INTERVIEW : tofubeats
マルチネ・レコードをはじめとする多くのインターネット媒体からリリースを重ねてきたトラックメイカー、tofubeats、そんな彼がついに自主制作の1stアルバム『lost decade』リリースした。“人に聴いてもらう音楽がJ-POP”と語るtofubeatsだが、その言葉通り、今作はかなりポップ! しかしそのヒップホップを中心とするサウンドはベース・ミュージック、スクリュー、トラップなどの要素がふんだんに散りばめられていて、ただの“J-POP”では終わらない、さまざまなリスナーに響く1枚となっている。SKY-HI、南波志帆、G.RINA、PUNPEE、仮谷せいら、オノマトペ大臣等の豪華アーティストとの共作も要チェックだ!
今回のインタビューではtofubeatsのルーツ、活動の歴史、今後の展望、そして今作に対する想いを語ってもらった。これからの音楽業界でどう自分の音楽を聴いてもらうかが、インターネット世代ならではの切り口で考えられていて、非常に興味深い内容となっている。tofubeatsの頭の中を覗ける絶好の機会を見逃すな!
インタビュー&文 : 飯田仁一郎(Limited Express (has gone?))
tofubeats待望の1stアルバムをリリース!
tofubeats / lost decade
過去多くのフリー・ダウンロード作品や、ビッグ・ネームのリミックス・ワークで世間を賑わせてきたtofubeatsが22歳にして、ついに待望の1stアルバムをリリース。神戸から放たれた2012年最大のヒップホップ・アンセム「水星 feat.オノマトペ大臣」、2013年最初のシングル「夢の中まで feat.ERA」はもちろん、SKY-HI、南波志帆、G.RINA、PUNPEE、仮谷せいら、オノマトペ大臣といった豪華ゲストとの曲も収録!
【販売価格】
mp3 : 単曲 150円 / アルバム 1,500円
J-POPは、ジャンルではなくて「人に聴いてもらう音楽」
——プロフィールに「中1の頃に日本語ラップに影響を受けた」と書いてあったんですけど、最初に影響を受けたラッパーって誰だったんでしょう?
tofubeats : ブッタ・ブランドですね。中学生の頃、友達に「kick the can crewが好きなんだけど」って言ったら「本当の日本語ラップを教えてやる」って、「人間発電所」を教えてくれて。それまでは中島美嘉とか、J-POPを普通に聴いていたんですけど、そこで「なんだこれは!」って衝撃を受けたんです。まあ、中学1年生同士の会話なんですけどね(笑)。あと、同じ頃にNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのファースト(『NITRO MICROPHONE UNDERGROUND』)を聴いて、これはヤバいなと。そのあたりから自分で意識して音楽を聴こうと思うようになったんです。
——そのヒップホップ体験から、どんな音楽的遍歴を辿ってきたのでしょうか。
tofubeats : ヒップホップの曲を作りはじめて、ベタに「J-POPダサイ」とか言っちゃう時期に入ったりしていたんですけど、ひたすらヒップホップをやってみて、自分に合わないなと思った部分もあったんです。その頃はコンシャス(政治的 / 文化的な主張の強い知的なもの)が流行っていて、shing02さんやTHA BLUE HERBが全盛期だったり、神戸でもアブストラクトなやつが流行ってたりしていて。僕はどっちかっていうと、関西の電子音楽シーンとかイルリメさん、ルビオラさんやスピードメーターさんが好きだったので、そういうのを取り入れてみたら、先輩には「なんか違う」と言われて。ヒップホップ好きでインターネット上に集まってる人たちとかも、当時はそんなに許容範囲が広くなかったのですが、「みな、本当はJ-POPみたいな音楽も好きなんじゃないの?」って思いはじめていたんです。
——なるほど。
tofubeats : 高校に入ったころに、ヒップホップの先輩後輩の上下関係でいろいろあって、ヒップホップって面倒くさいなって思ったことがあったんです。そのときに、オノマトペ大臣から渋谷系を教わって。どさーっと教えてもらって、よく聴いてみたら、サンプリングとかオマージュとか。ヒップホップと同じ方法でポップスってできるんだなって気付いて、そこからJ-POPとかも聴くようになったんです。
——J-POPに興味が向いたのはなぜだと思いますか?
