音楽やるのも、進むのも、やめちゃいけない──鈴木博文、新作『ピカソ』を独占ハイレゾ先行配信
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鈴木博文、『どう?』から2年ぶり、通算14枚目となるアルバム『ピカソ』。自身の16歳のときに描いたという絵をジャケットに冠した、本アルバムはセルフ・プロデュースの2曲に加えて、ふたりのアーティストをサウンド・プロデュースに迎えた楽曲で構成されている。ソロ、そしてMETA FIVEなどの活動で知られるゴンドウトモヒコ、そして本日休演の岩出拓十郎である。レーベルの資料にある「楽器の音色に色彩があるように、言葉にも色があります。1枚の油絵を描くように歌いました。虹からはみ出した色をすくいあげるように」という言葉に象徴されるように、さまざまな色彩に満ちたサウンドのアルバムになっている。OTOTOYでは本作を独占ハイレゾ版として先行配信するとともに、大きく世代を超えたプロデュースとなった岩出拓十郎(本日休演)と鈴木博文との対談をお届けしよう。
インタヴュー・文 : 岡村詩野
写真 : 大橋祐希
独占ハイレゾ先行配信
対談 : 鈴木博文 x 岩出拓十郎(本日休演)
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親子…… いや、それ以上に世代が離れたふたり。世代だけではない、住む場所も活動するエリアも違う。なのに、不思議な共通点も多い。そんなムーンライダーズの鈴木博文と本日休演の岩出拓十郎が実際に交わると、こんなにも緩い刺激がジワジワ滲み出る作品になるとは! 鈴木博文のニュー・アルバム『ピカソ』。10曲中5曲は旧知のゴンドウトモヒコがサウンド・プロデューサーをつとめていて、そちらは管弦楽器をふんだんに取り入れたオーケストラルで室内楽的な内容となっているが、残る5曲のうち3曲(「Lonely Paradise」「溺生」「Bye bye, by your side」。あとの2曲は博文によるセルフ・プロデュース)を、京都在住、まだ20代半ばの岩出が担当している。しかも、その3曲は百戦錬磨の博文でさえ想像がつかない跳躍的な発想の音作りの作業によってもたらされたもの。ヒップホップ、レゲエ、韓国のポンチャック、ヴェイパーウェイヴなど自由にザッピングするかのように吸収する岩出らしく、時代も地域もジャンルも、そして作り方のメソッドでさえも飄々とクロスオーバーさせたその成果が、ゆるく音の断面に表出された実にユニークな仕上がりだ。 そこで、博文と岩出とに今作の制作エピソードをたっぷりと話してもらった。岩出は現在京都在住。動画通話を用いた会話は実にいまっぽいが、ノイズが入ったり音が途切れたり、ほんの少しタイムラグがあったり……。岩出は途中でフラフラと立ち上がったりおもむろに画面の向こうでチョコレートを食べたり……。でも、そんなアナログ感もまたこのふたりの特有の交わりを象徴しているようだった。実は次男同士という貴重な対談、ぜひお楽しみいただきたい。
本日休演のバンド全体を包むその不器用さが良かった
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──今回、岩出くんがサウンド・プロデュースとして関わるようになった経緯から教えてください。
