激変を遂げても鳴らされる豊かな楽曲たち──my letter、約2年半ぶりのフル・アルバムをリリース

京都が生んだ愛すべきアート・パンク・バンドmy letter。2014年にリリースした1stアルバム『my letter』から2年半、満を持して会心の2ndアルバム『僕のミュージックマシーン』をリリースする。OTOTOYでは今作を2017年4月5日よりハイレゾ配信スタート。前作リリースからの間でドラマーの脱退、拠点としていた京都からの移住など、バンドを取り巻く環境は大きく変化を遂げた。それでも豊かに響き渡る楽曲は、変わることなく鳴らされ続けている。2ndアルバムをリリースするタイミングでVo.キヌガサへのインタヴューを敢行。音楽をやることについての彼の考えや、キヌガサとはどういう人物なのか迫った。

2年半ぶりとなる、待望の2ndフル・アルバム

my letter / 僕のミュージックマシーン

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?

【配信価格】
単曲 200円(税込) / アルバム 2000円(税込)

【収録曲】
1. ニュータウン・パラダイス
2. エスケープ
3. 僕のミュージックマシーン
4. アンサー
5. 透明になろう
6. なにかしたい
7. 明日になれば
8. ブルーバード
9. 灰
10. AWK
11. スイート・ホーム・キョート

INTERVIEW : キヌガサ(my letter)

京都発のアート・パンク・バンドであるmy letterが約2年半ぶりに2ndアルバムをリリースする。メロディの良さ、アレンジの秀逸さは前作よりもグレードアップしていて、ここまで多色性の豊かな11曲を生み出せるVo.キヌガサとは一体何者なのか? ということが聴けば聴くほどに気になってしまう。これまで、音楽のルーツについては散々インタビューで語られてきたが、彼自身の生い立ちについては詳しく言及されてこなかった。そこで、今回は新作『僕のミュージックマシーン』を軸に、キヌガサのことを掘り下げてみようと思う。

インタヴュー&文 : 真貝聡
写真 : 大橋祐希

音楽をやることがもっと手軽になってほしい

my letterキヌガサ(Vo.)

──『僕のミュージックマシーン』は、前作の『my letter』から約2年半ぶりのリリースになりますが、ご自身としてはようやくという感じですか? それとも思ったより早くできました?

キヌガサ : ペース的には遅いですね。大まかな形は前作から1年経ったぐらいにはあったんですよ。あとはいつ仕上げるかみたいなのをズルズル引っ張った結果、2年半かかってしまったという感じで。

──着手するまでが遅かったんですか?

キヌガサ : というよりも、1stは録音する前からすでに曲が揃ってたんですけど、2ndはまだ曲が出来上がってないものを手探りで進めていったので、そこに時間がかかったんですよね。

──時間はかかっても、こんなに素晴らしいアルバムを作ってくれるならイチファンとしては待った甲斐がありましたよ。

キヌガサ : あはは、ありがとうございます。

──今作はこれまで以上に歌詞の引き出しが増えてますよね。「アンサー」は〈いつまでも 歌ったりしてられないの 見つけた答えがなくなっていく〉という歌うことへの自問自答が綴られていたり、「スイート・ホーム・キョート」の〈いつもの道が 雨にぬれて キラキラと君を待つ〉って、この1節だけで映画を作れるぐらいのキレイな世界観を感じました。歌詞を作る時はどんなことをイメージされてるんですか?