tofubeats : ヒップホップって売れることに対しての立場が難しい部分もあるじゃないですか。当時はヒップホップもまだセールス的にいまよりは好調でしたけど、神戸で活動している人とかを見てて、そのあたりの考え方が自分と違うな、と思って。僕は一人でやってて、同じ年で音楽やってる人もいなくて、友だちに聴いてほしいと思うような純粋な気持ちがあったんです。でも、そこで僕が自分の生い立ちをラップしても、誰も聴いてくれへんやろなって思ったんですよね。
——聴いてもらう方法のひとつとして、J-POPを取り入れようと思った?
tofubeats : J-POPは、ジャンルではなくて「人に聴いてもらう音楽」って意味だと思うんです。人に聴かれることを意識した音楽というか。だから別に中身はなんでもいいと思うんですけど。インターネットをやっているうちに、「自分が作ったものはどっかに出すと誰かが聴くもんだ」と意識を持つようになって。自分の作るものがジャンルに寄り切ったりできないのはそれがあるからだと思うんですよね。そもそも、やっぱり僕自身そういう音楽が好きだったんだろうなって思います。普段暗いんで、暗いもん聴いたらやってられへん! みたいな(笑)。
——当時、ヒップホップのメイン・ストリームの中でtofubeatsだけがそっちに傾倒したことに対して、周囲の反応は?
tofubeats : なにをやっているのかがよくわかんないって言われましたね。一生、神戸で先輩後輩の関係でやるのも向いてないなあと思って、インターネットにこっそり自分を移して、もうネットでアップすることばっかりしてたんですよね。
『lost decade』は部活、『university of remix』は学校
——そうか。じゃあ高校位から今の活動の基盤は整いはじめていたんですね。
tofubeats : そうです。高校1年生ぐらいですかね、インターネットをメインでやろうと思ったのは。
——まずクラブに出たりすることもできたと思うんですけど、活動の拠点をインターネットにしたきっかけは何だったのでしょう?
tofubeats : 僕はターンテーブルでレコードを聴くってことをインターネットで知ったんです。もちろん家にもあったんですけど。ターンテーブルの針の調整の仕方もネットで見てるし、サンプラーを使って1人でヒップホップができるってことを知ったのもネットでした。だからネットに接続しないと、何かに繋がらないっていうのは僕らからしたら常識で、インターネット経由っていうのは当たり前になってますね。今は「インターネットっぽいもの」が実際にすごいきてるというか、インターネットのなかで神殿ができてる感じがする。
——神殿?
tofubeats : このへんはうちのtomadとかに聞くのがいいのかもしれないんですけど。彼は以前「常時接続の時代や~!」とか言って騒いでて(笑)。SNSとかでずっと繋がってる状態だと。インターネットが完全にいろんな人の生活にフィットしたから、やっといま説明がつくんですけど、僕らはまだみんながインターネットをやるずっと前からノートパソコンを学校に持っていってたところから始まってるんで。僕らからしたら、ずっとインターネットをやっていて、ただ音楽をインターネットで取り扱うインフラが整ってきたっていう印象です。
——tomadさんとか、マルチネ・シーンと知り合ったのはいつ頃ですか?
tofubeats : 高校1年生の頃ですね。僕のYouTubeの紹介をしてるはてなブログを片っ端から見ていくなかで、山形の1つ年上のやつが紹介してくれてるっていうのでコメントしにいったんですよ。そしたら「僕も映像作ってる」って。「どこで流してるんですか?」って訊いたら「マルチネ・レコードってとこで配ってる」ってことで、繋げてもらったのが最初です。知り合ったのは高1の頃やったんですけど、DJニュータウンっていう名前で最初にリリースしたのも初めてtomadに会ったのも高3の頃なんですよね。
——オノマトペ大臣ともその頃?