博文:一昨年(2017年)、京都の『外』(ライヴ・ハウス)で僕と本日休演が対バンで一緒にライヴをやって。あれがおもしろかったんですよ。あ、その前に京都のムーンライダーズのライヴで紹介してくれたんだ。でも、その時はまだ音は聴いてなかった。でも、とても気になったから『外』でまず一緒にライヴをやろうってことになった。で、それがかなりおもしろかったので、何かできればいいかなとずっと思ってた。ただ、『外』で一緒にやった時は、本日休演のキーボードの埜口くんがちょうど亡くなった後だったんだよね。バンドにとってはとても厳しい時だったと思う。でも、それでも結構自由でおもしろいなって思ったの。一緒にやるから…… って言われて、(メンバーの)佐藤くんはギターのフレーズを楽屋で一生懸命練習してたんだけど、本番では1回もそのフレーズが出てこなかった。バンド全体を包むその不器用さが良かった。そういう、ある意味でめちゃくちゃな、でもその場に乗っかっていく感じがおもしろかったかな。
岩出:あれは…… やろうと思ってたんですけど、できなかったんです(笑)。練習しても結局同じようにできないってやつで。
博文:あとは何回も弦を切るところとかもね。それほど一生懸命ギターを弾いているということだもんね。
岩出:僕はムーンライダーズの作品…… それまでも聴いてましたけど、トリビュート・アルバム(『BRIGHT YOUNG MOONLIT KNIGHTS - We Can't Live Without a Rose - MOONRIDERS TRIBUTE ALBUM』)に参加することになった時に改めて一通り聴きました。で、「くれない埠頭」はやっぱり名曲だなあって。ソングライターが誰なのかはあんまり意識して聴いてなかったですけどね。博文さんのライヴ映像とかをYouTubeで観て、やっぱ(鈴木)慶一さんよりパンクな人だなあって思って(笑)。慶一さんは音楽全体の構築をきっちりしているのに対して、博文さんはギターを持って歌うみたいなとこがフォーク然としているというか、ロッカーなんですよ。
博文:隙があるってことだよね。
岩出:マイク・スタンドでギターをギューってやったり。
博文:そんなことやったっけ。ぜんぜん覚えてないな。
岩出:そこがロッカーに感じて。あと僕も次男だし。そこにシンパシーを感じました(笑)。それに、実際に博文さんの弾き語りのライヴは朗々とやっていて。一緒にやったときは、自分もみんなも精神状態がやばくてギリギリの状態でやってる中で、まとめてくれたみたいな感じがありました。
博文:いや、あの時はメンバーが亡くなった直後だったわけだからね、そりゃよっぽどショックだったと思うよ。終わってから「かしぶち(哲郎)さんが亡くなったときはどうだったんですか」って聞かれたんだけど、個人的に聞かれても答えようがなかったな……。ただ、そういうこともあって親しくなって。そういう流れもあったから、今回岩出くんにお願いすることになったのもすごく自然だった。実は今回、最初はゴンドウ(トモヒコ)君が5曲くらい持ってきていて。今回は室内楽的なものでやりたいと思ってたから、それでいくつもりだったんだけど、だけどやっぱりそれじゃ40何分ってのは持たないって何となくわかってきてね。それで、何曲かをぜんぜん違うアングルでやってみようって思って。それに、俺、一番足りないのは若い友人だから、なんとか取り込もうってのもあった。実際、東京のウチの家に遊びにきたりもしたよね。去年のお正月、友達とかと一緒にね。酒飲んだっけ?
岩出:いや、コーヒーをたくさん淹れてくれましたよ。コーヒーばかり飲んでた。あと、豊田道倫さんとかと一緒に行ったこともあります。
博文:豊田くんを好きっていうのがね。もう、いい意味で信じられないっていうか。
僕に演歌アルバムを作れっていうのよ
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──博文さんのご自宅はイコール《湾岸スタジオ》。音を出したり録音できる場所でもあるわけですが、となると、そうやって岩出くんが訪問した時にちょっとしたセッションとかもやったりしていたのですか?
