関西の音楽家たちと紡いだまばゆいフォーキー・サウンド──イツキライカ、初フル・アルバム配信
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スーパーノアのギター/ヴォーカルとしても活動する井戸健人によるソロ・ユニット、イツキライカ。2012年のミニ・アルバム『ピンホール透過光』以降、4年ぶりとなる本作は、自身のバンド、スーパーノアのメンバーをはじめ、LLamaやBaa Baa Blacksheeps、白黒ミドリ、サルバ通りなど同じく関西を拠点とするメンバーを迎えて、まばゆいばかりのギター・アンサンブルと歌声のハーモニーで街の情景を描いた11編の楽曲を収録。アルバム配信と共に、そのなかから2曲目の「Kind of Lou」を期間限定フリーダウンロードでお届けする。
スーパーノアがポスト・ロック的なアプローチで刹那さを感じさせる音楽であるのに対し、イツキライカはコラージュでつくりあげたような音像であり牧歌的だ。イツキライカとして音楽を生み出すこと、その意識の違いや制作過程について井戸健人に話を聞いた。
期間限定フリーダウンロード「Kind of Lou」
イツキライカ / Kind of Blue
【Track List】
01. おきざりの庭で
02. Kind of Lou
03. こどもたち
04. 早春散歩
05. ときが滲む朝に
06. 白線の内側から
07. 高い窓
08. フィルムのすきま
09. ノーカントリー
10. (sweet)here after
11. まだ手探りを
【配信形態 / 価格】
[左]24bit/96kHz(WAV / ALAC / FLAC)
[右]16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3
単曲 200円(税込) / アルバム 2,000円(税込)
※AAC / MP3のみ、単曲 150円(税込) / アルバム 1,500円(税込)
イツキライカ / おきざりの庭でイツキライカ / おきざりの庭で
INTERVIEW : イツキライカ
イツキライカの『Kind of Blue』には、宅録の決め細やかさと、それを笑顔で支える京都在中のサポート・ミュージシャン達のラフな空気感に満ち溢れている。それは、良質インディーシーンであり続けるアセンズやメルボルンのアーティストがもつ空気感と同じものだ。さぁ、極上のイツキライカ・バンドがやってくる!
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
編集補助 : 柳下かれん
写真 : 飯本貴子
たまたまソロの音源を作っているタイミングだったというか、レコーディング費用で100万円もらえたらラッキーやなって感じだったんです
──やっぱりスーパーノアとは全然ちがうね。スーパーノアとしては井戸君のことを知っていたけど、イツキライカの活動はしっかりとは知らなくて。プロフィールを見たら、すごくちゃんとやってる。
どうなんですかね(笑)。ちゃんとかはわからないですけど。
──だって「2011年、ロッキング・オン社が主催するコンテストRO69JACKに、優勝者に渡される制作費100万目当てに始めたばかりのソロ・ユニット、イツキライカとして応募。見事優勝」って書いてある。100万円もらったんですか?
もらいました。
──100万円は何に消えたんですか?
録音費用に使ってくださいと言われたので『ピンホール透過光』(1stミニ・アルバム)の制作費用と、あとギターを買って、全部使いました(笑)。
──なんでスーパーノアでは応募しなかったの?
たまたまソロの音源を作っているタイミングだったというか、レコーディング費用で100万円もらえたらラッキーやなって感じだったんです。
──つまり金だと(笑)。それからはどういう活動をしてたんですか?
「レコ発とかやったほうがいい」みたいな話になって、そこで初めてイツキライカのバンド・セットでライヴをして。あとはそんな大々的にやるつもりはなく、誘われたライヴに出たり、1ヶ月に1曲とか2曲とか作っていく感じで。
──今回の作品『Kind of Blue』に関してはいつごろから作っているものが入ってるんですか?
2012年の夏ごろから作ったものですかね。
──『Kind of Blue』のレコーデイングは、そこで作ってた曲を自分で譜面にして、演奏者に渡したりしたんですか? それともセッションで?
この作品に関してはセッションではないです。まず、曲のアレンジのイメージができたら、パソコンにMIDIで打ち込んで確認します。気になるところを調整して、OKそうやなと思ったら、実際にプレイヤーの方に楽器を演奏してもらって、生の音に差し変えていきました。
──じゃあもともと宅録の人なんだ。いつから宅録をはじめたんでしょう?
