実に、前作『ZAZEN BOYS 4』から4年ぶりとなる、ZAZEN BOYSのニュー・アルバム『すとーりーず』が完成。2011年の初頭にデモ制作を開始し、メンバーによる永遠に終わらないマツリ・セッションを経て、2012年初頭より本格的レコーディングを開始したという本作は、これまで以上に研ぎ澄まされた作品へ昇華。作詞作曲、録音、ミックス、ジャケット、PV撮影編集など、マスタリングを除く全ての制作作業を向井秀徳がマツリスタジオにて行い、 70年代より数々の名作を手がけたUKの巨匠エンジニア、Kevin Metcalfe(The soundmasters)が、マスタリングおよびアナログ・カッティングを担当。ZAZEN BOYSの新たな名作がここに誕生!!
ZAZEN BOYS / すとーりーず
1. サイボーグのオバケ / 2. ポテトサラダ / 3. はあとぶれいく / 4. 破裂音の朝 / 5. 電球 / 6. 気がつけばミッドナイト / 7. 暗黒屋 / 8. サンドペーパーざらざら / 9. 泥沼 / 10. すとーりーず / 11. 天狗
【配信形式】 mp3
【価格】 単曲 150円 / アルバム 1,500円
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INTERVIEW : 向井秀徳
「SYNCHRONICITY'11」で見たZAZEN BOYSのライヴがあまりにも強靭で肉体的で興奮し、「BOROFESTA 2011」ではオオトリとして出演してもらった。何度も繰り返され培われた0.1秒の狂いのない音の点の連続。そこに向井秀徳が持つユーモアのあるグルーブが混ざり、もはや興奮するしかなくなってしまうのが、彼らの最強の武器、ライヴであった。そんなライヴの裏では、着々と4年ぶりのニュー・アルバム『すとーりーず』の制作が進められていた。このアルバムは、ZAZEN BOYS最強のライヴ以降の物語、そして内容は、オルタナティヴの境地である。興奮に震える気持ちを抑えながら京王線笹塚駅を降り、ZAZEN BOYSの向井秀徳が待つMATSURI STUDIOへ向った。
インタビュー : 飯田仁一郎(Limited Express (has gone?) / BOROFESTA / OTOTOY)
文 : 梶原綾乃
写真 : 畑江彩美
泥酔できるってことは、自分の感性に酔ってるんだろうね
——『すとーりーず』は配信もされていますけど、向井さんが音源のアウトプット方法をどう考えているのか、とても興味があります。
バンドや作り手が録音したものって、スタジオのデータが一番ベストな状態なんですよ。それが商品になることによって、ダウン・コンバートされていって圧縮されてしまう。作り手としては、スタジオで聴いたときにすごく豊かな音情だったものが、CDで聴くと残念なものになってしまうことがあるんです。聴く人はスタジオの音を聴いていないから、CDの音が基準になってますよね。だから、本当はスタジオに来てくれよと。
——あははは。確かに、そうですね。
一番いいのは、マルチ・トラックでミックスする前の状態で聴いているときなんですよ。2ミックスにすると、それはそれで固まってしまうんですね。もっと、好きなバランスで聴いてみてもいいじゃないかっていって考えるんですよね。
——そういう意味では、制作環境が大きく変わって、自由な発信方法がしやすくなってきているわけですよね。マルチトラックでも聴けるようになれば、本当におもしろいですよね。
好みのミックスで聴いてくれと思ったのはね、理由がありまして。要するに、自分の望むバランスでミックスをやるんだけど、はたしてこれで聴く人はこれを望んでいるのか。私はこれでいいと思うけど… そういう迷いが生じてくるものだから。
——ミックスは、向井さんが一人でやっているんですか?
そうそう。だから、同じ曲でも毎日違うんですよ。昨日はうまくいったと思ったけど、今日聴いたら全然違ったみたいな。その逆もあるし、なんのこっちゃわからなくなる。そういうときは、「これでいいっすよ」ってディレクションする立場の人がそばにいてくたら早いんですけどね。
——今回の『すとーりーず』には、そういうディレクションをした人はいないんですよね。
全部自分たちでやりましたね。
——その状態で、どのタイミングでOKを出すんですか。
泥酔したらOKですね。酩酊して「これで良かばい」って。「これ以上はなかばい」って。
——でも、それってその日だけの感覚ですよね(笑)。
そこは、決めたらもう聴かない。きりがないからね。
——なるほど。それで今作に収録された11曲ができたと。ちなみに、タイトルが、ひらがなになっているのは何でなんでしょう。
アルバムをリリースするのが4年ぶりっていうこともありまして、ちょっとリフレッシュして、リニューアル感を出したいって思ったんです。曲名にしても、今までは「本能寺」だったら「Honnoji」、「刺激」だったら「SHIGEKI」って感じで、アルファベットにしてやってきんですけど、文字面として面白いと思って。
——もう、単純に飽きたと(笑)。
うん。明朝体で漢字でドン! とやると力強いんですよね文字面が。ひらがなもしかり。文字面のイメージですね。
——向井さんが歌詞とかタイトルとかを決めていくのは、意味よりも感覚が先なんでしょうか?