博文:いや。ぜんぜんしない。音楽的なことはしないね。ただこっちから「どんなの(音楽)がおもしろいの?」って聞くことは多いね。いろんなことを聞くんだけど、気が付いたものは調べてみたりもする。で、俺もこうなりたいな、こうなれるなっていうのも感じたりね。
岩出:俺、なんか薦めましたっけ?(笑)
博文:なんだっけ、海外のレゲエの。
岩出:あー、韓国の。ポンチャックの人ですよね。博文さん、次は演歌アルバムを作ってほしいなと思って。
博文:ね、僕に演歌アルバムを作れっていうのよ。そういうのもおもしろいなと。僕らくらいの年代って、ついなんでもかんでも体系立てて聴いちゃうじゃん。それがいけないんだよね。「演歌かよ~」ってことになっちゃうもんね。でも違うんだよね、岩出くんの場合ね。そこがおもしろくって。前のアルバムでプロデュースしてもらったayU(tokiO)君は追及型だけど、岩出君は追求型じゃない。おもしろいものあるとすぐそっち飛んでいくというかね。だからバンドをたくさんやっているでしょ。
岩出:そうですね。本日休演、ラブワンダーランド、河内宙夢&イマジナリー・フレンズ、接近!UFOズ……。
──ラッキーオールドサンのサポート・メンバーもやっています。
博文:ね。でも、それは自分にも言えるんだよね。いろんなバンドをやってたけど、飽きたらないんだよね。1個じゃね。
──政風会をやったり、Mio Fouをやったり、ひとつには留まれないっていうところにも共通点があるんですね。
博文:そう。岩出くんもきっといまそうだと思うんですよね。やれることはどんどんやった方が良いと思う。
岩出:ありがとうございます。博文さんの曲の内容や歌詞とか、生活が出ているのがおもしろいなって。「普段なにをやってるんですか」って聞いたら、「高めてる」っておっしゃっていて。スカパーとかを観て何もしないで、やる気が高まるまで待って、何もしてないで高めてるって(笑)。そういうのもおもしろいと思うんですよ。その高めてるときの孤独というか、内省的な感じ。全曲テーマが通っていて、なんかそれも結構影響受けてます。それって孤独だったり時間だったりという部分なんですかね。
博文:ジジ臭くなるよ、そんなこと考えていたら。
岩出:いや、でも、博文さんが…… 犬を膝に抱えていたり、コーヒーを淹れてくれたりする感じ(笑)、あれ、結構おもしろいんですよね。
博文:家に来て、その姿を見て、さてはそのままアレンジに反映させたな。
岩出:そうですね。情景と人柄と。
博文:そうだよね。家に来ないとなかなかわかんないもんね。いま、ここ(モニター)に写ってる岩出くんの京都の部屋を見て、俺もいろんなことがわかったよ。かなり共感できるね、これはね。なんかね、こういう感じでわかりあえるおもしろさがたくさんあってね、それで岩出くんを想定して3曲作ったの。ゴンドウくんにお願いしていた5曲はもうそのまま作っちゃってあったから、フル・アルバムにするためにあと5曲ほど…… で、とりあえず3曲を作って、彼にお願いしようと思ったの。で、どんどん彼に曲を送りつけて。こっちもこっちで岩出くんがギターを弾いてる姿とか、滑舌の悪い歌い方とかを想定して作ってみたってわけ。でも、プロデュースしてもらう時点で、どういう仕上がりになるか全くわからない。そこはお任せだしね。「Bye bye, by your side 」なんてね、16ビートになっちゃってるしね。ただ、今回、「Lonely Paradise」だけは自分でベースを弾いてるの。でも、それも最初に岩出くんに投げたデモの時の演奏で、改めて録音したわけじゃない。岩出くんがデモの演奏をそのまま使ってくれた。
岩出:そもそも最初、あの曲はアコギとベースと打ち込みと歌だけでしたね。テンポは一緒ですけど。ラフというか、弾き語りに近い感じでした。
博文:でも、仕上がった音は…… 生ドラムも入ってるし、缶の音とかも入れちゃって…… ぜんぜん違うものになってた。でも、それだけに最後までミックスをやってくれた人を困らせてたね。岩出くんにミックスの途中段階を聴かせたら、「缶の音、もっと大きくしてください」とか言っちゃうからもう大変。「管楽器の音が小さい」とか「リバーブがないほうがいい」とかね。ミックスしてくれた原口(宏)くんが苦労してた。しかも、そういうのを全部僕を介してやるもんだから。もう伝言ゲーム。
──この「Lonely Paradise」はそもそもアレンジとか方向性のアイデアってどんな風に考えていたんですか?
岩出:京大の防音室に、まずドラムの樋口(拓美。本日休演)と一緒にスタジオに入ってドラムをどうしようかってことになって。ドラムから録ったんですけど、一緒に仮でギターも録って、みたいな感じでリフから作って、リズムのキメみたいなものも入れて。で、イントロはやっぱ“パラダイスな感じにしよう”って(笑)。ムーンライダーズの『MANIA MANIERA』のあの感じが少し想定としてあったかな。ドラムでチリチリみたいにやったりとか、工場みたいな感じは出したいなって思ってて。とにかく、リバーブのオン・オフみたいなことははっきりしておきたかった。全体的に、イントロではリバーブがかかって、Aメロではリバーブがかからないみたいなことをやっていたんですけど、全体にリバーブがかかってしまっていて。それはイメージと違かったので、ミックスで直してもらったんです。
博文:結構細かいんだよね。尋常じゃないこだわり。
岩出:実は細かいんです(笑)。
──そういうプロデュース・ワークは、誰かの影響ではなくて自分で得たものなのですか?
