憤りと葛藤を保ちながら生きていくために──鈴木実貴子ズ、メジャー・ファーストAL『あばら』
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名古屋を拠点に活動する、鈴木実貴子(Vo, G)とズ(Dr)からなるツーピース・バンド、鈴木実貴子ズがメジャーでは初のアルバム『あばら』をリリースした。感情の核となる部分を歌い続けてきたバンドの今作で描かれているのは、憤懣、葛藤、そして“覚悟”にも似た次へ進むものが持つ力強さ…。
ここ2年でできた楽曲を主に収録したという今作には、〈FUJI ROCK〉と〈RISING SUN〉の出演やホリプロ所属といった出来事にともなう、感情の変化も色濃く反映されているようだ。変わること変わらないこと、その狭間でどのような感情が湧き出しているのか、話してもらった。また今作の収録曲には、普段のサポートメンバーにくわえ、田渕ひさ子、五味岳久(LOSTAGE)、シノダ(ヒトリエ)といったプレイヤーが参加。オルタナティヴ・ロックからハードコア・パンク、ポエトリー・リーディングなどあらゆる形態のアーティストとステージをともにしてきた、そのジャンルを縦断するようなライヴ活動についても聞いている。
〈日本クラウン〉よりリリースされたメジャー・ファーストAL
INTERVIEW : 鈴木実貴子ズ
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鈴木実貴子ズは憤っている。あらゆる歪んだ存在に怒り、その中にいるしかない自分自身にも怒りの矛先を向ける。その憤りがゆく先は袋小路になっていて、かつて出口はなさそうだった。
「やめなくてもいい音楽を探してる」と歌っていた鈴木実貴子ズがメジャー・レーベルからアルバムをリリース。と聞いた時は自分の知っている存在であっているよな? と思いつつ、数年越しに作品をきいて嬉しくなった。感情を投げつけるような歌は健在で、そのうねりに拍車をかけていく国内オルタナ系譜のバンド・サウンドは強固になっていた。『あばら』には、あのとき自分を投影した憤懣が、姿を変えながらもまだそこにいた。そんな再会に際して、インタヴューではこの音楽に宿っている根幹を探ろうと試みている。
インタヴュー&文 : tupu
撮影 : 西村満
魂を感じるものが好き
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──まずは2作前の『泥の滑走路』(2021年6月リリース)からサウンドが変化したと思うんですけど、どういうきっかけなんでしょうか。
ズ:スタジオを変えたんですよね。名古屋にある〈studio SPLASH〉というところなんですけど、Climb The Mindや「明日、照らす」というバンドがそこで録っていると聞いて。
──なるほど、音の質感的にも納得感があります。サポート・メンバーが変わったのかな?と思ってましたが。
鈴木実貴子(以下、鈴木):2019年からは基本ずっと各務(鉄平)さんと舟橋(孝裕)さんにやってもらってるよね。たまに違う人もいたけど。
ズ:『外がうるさい』(2020年4月リリース)から完全に固定メンバーになりました。サポートをお願いしてるふたりは僕の先輩なんですけど、コロナ禍に試しにやってみたらドンピシャではまって。そこからやってもらっています。
──サポート・メンバーは他にどういうバンドをやられてる方々なんでしょう
ズ:名古屋でいろんなバンドをやっているんですけど、JONNY、不完全密室殺人、白線の内側、紙コップスとか。僕が元々好きなプレイヤーで。
──Climb The Mindは元々近い存在だったんですか?
