これぞ、Guiba流──超DIYの精神で制作した初作『ギバ』ができるまで
アカツカ(South Penguin)のもとに、熊谷太起(Helsinki Lambda Club / Group2)、シェイク ソフィアン(odol)、礒部拓見(South Penguin サポート)の3名が集結。メンバー全員がすでに他のバンドに所属しているなか、アカツカの「歌ものポップスがやりたい」という想いに共鳴し、Guibaは2022年の夏に結成された。翌年3月にファースト・シングル“愛の二段階右折”をリリースするまでの最重要課題は、“Guibaサウンド”をどう確立させるかということ。解散を視野に入れるほど難局に立った時期もあったが、彼らはついに自らのバンド名を冠したファースト・アルバム『ギバ』を完成させた。「ヒントさえあれば、すぐ曲になる」──フロントマン、アカツカの尽きることのない創作欲に食らいつくメンバー3名のアレンジ力。Guibaの音楽性はどのように確立され、いまどのように進化し続けているのか。
バンド名を冠した、Guibaのファースト・アルバム完成
INTERVIEW : Guiba
Guibaの初作『ギバ』をずっと聴いてたらたまらなくなって、イベント〈パンと音楽とアンティーク 2023〉(Guibaは11月18日出演)に彼らを観るためだけに足を運んだ。美味しいパンを食べながら観た彼らのライヴは、熊谷太起のギターはめちゃくちゃ上手いし、アカツカの歌とパフォーマンスは魅力にあふれていて極上の時間だった。2023年、やばいバンドがリリースしちゃったかもしれないです!!!
取材:飯田仁一郎
文:梶野有希
写真:小杉歩
Guibaは超DIYでやろうっていうスタイル
──今日はスタジオ終わりにそのまま取材させてもらっています。
熊谷太起(Gt):新曲を作ってました。
──新曲!
アカツカ(Vo / Gt):すごい勢いで常に曲を作っているんですよ。すぐにセカンド・アルバムを出せるくらいストックがあります。
──普段はセッションで曲作りしていないんですよね?
アカツカ:今日は珍しくセッションでやってたんです。
熊谷:スタジオで原型を作ってから、細かい部分は各々自宅で仕上げるスタイルが基本ですね。
──シェイクさんはodolでベースを、熊谷さんはHelsinki Lambda ClubとGroup 2でギターを弾かれていますよね。音色やフレーズはGuibaとどう使い分けていますか?
シェイク ソフィアン(Ba):odolは基本的に曲最優先でやってますけど、Guibaは逆にエゴ最優先でいいから、その上で曲に擦りあわせるようなスタイルですね。いつかアカツカさんから「それ違くね?」って言われる日が来るんでしょうけど、それはそれで楽しみです(笑)。
熊谷:Guibaのほうがフレーズは歌ものに寄せる意識はなんとなくありますね。あと僕は音色でいろいろやるのが得意というか、好きで。そういうやり方で自分の色を出していこうと思ってます。
──礒部さんはアカツカさんとSouth Penguinに所属されていますが、Guibaでのアプローチとの違いはありますか?
礒部拓見(Dr):サザンオールスターズの"海"のライヴ映像をみんなで共有しているんですが、あのムーディーな感じでやりたいっていうのがずっと残ってて。だからGuibaではニューウェーブに近いサウンドを出すスネアとか、無骨な芯のあるドラムを意識していますね。今作でもパーカッションを入れている曲では、隙間を埋めすぎてイマドキな感じにならないよう多少の余裕を持たせるようにしたり。最近のアーティストの音も参考にしつつ、いまっぽくなりすぎず、っていう絶妙なバランスを目指しています。
──ではアカツカさんはメンバーに対していかがですか? 熊谷さんとシェイクさんは自らやりたいと挙手されたそうですね。
アカツカ:熊谷さんは曲作りが煮詰まったときにアイデアをくれますし、ギターのエフェクティブなプレイもいいし、いちばん年上だから俯瞰で物事をみてくれるんです。シェイクも僕が言ったことは全部器用にやってくれる上に、それを形にするのが早い。ちゃんと僕の意図を汲み取ってくれながら、自我を出してきてくれるので、スムーズにコミュニケーションが取れるんですよ。礒部の実力はSouth Penguinで知っていたので、安心して自分からお願いしました。メンバーにはいろんな面で助けられていますね。仲もすごくいいんですよ。
──いちばん最初は、"らぶちぇん" "涙" "ハアト" "グラヴィティ"のデモをアカツカさんがメンバーへ送ったそうですが、その段階ですでに"Guibaサウンド"みたいなものはみえていました?
