ルーツが交差する音のタペストリー ──Laura day romance、待望のファーストAL『farewell your town』

東京を拠点に活動する4人組バンドLaura day romance(ローラ・デイ・ロマンス)が、待望の1stフル・アルバム『farewell your town』をリリースした。様々なジャンルを卓越した演奏と歌唱でロックなバンド・サウンドにまとめ上げた前作までと比べ、今作はカントリーやフォークを基調とした生鳴りの楽器が心地よい、落ち着いた音作りが印象的な作品となっている。きめ細やかなアレンジやアートワークなど随所から感じる「音の美意識」に加え、20代前半の彼らが映し出す世界の在り方を正直かつドラマティックに描く創作姿勢は、どこまでも誠実だ。そんな彼らのルーツや楽曲に込めた想いなど、アルバム制作時から最新の心境までをOTOTOY初のメンバー・インタヴューでお届けいたします。
待望のファーストは、私小説的なコンセプト・アルバム
Laura day romance『farewell your town』ティザー映像Laura day romance『farewell your town』ティザー映像
INTERVIEW : Laura day romance
Laura day romanceという名前は、聞くところによればGirlsのデビュー作『Album』に収録されていた“Laura”に由来するんだそうだ。いつからかお互いを避けるようになってしまった友人ローラへの想いを綴った、1950'sマナーのとろけるようなロックンロール“Laura”。Laura day romanceが奏でるインディ・ポップには、たしかにそんな“Laura”を思わせるような儚さ、ナイーヴさがある。そんなLaura day romanceが、このたび1stアルバム『farewell your town』を発表。北米インディと1990年代J-POPの間をいく清涼なギター・ポップ集、そしてひとつの街を描いたコンセプト・アルバムでもあるという今作について、早速彼らに話を聞いた。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 作永裕範
どうせバンドをやるなら幅広い人にアピールできるものを