tofubeats : 大臣とだけは地元で繋がりがあったんです。イルリメさんのネット・ラジオでかけてもらった曲を聴いた大臣が「tofubeatsって誰だろう」って思ってたらしくて、2人ともmixiで神戸のレコ屋のコミュニィティに入っててメッセージが来たんです(笑)。それで会おうって言われて会ったのが高校1年生の頃でした。そこから大臣の同級生だった西村ツチカさんとも知り合って。同時にネットであげてたリミックスがやけ(のはら)さんに見つかって、(サイプレス)上野さんに伝わって知り合ったりしてました。
——当時はクラブにも行ったりしていたんですか?
tofubeats : 高2のときに、初めてやけさんに呼ばれて大臣と一緒に行ったのがTHE BRIDGE(※1)です(笑)。その後は、大臣の学校の文化祭でDJやってましたね。夜中までのイヴェントは18歳になるまでは、24時までに帰ってました。高3の時までは、頑にオールナイト・イヴェントに行ってなかったです。
——なんでなんですか?
tofubeats : 20歳じゃなかったし。あと実家に説得じゃないですけど、段階を踏んでやるようにしようって思っていたので。息子が急にわけわからん音楽を作って、クラブに行ってるとか嫌じゃないですか。あと、そこまで夜中遊ぶのも面白くなかったし。興味もないし、一緒に行く友だちもいないから夜中に遊んでもなーって。高校3年生の終わりぐらいからは、オールナイトでDJやってましたね。
——『lost decade』のイメージはいつ頃出来上がったのでしょうか?
tofubeats : 去年の夏ぐらいから、徐々にブレストとかしつつ詰めていたんです。「コンセプト立てたいねー」みたいなことを僕が言うと、周りに「コンセプトを立てるとお前は悩むからやめろ」って言われて。なにも考えないで作ったほうがいいということで、何も考えないで作りました。あと、僕はやっているうちにやりたいことが変わっちゃうんですよね。これ違うなと思ったら、次のことをやりたくなる。結局、手癖で丸め込めるし、別になにをやってもいっかていうのもあったんですどね。丸め込めるというか丸まっちゃうというか。僕、手癖がすっごいアク強いと思っているんで意外と幅があるわけでもなかったです(笑)。
——でも、リミックス・アルバム『university of remix』と聴き比べると、『lost decade』は手癖を脱却しようとしているのかと思いました。
tofubeats : いや、どっちかっていうと『university of remix』とかのほうがよそ行きなんです。手癖に関してはそうかもしれないんですけど、僕的には部活と学校みたいな感じで。『lost decade』は部活感を出したかったっていうか、勝手に好きなことをやったんです。誰からもディレクションをされることもなく、本当にやりたいことをやったアルバムです。
——もう少し詳しく教えてもらえますか。
tofubeats : オファーされて作るものは、「こういうのはどうですか?」って渡しているので、その時やりたいと思ったことをやってはいるんですけど、配慮があるというか(笑)。 僕、リミックスでボーカルを削ったりしないんですよ。クラブ・ミュージックみたいなリミックスを作らない。ディスコ・ダブで作ってくれとか、現在依頼がきているEspeciaさんみたいなのがあればヴォーカルを抜いたり、オフ・ヴォーカルでやるんですけど。もしもボーカルをエディットするにしても、サビの後とかにプラスでつけるとか、基本的にはヴォーカルは活かすんです。そうじゃないと原曲を聴いてる人が嫌だから。特にアイドルの場合はそうですよね。アイドルのヴォーカルをぶった切るっていうのは背徳行為ですから。そういう原曲への僕の思い入れとかもあるので。
同じ世代の人と大事な曲を作りたかった
——『lost decade』でもっともやりたかったことは何だったんでしょう?