中3ぐらいからですかね。最初は、3トラックしかないZoomのMTRを使っていました。
──スーパーノアのイメージがあるから、バンドでセッションしながら作っていくタイプかなと思ったんですけど、違うんですね。
スーパーノアも最近はセッションでは作っていなくて、曲の構成とリズムパターンとフレーズを僕がある程度作って、調整して大丈夫そうやなと思ったらスタジオに持っていく感じです。でもスーパーノアの曲は、メンバーが演奏するのを前提で作っているので。メンバーがいま聴いている音楽とかフレーズを話の中から拾うこともあるし、こういうフレーズをやらせたらおもしろそうやなとか。メンバーの影響を受けてます。
──じゃあイツキライカのときは誰が演奏するとかを考えない、よりパーソナルな感じ?
そうですね。楽器だけをイメージして。
かつて誰かが見た風景を、いま自分が奇跡的に見ているかもしれない
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──『Kind of Blue』はコンセプトを先に決めたりしてたんですか?
半分くらいまでドラムセットを使わんと録音していこうとしてたんですね。だいたいみんなドラムセットを使ってるから、使わんでもいい感じのリズムを出せるんじゃないかって試したくなって。でもやっぱりドラムセットっていうのはすごくよく出来ている楽器だということに気づいて、途中から使っちゃいました(笑)。
──ドラムを使わないと不自由だったってこと?
結局ドラムセットみたいな配置になっていったんですよ。ちょっとキックみたいな音いるよね、ハイハットいるよね、スネアみたいな音が欲しいよね、あっドラムセットや! みたいな。
──ではそこからどうやってアルバムとしてまとめていったの?
最初のほうで作っていた曲のモチーフが無意識のうちに「青」だったんですね。それは、色としての青でもあるし、ネガティブな「ちょっと今日ブルーだわ」みたいな意味の青でもあるし。海とか空とかそういう単語を使っていることも多くて。じゃあもうこれは青でまとめようと思って、その後から作った曲は意識的に青をイメージして作りました。
──「青」に思い入れがあった?
なんか無意識で。
──青にすることによって統一性が出したかったのかな? すごくまとまってるアルバムだと僕は思いました。
よかったです。アルバムを通して聴いてほしかったので、ある程度コンセプトがあったほうが良いと思ったんです。
──曲のアレンジもかなりこだわっていたけど、最初からアレンジのイメージがあった? それとも曲の全体像ができてから?
頭の中にイメージはあるんですけど、実際に音に置き換えてみるとごちゃごちゃしたりするんで、やっぱこのフレーズいらんかな、やっぱいるかな、みたいな繰り返しで。どこで完成かっていうタイミングを見極めるのにすごい時間かかりましたね。その日の体調によって聴こえ方も変わったりして。
──1人でやることの醍醐味であり辛いところだよね。1人でやり続ける以上それはわからないもんね。
バンドだったら他の人が「これできたんちゃう?」でいけますけど、1人やとちょっと難しかったです。
──作詞についてなんですが、井戸くんはどういうときに詩を作る?
曲のアレンジがある程度できた後に「作ろう」と思って作ってますね。
──井戸君が書きたいことはなんですか?
実際の風景を見ながら、その上にフィクションを立ち上げることが多いですね。今回の作品も、実際の風景を見ながら、ここにはこういう人間の営みがあったんちゃうかなとか考えながら…。
──それはスーパーノアの歌詞の書き方とは違う?
そうですね。いまスーパーノアで新しい曲のレコーディングをしていて、そこではもうちょっと具体的なことを言うように努力してます。
──それは何故?
…心境の変化ですかね。今までやってなかった書き方だから、自分自身が新鮮に取り組めるということもあって。今は「こういう言葉だと、このぐらいのことまで想像するかな?」みたいなのを考えながら、作ってます。歌詞の内容を聴いてくれた人に丸投げするのではなくて、ある程度こちらで想像の範囲を設定出来るように頑張るって感じです。
──イツキライカではその手法はとってない?
とってないです。単純にストーリーをのせた。
──そのストーリーはフィクションだけれども、人間の営みに通じるようなことってこと?