──Laura day romanceはどんな音楽を通じてつながったバンドなのでしょうか。まずは、メンバーそれぞれのフェイバリットをお伺いしたいです。
鈴木迅(Gt&Cho / 以下、鈴木) : 僕らは好きな音楽がちょっとずつ被っているような感じなんです。たとえば僕と川島くんは主に海外のインディ、かっちゃん(井上)はJ-POP、礒本はブラック・ミュージックが好きなんですけど、微妙にそれぞれ重なっているところもあって、その重なりからLaura day romanceの音楽は形作られてるのかなと思ってます。
──海外インディ、J-POP、ブラック・ミュージックとはそれぞれどういうものを指しているのか、もう少し具体的に教えてもらえますか。
川島健太朗(Vo&Gt / 以下、川島) : 最初に鈴木と会ったときは、くるりとヴァンパイア・ウィークエンドの話をしたのを覚えてます。それは象徴的なんじゃないかな。
礒本雄太(Dr / 以下、礒本) : 僕は、たとえばカーティス・メイフィールドあたりに代表されるような、1970年代のシカゴ・ソウルとかが好きですね。あとは主にファンクとかR&Bかな。
鈴木 : 僕と川島とかっちゃんが3人で組んだ当初は、それこそインディとJ-POPでつながった感じだったんですけど、そこに礒本が加わったことでブラック・ミュージックの要素がプラスされたようなイメージですね。
井上花月(Vo&Tamb / 以下、井上) : 昔から松任谷由実さんとかチャットモンチーが特に好きだったんですけど、(鈴木)迅くんと川島に教えてもらったのがきっかけになって、ここ数年は海外のインディをたくさん聴くようになりました。たしか最初にハマったのはホイットニーのファースト・アルバム(『Light Upon the Lake』)でしたね。迅くんと川島が教えてくれた洋楽はどれも聴きやすいものばかりだったんですよ。「私なんでこれいままで聴いてこなかったんだろう?」って。
川島 : いまやかっちゃんは僕が知らないような海外インディの作品をどんどん勧めてきますからね(笑)。
──ヴォーカルについてはいかがですか。井上さんはいつ頃から歌に取り組んでいたのでしょう?
井上 : 歌にはずっと馴染みがありました。小学生のころは合唱をやっていたし、中学も吹奏楽部で歌の練習があって。高校では軽音楽部、大学でもバンドをやっていたので。
──Laura day romanceの楽曲は、たしかにUSインディ志向を感じさせますが、そこに井上さんのヴォーカルが重なることによって、日本語のポップスとして間口がひろがっているというか、まさにそこがみなさんの強みだなと感じます。
鈴木 : もちろん自分が好きな音楽をやるというのが前提ですけど、どうせバンドをやるなら幅広い人にアピールできるもの、お茶の間でも受け入れられるような音楽をやりたいと思っていて。そういう意味でも、かっちゃんのヴォーカルはたしかにバンドにとって重要な要素だと思ってます。
──そうしたバンド像や音楽性に関しては、なにか理想形やロールモデルがあるのでしょうか?
川島 : 「このバンドのこういうところを取り入れたい」みたいなものがいっぱいあって、それをひとつひとつまとめあげていくとこうなる、みたいな感じなのかな?
鈴木 : 大瀧詠一さんの『A Long Vacation』はひとつの理想ではあるかもしれないですね。CMとかにも楽曲が使われていて、世間の誰もが知っているんだけど、なおかつ音楽オタクも唸らせるような音楽がいいなって。
──Laura day romanceの曲と歌詞って、情景描写的なものが多いですよね。そこは昨今のJ-POPと一線を画したところだと感じていて。いわゆるJ-POPってそのひとの気持ちを表現をするような曲が多いんだけど、歌謡曲だと意外とそうじゃないものもあったりして、ある意味そっちに近いのかなと。
鈴木 : なるほど、たしかに。
井上 : 歌詞に関しては迅くんが監督で、一緒に話しながら歌詞を書き直していくようなやり方なんですけど、たしかにその風景描写については言い争うことがありましたね(笑)。
──「監督」というのはどういうことですか?
鈴木 : 歌詞は主にかっちゃんが書いているんですけど、楽曲のイメージについては僕が考えていて、そのイメージからはみ出しているときは「そこはちょっと行き過ぎかも」みたいに伝えるっていう。そういう作業ですね。
──今作は車のエンジンをかける音ではじまって、なにかしらのストーリーを感じさせる構成になってますね。
鈴木 : 今回のアルバムは、ひとつの街で起こっていることを描きたかったんです。曲ごとに登場人物がいて、それぞれの視点が重なっていくことで、ある街の風景が浮かび上がればいいなと。環境音的なものもその空気感が伝わるように入れました。

──編成や録り方が曲ごとに異なるのも、そのシーンの変化を意識したもの?
鈴木 : そうですね。たとえばかっちゃんが弾き語りしている“slumbers”だったら、そのひとの部屋から見える景色を意識していたり。
──井上さんと川島さんのツイン・ヴォーカルも、やはり作中のキャラクターに合わせているのでしょうか?
井上 : そうですね。曲の雰囲気や主人公の元気さや暗さを踏まえて歌いかたを変えてみたり。
──ある意味それは演じているような感覚でもあるのでしょうか?
井上 : それはあるかもしれないですね。ただ、やっぱり自分のコンディションもあるので、そこはコントロールできている部分もあれば、できてない部分もあって。その人物になりきって歌詞を書いたつもりでも、あとから読み返すと私の主観がたくさん入っているように感じたり、結局は歌詞のなかに私自身のキャラクターも表れているというか。
川島 : 僕が歌っている“radio”に関しては、あらかじめ「これは男性の曲だから」と言われていたんですけど、普段の自分からするとキーが低いのと、曲中の人物像にしっかり入り込みたかったのもあって、1ヵ月くらいはひたすらこの曲に集中してました。特に今回はコンセプト・アルバムなので、以前よりもそこは強く意識してました。
日本語でも海外の人たちに届くものを作っていきたい