tofubeats : 今回1番やりたかったことっていうのは、最後のタイトル曲の南波志帆さんとの曲なんです。南波志帆にオファーがしたいっていうすべてはそこからはじまって。自主制作だし、オファーできるのかもわかんないのに曲はあがってて(笑)。みんなから南波志帆さんを呼んで大丈夫かとかすごい言われましたけど、「僕は、どうしても南波ちゃんが呼びたいんです」って言って、暴走してたのを覚えていますね。実際にできて、それが想像以上の仕上がりで南波ちゃんが打ち返してくれたんで、よかったなと思います。
——南波さんに恋い焦がれてた?
tofubeats : 同じ世代の人と大事な曲を作りたいっていう思いがあったんです。SKY-HIさんを呼んだのもそういうことで。マルチネのなにがいいかって言ったら、大人の人が提供したコンテンツじゃないんですよね。「歌舞伎町マルチネ・フューチャー・パーク」って、めちゃくちゃじゃないですか。ただ、僕らしかやっていなくて、それだけで人が入っているんですよね。そこに僕らは信頼を置いているんです。
——シーンの捉え方も、これまでの流れとは少し違う気がします。
tofubeats : そうですね、シーンというより、もっとネットワークっぽいというか。インターネットがすごいしっくりきているのはそういうことだと思います。僕も神戸で、okadadaも大阪にいるけど緩やかに繋がっているんです。遍在してて、それぞれがそれぞれと繋がっているっていうんですかね。4人で一塊とか、マルチネで一塊とかじゃなくて、マルチネっていうのは、1つのネットワークの集合体で、それぞれの人は1人ずつ繋がっている。マルチネ周辺みたいな人たちもいるわけですよ。「この人はマルチネなのかな?」ぐらいの。そういうのはネットワークの考え方に近いと思いますね。
——アルバムを通して聴いてて、最近のベース・ミュージックの影響が強く出てるなって感じたんですけど、ハーレム・シェイク(※2)とかトラップ(※3)っぽいのが入っているあたりも意識してやっているんですか?
tofubeats : そうですね。基本的には一番新しい音楽っていうのは、聴くようにするというより流れてくるじゃないですか。だから、そっちは当たり前に意識してるというか。リミックスとかも、そのときの流行が結構消化されてて、G.RINAさんだったらダブステップだし、近藤(晃央)さんだったらドラム・ステップになっている、SOUL'd OUTのリミックスもトラップですし、小泉(今日子)さんのはトラップとスクリュー(※4)が入っているんです。流行に目配せしてるよってアピールをずっとしながら、ダサイ曲というか、ユーロ・ビートみたいな曲とかが入ってるのもこのアルバムの肝です。後、格好良さに寄せきれないっていうのは関西の人とかだったらわかると思うんですけど、ついつい格好良いことばっかり言ってると、自分の中でバランスが働いてしまうんですよね。PUNPEEさんとの曲は、最初遅くなるパートもなければ、僕のラップも入っていなかったんですけど、「聴いたときに格好良すぎる! 駄目だ!」って、僕のパートを増やしたんです(笑)。なんでもそうなんですけど、僕のなかで最適なバランスがあって、新しいものと自分の好きなもの。
——マルチネ周りもそうですけど、80年代あたりのサウンドを取り入れた音楽が盛り上がっていますよね。
tofubeats : インターネットをしていたら、去年出たのも10年前のも20年前のも全部一緒じゃないですか。欲しい曲は即アクセスできるから、時代は関係ない。アーティストが誰かっていうのもあんまり関係ないし、ヴィジュアルはなんでもいいし。曲が気持ちよかったらなんでもいい位に思っている人はいそうですけどね。そういうエクスキューズとして、今ヴェイパー・ウェイヴ(※5)とかがあると思うんで。あれってアルバムごとに名前変わっても人じゃなくても、音楽が出てたらいいんじゃない? っていうエクスキューズだと思うので。そういうのを意識しているっていうよりか見てると自然と僕らもそうなるのは当たり前というか。
——アニソンは聴いたりします? わりとアニソンぽいのかなっていう印象を受ける曲もあったので。
tofubeats : アニメはここ3、4年くらい見てなくて、どっちかと言うと、僕はアイドル好きなのが出てるかもしれないですね。
——tofubeatsがずっとアイドルを追いかけている、もしくはいま好きなのはなぜなんですか?
