新たな「アイナ・ジ・エンド」のはじまり──ロング・インタヴューで語る『THE END』の秘密
BiSHと並行して、ソロ活動を本格活動を始動させるアイナ・ジ・エンド。亀田誠治プロデュースでリリースされるファースト・アルバム『THE END』は、BiSHの楽曲とは大きく違う、彼女がそのまま記録された作品。今回オトトイでは、約2時間にわたりインタヴューを行い、今回のアルバムについて徹底的に訊いた。どのようにして作品を作り、どのようにして歌詞を紡いでいったのか? 今作『THE END』、そしてアイナ・ジ・エンドを知る上で超貴重なインタヴューです。
インタヴュー : 飯田 仁一郎
文 : 東原 春菜
写真 : 大橋 祐希
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できるだけ自分のことも信じようと思って歌っていました
──ソロ・アルバム『THE END』はどのようにして制作が決まったのでしょうか。
アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ) : 2019年の冬、渡辺(淳之介)さんに「人生の長い間歌いたいんだったらシンガーソングライターがいいと思うから、3日に1回曲を作りなさい」と言われたんです。そこから去年の5月にアルバムの話が出て、6月には正式に亀田(誠治)さんがサウンド・プロデュースをしてくださることが決まりました。
──2019年の冬はBiSHとしての活動がものすごく忙しかった時だと思います。そんな中でソロの曲作りを勧められて、どんな心境だったんでしょうか。
アイナ : 強制ではなくて、頑張りたいんだったらやった方がいいっていう感じだったんですよね。とりあえず3日に1曲を作ることを目指したんですけど、全然タイムリーにできなくて、頑張って2曲連続で作れても、そのあと2週間に1曲になったり。でもコンスタントには送っていて、その都度渡辺さんと篠崎さんから「この曲はいいね」とか「この曲は暗すぎるから明るい曲作って」とか返事が来ていたから自分もやる気がでたというか。
──デモはどのように制作しているんですか?
アイナ : LogicのDTMを使っているんですけど、まずメロディを歌ってBPMを合わせて小さいMIDIキーボードでコードを探って、大体全部コードが違うから友達に送って修正をしてもらって。戻ってきて音が変わると歌い方も変えたくなって、メロディも変わって、さらに自分でドラムを軽く入れたりしてデモができていく感じですね。最近だとベースとドラムの音はチープですけど自分で打ち込みをして、上物だけ全然できないので友達に鳴らしてもらったり。あとは声のコーラスを楽器と捉えて「あ~あ~あ~」ってストリングスのつもりで作ったりしました。歌うたびに苦情がきて近隣の方に迷惑をかけてしまったので、いいマイクや防音材を買ったりもして。機材のこともわからなかったんですけど、今回の制作でDTMの使い方や録音環境が少しずつ成長していった感じがします。
──今回のバック・トラックは誰が演奏しているんですか?
アイナ : 亀田さんが呼んでくださったミュージシャンの方々です。“金木犀”とかの最初のピアノとか“スイカ”とかは元々のコード進行を全部変えちゃうわけではなく、デモに寄り添ってさらに音楽的にしてくれています。
──亀田さんのアレンジを目の当たりにしてみていかがでしたか。
アイナ : アレンジは全部すごかったんですけど、演奏が格好良すぎますよね。しかも演奏がただ上手いだけじゃなくて楽しんでくれている感じがあって、本当に音楽が大好きなんだろうなって。音圧に殺されるなと思った曲もあったり、楽器のパワーがすごくて生きているみたいでした。
──今回はソロ作ということで、音や演奏に関して意見する場面もあったのでしょうか。
アイナ : ギター、ベース、ドラムなど一つ一つの楽器については、知識があるわけでもないし言うことがなかったんですけど、MIXでは「この音を上げてほしい」とかは言いました。
──MIXに対してもちゃんと意見を求められたんですね。
アイナ : 最初の方は全然わからなくて、「これでいい?」って聞かれても「はい」しか言えなくて、周りはディスカッションをしているのに私はなにも役に立っていなくて見るだけの状態だったんです。全曲この調子ではダメだなと思ったから、友達に設備が整っているスタジオに連れていってもらい、アルバムの曲を聴かせてもらいながらMIXについて教えてもらって。そこで勉強して、次のMIXチェックは自分も一つは意見を言おうと思ったんですけど、やっぱり最高すぎて言うことがなかったんです。でもだんだん「ここはピアノがもうちょっと聴こえたらどうなるんだろう」とか「ヴォーカルを上げたらどう聴こえるんだろう」という想いになって少しずつ意見を言えるようにもなりました。
──今回はマスタリングにもはじめて参加したんですよね?