キヌガサ : 歌詞を書く時に物語をイメージして作詞するタイプではないので、ストーリーと言うよりはその時に感じていることとか、「こうだったら良いなあ」って願望とか、個人的な思想が入りがちですね。全体的に思っていたのは、音楽をやることがもっと手軽になってほしいというか。どんな方法でも良いから「音楽を作り続けていれば良いじゃないですか?」ということを何となく曲を作りながら考えていましたね。

──音楽を作ることを、もっと手軽に捉えてほしいと。

キヌガサ : そうですね。個人的にバンドをやっていることは凄いことじゃないと思っていて。「仕事をやりつつ、スタジオに入るなんて大変だね」みたいなことを言われますけど、別にスタジオに入るなんて2~3時間のことで、映画を1本観るのと変わらないんですよね。気楽と云うわけじゃないですけど、マイペースに音楽を作っていきたいなという気持ちをアルバム全体に込めてますね。

──“マイペースに”とは言いつつも「なにかしたい」の歌詞は若者の生き急いでる感じがして、気楽と真逆の印象を受けましたけど。

キヌガサ : ふふふ、そうなんですよね(笑)。マイペースに…… とは思いつつも、普通に仕事はしてるし、毎日スタジオに入れるわけじゃないですから。それに明日、車に轢かれたら終わっちゃうじゃないですか。だから、気楽にとは言っても、早よせなあかんなぁと思ってる自分もいるんですよね。だけど、音楽は焦ってまでやることじゃないよねって気持ちもあったりして。何かね、どんどん活動はしたいけど、生活はあるし、かといって生きているうちにやれることをやらないと何も残らなくなっちゃうので。その辺の感情が入り混じっているのは事実ですね。

こうはなれないものに対して憧れがあるんです

──歌う上で核となっていることは何なんでしょうか?

キヌガサ : 自分たちのことをパンク・バンドだと言っているのは、好きなことを好きなようにやらなければ意味がないって想いなんですよ。でも核となっているのは、各自が好きなことを、自分たちのペースで出来るようになったらいいなというところなので。それこそ、仕事が忙しいからバンドは辞めるっていうのは、優先順位の問題なので否定はしなくて。僕が属しているバンドに関しては、ゆるい気持ちでやっていけたらと漠然に思ってますね。

──その姿勢って誰か見本がいるんですか?

キヌガサ : 僕も考えてたんですけど、あんまりいなくて。羨ましいなと思う人はいっぱいいますけど、そうなりたいかは別なんですよね。だからこそ、好きにやったらええやんって考えになると思うんですけど。

──ちなみに作詞をする上で影響を受けた方はいますか?

キヌガサ : THE BLUE HEARTSに出会ってから日本のパンク・バンドにハマるんですけど、1番衝撃を受けたのはINUなんですね。だから、町田康の影響は多分にあると思うんですよ。それは、THE BLUE HEARTSよりも大きいのかな。

──INUに惹かれた理由はなんだったんでしょう。

キヌガサ : その時に理解できなかったからじゃないですかね。全く理解ができないわけでもないけど、手が届きそうで届かない感じが好きというか。その感触を17、8歳の多感な時期に覚えたので、多分そのインパクトが強いんだと思います。

──当時はヒットチャートに入るような、いわゆるメジャーな音楽は聴いてました?

キヌガサ : イエモン(THE YELLOW MONKEY)、ジュディマリ(JUDY AND MARY)、スピッツ、the brilliant greenですかね。その辺が世代的に聴いたりしました。

──ルーツについてもう少し探っていきます。キヌガサさんのTwitterを読んでいたら『仁義なき戦い』が好きだったり、古田敦也さんの『古田式・ワンランク上のプロ野球観戦術』が面白い! なんてつぶやいてたり。好きなものの振り幅がかなり広いと思ったんですけど、音楽以外のカルチャーは何を通ってきたんですか?

キヌガサ : 本を読むのも、映画を観ることも、スポーツ観戦も好き。多分、その辺が好きなことなんですね。考えてみると、自分ができないことを見るのが好きなんですよ。映画も自分には撮れないですし、スポーツに関してもあんなに速く走ったり、球を速く投げたりもできないので、そういうことに対しての憧れがあって。

──日常生活でピストルを持つこともないですからね。

キヌガサ : そうそう(笑)。『仁義なき戰い』が好きなのも、自分とまったく接点がないからだと思うんですよね。考えてみると、自分がなりえないもの対して凄く魅力を感じるんですよ。

──それは小さい頃からですか?