んー…。かつて誰かが見た風景を、いま自分が奇跡的に見ているかもしれない、見ていたらいいなと思って書きました。
──なるほど。10曲目の「 (sweet)here after」の〈新しい人の あたたかい匂い 辺りは一面 花吹雪が舞う 預けられた種 あなたへ渡そう 花の記憶たち 重ねられるように〉って部分、歌詞を載せてないじゃないですか。意図はあったんですか?
それは単純に何回も繰り返しているから、聞き間違いをする可能性は低いかなと思って。
──なんか意図があるのかと思った(笑)。この歌詞は、京都の海や川を歩いて書き上げたもの?
いや、旅先で散歩してるときの風景が多いですね。東京もそうですけど。その風景をみてフィクションで書き上げました。知らない土地の方が色々と想像しやすいっていうか。
これくらい商業的なものから距離をおいてる音楽があっても、僕はいいと思いますね
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──制作中に井戸君が影響を受けた音楽とかはありますか?
このアルバムを作ってる時によく聴いてたのはマグネティック・フィールズの「69 ラブ・ソングス」とかです。他にはキングス・オブ・コンビニエンスのアーランド・オイエのソロとか結構聴いてたかな。曲が出来たのは2012、3年くらいなので、あんまり覚えてないですね。好きな音楽に似すぎないようには気をつけました。
──やっぱり1番影響を受けてるのはUSインディー?
んー、…好きですね。
──誰って言うより、ジャンルや地域で言うと、1番影響を受けたところはどこですか? USインディーなのか、UKロックなのか、それとも京都の土着のロックなのか…。
アメリカとか、カナダとかの感じですかね? スフィアン・スティーブンスとか、ファイストとか、ルーファス・ウェインライトとか…。聴いててなんも考えずに、1番自分の心がしっくり落ち着く音楽はそのへん。アメリカ大陸の…。
──アメリカ大陸(笑)。
(笑)。でもカナダも好きなんですよねえ。サンドロ・ペリとか、エリック・シェノーも好きで。
──どういうところに影響受けたんですか?
どうなんすかねえ。ヴォーカルの存在が大き過ぎず、他の楽器とバランスよく成り立ってるみたいな感覚が好きなんかなあ。
──『Kind of Blue』のレコーディング・メンバーを見ると、その多くが京都の仲間たちだと思うんですが、彼らから影響を受けた面はありますか?
それもきっとあると思います。
──スーパーノアとかイツキライカ、サポート・ミュージシャンの所属するLLamaとかBaa Baa Blacksheepsといった京都のシーンや、また他にも似たようなシーンがあると思うんですけど、どういうバンドとよく対バンしているの?
昔はLainy J Grooveとかと一緒にやってましたけどね。最近は… 誰とやってるかな。
──京都のHomecommingsとかとは違うシーン?
そうですね、サーキット・イベントとか出演者が多いライヴをのぞけば一緒にやったことはないですね。やっぱり近いのはLLamaなのかな?
──僕はちょっと前からLLamaやスーパーノア、BAA BAA BLACKSHEEPSらのシーンから自由度の高さをすごく感じてて。音楽を作ることを、バンド単位じゃなく楽しんでるなと思うんです。たとえば、今は違うけれどゆーきゃんが京都に住んでいたころ、アルバムを作るってなったときには、わちゃわちゃってみんな寄ってきて、みんなで作る。同じようにイツキライカがアルバムを作りましょってなったらみんながわさわさよってくる感じ。
やっぱり同じ人たちで作り上げる美しさってあるし、たぶんスーパーノアもそっちだと思うんです。たとえば、一緒にいる時間が短いサポートメンバーがいるバンドには出せへん空気感やグルーヴが感じられますよね。それが良いとか、悪いとかではなく。それに対してイツキライカは僕が個人的に、良いなあと思ったプレイヤーに、弾いて欲しい(歌って欲しい)フレーズを頼んだだけというか。
──イツキライカの作品でこういう自由度の高い作り方ができているというのは、実は今の京都を象徴した出来事だなあと思っています。あと、なにか影響を受けているものってあると思います? 僕はイツキライカとスーパーノアとは絶対に違うものだと思っていて、なら何に影響を受けて作り上げたのかっていうところが気になっているんですね。
…なんやろなあ。ホントに曲を書いてるときは無意識というか、影響を受けてるといえば見聞きしたこと全部受けてると思うし、特定の物は今思いつかないですね。
──じゃあスーパーノアとイツキライカの違いは?