tofubeats : いいもんですよね、元気でますから(笑)。女の子を信じたい男が信じる為の道具というか、機能を果たしてくれるものですよね。それで曲も面白いみたいな。
——女の子を信じるって深いなー(笑)。それって男子校だった影響もあるんですかね?
tofubeats : そうですね(笑) 。男子校じゃなかったらアイドル好きには… なってたかな(笑)。でもそれは大きいですね。女性ヴォーカルが異常に好きなんですよ。気がついたら、J-POPは女性ヴォーカルのもんだと思ってたくらい中高のときは女性ヴォーカルしか聴いてなくて。大学に入ってから気付いたんですけど、女性と喋ってなさすぎたからじゃないかって(笑)。そういう潜在意識的なものはあるかもしれないですね。
すぐにアクセスできる音源がどれだけあるかが、好きになってもらえるポイント
——インターネットでは10年前も今も変わらないと言いつつ、早いもの、はやりものに対しては敏感に反応する面もある。この二軸はtofubeatsの中に並列してある感覚なんでしょうか?
tofubeats : 並列っていうか、ネット上にはタイムラインがあるじゃないですか。それはインターネットにある情報の割合とリンクしていると思うんです。早いものに敏感というより、いまのほうが情報量が多くて、昔になるほど細く少なくなっていくっていうのがインターネットの図式なので、普通に流れてくるものを浴びていたら、そういうバランスになってくるんじゃないかと。
——tofubeatsには、これははやってるんだって言える力とか、嗅ぎ分ける力が備わっていると思うんですよね。
tofubeats : それは神戸にいるのが大きいと思います。友だちの受け売りですけど、地方にいる人のほうがインターネットに専念してるんですよね。tomadも、Day Tripper Recordsって関西にあるレーベルとか、僕とかokadadaのほうが、最近出てきていることが多いんじゃないか。そういえば東京はそういうムーヴメントが最近ないんじゃないかって話をしていて。単純かもしれないですけど、僕らは承認欲求があるというか、東京と接続しないと繋がらない。東京はぶらぶらしてれば情報入ってくる一方で、取りこぼしたりもしていくじゃないですか? 僕らはフォローしたやつは全部見るけど、別に頑張っているわけじゃなくて、人と会ってないから見てる。それが普通なんです。そういうのを見極めて潮目みたいなところで出さないと、誰にも聴いてもらえないっていうのもわかっている。聴いてもらおうと思ったらなにをやらなきゃいけないのかっていうのは、昔から考えざるを得ないし、接続したくて、自分の曲を聴いてもらいたくてインターネットを初めているので、その感覚はずっと持っています。別に自信があるとかないとか、意識してるしていないとかじゃなくて、そうしないと聴いてもらえないので。
——その聴いてもらえないっていう感覚から、フリーで全曲聴かせたり、Soundcloudを使ったり音源を出したりすることにも繋がっているのでしょうか?
tofubeats : CDになったときに気持ち悪かったんです。作ったときに、本当にCDって無くなりそうって思った。持ってみて、歌詞も付いてていいんですけど、不思議な気分になりました。今回のアルバムはiTunesで、全曲フル試聴をやるんです。パッケージの意味というよりかは、お金を払う経路を何個か用意したっていったほうが近いですね。僕はよく言っているんですけど、その人に合う媒体で買ってくれたらいい、別に僕はCDを買えとか、レコードじゃないととかはいっさいないです。ある程度の音質以上で自分の曲を楽しんでもらえたらなんでもいいし、ちゃんと全部聴いてから選んでもらっていいっていうスタンス。それはマルチネとかの影響かもしれないですね。あと、手元に置ける、中古で出回る、これはCDのすごい良い利点です。5年後くらいにBOOKOFFとかに並んでたら「うおー」ってなるんで(笑)。僕の中での色んなメリット、デメリットを加味してCDはやっぱ出しておきたいなって思います。
——iTunesの全曲フル試聴っていうのは期間はどれくらい?
