初期衝動はいつでもあると思うんです。だけど、おもしろいことだけをやっていたら、いつか萎んでしまう
──いま、シングル5ヶ月連続リリースという試みをされてるじゃないですか。8月にリリースした第1弾シングルの「キレカケ」って、高校時代に説教されて「ふざけんな」じゃなくて「ほっといてくれ」と思う谷口さんらしさが表れてるなと思いました。
谷口:歌詞だけ読んだら「こいつブチギレてるやん!」みたいな内容なんですけど、「キレカケ」と言ってるんでね。本人はブチギレて怒りをそいつにぶつけたいわけじゃなくて、何とかその感情に支配されないように抗いながら、「もっと大事なものがあるんだから感情に敗北するな」みたいなところがあるんです。それを、すごいロックテイストでやるよりかはポップにして、人生の機微というかおもしろおかしさを出したいと思った。どういうおかしさにしたいのかと言ったら、感情に支配される・されないで戦っている人間のおかしさと、80年代や90年代ポップスを下敷きにしたサウンドのおかしさが重なったらおもしろいなと思って、こういう作品になりましたね。
──先生に怒られたときの感情に近いですね。
谷口:近いと思います。
──怒っている相手を俯瞰して見てますもんね。
谷口:なんか怒ってんなって(笑)。
──それこそ「自己満足は自己完結させてくれ 俺に付き合わせないで」と言ってますし。
谷口:大人になったら、過去の自慢話をしたがる人って増えてくるじゃないですか。俺としては、「昔話をするならおもしろく話してよ」と思っちゃうタイプなんですよ。昔話をそのままするんじゃなくて、おもしろさをコーティングした方が良いのにって。
──自慢話からの「俺も同類か 姑息な戦いか いや絶対違う笑ってすませない」っていう。
谷口:本当はおもしろいと思ってないのに、相手に合わせて作り笑いをしたらお互いのためにならないんですよね。相手のペースに無理やり合わせないし、無理にキレない。「キレカケ」くらいで止めておこうってことですね。
──9月にリリースされた第2弾シングル「あの子の歌声を聞いたとき」は、前作とカラーがガラッと変わりますね。
谷口:これは俺じゃなくて違う主人公の目線で書いたんですよ。
──あの子の歌声を聴いて「俺は俺で新しい一歩を踏み出そう」と旅へ出る曲ですね。
谷口:そうですね。例えば、引きこもりの子にとっては家から出ることが一歩なのかもしれない。その一歩は昨日まではなかった、おもしろい一歩なんですよね。そこに対しての曲をかければ、誰しもが経験したことのある日常になると思って作りました。
──今回リリースする第3弾シングル「Beauty」は、作詞が谷口さんで作曲が⻑澤知之さん。サウンドとしては「あの子の歌声を聞いたとき」に近いミニマルな音像ですね。
谷口:派手なものにはしたくなかったんですよね。この曲が出来たのは2年前くらいで、それこそ前回のインタヴューをしていただいた直後ですよね。その頃からアルバムを作りたい構想はあったので、⻑澤さんと「1曲作ろうよ」という話になって。ある日、代々木公園で長澤さんが「こんなメロディがあるんだ」と言ってくれて。そのときはAメロBメロもしっかりとは出来てなかったんです。「こんなメロディがあるから繋げ方は自由にやって良いよ」と言われて。それで俺が構成を考えて歌詞を入れたんです。
──曲を聴いて、どんなイメージが湧きましたか。
谷口:人間のひたむきさであったりとか、もがいている姿にこそ宿る美しは絶対にあると思ったんです。その美しさを残すとなったときに、派手なリズムやストリングスを加えるより、やっぱり素朴な真っ直ぐ伝わる音像にした方が良いということで、ピアノとギターだけのアレンジになりましたね。
──前回インタヴューをして「今後、谷口さんはこういう曲を書くだろうな」と思ったのが、まさに「Beauty」のイメージだったんですよね。
谷口:あ、そうなんですか!
──あのとき「ライターのなかには雑誌のカラーに合わせて原稿を書く人と、そんなの無視して書きたいように書く人がいる。僕は前者のタイプな気がするから、後者の人を羨ましいと思うんです」と言ったら、谷口さんは「その人が雑誌のカラーに染まろうがなにをしようが、必死にやっていたら後で絶対に輝くと思うんですよ。そのときに頑張った輝きがいつか自分を照り返してくれて、振り返ったときにもっとオリジナルになっていることが絶対にある。その瞬間は迎合している見られ方をしてても、必死にやっていたらそれで良いと思うんですよ」と言ったじゃないですか。
谷口:うんうん。
──あとは「次のアルバムは『どんなことも肯定すれば、君の人生も俺の人生も美しくなるんだよ』という音楽を歌うのかなって」という話もしてて。
谷口:ああ、そうですね!
