出してみる。“I will see you in the next life(来世で会おう)”。「モーション・ピクチャー・サウンドトラック」のあのフレーズを、当時の自分は諦念と捉えることしか出来なかったのに、いまはわずかな希望を指していたようにも思えるから不思議だ。

この10年のRadioheadの活動を俯瞰すると、もうひとつ気づくことがある。それは彼らがずっと「歌」を作り続けてきたということだ。『キッドA』で新たなバンド・サウンドの形を構築した彼らが、その後もメロディを基軸にした音楽を作り続けたことは、00年以降のポップ・ミュージック全体の流れを左右する出来事だったに違いない。なにより、一度は楽曲から感情表現を排除しようとしたこのバンドが、その後も言葉を紡ぎ、歌うことでリスナーとコミュニケートし続けてきたという事実に、僕はどうしても胸が震えてしまうのだ。
『ザ・キング・オブ・リムス』には、Radioheadがこの10年を経て出したひとつの答えが表れている。全8曲で40分足らずというサイズもあって、作品を通してループ感があり、アルバムが最後を迎えると、余韻を待たずすぐ再生したい衝動に駆られる。あの終末感漂う『キッドA』を作ったバンドが、紆余曲折を経ながらもポップ・ソングの持つ可能性を捨て去らずに辿り着いた境地がここだ。彼らの音楽に心を揺さぶられたことは何度もあるが、ここまで素直に心地よいと感じたのは初めてかもしれない。
これまで当たり前だと思っていたものは一瞬にして崩れてしまうという現実を、いまこの国にいる我々は身を持って知ることになってしまった。しかし何も終わってはいない。いま僕達の手に残っているものは間違いなく希望だ。Radioheadが2011年に完成させたこのアルバムを繰り返し聴く度に、ぼくはそんな気がしてならないのだ。(Text by 渡辺裕也)
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PROFILE
Radiohead
1997年のサード・アルバム『OKコンピューター』は、ロックをベースにエレクトロニクスを積極的に取り入れたその画期的な音楽性が高い評価を受け、キャリア初の全英チャート第1位を獲得、世界的なメガ・ヒットとなる。2007年には、7作目アルバム『イン・レインボウズ』を自由価格制ダウンロード配信として発表、その今までにない流通方法が世界的に大きな話題を呼んだ。この作品はその後2007年12月よりCD発売され、全米チャート、全英チャート、オリコン洋楽チャートすべて第1位初登場を獲得、2009年度グラミー賞ベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバムを受賞するなど、世界各地で絶賛をもって受け入れられた。各メンバーはそれぞれバンド外の活動も活発に行っており、マルチ・インストゥルメンタリストのジョニー・グリーンウッドは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ノルウェイの森』といった映画音楽を手掛けている。また、ドラマーのフィリップ・セルウェイは2010年ヴォーカルとアコースティック・ギターを中心としたソロ・アルバム『ファミリアル』を発表、ファンを驚かせた。ヴォーカリストのトム・ヨークも2006年にソロ・アルバム『ジ・イレイザー』を発表。その後2010年にはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーらとともに新バンド、アトムス・フォー・ピースを始動。同年夏にはフジロック・フェスティヴァルのメイン・ステージに登場し、満員の観衆を沸かせたことも記憶に新しい。社会問題にも意識的な彼らは、2008年の『イン・レインボウズ』世界ツアーにおいて環境問題への新たな取り組みを行い、大きな話題を呼んだ。このユニークな試みは、音楽に関わるあらゆる人間にとって指針となる活動として高い評価を受けている。