岩出:完全にそうですね。別に誰ともやっていないので。いままで本日休演でやっていくなかで掴んでいったことですね。
博文:本日休演ではみんなで話し合って作り上げていくの?
岩出:そうですね。
博文:じゃあ、ひとり作業ははじめてだった?
岩出:いや、SAKA-SAMAにプロデュースで参加した時にやりましたね。あと、最近はバンドをいくつかやっているんですけど、それはひとりでやっていく感じですね。そういうなかでこっちの方がいいかなって。
基本今回もお任せ
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──ちなみにサウンド・プロデューサーとして音作りの面で、指針にしている人だったり、この人の仕事が好きという人だったりっているんですか?
岩出:山本精一と岡田拓郎ですね。でもそういう感じにしたいとかはあんまり思わないですけど。僕の場合…… 特に今回はドラムとかはあんまりリバーブをかけたくなくて。上物でリバーブのオン・オフをはっきりしていく。広がりがあるところとないところをはっきりしたいと思いました。あと楽器を入れる、入れないみたいなことも大事にしたいなと意識しました。それはヒップホップとかレゲエとかの影響なんですけど。そういうところは自分でも改めて思ったところでした。
──岩出くんが手がけたもうひとつの「溺生」は、博文さんらしいある種ペシミスティックな曲ですね。
博文:単調なマイナーな曲だったので、その単調な感じをいろいろと冒険してくれるんじゃないかなと思っていました。
──歌詞を見ると〈犬を膝に抱き / このまま枯れてゆく〉とか、ご自身の生活がそのまま出ているような感じがありますよね。
博文:歌詞は絶対にフィクションだから。
──これは自分のことではない?
博文:ここで自分のことだと言ってしまったらおしまいになっちゃうよ。
──〈環状線をひた走る〉という歌詞とか、「これって(博文さんの自宅近くの)環八のことかなぁ」とか思いますけどね。
博文:そうやって散りばめてね。バカだよねぇ。言葉が先にダーッとあるから、そこから抜き出して歌詞を作る。曲が後なんです。だからトーキングみたいになってしまっている。最近歌詞が先になっているね。歌詞ができない恐怖感があるんだよ。ギリギリで歌詞ができないという恐怖感がある。だから使うにしても使わないにしても、先にある程度言葉をいっぱい出しておくんです。ネタ帳みたいなのにね。それで使った言葉をメモから消すんだよ。使ったことを忘れてしまうからね。でも、年とともにどうしてもペシミスティックになっちゃうね。客観的に(年齢の)色を感じて欲しいと思っているんだよ。あと若い頃にムーンライダーズで〈青春のど真ん中〉って歌って、メンバーみんなに笑われたんだよね。で、今度は年老いてその逆が来ているってところもあるかな。
──「老いのど真ん中」的な!
博文:「老いのど真ん中」ってすごい言葉だな。自嘲はしていないけど、老いは老いだから。ただ、自分の息子世代の岩出くんとかに仕上げてもらう、要するに世代をまたぐワケでしょ。それは若い頃に作ったものよりも、明らかに層の厚みのある仕上がりになるよね。その層を厚くしたいんだよね。だから基本今回もお任せ。「溺生」も最初のデモはシンセベースと打ち込みのドラムぐらいで岩出くんに渡したと思う。
岩出:あとオルガンみたいなものも入っていましたね。
博文:この曲は変拍子なので、めんどくさいだろうなって。でも、よく考えたら歌うのはもっとめんどくさいなと思って。実際、歌うのが大変だったんだよね。
岩出:仙人が歌っている感じがありましたね(笑)。どうすればいいのかわからなくて悩んだんですけど、とりあえずドラムの樋口とスタジオに入ってみて。いろいろ合わせていく中で変拍子でレゲエみたいになったらおもしろいなと思って。あんまり考えない方がいいって思って、快楽的にやってみたらダブの浮遊感みたいな感じも仙人っぽい感じが出た。後半で変わるんですけど、そこからは環状線を走るようなハードボイルドな感じを出してみた感じですね。歌詞から思い浮かぶことも大事にしました。
──そして、岩出くんが手がけたもう1曲「Bye bye, by your side」。これは最初にどのようなイメージがあったんですか?
