漂うように、揺蕩うように──〈nonoc 3rd one-man live 「Float “t” ime」〉
2025年6月7日(土)渋谷ロフトヘブンにて、nonoc 3rd one-man live「Float “t” ime」が開催された。昨年11月に行われた「”N”ew Phase」以来、半年ぶりのワンマンライブとなった。とは言え、2月には初のアコースティックライブを行なっているし、台湾やカナダなど、海外での出演もあったりと、その活動は以前にも増して精力的になっている。ライブ中、本人からも「激動の上半期だった」とコメントもあったが、そんな上半期の締めくくりとして行われた本公演。激動な日々とは真逆の、漂うような、揺蕩うような、ホスピタリティに溢れる優しい空間だった。むしろ、そんな忙しない日常を過ごしているからこそ心地よい、極上の「Float “t” ime」なのであった。
東京進出後、2作目になるシングル
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REPORT:nonoc 3rd one-man live 「Float “t” ime」
レポート・文:前田勇介
東京進出後2作目となる新曲「モノローグ」をアレンジした出囃子で登場すると、1曲目はピアノと歌のみで「Believe in you」がスタートする。2コーラス目からドラムや他の楽器も加わりしっとりと歌い上げた。続く「灯火」では「盛り上がっていきましょう!」と檄を飛ばし、フロアのボルテージを上げていくが、実はnonocのイヤモニが聴こえないというトラブルを抱えていた事がここで発覚。「ここから、めちゃくちゃアツいパートなのに……ごめん!」と、一度舞台袖に退がるが、温かい拍手がnonocを送り出す。
その後、宣言通りに「Relive」「Reloaded」とアツいタイアップ楽曲が続き、エンジンも温まった所でMCを挟む。
「アーティストってもっと崇高なものであるべきな気がするんだけど、私はこの方がいい(笑)。」と彼女は笑って話していたが、会場の雰囲気も相まって、前回のワンマンライブよりも、ののくるーとの距離感が著しく近くなった気がする。ここでバンドメンバーの紹介も入るが、ドラムスの矢尾拓也氏と、ここは敢えてnonocの言葉を原文ママで「なんでも色々やる人」の 佐藤純一 from fhánaという、こちらも前回のワンマンから引き続きの構成で、音はもちろん、ステージ上での振る舞いも含めて、より協調性が高くなっているのを感じる。
5曲目の「ヒスイ」ではnonocもキーボードを演奏し、そして「ラスター」「Hollow Veil」では、ギターをおもむろにnonocが担ぎ出すと「おぉ〜っ!?」と、どよめく声からもnonocのギターに期待が集まっていることが分かる。余談だが「おぉ〜っ!」(だと緊張するから)じゃなくて「よっ!」にして!と、歌舞伎スタイルの声掛けが本人推奨されていた事も注釈として付け加えておこう。そんなひと笑いもありながら、突入した「ラスター」「Hollow Veil」であったが、気付けば彼女の演奏に、歌声に見入ってしまっていた。この情緒のシームレスさを、自然な感じに出せるnonocのスゴさを改めて感じる。
「みんなを近くに感じると、心地よく揺らげる。ここがホームだと感じる。」と話す彼女を見て、改めて本公演の意義について感じさせられた。激動の上半期を過ごしていたnonocにとってもそうだし、何かと忙殺されがちな我々にとって、せめて今夜だけでも羽を休められる、そんな時間を望んでいるのだと感じたし、取り繕わず、有り体の等身大のnonocでいてくれるからこそ、オーディエンスもそんな彼女を受け入れたくなるのだと思う。
「あの〜、ちょっと楽屋から私のiPhone持ってきてもらってもいいですか?」と、一度舞台袖に退いた矢尾さんにお願いしたり、「客前でスマホをイジるなって、分かってるんですけど……」と、いきなり携帯を触り出す非礼も、こんな事するのnonocくらいだよ!?と思いつつも、まさにホームのようにくつろぐnonocに心地よさを感じてしまう。
「次は新曲を歌います!」という事で、その歌詞がスマホにメモしてあるというのが事の顛末だったのだが、その曲名は「Float time」。この日の為に作り上げ、もちろん初披露だが、ダンサブルなリズムに、うねるベースラインとデジタルな味付けのサウンドや、ラップパートもあり、初対面でもノリやすいナンバーであった。
最新楽曲「モノローグ」が、前回のワンマンに向けて制作された&当日の朝に完成し、そのまま初披露という逸話はもはや語り草となっているが、もちろん本作も同様で「Float timeという曲名、あとラップパートを入れること」ありきで曲を作ったと、その制作秘話を佐藤が語ってくれた。 「前作は朝の7時くらいに出来たんですけど、今回は5時で、2時間巻けたのも成長ですね!」と笑いながら、nonocが今度はショルキーを構えると「KODO」のイントロフレーズを奏でる。エレキギターを弾く佐藤もステージ前まで出てきて熱いパフォーマンスが繰り広げられ、そのまま「Lucid Dream」に突入。再びフロアは熱を帯びていく。
「カッコいいだけじゃなくて、可愛いも楽しんでって!」とスタートした「Change」では、サビではみんな手を振って、声も出して、以前に増して一体感が出ている。いわゆる”ライブで曲が育つ”というまさにソレなのだが、これもまた、ののくるーとの距離が近づいている何よりの証拠だ。続く「Memento」は、会場の雰囲気やライティングとの相性もバッチリで、紗幕が空調でなびく感じとか、電球のフィラメントが優しく点滅するような、浮遊感のある演出と、そして言わずもがなnonocの歌声や息づかいが、深みのあるパフォーマンスへと昇華されていた。曲の後半はnonocのボーカルと佐藤のピアノでアドリブ合戦に突入。代表曲である「Memento」がライブを重ねて育ち進化していることを見せつける。