アイナ : はい。「曲間の秒数をまずは1秒で聴いてみましょう」って言われたとき「そんなのも選べるんか!」ってびっくりしましたね。ヴォーカルが息を吸ったときやアコースティック・ギターの指をずらしたときに聞こえる音の細部まで聞こえてきて、発見が多すぎて、体中を耳にして聴かないとちゃんと確認できないんだなってわかりました。マスタリングって神経が集中するので、亀田さんと喋っているときぐらい汗をかきました。
──亀田さんと話すときは緊張しますか?
アイナ : 亀田さんは本当に優しいし、ユーモアもあるし、緊張していたら「大丈夫?」みたいな雰囲気を出してくれたりするんですけど、時折目を一回もそらさず、少しだけ鋭いまなざしで自分の伝えたいと思っていることを一生懸命伝えてくれるときがあって、そのときは誰にも感じたことがない覇気を感じるんですよね。
──具体的にはどんなことを言われたんですか?
アイナ : 津野米咲さんが亡くなってしまった日にMIXがあって。2018年にVIVA LA J-ROCKで亀田さん率いるバンド(VIVA LA J-ROCK ANTHEMS)のゲストボーカルとして椎名林檎さんの“本能”を歌わせてもらった日があったんですけど、そのときは米咲さんが私を呼んでくれたんですよね。ベースが亀田さんで米咲さんがキーボードとギターで、椎名林檎さんの曲を歌うっていうことをはじめてさせてもらって。そこから米咲さんとはいろんな話をして、家にも来てくれて「“きえないで”のピアノのコード進行を変えてこういう風に弾いたら曲も変わるんだよ」とか、お姉ちゃんなんだけどお姉ちゃん気取りしないところがすごく好きで、なのに才能が滲みでてて一緒にいるだけでも泣いちゃいそうになるような素敵な方で。
──はい。
アイナ : だからMIXで亀田さんに会ったら泣いちゃうと思って必死だったんですよね。涙を止めないと仕事にならないと思って現場に行ったんですけど、MIXで“金木犀”が流れて亀田さんのベースソロのところで涙が止まらなくなっちゃって。そのとき、亀田さんが「つらいよな。僕もつらいよ。でも、米咲に届けような。米咲がいちばんそれを望んでるから」って一回も目をそらさず言ってくれて。その姿勢に反省して「米咲さんに届けよう」という気持ちになりました。
──亀田さんと一緒に制作してみて、自身にどんな影響があったと思いますか。
アイナ : 普段のヴォーカル・レコーディングでは松隈さんが歌詞のはめ方とかブレスの位置とかを全部言ってくれて、さらに自由にやるスペースもちゃんとくれて、言われることに対して120%で応える向き合い方だったんです。でも今回は「まず最初は好きにやって」と言われて、滑舌とピッチ以外は何も言われないから、いままでとは違って怖かったんですよね。でもこれがアイドルじゃないレコーディングなのかなと思って、こんなチャンスがあるんだったらもっと表現者になりたいなって。亀田さんが私を信頼してくれているのをすごく感じたから、前よりも自分自身に向き合って、できるだけ自分のことも信じようと思って歌っていました。
芥川龍之介は失敗しなさそうなかっこいいイメージがある
──各楽曲についても教えてください。“金木犀”はいつ頃作った曲ですか?
アイナ : BiSHに入ってすぐに作ったので2015年の春ですね。私はもともと渡辺さんに「アイナをBiSHのメンバーにするのは賛成じゃなかった」って言われて入ったので、最初の頃は一緒の時間を過ごすことが多かったんですけど、みんなでいるときに私に対する好意みたいなものをあまり感じることができなくて。当時はOTOTOYのインタヴューの後とかに山手線に乗ってずっとぐるぐる回っていたんです。
──山手線に?
アイナ :「私、BiSHにいる意味あるんかな」みたいなことを考えちゃって。やる気はあるけど、渡辺さんに嫌われているならしんどいなと思っていたんです。そういう時期に鼻歌を歌ったりステップを踏んだりしていたら、“金木犀”のサビのリズムができて。「金木犀が揺れる頃ぐらいには楽しいことがあったらいいな」みたいな気持ちで作りはじめました。歌詞はアルバムを作るにあたって書き直したんですけど、「長所のない私です」っていうフレーズは6年前に書いたそのままですね。
──なるほど。どんなイメージをして書いた歌詞ですか?