──描写的といえば、Laura day romanceはMVも手が込んでいるというか、それこそ映像からもバンドの美意識が伝わってきます。
井上 : そう言ってもらえるとうれしいですね。実際、MVに関してはすごく時間をかけていて、絵コンテも細部までつくって、監督さんとも毎回かなりの回数打ち合わせさせてもらってるので(笑)。
──“rendez-vous”のMVには英語と中国語の字幕が付いてますよね。あそこには自分たちの音楽を海外にもしっかり発信していきたいという想いも込められているように感じたのですが、実際はいかがですか?
井上 : あれは思い付きだよね? 「これ、字幕付けたらかわいいんじゃない?」みたいな(笑)。
川島 : 香港映画だよね。『恋する惑星』とか、ウォン・カーウァイ監督の作品を観て、監督さんに「この色味に近づけてください」とお願いしてみたり。
井上 : そうそう。香港映画を意識して作ろうという話からはじまって「それなら字幕あったほうが絶対いいよね」「香港映画だったら中国語だよね」って。
川島 : で、そこから「だったら英語も付けようよ」と。
──なるほど、あの字幕は映画からインスパイアされたものだったんですね。
井上 : ええ。もちろん字幕を付けるとなった時点で「これで中国とかアジアにいる人たちが見てくれたらうれしいよね」みたいな気持ちもおのずと湧いてきたんですけど、字幕をつけようと思い立った順番としてはそっちが先でした。

──今後、海外に自分たちの音楽を届けていきたいという思いはありますか?
井上 : 「アジアをツアーで回っているバンドっていいよね」みたいな話はみんなともしてます。日本語のポップスで海外にも受け入れられている人たちを見ていると、すごいなと思いますし、自分たちもそうなれたらうれしいですよね。
鈴木 : そうだね。いまは海外にアクセスするのが容易な時代になっているし、日本語でも海外の人たちに届くものを作っていきたいとは思ってます。でも、その前にはまず自国で受け入れられてからじゃないとね。
井上 : うん、そうだね。
「街」をコンセプトに表現した「多様性」

──では、今作をつくるにあたってみなさんが特に意識していたこと、あるいはリファレンスになったものをそれぞれ教えてもらえませんか。
礒本 : 今作はドラムの音作りがけっこう難しくて、なかにはビート自体が存在していないというか、頭からケツまですべて装飾音みたいなアプローチの曲もあったりして、エンジニアさんと二人三脚でけっこう実験的なことをやりましたね。迅から聞いていたアルバムの全体像を自分なりにイメージしながら、それを表現することに徹したというか。
川島 : 今回のアルバムではアコギを弾くことが多かったんですけど、アコギのレコーディングって、エレキとは違って直接マイクを立てて録ることになるじゃないですか。そうなるとリズムもニュアンスもよりシビアになるので、けっこう悪戦苦闘しましたね。それにアコギっていうと静かでフォーキーなものをイメージするひともいるけど、僕がここでやりたかったのはもっとロックな感じというか。たとえばザ・スミスのジョニー・マーとか、ザ・バーズみたいなアコギの重ね方にしたかったので、いままではやってこなかったアプローチをいくつも試しました。
鈴木 : リファレンスでいうと、ヴァンパイア・ウィークエンドの4枚目(『Father of the Bride』)は個人的にかなり大きかったですね。あのアルバムって、幾層にもオーヴァーダブされたサウンドのなかに多様性を感じさせるんですよね。『farewell your town』で「街」をコンセプトにいろんな人物を登場させたかったのも、まさにその多様性を表現したかったからなので。
──その多様性というのは、社会的な問題意識として鈴木さんがいま抱えていることなのでしょうか?
鈴木 : そうですね。いま作りたいものと自分の問題意識がリンクする部分を探していたところはありました。
井上 : 多様性については私も完全に意識してましたね。今作の歌詞を見直してみると、たしかに自分の問題意識が表れてるんですよね。たとえば4曲目の“worrying things”は「性別のグラデーション」が裏テーマだったんです。そこを考えつつ、最終的には映画的というか、ロマンティックな歌詞に落とし込みたいなって
──みなさんが今作をつくりおえたあとの社会は、まさに激動ですよね。きっと皆さんのなかにはまた新たな問題意識が生まれているのではないかと思うのですが、いかがですか。
川島 : そうですね。でも、この新型コロナウイルスに関する騒ぎが大きくなりはじめる前に、僕らはギリギリ神戸でライヴをやることができて。そのときにはじめて“Rendez-vous”を演奏したんですけど、そこでかっちゃんの歌を聴いてるときに、歌詞がすごくいまの状況に当てはまっているというか、また違う意味合いが込められたような感じがして。まさにそれってポピュラー・ミュージックのすばらしさだと僕は思うんです。松任谷由実さんも「いい曲は5年後に評価される」みたいなことを仰ってましたけど、本当にそうだよなって。