鈴木:確かClimb The Mindが数年前に〈FEVER〉でやったワンマンのSEに使ってくれて、それがきっかけで付き合いがはじまったんじゃないかな。
ズ:当日の夕方に「使っていい? 」っていう連絡が来たんだよね。そのあといきなり僕たちのCDが売れたんです。
──それって「アンダーグラウンドで待ってる」(2019年リリースのファースト・アルバム『現実みてうたえよばか』収録の楽曲)じゃないですか?私もその時に鈴木実貴子ズのことを知りました。
鈴木:そうそう! やっぱり有名なバンドがSEで使ってくれるって、こんなにすごいことなんだと思いました。そういうことがないと自分たちの音楽が広まるのって難しいから。あれはその後の色々なことのきっかけでもあったよね。
──それまではどういう人たちと一緒になることが多かったんでしょう
鈴木:ずっと一緒にやってる人は誰もいないな。今もそうだけど、似てるジャンルとか界隈もわからない。どこが自分の居場所で誰が自分を認めてくれるのかあまりわかっていなくて。
──その都度の対バン相手にはいいなと思ったりはしますか?
鈴木:もちろん、いろんな対バンの瞬間瞬間にいいなと思う。全曲とかじゃなくて、この曲のこの部分、この人の出立ちとか。それに影響されることもある。最近だと〈いわきゲリゲ祭り〉の常磐シーサイダーズがうちはいいなと思った。
ズ:東北のレゲエっぽいバンドでしたね。自分たちとはジャンルが違うけどめっちゃ良かった。これまで名古屋CLUB QUATTROで自主企画をやってきたんですけど、それは普段感じられない刺激をもらえる人を呼んでいて。そこに出てもらったTHA BLUE HERBもeastern youthもすごかった。
──ずっと好きなアーティストはいるんですか?
鈴木:全くいないんですよ。感動する音楽のジャンルが定まってない。和太鼓を聴いたら「最高!」ってなるし。ハードコア・パンク・バンドのMCとか、音だけじゃない部分にも感動する。
ズ:基本的には対バンを探すのは僕がやっているんですけど。「僕の好みも知ってもらえませんか?」っていう思いで、おすすめの人をお呼びしていて。その影響は受けてるんじゃない?
鈴木:あなたの選択の影響を受けてるかもね。
──個人的にはハードコア・パンクのバンドとよく一緒にやってるイメージがありました。
鈴木:うちらが「こういうバンドとやりたい」とかは伝えてなくて、箱が呼んでくれる。でもハードコア・パンクとポエトリーリーディングの人は「いいね」って言ってくれることが多いよね。
ズ:ソロで活動してた時に不可思議wonderboyさんとやる機会があったりね。詩の朗読イベントに呼ばれることもあるし。
鈴木:MOROHA、狐火さん、神門さん、志人さんとかも。どこにも属さない代わりにフットワーク軽く割とどこでも行けてる。
ズ:言葉は大事にしているから、ポエトリーをみても感動できるし、ハードコア・パンクは「ここまで熱量を込めてライブできるんだ」っていうところに圧倒される。
鈴木:だから、魂を感じるものが好きなんだ、そういう根本はあるんだな。和太鼓もそうだし、子どもの発表会も好き。
──ジャンル関係なく活動してきた理由がなんとなくつかめました。そういう中で今回収録された「暁」に田渕ひさ子さんが参加したのはどういう経緯で?
ズ:田渕さんは一度ソロで名古屋の企画に来てもらったことがあったんです。「暁」では、いつものサポート以外の人も入れてみようという話になった時に、2人共通して好きなひとが数人しか出てこなくて。ダメもとで訊いてみたら、即オーケーしてくれて。
──レコーディングはどうでしたか?
鈴木:データをもらったので、直接スタジオに一緒に入ってはいなくて。
ズ:それも一回のやり取りだけでバチっと決めてきてもらいました。歌詞と歌詞の横に「砂嵐」「光が見えるイメージ」みたいなメモを送っていただけなんですけど。五味(岳久)さんも同じやり方で一発で決めてきてくれました。
──普段からサポート・メンバーにもそうやって伝えているんでしょうか
鈴木:いや、丸投げ。私はそこまでこだわりがないんですよ。作ってる時に他のパートをこうして欲しいっていうのはあまり浮かんでない。というか、そもそも感性を認めてるからお願いしているのであって、言わなくてもいい。
ズ:みんな近所でよく会うから。そこまで感覚がズレることってないよね。