博文:ボブ・ディランっぽく作っちゃったから、そのまま渡しちゃった。展開も複雑じゃないしね。歌とギターと軽い仮ドラムみたいなものしか入ってなかったと思う。これね、いま住んでいる場所が朽ちていってるから、歌詞にそういう感じが出たよね。そういうものも大きいんじゃないかな。しかも僕はそこに犬と一緒にずっといるわけでね。でも音楽的には渋谷系だよね! …… 違うか!
──16ビートだからですか(笑)。
博文:最初はぜんぜん16ビートじゃなかったんだけどね。
岩出:これもスタジオに入って適当にやっていくうちに、コードの感じと、16ビートのギターのカッティングと、ドラムがいい感じにハマったんですよね。それを活かせないかというところの結果ですね。博文さんには経過報告もあんまりしないで作っちゃった感じ(笑)。完成のちょっと前くらいに送ったくらいだったかな。
博文:ただ、やってもらった3曲を聴いて思ったのは、やっぱりギタリストの作る音って感じなんだよね。三角形というかな。ドラムとベースの底辺があって、そのうえにギターと歌がいるという感じで。そういうことをちゃんと想定してやってくれている。あとは歌を邪魔しないようにギターのフレーズを弾いてくれる。自分が歌っている最中にフレーズを弾くことができないからそうなっているんだろうけどね。とにかく音が新鮮だったよね。録音した京大の部屋の音はかなり新鮮だったね。ドラムの音とかはかなりデッドでね。デッドでローファイ。自分の家もかなりローファイだからね。でも、それだけにこの曲をほんとは2曲目にしたかったんだけど、またしても原口くんから「これが2曲目なのは厳しい」って言われて。音の質感がまるで違っちゃうからって。
岩出:ドラムを全部サンプラーに通してべたっとさせちゃったんですよね。ヒップホップみたいな感じを出したくて。ヴァイナル・シュミュレーターでバリバリにして、音程を弱らせると味が出るんですよ。
博文:原口くんの場合は最初から私の作品をやっているので、作品の最後をやる人間として困っちゃうときがある。前の『どう?』は全部ayUくんに任せたけど、今回はゴンドウ君と岩出君と僕、3通りでぜんぜん違うから、それを揃えるのが大変だったらしいよ。
音楽やるのも、進むのも、やめちゃいけない
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──そして、博文さんが全部ひとりでやったのが2曲。
博文:そうね。ゴンドウ君の5曲と岩出君の3曲を聴いて、あとは何が足りないだろうって考えて作ったんです。足りないというか、付け加えたいものを考えて。やっぱり、イギリスの暗さみたいなやつ。ブリティッシュ・ロックのロマンチックな感じかな。ぜんぜんロマンチックじゃないかもしれないけど。あとはシンプルな展開、それと打ち込みで…… そんな感じだったから、『ピカソ』というタイトルも最初ぜんぜん想定していなかった。最後の2曲を作っている最中くらいから考えていたかな。
──なぜ『ピカソ』?
博文:色とりどりだったからだね。ただそれだけ。
──ジャケットもご自身が昔描いた油彩ですしね。
博文:これね、男でも女でもないっていう。なにか映画とか観て描いたんだと思うんだけど…… 覚えていないね。
──では、なぜこの絵を選んだんですか?
