谷口貴洋はどのように育ったのか?──自由で冷静な人間性の生まれ方
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人間や世間を鋭く、かつユニークに見つめるシンガー・ソング・ライター、谷口貴洋。シングル5ヶ月連続リリース中であり、今回シリーズ3作目となる最新作「Beauty」のリリース・タイミングでのインタヴューをした。最新作とあわせて、連続リリースの1作目「キレカケ」と2作目「あの子の歌声を聞いたとき」について、また11月、12月と配信予定の残り2作品についても、リリースよりも一足はやく語ってもらっている。ただ今回のインタヴューは楽曲制作ではなく、谷口貴洋という人物に注目した内容となっている。彼から生まれた言葉から、谷口貴洋の人間性とアーティスト性を探る。
谷口貴洋の新作音源はこちら
あの子の歌声を聞いたとき - 谷口貴洋あの子の歌声を聞いたとき - 谷口貴洋
INTERVIEW : 谷口貴洋
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谷口貴洋の音楽をはじめて聴いたとき、世の中や自分のことを俯瞰して見ている人の歌詞だと思った。それは8月にリリースされた「キレカケ」でさらに強く感じた。冒頭の「随分とあの人偉そうになされるから 面白くなっちゃって頭とか下げちゃうよ」なんて、偉そうにしている人を見て怒るわけじゃなく、谷口は2、3歩下がっておもしろがっている。掴めそうで掴めない。そんな彼の人間性はどうして生まれたのか? リリースされる新曲はもちろんのこと、改めて谷口のパーソナルな部分にも触れていこうと思う。
インタヴュー:真貝聡
写真:武石早代
子供ながらに「俺がいちばん可愛がられてないぞ」と感じていたんですよ
谷口:お久しぶりですよね?
──2年ぶりですね。
谷口:この2年間で色々ありましたね(笑)。
──ありましたよ、本当に。
谷口:ハハハ。お互いの仕事柄ね、大変やったと思いますけど。結構な2年でしたね。きっと、みんなが思い通りに行ってないだろうなって。
──前回のインタヴューって覚えてますか?
前回のインタヴューはこちらから
谷口:覚えてますよ。
──出だしが織田裕二さんの話だったんですよね。
谷口:そうそう! 『OVER THE TROUBLE』とか『お金がない!』の話をして。
──あとは、僕が谷口さんの生き方に嫉妬するという内容でした。
谷口:あー、そうでしたね(笑)。お陰様で前回のインタヴューは色んな方から反響がありました。曲のことだけじゃなくて、いままでどうやって音楽活動をやってきたのか、あとは僕の思想にも探っていく内容だったので、「気楽に読もうと思ったら、結構深いインタヴューやったね」と言われることが多かったです。
──記事を読まれた方は、どの辺に反応してました?
谷口:生い立ちに関しては、これまで「俺の過去はどうやった」とか言うことがなかったんです。だけど、あのインタヴューでは家族の話もしたし、結構パーソナルな話が出たじゃないですか。俺が人としてどうなのかっていう部分が世に出たのは、OTOTOYさんの記事がはじめてやったんで、そこの反響が大きかったですね。
──高校時代は好きな授業の日と大事なテストの日しか通わない、みたいな感じでしたよね。
谷口:うんうん。そうでした。
──そんな谷口さんの生き方に対して「学校に毎日通わなくても卒業できるなら、僕もそうしたかった」と言ったら「そうとも言えないですけどね」って。
谷口:うん。そんなに良いことではないと思う。その時代にしか作れない思い出もあるので、ちゃんと学校に行って、文化祭とか行事をちゃんと楽しんでる人の生き方は素晴らしいと思うんです。それに、そういう風に生きている人って、真っ直ぐ物事を見れるじゃないですか。文化祭を楽しんでない人間からしたら、自分がエンジョイできてないから「なにを楽しんでんねん!」という目線が変に養われちゃう。普通に学校へ行って、文化祭や体育祭も楽しむ真っ直ぐな心を持っていた方が、バンドのフロントマンには向いてますよ。
──そう考えると、谷口さんはフロントマン気質じゃない?
谷口:違うと思います。サッカーで言うとストライカータイプじゃなくて、パスを散らすアシストみたいな方が好きかなって気がしますね。
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──どこで自分の人間性が形成されたと思います?
谷口:家族のなかで、自分のポジションってあるじゃないですか。ウチは姉ちゃん、兄ちゃん、俺の3人兄弟なんですね。「末っ子っていちばん可愛がられる」と言われてますけど、個人の見解で言うと、両親は姉ちゃんを育てて、兄ちゃんも育ててるから、俺を育てる頃にはもう余力がない感じになっていた気がして。俺が幼稚園くらいから、両親が共働きをするようになったんですよ。「兄弟でいちばん可愛がられてないぞ」「気配りをしないと、こっちを見てもらえないかも」と当時から考えていたんですよ。だからピエロみたいにおどけてみたんですけど、それって自分から出てきたものじゃないんです。逆に、そのままの自分から出てきたもので人を惹きつけられるのが、エースストライカーだと思うんです。俺は周りを見ながら「こうした方がいいかな」と考えている時点で、それは完全にパサーの考えというかね。
──物心ついたときから、パサーだったと。
谷口:そうですね。家では姉ちゃんがいちばん上で、次に兄ちゃんがいて、というのは分かっていたので、そこからスタートしていましたね。
──お姉さん、お兄さんが両親から受けた愛情と、自分が受けた愛情を比較してしんどくならなかったですか?
谷口:うーん……分からないですね。そもそも、自分のポジションはそこしかなかった。ただ、言いも悪いもあるじゃないですか。極端に言えば、すごい金持ちの家に生まれて裕福に育つ人もいれば、すごい貧困のなかで逞しく生きる人もいるわけで。どんな境遇にも良し悪しがあると思う。だから「なんで、俺はこんなポジションやねん……」みたいに嘆くよりかは、「こうするしかないな」と受け止めていたところはありますね。
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