それはメンバーはいるかいないかってことですかね。
──表現しているものに違いはない?
根っこの部分は同じだと思うのですが、スーパーノアの曲は「スーパーノアのメンバーで演奏する」という前提ありで作っています。
──なぜソロもやるんでしょう?
ちょうど良いバランスなんですよね。スーパーノアに持っていくときはある種の変化を期待してるというか。持っていくデモよりも良くなるんですよ、だいたい。でも今のところ新しい曲を発表する場がライヴなので、基本的にはライヴで出来る曲をやるっていう制限がありますね。イツキライカは別にライヴせんでもいいから自由というか。ドラム使わんでいい曲も作っていいし、自由に重ねていけるし。それがちょうど良いバランスですね。
──てことは、イツキライカも続けていく?
…はい。
──今、ちょっと詰まったのはなんで(笑)?
イツキライカのほうがライフワークに近くて自然にやってる。スーパーノアはもっと人気出そうぜっていう気持ちでやってますね。
──イツキライカはそういうのないの?
っていうとたぶん怒られますけどまぁ自然っていうか。ある種、自分がそのとき聴きたかった音楽をやってるに近いかな。もちろん、聴いてくれた人が何かしら感じてくれたなら、それはとても嬉しいことです。
──イツキライカ、やり続けてほしい。5枚目かもわからないし10枚目かもしれないけど、音楽ってこういうやりかたでいいんだよって言える名盤が生まれる気がします。
そうですね、これくらい商業的なものから距離をおいてる音楽があっても、もちろんいっぱいあるんですけど、僕はいいと思いますね。
LIVE INFORMATION
イツキライカ 1st full album "Kind of Blue" release party
2016年11月2日(水・祝前日)@新代田FEVER
出演 : イツキライカ(band set) / ayUtokiO / Nozomi Nobody
open 18:30 / start 19:00
adv. 2,000円 / door 2,500円(共にドリンク別)
・東京編演奏メンバー
石渡新平(LLama) drums/chorus
岡村寛子(ときめき☆ジャンボジャンボ/スーパーノア) piano
赤井裕(スーパーノア) guitar
岩橋真平(スーパーノア) bass
103CA(印象派/ANATAKIKOU) organ/chorus
間瀬聡(サルバ通り) guitar/chorus
2016年11月5日(土)@京都nano
出演 : イツキライカ(band set) / スーパーノア
open 17:30 / start 18:00
adv. 2,000円 / door 2,300円(共にドリンク別)
・京都編演奏メンバー
石渡新平(LLama) drums/chorus
岡村寛子(ときめき☆ジャンボジャンボ/スーパーノア) piano
赤井裕(スーパーノア) guitar
岩橋真平(スーパーノア) bass
103CA(印象派/ANATAKIKOU) organ/chorus
間瀬聡(サルバ通り) guitar/chorus
Syo Taki trumpet
土龍(livehouse nano/ボロフェスタ) alto saxophone
PROFILE
イツキライカ
関西在住のシンガー・ソングライター。2004年に結成された京都のバンド、スーパーノアのギター/ヴォーカルとして、現在も活動を続ける。2011年、ロッキング・オン社が主催するコンテスト「RO69JACK」に、優勝者に渡される制作費100万目当てに、始めたばかりのソロ・ユニット、イツキライカとして応募。見事優勝し、同社が主催するフェスティヴァル「COUNTDOWN JAPAN」に出演、2012年、同社主宰のレーベル〈JACKMAN RECORDS〉より、1stミニ・アルバム『ピンホール透過光』にてデビュー。以後、関西を中心に、弾き語りやバンド・セットでライヴを行っている。スウェーデンの天才ポップ職人MARCHING BANDの初来日ツアーの京都公演、ROTH BART BARONのサポート・アクトも務める。2016年にはMARCHING BANDの再来日ツアーにおいて、名古屋、大阪、東京(東京のみデュオ編成。あとはバンド・セット)3カ所でサポートを務めた。