tofubeats : 一週間。発売までですね。リリースされたらされたで、いずれ全部をアップする予定です。そしてこれは永遠にやるつもりでいます。ていうか、そんなもんだと思います。そこを小出しにする意味が分からない。30秒聴けたからなんなんだって思いますし。
——ストリーミングで常に、つまりはtofubeatsのBandcampなりに行けば聴けるってことですね。
tofubeats : 僕が音楽を買うときに聴かないと買わないんですよね。YouTubeで聴いて、「いいじゃん! iTunesで買おう」とかそういうモチベーションじゃないですか。この人にお金を払いたいって思わないと買わないですよ。しかも、どっちつかずの人っているじゃないですか? なんか聴きたいけど、金払う程でもないっていう。そういう人には、聴いてもらったほうがいい。それでまた次に良いのが出たら買ってくれればいいし、その人が石油でも掘って金が増えたら買ってくれればいいんですよ。お金は貰ったほうがいいんですけど、ないんだったら払わなくてもいいから聴いて欲しいんですよね。そっちの方が僕にとっても、その人にとっても得じゃないですか。そこが30秒しか聴けなかったら、どっちも得しないでしょ。その人にただでもいいから「tofubeatsいいよ」って言われた方がいいし、その人の友達がCDを買ってくれたらいいんですよ。2人でリッピングして分けたらいいし、メディア・ファイヤーに出回ろうが、なんだってかまわないんです。今はそういう風にどこかを守って、買ってもらうっていう時代じゃないじゃないですか。コピー・コントロールCDとかもそうですけど。僕は性善説を信じきって、一回これをやってみたかった。これからも出来る限りはやっていきたいんですけど、やっぱ事情もありますから… 聴かせてなんぼみたいなのはずっとあって、それは水星の時にも凄く思ったんですよね。水星はすでにネットとかで全部聴ける曲だったけど、ばんばんダウンロードしてもらって。買うよっていう人は、どういう形でも買ってくれるんですよね。
——ストリーミングでは止まらずに、ちゃんとダウンロードなりCDなりで購入してくれると。
tofubeats : 逆に聴いて買う人も絶対いると思うんですよ。僕はそうなんで。海外のアーティストとかってだいたいフルで聴けますよ。
——資料に、今作はtofubeatsの卒業制作ですって書かれていましたが、次はどうなるんでしょう?
tofubeats : そうですね、次は社会人編(笑)。ハイ・スクール・オブ・リミックスがあって、ユニバーシティ・オブ・リミックスがあって、中高大学生の10年をまとめるロスト・ディケイドがあったら、次は3年目でやめるとかじゃないですか(笑)? 肩の力抜けてるな、みたいに思われたいですね。ラジオとかで適当な事喋ったり、タワレコでこき使われてる店員のコスプレして写真撮ったりとかしているんで、そういう感じで楽しいことをやる。あと東京の人はみんな真面目なんで、雑めに放り込んでいきたいですね。選択肢としては存在し続けるのが目標です。その東京のアーティストみたいなのじゃなくて、tofubeatsっていう選択肢。インターネットでやっている子とかも、「これなら自分でもできる!」って感じで始めてくれたりしたら一番嬉しいですからね。それが当時の僕に対しての感謝にもなると思っています。
——この先やりたいことはたくさんある?
tofubeats : 僕って何かがやりたいっていうか、やりたいことをやって、後から見てみて、このときこれが好きだったんだなっていうのが好きなんですよ。それが楽しくてやっているんで。別に城を燃やす為にやっているのではなく、「難攻不落なオリコン・チャートを落としにいくぞ、うおー」みたいな感じでもないので、やりたいことと人に聴いてもらうっていうのがあって、それを自分の中で折衝してやっていくっていうだけですね。野望というよりかは、やっていたら規模は絶対大きくなりますからね。それだけです。東京にいても僕はできるかもしれないんですけど、でもファースト・アルバムで、22歳でこういう人選ができたのはありがたいと思いますね。自分でもめちゃくちゃだなって思うんで。ただ意外に並べて聴くとそうでもなかったりもするんで。いい感じで割り振れたかなって思っていますね。
——マルチネの周辺と一緒にユニット的なことやるって企画書を出してましたよね?