アカツカ:デモといっても弾き語りでしたし、肉付けもされてなかったので全然でした。このバンドをやるとき、最初にいいねって共有した曲は"愛して愛して愛しちゃったのよ"(田代美代子、/ 和田弘とマヒナスターズ)で。ああいうグループ・サウンズや昭和歌謡のイメージを最初は持っていたんですけど、その幻想は最初のスタジオで打ち砕かれちゃって。
──というと?
アカツカ:とにかくダサかったんです(笑)。そもそもこのメンバーで音出しをしたこともなければ、メンバー同士でのお互いの音の良さもわかっていなかったので。最初のスタジオは散々でした。
──そこからどうやっていまのGuibaになっていったんでしょう。
アカツカ:そのあとまたスタジオに入ったときに、「グループ・サウンズ」「昭和歌謡」というキーワードをなくして、自然な感じで自由に曲作りをしてみたんです。それで"養殖"を合わせたら、すんなりハマったんですよね。たぶんそこからバンドの方向性が切り替わったんだと思います。
シェイク:僕もそのときに、がむしゃらに昭和歌謡を意識するんじゃなくて、自分のなかにある弾きたいフレーズを活かそうと思ったんですよね。それから僕もやりたいことがどんどん出てくるようになって。曲のなかでベースのフレーズが立ってくるとそれだけで印象がかなり変わるので、臆せず挑戦しようと思うようになりました。
──"養殖"はバンドにとって重要な曲なんですね。どういったことを歌っていますか?
アカツカ:いまって自分の感性すらも自分で分かろうとしない人が増えていると思うんです。自分では考えずにあの人がいいって言ってるからいい、とか。そうやって感性を塗り固めていった人を描いた歌です。「養殖されて自分の感性が天然じゃなくなったら悲しいよね」っていう、今作でいちばんへーヴィーな歌詞ですね。
──楽曲制作はどのように進めていきましたか?
アカツカ:これはもともと、South Penguin用に作った曲だったんです。そこからGuibaの曲として落とし込むなら、歌ものになるからベースとドラムにこだわろうと思いました。特にドラムは他の曲と違うし、いちばんMIDIっぽい曲じゃない?
礒部:うん。基本的にはプリプロは各々の家でやっているので、新曲ができたタイミングでいつも簡単にドラムを打ち込んでいるんですよ。先行配信していた、 "涙" "愛の二段階右折" 、おめかし" "養殖"のドラムは打ち込みですね。
──でも礒部さん的には全曲叩きたかったのでは?
礒部:めちゃくちゃ思ってました。でも単純に僕らにドラムを録る資金がなかったので、打ち込みにするしかなかったんです。自分っぽい打ち込みのイメージはありますけど、それを実際に表現するのは大変なので、あんまりやりたくなかったんですけど……。「お金ないからよろしく!」って(笑)。
アカツカ:いまはなんの後ろ盾もなくやりたいっていうのがすごくあるんです。レコーディングも4人でお金を出しつつ、知り合いに手伝ってもらってやってますし。他の曲は生ドラムですけど、それも知り合いに力を貸していただいて。Guibaは超DIYでやろうっていうスタイルですね。
──それはなにか理由があるんですか?
アカツカ:メンバーそれぞれレーベルに所属しながら他のバンドをやっているので、それとはまったく別のものとしてGuibaはありたいんです。小さな活動に収まりたいわけではないけど、現状はできるだけ4人で、しがらみがない状態でやりたいんです。この先僕らだけで回らなくなってきたら、新たにスタッフさんにお願いさせてもらうこともあるかもしれないですけどね。
シェイク:第三者が入ってこなくてもいいっていうマインドは僕も共通しています。これから活動していくなかで自分たちにもっと資本があればできるのにっていうどうしようもない壁にぶつかったときにGuibaはまた違う選択を取るかもしれないですけど。ただ、いまは現状DIYでもやりたい人と一緒にできてるのでいいかなと。
──DIYの精神がありつつ、そこには売れたいというお気持ちも同時にあると思うんですよね。紅白への出場も目標のひとつであると最初から明言されていますし。
アカツカ:ぶっちゃけ、めちゃくちゃ売れたいですよ。有名になって大金を得たいってすごい思ってます。でも僕らは日本で流行ってる音楽をやっているわけではないし、あくまで自分たちのやりたいことをやるっていう軸はブレたらいけないとも思うんですよ。その気持ちがないと、バンドが売れたとしてもたぶん続かないだろうし。自分たちが続けられる音楽でありながら、長く聴いてもらえる音楽をやりたいとずっと思ってます。