アイナ : いくら人に良いところを褒められても、本当に最悪な人間の部分ってあると思っていて。そういう暗めな人生を歩んでいても、金木犀のいい匂いが近づいてきたときに、「自分なんて」って言いつつ、その匂いに飛びついちゃうことがあると思うんです。でもこの“金木犀”の人は飛びつく勇気もなくて、「やっぱり情けない自分だわ」って思うんですけど、飛びつきたい気持ちもあって。ずっと揺れている人の曲ですね。
──続いて“虹”。2曲目から随分ダークな曲ですね。
アイナ : もともと英語の歌詞とメロディだけあって、最初はこんな歌詞ではなかったんですよね。自分の中ではかっこいい曲のイメージだったんですけど、こんな曲を歌っている人と友達になりたくないなって思うような曲になっちゃった(笑)。
──どのような背景があったのでしょうか。
アイナ : 昨年の自粛期間中、映像作家の山田健人さんに「THE YELLOW MONKEYのドキュメンタリーを見たほうがいいよ」って言われて「パンドラ」を見たんです。最後のシーンで頭まで鳥肌が立っちゃいましたね。やっぱりスターが立つ場所なんだと思ったら、自分みたいな者が東京ドームを目指しているって口にしていたことが恥ずかしくなって、何かしなきゃって作った曲が“虹”でした。私はイエモンにはなれないけど、「私ってなんなんだろう、できることはあるはずだ」って鳥肌を立たせながら歌っていたらメロディが生まれて、ずっとAメロだけどこれでいいって勢いで作った曲です。
──アイナさんの死生観が反映されていますよね。
アイナ : “虹”の歌詞は何回も変えていて、いちばん苦戦しましたね。 “虹”っていう単語が頭にあって、亡くなった人とかもう会えない人からしたら私は艶めいて色めいてきれいな存在なのかもしれないけど、逆に私もそっちの人のことが見えないし触れられないし、そういう境界線を表現したいなと思って、こういう歌詞になりました。そちらには行けないけど、それでも蘇ってほしいと思うときもあって「内臓とか全部あげるから蘇ってね」みたいなそういう気持ちが強い日に書いた曲です。
──3曲目の“NaNa”は一転して明るくポップな曲で。
アイナ : 小松菜奈ちゃんが好きすぎて菜奈ちゃんのことしか考えてない、ただのオタク・ソングです(笑)。お風呂に入っているときにメロディが出てきて、そのまま1コーラス作ってすぐ録りました。
──お風呂で作ったからお風呂に一緒に入りたいと。
アイナ : 菜奈ちゃんにもし聴かれていたら恥ずかしいな。
──ははは(笑)。小松菜奈さんのどんなところが好きなんでしたっけ?
アイナ : 全部ですけど、山梨の女の子で田舎が好きでアクティブなこともしてみたり、片や日に当たっていないかのような肌の色をしていて、室内でもすごく似合うところとか。眼がシンプルに好きです。
──4曲目の“粧し込んだ日にかぎって”は歌詞が随分重たいですね。
アイナ : 去年の初めの話なんですけど、友達が自殺しようとしていて、それを察した友達が集まって一週間ぐらい「そんなバカなことするなよ」と言って止めていたら元気になってきて、もう大丈夫だと思ってみんな2日ぐらいその場を離れちゃったんですよね。そしたら飛び降りて緊急手術室に入ってしまって。そのときは、寝ても起きてもしんどいし、時々急に心臓がめちゃめちゃ痛くなったんですよ。やばいなと思って病院に行って心電図を撮っても何もなくて、病院に行ってもママに話しても友達に相談しても踊っても楽にならないし。とりあえず落ち着きたいっていう思いから曲を作ったら楽になって、「煩わしいなら 言葉捨てよう」という歌詞は自分に対して言っているところもあって、その子がいつか元気になったら聴いてほしいなと思う曲です。
──「愛してるよ」という歌詞は、その友達に向けてですか?
アイナ : その友達とか回りの友達に向けてですね。みんなも私と一緒で苦しそうだったので。あとは、もし死にたがっている人がいたらこういう気持ちを伝えたいと思って、できたときは清掃員のことも考えていました。
── “ハロウ”は、どんな背景が?
アイナ : お経のように自分の悪いところを唱えていったら昇華できるのかなと、お経ソングを作りたいなと思ったのでやってみました。
──歌詞に出てくる「右手」「左手」というワードは何を意味しているのでしょうか?