もちろん、そうですね。そんなに深く論理的に考えるタイプの人間じゃないんで。泥酔できるってことは、自分の感性に酔ってるんだろうね。自己陶酔型酔っ払いみたいな。タチ悪いかもしれないですが。
手癖上等ですね
——(笑)。前作から4年ぶりの作品ですが、この4年はZAZEN BOYSにとって長かったですか。
長かったですね。もちろん曲を作ったり、ライヴをしたりしてたんですけど、リリースに関してこんだけ間が開くことなかったですからね。
——これだけ期間があいた理由は何だったのでしょう。
やっぱり、作るからにはちゃんとしたものを作りたいっていう気持ちがあって。形にするとすると思うと力が入りますね。ずっと残るわけだから。そこまで集中してやるとなると期間をきめていかないとできないんですね。合間合間にやろうっていっても、無理なんですね。そういう感じでやってたら4年経ってたんでしょうね。
——今作は5枚目のアルバムとなりますが、1枚目よりも2枚目、2枚目よりも3枚目… と、前作を越える作品を目指すものじゃないですか。その壁は高かったんでしょうか?
そこは自己陶酔型ですから。酒飲みゃ別になんてことないわけですよ。あはははは。
——(笑)。
常に現時点で表現するものが、今の自分に一番ぐっと来るものであろうと思っているんで。過去と比べてどうっていう意識は、そんなにないかもしれないですね。「前作はこうだったけどああでした、今回は違う、もっといい」みたいな言い方もあると思うんですけど、私はそういう気持ちになりたくないわけですね。残してきたものは、自分の歴史の中に刻み込められてますからね。
——でも逆に、似てくるっていうパターンもありますよね。自分の手癖に頼ってしまって前作と近い部分が見えるというか。
手癖っていうのは、自分独自のテクニックというかですね、極端な話でいえば、自分の技巧以外なにも出来ないですからね。手癖上等ですね。
——手癖上等(笑)。メンバー全員の手癖が出てしまっても、融合することで前あったものにはならないってことですね。
いや、変化を求めることも、あまりないのかもしれないですね。人間、時を重ねれば変化はあると思うんですけど、変わろう変わろうとはあまり思っていないですね。その時手応えを得て作ったものを、ライヴで演奏して、お客さんがどういう反応するだろうという想像はかなりしますけど。それは「ほら、ここが違うだろ」っていうことをアピールしたいわけじゃないです。
——お客さんがどういう反応するか想像しながら作るんですね。
想像しながら作るというか、無我夢中になってるんで、私の世界ですよ。どれだけ自分に突き刺さるかっていうことを目指してやってますから。それがある程度形になった時に、すごく達成感があるわけですね。すげえいいなあ「自分」って。
——やっぱり自己陶酔型なんですね(笑)。
完全にそうですね。ひとりよがり以外の何物でもないですね。それを分かっているから、独りよがりのまま終わらせたくないわけですよ。それを人にぶつけてやりたいっていう欲求がふつふつと沸き立ちあがってくるんですよ。だから、作品を発表したり、ライヴの場に出て行ったりするんですね。例えば、保母さんだったらどんな気持ちになるかなって。
——ものすごい具体的ですね(笑)。
例えば、外資系のバイリンガルの、ちょっとつーんとした表情の女性だったらどういう顔をするかな、どういう気持ちになるかな、とかね。鳥取の海べりの街に住む女子高生だったら、どんなことを言ってくれるのかなとか、色々な想像をしますよ。
——女性限定なんですか?
全部女性ですね。男性はそんな意識していないですね、どうだっていいというか(笑)。
——半分ネタで半分本気ですよね(笑)。例えば、ラモーンズだったら、常に同じ感じですよね。あれも美学だと思うんです。ZAZEN BOYSはどういう風になっていくんでしょう。
ラモーンズのスタイルは、ラモーンズじゃないですか。サウンドを聴いたときに、「これは誰でもない、ラモーンズだ」っていうオリジナリティが、私は素晴らしいと思いますね。そういうロック・バンドになりたいと常々思っていますね。ツェッペリンでもいいし、ポリスでもいいだろうし、エレカシでもいいだろうし。その人たちにしかできない、非常にえぐいくらいに、うざいくらいに記名性が高いものというか、個性ですね。そういうものにしたいなって思ってるんです。
——向井さんにとって、ZAZEN BOYSは、まだそこまでなれていないと思うんですか?