キヌガサ : 恐らくそうなんでしょうね。元々はオカルトちっくなものも好きでしたし、特撮とか。やっぱり自分がこうはなれないというものに対しての憧れは幼少期から持っているんやろうなと思いますね。それこそパンク・バンドにハマったのも、自分がああいうことをやるって考えたことがなかったし、サイケデリックとかガレージ・ロックも物理的に出来ないじゃないですか。ドラッグも違法ですし、そういう自分の手に届かないことが好きなんですね。

──子供の頃ってカッコイイと感じたものや、魅力を感じたものに自分もなりたい! って近づこうとするじゃないですか。だけど、自分はなれないっていう視点を幼少期から持っていたのは面白いですね。

キヌガサ : だから、どんどん自分から遠いものを見てるんでしょうね。小説を読んだり、漫画を読むのが好きというのも結局、実体験でないことを体験したかのように感じられるからだと思います。

──本は何が好きなんですか?

キヌガサ : 小さい頃、図書館の端から端まで読んだのは江戸川乱歩ですね。少年探偵団シリーズを片っ端から読んでました。

──それは何歳の頃?

キヌガサ : 小学校低学年の時ですね。たまたま、学童保育にあった江戸川乱歩を読んで、明智小五郎や少年探偵団や怪人二十面相の世界にハマったので、本を読み始めたのはそこから。だから、人生の中で1番読んだのは江戸川乱歩じゃないですかね、結果的には。

──大人になってから江戸川乱歩作品を読み返すと、こんなに狂った世界だったのか! って思いますよね。

キヌガサ : まあ、まともじゃないですよね。今になるとギャグか! って思いますけど(笑)。余談になっちゃいますが、少年探偵団シリーズの中に1冊だけ衝撃のラストがあって。女の子を蝋人形にするシーンが強烈に頭の中に残ってるんですよ。なんかね、そういう無茶苦茶な世界が…… 何かこう自分を形成する一部になってると思いますね、残念ながら(笑)。

──自分にはなれないものほど惹かれるということですけど、my letterの曲にも“なれないものになりたい”という願望があったりするんですか?

キヌガサ : それを書いたことはないですね。周りのこととか、そうなったら良いなと思うことを歌ってます。なれないから面白いのであって、なっちゃうとそれはそれでしんどいやろうなって考えちゃうんで。それよりも、より楽しく、より充実した日々を過ごすために、バンドを楽しく続けていくことに尽きると思いますね。

音楽を続ける上ではお金は必要だと

──歌い方についても迫りたいんですが、あの独特な歌唱方法にはルーツがあるんですか?

キヌガサ : ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかドアーズとかテレヴィジョンを聴いてたのは、歌詞のメッセージ性と言うよりも、音が飛んでくる感じが好きなんだなと思ったんですよ。だから、曲の内容はそこまで重要視してなくて、歌った音の響きが大事なんですよね。

──何を歌っているかよりも、音の響きを優先していると。

キヌガサ : でも、歌詞カードを読んでつまらなかったら嫌じゃないですか。そこには、ある程度のメッセージがないといけないと思うので。その両方をどうやって成立させるかというのが毎回の課題ですね。

──確かに。日本語で歌う以上は、どうしても言葉に意味をもたせてしまいますよね。

キヌガサ : 自分で分かっていることなんですけど、僕の書く歌詞は固有名詞がすごく少ないんですよ。何か具体的に物の名前を言ってしまうと、そこからがすごく刺さってしまうじゃないですか。例えば「お茶」っていうと、その言葉がすごく残ってしまうので。自分が曲を作る時は、とっかかりを与えないように意識してますね。

──固有名詞がなかったり、具体的に説明しすぎなかったりすることで、人によって歌詞の解釈は大きく変わりそうですね。

キヌガサ : そうですね。うろ覚えで恐縮なんですけど、INUのライナーノーツに“僕の歌詞に書いているお前というのはあなたのことでもあるし、私のことでもあるし、なんでもいいんだよ”みたいなことが書いてあって。多分、そういう想いが抜けていないというか。僕の歌詞も、結局は僕自身のことじゃなくてもいいですし、聴いている方に色んな見え方があると面白いなって思いますね。

──今後の活動についてもお聞きします。今年で結成10年目になりますが、振り返ると長かったですか?