「ここまで、自分の活動初期の……言わば第1フェーズ目みたいな4曲を並べたけど、バンドサウンドになって、アレンジでよりカッコよくなって……なんか、強くてニューゲームみたいな感じですよね(笑)。」と、nonocはおどけてみせるが、「例えばMementoでは、実は原曲にはない”フェイク”と言われる歌唱技術も取り入れたりしている」と、佐藤がnonocの歌がどう進化しているのかを真面目に解説すると、「”型を知ったからこそ型を破れる”ようになった」とnonocが応じる。このバランスもオーディエンスとしては、また心地よかったりもする(笑)。
ここで告知タイム。マイクロマガジン社 ことのは文庫の小説「極彩色の食卓 ホーム・スイート・ホーム」のイメージソングが決まった事と、8月29日に親交の深い、安月名 莉子との恒例となったツーマンライブ「Azu-nocK」が今年も開催される事が決定し、会場は大いに沸き立った。
閑話休題、ライブも残す所わずか2曲。「モノローグ」では、Cメロの「手を振りかえす」という歌詞に合わせて会場の一人一人にむけて、名残惜しそうに手を振っていく姿が印象的だった。 「モノローグを歌ってみて、なんか未来は明るいなって思っちゃった。これからも、みんなの為になれるように頑張ります。そして今日も私をドアの向こうに連れてってくれてありがとう。また新たな景色を一緒に見に行こう!」と最後に「ドアの向こう」を披露し、本編は終了した。
転換を挟み、アフタートークライブでは更にゆったりとした時間を過ごすことが出来た。 「このライブが終わったら、自分へのご褒美で行きたい所があって。しゃぶしゃぶとレモンサワーを流し込みたい!」と話をしていると、客席からレモンサワーの差し入れが飛んできて「こんなことってある?」と言いながら、みんなで乾杯できたのも良い思い出だ。
今回、実写グッズが増えた事について、「私、ちゃんと”可愛い”でも売っていきたいんすよ!」と、ぶっちゃけ、nonocの希望によって当初の予定よりもグッズラインナップが増えてしまったと話すと、佐藤も「普通は予算だったり損益分岐だったり……色々都合があるから当初の予定を変えることはしないところを、僕は、まぁ……じゃあ作るか。みたいな(笑)」と、良い意味で遠慮なく意見が言い合える信頼関係が最大限に活きたエピソードも微笑ましかった。
これらのトークの中に、もちろん楽曲も挟まる。今回は「White White Snow」「star*frost」「モノローグ」をアコースティックVer.で披露されたが、グラス片手にトークで笑い、曲でゆったりと出来るスタイルは、まるでディナーショーのようで、個人的にはFC限定などでも良いので、ぜひともまた行なってほしい。
「イヤモニに音が来てなくてもとりあえず2曲歌い切るプロ根性!素晴らしい!」や「歌詞の才能も天才!」とnonocを褒めちぎったり、ライブ後に、VIPチケットの特典の2ショットチェキを自ら撮っていたり、普段の人気アーティスト・音楽家としての顔ではない、nonocと二人三脚で奮闘する佐藤純一が見られるのも、nonoc現場の見どころのひとつかもしれない(笑)。
「曲もたくさんつくるし、たぶんアルバムも作る!みんなの日常に、もっともっとnonocが寄り添えるように、これからも頑張るので、応援よろしくお願いします!」
これはマイクをオフにして、ライブ本編の本当に最後の最後、肉声でのコメントだが、実はかなり端折っていて、本当はもっと長かった。「みんな、長いって思ってるのも分かってるけど!」とセルフツッコミを入れるほどではあったのだが、不器用な部分も、もちろんまだある。それでも実直に、確実に成長をし続けている。
ただ、まだ真っ白なキャンバスで「これからどんな成長をするのだろう」と、無限の可能性にワクワクするのではなく、なんとなくだけど「こんな未来が見えそう」「こうなれば素敵!」のように、道筋がぼんやりと見えてきた事にワクワクしてきた自分がいる事を感じたし、これからが1番の見どころだとも思うからこそ、彼女の魅力を届けられるよう、こうして筆を執っているわけだ。
彼女のイメージカラーである、青緑。今日のセットリストになぞらえればヒスイと例えよう。翡翠と書いてカワセミとも読むことはご存知だろうか。今宵、そっと浮かんだカワセミは、もっと大きな輝きを放つ存在になれる。翡翠の石言葉は「繁栄・長寿・安定」。今後の益々の繁栄を願って〜……と、レポートを結ぶには、少々こじつけが過ぎるだろうか。
セットリスト:nonoc 3rd one-man live 「Float “t” ime」
01.Believe in you
02.灯火
03.Relive
04.Reloaded
05.ヒスイ
06.ラスター
07.Hollow Veil
08.Float time
09.KODO
10.Lucid Dream
11.Change
12.Memento
13.モノローグ
14.ドアの向こう
- After Talk Live-
01.White White Snow(Acoustic Ver.)
02.star*frost(Acoustic Ver.)
03.モノローグ(Acoustic Ver.)
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