──「Beauty」には、当時の発言がそのまま反映されている気がして。
谷口:そうやと思います。例えば「これをやっていて良かった」と思う瞬間が稀にあるじゃないですか。その成功が永遠に続くのはあり得ないですけど、そのときのパッと心に灯った美しさは絶対に残るものやと思うんですよね。逆に言えば、そういうものしか残らない。例えばコンクリートだって何だって、人間が作ったものは、人類が滅んだら全てなくなると言われているんですよ。だけど、そのときに宿った美しさは絶対に残っていく、ということを曲にしたいと思って「Beauty」を書いたんです。だから「エンディング」のインタヴューで話したのは、まさにこの曲のイメージでしたね。
──11月にリリースする第4弾シングル「ムショク」ですけど、冒頭の「公園でおじさんが酒を飲んでる」「⻤殺し旨そう」のくだりが好きでしたね。
谷口:長澤さんの家に集まって、壮平さんと俺の3人で飲んでいる時期があって。で、長澤さんの家に行くと、絶対にストロング缶と鬼殺しが置いてあったんですよ。それで「これ、飲みなよ」と言われて。
──アハハハ、潰しにかかってるじゃないですか。
谷口:パワハラとじゃなくて、友好的な場所ではあるんですよ(笑)。とにかく鬼殺しを飲んだときに、道端にいるおじさんはコレに行き着くんかと思って。それもそれで1つの人生やなと思って「ムショク」を書きましたね。
──鬼殺しのチョイスは絶妙だなと思ったんですよ。あれって味を楽しむというか、酔いたくて飲むじゃないですか。
谷口:なんか哀愁のあるお酒ですよね。やっぱり「ムショク」というのは仕事がないという意味もあるんですけど、自分に色がないという無色でもあって。真っ昼間の公園で鬼殺しを飲んでいるおじさんを見たら、自分は何のキャラクターもない無色な人間やなと思って「どこで間違えたんやろう」というBメロに繋がるんですよね。でも、サビでは「どうなったってオリジナル だけどいつの間にかサブリミナル」と歌ってる。やっぱり自分の生きてきた光景って、どこかでフラッシュ・バックするというか。「あの人みたいに生きたい」と思っても、生きてきた映像は自分では上手に消せないし、それが積み重なっていけば自分が見たもので蓄積されて明らかなオリジナルになる。そのなかには醜い映像や汚い映像もあるけど、それをいかに濾過していくかってところのオリジナルさも、またおもしろくて。それを続けていくことで、とんでもないオリジナルなものが出来上がっていくんじゃないかって曲ですね。
──個人的には「キレカケ」と同じくらい「ムショク」も好きで。他と比べてポップさが高いですよね。
谷口:うんうん。いままでは全部自分でプロデュースをしていたんですけど、「キレカケ」と「ムショク」は違う方にお願いしているんですよ。それが嵐やKAT-TUNの作詞作曲を手掛けているオーノカズナリさん。地元が全く一緒なんですよ。それで波長があって協力してもらうことにしました。おかげで今まの俺になかったような、ポップなサウンドになりました。
──最後は、12月にリリースする第5弾シングル「ランプ」。
谷口:1曲だけ弾き語りを入れたいなと思って作りましたね。ビートルズが好きなので、ポールみたいなフィンガーで音像を作るイメージで、サラッとした曲を目指しました。12月って冬場なので、透き通った街並みに合うんじゃないかなって。
──最後に、谷口さんはどのようにキャリアを重ねていきたいですか。
谷口:音楽はずっと続けていくんですけど、アーティスト活動の傍ら1年前からスポーツ・ライターの仕事をはじめまして。
──へえ!
谷口:そういう色んなことをおもしろがりながら、そこで経験したことを音楽にも還元していきたい。初期衝動はいつでもあると思うんです。だけど、それだけをやっていたら、いつか萎んでしまう。新たに初期衝動を沸かせるには、自ら色んなものに触れていかなければいけない。
──音楽だけをやっていたら、その初期衝動は萎んでしまうと。
谷口:そうそう。最近やと、ラジオ川越でMC(大柴広己 / 谷口貴洋による音楽ラジオ番組「ZOOLOGICAL RADIO」)をやらせてもらうようになって。インタヴューの冒頭でお話しましたけど、俺のパーソナルな部分をおもしろがってくれる人も多いことが分かったので、そういう面を出しながら人様に曲を届けていくのが、自分に合っているのかなって。スポーツ・ライターとか、ラジオとか、音楽以外でも自分の名前がちょっとずつでも人に届いて、曲を聴いてもらえたら良いなと思ってますね。
編集 : 梶野有希
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PROFILE : 谷口貴洋
1988年10月13日大阪生まれ。B型。ギター弾き語り /シンガーソングライター。2013年4月24日に大柴広己主宰のレーベルZOOLOGICALよりデビュー。1st Album「スケジュールとコイン」をリリース。2014年には小山田壮平(AL)を中心として後藤大樹(AL)岡山健二(クラシクス)、濱野伽耶(Gateballers)らと共にSparkling Recordsを設立。2015年にはSparkling Records初の主催イベントを恵比寿リキッドルームでSOLD OUTで成功させる。2016年5月18日、Sparkling Recordsより2nd Album「BABY」をリリース。2018年8月20日には谷口貴洋主催イベント「Sparkling Acoustic」を渋谷La.mamaでSOLD OUTで成功させる。2018年8月21日、配信限定シングル「つまんねぇぞ俺」を発売開始。SSW、FOREVER YONG、環七フェスティバル等のイベントに参加し、美しい旋律に実直な歌詞を乗せて悲哀、焦燥、 憤怒、歓楽、様々な感情を表現している。また、小山田壮平、長澤知之、大柴広己、関取花、石崎ひゅーい、橋詰遼(蜜)等、多数のシンガーソングライターからの支持も集めている。
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