まだラモーンズにはなれていないね。
サウンドとしての自己主張は最重要なんです
——じゃあ、ZAZEN BOYSは、プレイヤー個々の集合体って感覚なんでしょうか。もしくは、俺の表現の場という感覚のほうが強いんでしょうか。
身の蓋もないんですけど、理想の好きなロック・バンド・サウンドを作り上げたいと思ってまして。だいぶ、独善的だと思いますよ。ただ、私のバック・バンドじゃないですよ。そんなロック・バンドは興味ないから、そうではない。
——バック・バンドでないけど独善的というと?
バンドっていうのは、ドラム、ベース、ギター、ボーカルっていう形があった場合、どのパートも欠けてはいけないもので、どれもが個性を放って、時にはバラバラなサウンドを鳴らしたりする。だけど、どこかで同じ方向を向いているというか。それぞれが重なり合った時に生まれるうねりとかうずまきとかが、非常に最高なわけですよ。その方向を決定するのは私であるってだけで、それぞれのプレイヤーは自分の主張をしてほしいし、しないといけない。やかましいくらいにそれぞれが気を放ってるというか。そこにそれぞれの自我はそんなにいらないんです。
——自我はいらない?
簡単に言えば、「このなかで俺が一番かっこいいだろ」みたいな。それは私だけでいい。サウンドとしての自己主張は最重要なんです。もっと、純粋に音としての主張をしてほしいですね。ZAZEN BOYSのメンツはそれが強いから、私も本当に満足しているわけですけど、一人だけあらぬ方向を向いてたり、見てる方向が違うと途端に崩れますから。言い方を考えれば、息を合わせないといけないわけですね。呼吸を合わせようとしないとダメですね。
——なるほど。メンバー全員で合わせるとき、例えば、自分の思い描いていたベースのフレーズとは全然違う、「そう来たか」といったプレイが出てきたりするんですか。
「どうしてやろう、こうしてやろう」っていうのは変な自我で、それはいらないんですよ。でも、「今何弾いたの? 」ってことはあって。たぶん無意識にやってるんでしょうね。そういう瞬間が所々ありまして、「今何そのビート」みたいな。それを拾って私が刺激を受けるわけですね、そこでバーッと想像広がる。それに対して、「こうしてみよああしてみよう」っていう、そういうことが多いですね。
——今、自我っていうのがわかりました。攻める気は誰もないんですね。
バトル・セッションみたいな感じではないですね。
——作曲の話に戻るんですけど。ZAZEN BOYSは向井さんの表現したいこと、やりたいことがはっきりしたバンドじゃないですか。それってナンバーガールとやり方は一緒なんですか?
一緒ではないですよ。(ナンバーガールは)本格的にやった初めてのバンドですからね。バンドのやり方も分かっていないところから始まってますし。一番最初は、自分が憧れてるような英米のバンドみたいになれればいいなって、無邪気なものだったと思いますね。それが東京に出てきたりして、どんどんこう、もっとより自分の表現っていうものを見つけていくようになって。
——向井さんはソロでもやっているじゃないですか。ソロとZAZENでサウンドが違うのは当然ですし、表現したいことが2軸あるということじゃないですか。ソロとZAZENBOYSの中身の違いってありますか?
ありますよ。アウトプットの仕方が全く違うわけで、そこは違いですよね。ロック・バンド元素がありまして、自分の理想とするロック・バンドの形っていうのがあって。それを目指したいっていうのがZAZEN BOYSなわけですけども。ロック・バンドの人間が絡み合う、音が絡み合う、そこで生まれるものが好きなんですね。ソロの場合は、極端に自己中心的なものなんです。より自分で全責任を負うというか。ギターと自分の歌しかないですから、よりダイレクトに自分の世界観を表現できる。ただ、ZAZEN BOYSも超ダイレクトに表現できる場所でもあるんです。その出し方が違うかな。出所は同じなんだけど、出口が違うっていうかね。
——つまりバンドで、表現したい部分は大きいんですよね。
ソロをやる意味合いっていうのは、物理的に言わしてもらえれば、身軽さですよね。自分一人で、四方八方どこにでも行けますんで。そこは、いいなと思いますね。
——ライヴは自分の音楽性を高めていく素材としてあるんでしょうか。
自分のやっていることを直接的に聴いてもらって、直接的な反応をいただける場所がライヴなんで。ただ、作品として発表して、身も知らない想像も出来ないような場所の、例えば、鳥取の海べりの漁師の娘さんとかがipodで聴いてるとかね。そういうことを想像するのも楽しいわけですよ。ライヴは真ん前にいますからね。非常に嬉しいわけですよ。それを求めてライヴやってますね。
——向井さんの周りにはいろんな音楽が溢れてますが、最近影響を受けたものとかありますか?