tofubeats : tomadはクラブでイヴェントをやるのも面白くねーなとか言いながらいろいろ企んでいるみたいです。なんかわけわかんないところでやるって言ってましたね(笑)。リリースされるかちょっと微妙なんですけど、今作の発売後にマルチネからフリー・ダウンロードでこれのリミックス・アルバムが出ます。
——リミキサーはマルチネ周辺の人たち?
tofubeats : マルチネ・レコード周辺だったり、生バンド・カバーが入っていたりします。全部配ってて全部聴けるみたいな過剰供給で、先に好きになってもらうのがいいなって。tofubeatsってなんだろうって思ったときに、すぐにアクセスできる音源がどれだけあるかっていうのが、好きになってもらえるポイントなんです。その時に30秒の試聴が5曲くらいしか聴けないバンドなんて、絶対好きになんかならないですよ。全部聴いて、良い曲あるんだ、悪い曲もあるんだってなって、良い曲だけ買ってくれたらいいです。それでいいです、本当に。
※1 : THE BRIDGE。大阪・新世界にあったライヴハウス。あふりらんぽやオシリペンペンズ等、大阪ゼロ世代とよばれたバンド達の拠点となった。2007年に閉店。
※2 : ハーレム・シェイク。Baauerによるヒット曲。その冒頭30秒にあわせてダンスを踊る動画が流行り、今では無数のハーレム・シェイク動画が動画サイトにアップロードされている。
※3 : トラップ。クラブ・ミュージックのジャンルの1つで、2000年代にサザン・ヒップホップなどから派生して生まれた。重低音の効いたベースとスネア(TR-808が使われることが多い)のヒット音が特徴。ハーレム・シェイクもいわゆるトラップ。
※4 : スクリュー。正式にはチョップド&スクリュード。ヒップホップのトラックのミックスの手法の一つで、レコードの回転速度を落とし間延びさせることにより陶酔感を生み出す。
※5 : ヴェイパー・ウェイヴ。インターネットにアップロードされている音源を探索し、再構築して、新たな音楽として発信しているジャンル。
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tofubeats / 水星
2011年末に12 インチ・レコードでリリースされ、瞬く間に3度のプレスを重ねたあの「水星」 が待望のデジタル版で登場。tofubeatsとオノマトペ大臣の2 人が作り出した切なくて甘酸っぱくてアーバンで超絶メロウな日本語ラップ・アンセム!収録のオリジナル・ミックスに加えて今回は若い才能を中心に客演をオファー。
Especia&ナンブヒトシ / Good Times
BiSが所属する事務所、つばさレコーズより、2012年6月にデビューを果たした、大阪・堀江発のアイドル・グループ、Especia。80'sディスコ・ミュージックやフュージョンの要素を取り入れた音楽性と、カラフルで奇抜なファッションがにわかに注目を集め、東京でのライヴ・デビューも果たしている。そんな彼女たちの1stEP『DULCE』をOTOTOYで配信スタート。それにあわせて、メンバー全員インタビューも掲載。さらに、まだどこにも出ていない新曲をフリー・ダウンロードでHQD(24bit/48kHzのwav)でプレゼント。ラッパーのナンブヒトシを迎え、これまでにないラップ調の楽曲を完成させた。BiSの妹分でもあり、BiSのライバルでもある彼女たちの楽曲をぜひ耳にしてほしい!!
PROFILE
tofubeats
1990年生まれ、神戸市内在住のトラック・メイカー / DJ。インターネットでの音源公開を中心に活動を開始し、現在は公式にFPM、9nine、佐々木希、ももいろクローバーなど多数アーティストのリミックスを手がける。他にもtengal6のシングル「プチャヘンザ!」のプロデュースなど精力的に活動中。2012年初頭にはオノマトペ大臣と『水星EP』を12インチ・レコードでリリース。