博文:いろいろ絵を見る機会があって。前にも自分の絵をジャケットにすることがあったから、今回も自分の絵がいいんじゃないかと。でもいまから絵を描くのは大変だし、やっぱり油絵の質感がよかったしね。さっき話したように、歌詞は必ずしもフィクションではない……。まあ、自分では言わないけどさ。…… でも、自分のいまの年齢とか住んでる家とか、そういう状況が反映されたってことを考えても、いいジャケットだし、いいタイトルだなって思うね。
岩出:僕、自分がやった曲ですけど、さっきも話に出た「溺生」の〈環状線をひた走る〉という歌詞、すごく好きなんですよ。僕でもそういう気分になることもあるし、そういうことって年を取っても同じなんだなって思って。そういうことを実感できる作業だったし、作品になっていると思いますね。ゴンドウさんの5曲とあまりにも違うので申し訳ないな…… とは思いますけど(笑)。
博文:いやいや、そうやって層を厚くしていきたいわけだから。俺自身もね、岩出くんと一緒に作業して、歳をとったって若い人たちが聴いてくれるという、ひとつのラインのようなものに可能性はあるんじゃないかって改めて思ったから。やっぱり音楽やるのも、進むのも、やめちゃいけないなと思うしね。そういうのも岩出くんに教わったんだよね。
『ピカソ』のもうひとりのプロデューサー、ゴンドウトモヒコのコメント
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博文さんからいただいたデモ(レアトラック)に真っ直ぐ向き合えば、聴いてるだけで「降りてくる」とでもいうのかな。レコーディングするメンバーは大体決まっていたので、それぞれに割り振って、演奏するだけで、ある時カタチになっていたというのが本音です。
あ、でも「ベニヤ板の八重歯」に関してだけは、ふとエレクトロニカな色彩がわぁーっと浮かんだんです。やはり打ち込みも好きなのでね。博文さんからのリクエストでもあった生楽器の音も、素直に心地よく融合できていると思います。
ぼくはいつこの作品に参加していたのかというくらい清々しい気持ちで今も『ピカソ』を聴いてますよ。
実は『Lonely Paradise』もやりたかったなー。まさに今ライヴで取り組んでいるし、レコーディングにならなかった分、これからも深めていきたい1曲でもあります。 (ゴンドウトモヒコ)
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LIVE INFORMATION
鈴木博文『ピカソ レコハツ』
2019年3月29日(金)@中目黒FJ’s
出演 : 鈴木博文 with FOU Alternative acoustique
ゴンドウトモヒコ(Euph.)、三浦千明(Tp.)、高原久実(Vn.)、今泉仁誠(Gt.)、solo-emma(Pf.)
鈴木博文生弾き語り「4月のピカソの歌」
2019年4月21日(日)@下北沢lete
「ピカソトアサヒカワ」
2019年6月15(土)@旭川 アーリータイムス
出演 : 鈴木博文 with 東涼太 & emma
「ピカソノサッポロ」
2019年6月16日(日)@札幌 BLOCO
出演 : 鈴木博文 with 東涼太 & emma
「F.A.A.P.」(FOU Alternative Acoustique Picasso)
2019年6月30日(日)@渋谷 LOFT HEAVEN
出演 : 鈴木博文 with FOU Alternative acoustique
(ゴンドウトモヒコ、東涼太、三浦千明、高原久実、今泉仁誠、emma)
「ロックンピカソ」
2019年7月6日(土)@下北沢 CLUB Que
出演 : 鈴木博文 with 大田譲、矢部浩志、鳥羽修、岩出拓十郎、emma
PROFILE
鈴木博文
1954年5月19日、東京都生まれ。
1973年より、松本隆、矢野誠らとムーンライダーズ(オリジナル・ムーンライダーズ)として音楽活動を始める。実兄・鈴木慶一に誘われ、1976 年に moonriders に参加。バンドではベースを担当、また多くの作詞・作曲も手がける。
1987 年に自身主催のインディペンデント レーベル「メトロトロン・レコード」を立ち上げると同時にアルバム『Wan-Gan King』でソロ・デビュー。現在までに13枚のオリジナル・アルバムを発表。2019年4月3日に14枚目のフルアルバム『ピカソ』をリリース。
レーベルのプロデューサーとしてさまざまなミュージシャンの輩出を支え続ける一方、アーティスト、アイドルへの作詞・楽曲提供、The Suzuki(w/鈴木慶一)、Mio Fou(w/美尾洋乃)、政風会(w/直枝政広)などユニット活動もあり。
執筆活動では『ああ詞心(うたごころ)、その綴り方』『僕は走って灰になる―TEN YEARS AFTER』『九番目の夢』など。
鈴木博文主宰メトロトロン・レコード公式サイト
http://metrotron-records.com/