ずっと昔から持っているものを聞き続けております。あまり新しいものは必要ないというか。プリンスにしたって、まだまだ色々な発見があるわけですね。飽きねえなぁと思ってですね。新譜でこれがかっこよかったといえば、そうね… ジェントル・ジャイアントくらいかな。初めて聴いたけど、カッコ良かったね。タコの絵のアルバムですけど。
——さすがに、次のアルバムは、まだ考えてないですよね?
はははは。2018年くらい… それは遠い未来の話になっちゃいますよね。
——かなり遠いですね。6年後にになってしまいますよ(笑)。
これからツアー始まりますんで、ライヴで作品の曲をやっていくことによって、色んな変貌を遂げていくと思います。
ーーわかりました。楽しみにしています。
RECOMMEND
toe / The Future Is Now EP
2年半振りとなるtoeの新作。昨年震災チャリティとして発表された「Ordinary Days」やゲストボーカルにACOを迎えた楽曲など、現在の様々な環境、状況を一歩踏み越えた力に溢れる珠玉の4曲。
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高田馬場を拠点に活動する3ピース・ロック・バンド・SuiseiNoboAzのデビュー・アルバム。向井秀徳がエンジニア&プロデューサーとして参加しており、向井らしさあふれる音作りをしつつも、彼らのロックな魅力をたっぷりと引き出している。
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ルックスからは想像もつかない自由奔放な爆裂ライヴで話題沸騰。ゆとりが生んだ最終兵器、tricot!! 変拍子を多用しながらもあくまでポップな楽曲群。ライヴでの勢いをそのままパッケージしたかのようなソリッドなバンド・サウンドと、中嶋イッキュウの繊細ながらも力強い歌声が胸に突き刺さる全6曲入りミニ・アルバム!!
LIVE SCHEDULE
ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2012
2012年9月20日(木)@梅田CLUB QUATTRO
2012年9月25日(火)@恵比寿LIQUIDROOM
2012年9月28日(金)@青森Quarter
2012年9月29日(土)@盛岡Club Change WAVE
2012年9月30日(日)@仙台CLUB JUNK BOX
2012年10月7日(日)@米子laughs
2012年10月8日(月祝)@高松DIME
2012年10月10日(水)@神戸WYNTERLAND
2012年10月12日(金)@金沢AZ
2012年10月13日(土)@岐阜CLUB ROOTS
2012年10月14日(日)@静岡Sunash
2012年11月3日(土)@高崎club FLEEZ
2012年11月4日(日)@水戸LIGHT HOUSE
2012年11月9日(金)@長野LIVE HOUSE J
2012年11月10日(土)@新潟CLUB RIVERST
2012年11月11日(日)@熊谷HEAVEN'S ROCK
2012年11月16日(金)@岡山IMAGE
2012年11月17日(土)@徳島club GRIND HOUSE
2012年11月18日(日)@松山サロンキティ
2012年11月20日(火)@大分DRUM Be-0
2012年11月21日(水)@長崎DRUM Be-7
2012年11月23日(金祝)@鹿児島SR HALL
2012年11月24日(土)@熊本DRUM Be-9
2012年11月30日(金)@札幌PENNY LANE 24
2012年12月8日(土)@広島CLUB QUATTRO
2012年12月9日(日)@福岡DRUM LOGOS
2012年12月19日(水)@渋谷AX
2012年12月24日(月祝)@名古屋CLUB QUATTRO
各公演の詳細はこちら→ ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2012
PROFILE
向井秀徳(Vo,G,Key)を中心に活動するニューウェイブ/ギター・ロック・バンド。ナンバーガール解散後の2003年から本格的に始動し、同年8月に行われた夏フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL」で初ライヴを行う。2004年1月には1stアルバム「ZAZEN BOYS」を発表。向井を中心にアバンギャルドかつ即興性の強い、複雑なバンド・アンサンブルで大きな注目を集める。2004年末でドラムのアヒト・イナザワが脱退し、松下敦が加入。2007年2月にはベースの日向秀和が脱退し、現在は向井、松下、吉兼聡(Gu)に吉田一郎(Ba)を加えた4名で活動している。