キヌガサ : どうですかね、7年間は冬眠してたようなもんですから(笑)。実質は3年しか活動してないので、まだまだ気持ちは若手ですよ。本当は1年に1枚ペースでアルバムをリリースして、4枚目で解散するハズだったんですけど(笑)。

──ははは、そんなプランが(笑)。

キヌガサ : 大体、昔のバンドってそうじゃないですか。名作4枚ぐらい出して「お前はどれ派?」みたいなのが良いじゃないですか。それを目指してたんですけど、なかなかそうはできなかった。

──バンドをここまで続けてこれた理由は何でしょうか?

キヌガサ : 1番大きいのは、具体的な目標がなかったからだと思います。結局、このアルバムを誰に聴いてほしいかと言ったら、間違いなく自分自身なんですよね。my letterのことを知らない自分がいたら、その自分がこのアルバムを聴いた時にどっぷりハマるものを作りたいなと思って。聴いてくれる人にはアレですけど、すごくパーソナルな部分があるのは事実ですね。

──10周年イベントとか考えているんですか?

キヌガサ : 「10年積み上げたきたか?」と言われると、まだアルバム2枚ですし。あんまり節目な感じがしてないから特にはないですね。…… あの、最後に良いですか?

──何でしょうか?

キヌガサ : レモン・パイパーズっていうサイケデリックのバンドが、67年に『グリーン・タンバリン』って曲を発表したんですよ。普段はろくに歌詞を読まないんですけど、そこに〈money feeds my music machine〉って1節があって、音楽を続ける上ではお金は必要だと。そこの歌詞にインパクトを受けたんですよね。

──それが今作のタイトルに繋がるんですね。

キヌガサ : やっぱり音楽をやるということはお金も環境もなければダメですし、自分の中でペースを作ってやっていくものなのかなって。そんな想いが『僕のミュージックマシーン』というタイトルには込められているんですよね。

過去作もチェック!

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LIVE SCHEDULE

night after night vol.12
2017年4月29日(土)@下北沢THREE
出演 : my letter / 余命百年/ キイチビール&ザ・ホーリーティッツ / The Whoops / THE FOREVERS

『僕のミュージックマシーン』release tour in 名古屋
2017年5月14日(日)@名古屋spazio rita
出演 : my letter / CARD / ログメン / eito

PROFILE

my letter

2007年、同じ大学の軽音楽部に所属するメンバーで結成。京都のライヴハウスを中心に活動。
2012年秋に創設メンバーであるGt. フジイが脱退、新メンバーまつもとが加入。2014年1月、スウェーデンのMARCHING BANDと共演。メンバーに絶賛され、その演奏シーンが彼らのMVにも使用される。
2014年12月、結成から7年を経て初の全国流通公式音源となる1stアルバム『my letter 』リリース。リード・トラック「アメリカ」が各地でパワープレイになるなど、大絶賛を浴びる。国内勢では、オワリカラ、Hello Hawk、bed、CARD、SuiseiNoboAz、the mornings、toddle、moools、チームマモル (nhhmbase、マモル&ザ・クリティカルヒッツ)、Taiko Super Kicks、水中図鑑らと対バン、海外勢ではUSのOWENや+/- {PLUS/MINUS} 、YOUNG STATUES 、前述のMARCHING BAND 、UKのDELTA SLEEPのオープニングを務め、各バンドやそのファンを虜にするなど、洋楽との親和性も高い。
2015年10月、ボロフェスタ出演をもって、Dr. のキャシーが脱退。以後、サポートを迎えて活動を続ける。同年11 月、金沢のnoidとともに、初のアナログとなるスプリット7インチをリリース。

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この記事の筆者
ライター真貝聡

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