──社会が大きく変動したことによって、期せずして歌に新たな意味合いが生まれたと。
川島:そう。逆にいまの状況をそのまま切り取ったとしても、そういう歌ってすぐに風化しちゃうと思うんです。それよりもいまあるものや起きていることをちゃんと吸収しながら、この先も絶対に風化しない音楽をつくっていきたいし、ポップスってそういう音楽なんじゃないかなって。
鈴木 : それこそいま起きている人種差別問題って、ずっと昔から存在してきた問題じゃないですか。日本にいるとそれを身近な問題として意識しづらいところもあったりするけど、そういう問題意識があるかどうかって、作品の強度を分けるポイントにもなってくると思うので、今後もそういう意識をなくさずに作品をつくっていきたいですね。
礒本 : 新型コロナウイルスの影響で、音楽の聴こえ方やライヴの捉え方もだいぶ変わったと思うんです。それこそ家で音楽と向き合ってた人もたくさんいたと思う。そうしたなかで今回のアルバムはライヴ感というより、非常に作品性の高いものになったと思っているので、この状況が収まったときに今作の曲たちがライヴでどう変化していくのかも、楽しみにしていてほしいなって。
井上 : アーティストにとって、音源を出したりライヴをしたりするのって当たり前のことじゃないですか。だから、その活動ができなくなったときは自分の気持ちをどう保てばいいのかわからなったんです。でも、いまはその気持ちも作品にしていくしかないんだなと思ってて。過去のどの時代の人たちも経験していないことをいま私たちは体験しているわけですから、それを前向きに捉えてこれからも作りつづけることが大事だなって。こういう時代を20代前半で過ごすのって、私はそれはそれで稀有なことだと思うんです。

編集 : 鈴木雄希
『farewell your town』のご購入はこちらから
過去作もチェック!
新→古
PROFILE
Laura day romance (ローラ・デイ・ロマンス)

(左から、礒本雄太(いそもとゆうた / Dr)、鈴木迅(すずきじん / Gt&Cho)、井上花月(いのうえかづき / Vo&Tamb)、川島健太朗(かわしまけんたろう / Vo&Gt))
2017年結成の男女ツイン・ヴォーカル・バンド。 2018年1stEP『her favorite seasons』を発売するや否や各店舗で売り切れが続出し、「出れんの!?サマソニ!?」に選出され〈SUMMER SONIC2018〉出演。
2019年2月に開催された自主企画〈Blanket ghost Thanksgiving〉はshowmore、ベランダを招きソールドアウト。6月に両A面シングル「sad number / ランドリー」をリリースし、レコ発企画〈EXIBITION UNDER THE MOON〉を月見ル君想フで開催。
【公式HP】
https://www.lauradayromance.com/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/lauradayromance