アイナ : たとえば「私って右利きだから」って言っている人がいるとするじゃないですか。でも、もしかしたらその人は左手を使えるかもしれないのに、決めつけちゃったらもったいないなと思って。私はよく決めつけちゃうから、逆の左手も出して「左手ハロウ」という意味を込めて作りました。
──アレンジが素敵ですね。
アイナ : はい。“ハロウ”はもともと、いまみたいなロック・サウンドじゃなくて、BiSHに入る前に一緒に音楽をやっていたり、BiSHの“リズム”の原曲を一緒に作ってくれたShin Sakiuraくんにデモを送って「お経みたいな歌を作ったから曲にしたい」と言ったら、Shinくんがまったりした感じに編曲して送ってくれたんですよね。その曲を亀田さんに投げたら「この“ハロウ”が激しいロックな“ハロウ”を呼んだんだ」と言ってくださって、さらにかっこいい曲にしてくれました。Shinくんの“ハロウ”も好きですけど、亀田さんの“ハロウ”を聴いたとき私が書いていた歌詞が絵に浮かぶようになったというか、亀田さんが言葉を組みとって一生懸命音楽にしてくれたんだと思っています。
──“きえないで”はBiSH以前に作られた曲ですよね。どんな背景があったのでしょうか?
アイナ : BiSHに入る前のシンプルな自分の気持ちですね。当時部屋でできるプラネタリウムを買いに行ったんですけど、お金がなくて安いお化けのプラネタリウムを買ったら当然お化けしか見えなくて、「私はやっぱりお化けしか見えないんだ。星を見ることはできないんだ」っていう嘆きから書いた曲です。
──恋の歌のように感じましたけど、そうじゃないんですか?
アイナ : 恋の歌だけど、その時期男性に対するトラウマが強くあって、東京に出てきてからもその名残があったんですけど、男の人はそんなに怖くないことを知った時期に、自分が女の子であると教えてくれてありがとうみたいな気持ちで作りました。だから、好きで仕方ないって感じではなくて、感謝を込めた曲になりましたね。
──7曲目の“日々”は、男性目線ですね。
アイナ : そうですね。誰もいない部屋で起きた男の人の絵が浮かんできて、虚無感があるけど「僕は1人になっちゃったんだな」くらいの冷静さがある人をイメージして書きました。この曲は“死にたい夜にかぎって”のコンペの時期に送った曲で。
──ということは、“死にたい夜にかぎって”のイメージでもある?
アイナ : そのときのイメージもありますね。この曲は仮タイトルが「芥川龍之介の失恋」で、もともとはアルバムに入らない予定だったんですけど、亀田さんがすごく推してくれて。
──芥川龍之介?
アイナ : 芥川龍之介ってなんか失恋したことがなさそうなイメージありません? 私は太宰治がいちばん好きなんですけど、芥川龍之介も好きで。芥川龍之介は失敗しなさそうなかっこいいイメージがあるんです。そういう人がもし失恋したらって想像して(笑)。
──ははは(笑)。そして8曲目の“STEP by STEP”、この曲は明るい曲を作りたかったっておっしゃっていましたね。
アイナ : “STEP by STEP“は清掃員に向けての曲で、いままで一生懸命働いてきて、週末にはBiSHのライヴがあるからがんばろうと言っていた人から、その生き甲斐をコロナが奪ったような気がして。みんな週末の夢がなくなったいま何をしているんだろうと思って。また一緒に夢をみたいし、ライヴをしていた頃を思い出してほしくて書きました。
──これは、去年の自粛後に書いた歌詞ですか?
アイナ : そうですね。昔は誰もいないライブハウスでライブをすることもあったから、「なんで誰もいないの、お客さんが付かないの」みたいな気持ちばっかりだったんですけど、いまは清掃員が1人でも来てくれるなら「あなた1人でも聴いてくれるんだったら歌っていきたいな」っていう気持ちも入っています。
──9曲目の“静的情夜”は、アイナさんが飼っていた犬の話なのかなと思いました。
アイナ : これは幼少期の記憶ですね。静かな夜に響く犬の鳴き声を、私は階段で聞いていて。見て見ぬふりをして生きてきちゃったんです。何事もなかったかのように大人になろうと思ってたけど、小さい頃の記憶って塗り替えられないから、それをちゃんと背負って生きていかないといけないなと。見て見ぬふりはできないと思って自分と向き合った歌ですね。
──“死にたい夜にかぎって”は、爪切男さん原作のドラマのエンディング主題歌になりました。
アイナ : 本を何周も読んで、自分が爪さんで目の前に(橋本)アスカがいたらこうなるかなとか考えて書きました。最近は女の人の昭和歌謡曲をよく聴いていて。いしだあゆみさんとか中森明菜さんとか山口百恵さんみたいなうっとりとした歌い方で、この曲を1人の女性として歌えるようになりたいです。
亀田さんのアレンジとか音楽的な要素が、自分の感性は死んでいないって思わせてくれた
──“サボテンガール”はどういう曲ですか?
アイナ : いつも「バイバイ」って言ってあっけなく帰っちゃう友達から「今日は電車なんて乗らずに歩いて帰ろうよ。女の子2人でも明るい道を通ったら大丈夫でしょう」って言われて、言葉の温度もリズム感も言っている表情も全部がきれいに見えたんですよね。家に帰ったときに、こんな幸せな夜もあるんだなと。その子とは昔たくさん喧嘩して何回も絶交したし、長年の付き合いの中でこんな日が来ると思ってなくて。そのままの勢いで歌詞を書いて、その子のおかげできれいな心になれた日を書きました。
──最後の“スイカ”では「感性の死は私の死」というフレーズが印象的でした。
アイナ : BiSHに入ったときに私、感性の塊だったと思うんです。そのせいでたくさん人を傷つけたし、信頼されないこともあったと思うけど、その後いろんな人に出会って鍛えられて、純粋無垢の感性がいい意味で抑えられて、社会に適合した人間に昔よりかはなれてきている反面、 “金木犀”とか“スイカ”とか“リズム”とか「昔書いた曲のほうがいいよね」って言われることもあって。いま書く曲は、いろんな人に出会っていい意味でも悪い意味でも自分の感性が死んでいるような気がしちゃって、「表現者としてどこにでもいるつまらない大人になったな、昔の方がよかったのかな」と考えていたんです。
──どうして感性が死んでいると思ったんですか?
アイナ : 昔は、花が咲いているのを見たらきれいって思ったり、人が笑っていたら一緒に笑えたり、夕日を見ただけで泣いちゃったりして楽しかったんですよね。でもいまは、夕日を見てもきれいだなって思うだけだし、花を見ても咲いているなと思うだけだし、人が笑っていても笑っているなって思うだけだし普通になったというか。大人になるってそういうことだよって言われたりしたけど、これが大人なんだったら嫌だなって思ったりもして。でもアルバム制作中にそれは違うかもと思い返したんです。
──違うと思えたのはなぜですか?
アイナ : 亀田さんのアレンジとか音楽的な要素が、自分の感性は死んでいないって思わせてくれたんですよね。人間は変わっていくし、むしろいま感性が死んでいるとしたらBiSHに清掃員もいないし、私の振り付けが好きって言ってもらえないはずで。そう思えたから、2番では「感性の死は私の死じゃ無いからきっと 生きている」と言っていて、この曲は葛藤私小説みたいな感じになりました。
──ずっとモヤモヤしていたことが、亀田さんと作業したことで解き放たれたんですね。
アイナ : はい。結構家の換気扇の下に縮こまって歌詞を書いていたんですけど、思い返したらすごい泣いちゃいました。なんでいままで自分の感性が死んでいるとか独り善がっていたんだろうって。こんなに素敵なアルバムができそうになっているのに、自分で感性が死んでいるとか言っていたら誰も何も一緒にしてくれないなって。
──ありがとうございました。では最後に、このアルバムはアイナさんにとってどんな作品になりましたか。
アイナ : 亀田さんのおかげで音楽になって、唯一無二のアルバムができたと思うんです。私はこのアルバムが大好きだけど、最先端のかっこいい音楽をやっているわけではなく、ありふれたJ-POPだと思っていて。ありふれたJ-POPだけど、狙ってやったわけじゃないのにどこかはみ出ているところがあって、そこが私の個性なんじゃないかなと。
──なるほど。
アイナ : もし無理して等身大じゃない個性的な曲ばっかり書いていたら、足が付かないファースト・アルバムになっていたと思うんですよね。私の葬式のとき棺桶の中にこのアルバムを入れて一緒に眠りたいぐらい大好きなアルバムですし、誰かの走馬灯によぎるんだったらもっと嬉しいし、すごく大切なアルバムになりました。『THE END』っていうタイトルだけどはじまりの意味を込めて、何かの終わりだなって思った節目に寄り添ってくれるアルバムになったらいいなって。そういう意味では何もありふれていないし、本当にかっこいいアルバムだと思います。
編集 : 西田 健
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PROFILE:アイナ・ジ・エンド
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。全曲作詞作曲の1st AL"THE END"を2021年2月3日にリリースし、ソロ活動も本格始動。
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