1万通りの1対1を大切にするpolly──つぶれかけていたロマンを再構築した新作

pollyはコロナ禍以降、音楽理論を学び直すなど、より真摯に音楽と向き合ってきた。神秘的で幻想的なサウンドを聴くと、どこか遠い存在のように思えるかもしれない。だけど歌詞を覗けば、パーソナルですごく繊細だ。そんなpollyが、バンド・サウンドを重んじつつも、その垣根を超え“音楽作品”として強度を出す方法を考え抜いたというサード・アルバムがリリースされた。インタビューでは、インタヴューでは、その気になる新作と2022年2月6日(日)に迫る渋谷WWWでのツアー・ファイナルへの意気込みを語ってもらった。
最新作はこちら
最新MVはこちら
愛している - polly(Official Music Video)愛している - polly(Official Music Video)
INTERVIEW : polly
pollyのニュー・アルバム『Pray Pray Pray』が素晴らしい傑作に仕上がった。今作で彼らの音楽は大きく変わった。といって彼らの音楽の根本が変わったわけではない。これまでのpollyの繊細さ、美しさ、いびつさのようなものは残しながら、メロディはポップで親しみやすく、アレンジも音像もダイナミックで雄大でメリハリが効いたものになって、より多くの聴き手に開かれた印象がある。これまでのpollyのアルバムが自分たちの意思を混じり気なしに結晶化したような純粋で孤高な作品であるなら、今作ではそうして作り上げた楽曲をより多くの聴き手に届けたいという力強い意思が感じられるのだ。レコーディング/ミックス・エンジニアにはIvy to Fraudulent Gameの盟友・福島由也、さらにマスタリングをNYの名門スターリング・サウンドのグレッグ・カルビとスティーヴ・ファローンに依頼し、pollyの意図する表現を的確に音像化している。『祈り』と題された本作には、大切なものを失った喪失感と、いつかまた巡り会えたらという切なる思いが込められている。亡くしてしまうことでさらに成長した彼らの最新型がここにある。
インタヴュー・文 : 小野島大
写真 : 梅田厚樹
1から理論だったりサウンドの表現方法だったりを勉強し直した
──1年ぶりの3作目『Pray Pray Pray』はバンドとして一皮も二皮も向けた傑作に仕上がりました。いまの手ごたえみたいなものを教えていただけますか。
越雲龍馬(vo,g)(以下、越雲): いままでの作品のいい所だけを残せたアルバムじゃないかと思います。目指した作品像に対しての無駄がほとんどない。やっと自分らの代名詞と言えるような作品ができた。将来聴きかえした時に、“ああしておけばよかったな”みたいな後悔が前の作品たちよりも少ないんじゃないかなっていう手ごたえはものすごく感じていますね。
高岩栄紀(ds)(以下、高岩): 今作は曲作りも含めていろいろ多様性が出てきたし、新しい機材を導入したりしてさまざまなことに挑戦できた。いろいろ楽しめた作品だったなぁと思います。
須藤研太(b)(以下、須藤) : 前々作、前作と引き継いで磨いてきたバンドとしてのサウンドは勿論、如実に出せたかなと思うんです。最後の“silence”って曲とかもそうなんですけど、バンドで使う楽器以外のものを使うことで(楽曲に)幅も出ましたし、それによってバンド・サウンドとしてももちろん、音楽作品としても強度が出せたかなって思いました。
飯村悠介(g)(以下、飯村) : 曲としての強さっていうか、いろいろなプレイリストに入ったとしても、バーッと流れてるのを聴いても、耳馴染みのあるというか、聴いていても覚えやすい、メロディや歌詞が頭に残っているような、そんな楽曲が揃ってるんじゃないかと。軸がちゃんと立ったというか、筋があるなっていうのは、すごく感じています。
──今作が充実したものになったのはなにが理由だと思いますか。
越雲 : 僕個人としては、コロナ禍でライヴができなくなったり、スタジオで4人でフィジカル的に合わせる時間が圧倒的に減ったことで、家で自分だけで得るものが圧倒的に多かったんです。1から理論だったりサウンドの表現方法だったりを勉強し直した結果、自分が頭のなかに思い描いていたスケール感やメロディーの引き立たせ方、音像だったりバンド像みたいなものが的確に表現できるようになった。それが自信に繋がってるんじゃないかなっていう想いはあるんですよね。
──ひとりでの作業が増えたとはいえ、pollyはバンドであり、バンドでレコーディングするのは大前提です。そのふたつはどのようにすり合わせていったんですか。
越雲 : 『Clean Clean Clean』(2018)から同じような作り方をしてるんですけど、僕がデモでアレンジの大体ぜんぶを作ってる。今回は僕が3人に対して表現してほしいことをより具体的に的確に伝えられるようになったのが大きいですね。
──言葉でってことですか?
越雲 : 言葉だったり、あとはデータの投げ方とかも、前よりもわかりやすい形でできるようになりました。あとはメンバーそれぞれ技術的にも表現力もスキルアップしてるのを感じていたので、安心してそれぞれにフレーズを投げることができたかなぁって。
──越雲さんが作ってくる曲を聴いて、例えば以前の自分だったらできなかったけどいまはできるとか、以前は分からなかった部分が分かるようになったとか、そういうのはあるんですか?
高岩 : ドラムのフレーズとか、自分は凝り固まっちゃってて、これ以上引き出せないっていうとき、越雲さんが案を出してくれて、「こういうフレーズもあるのか」って思ったりします。意外と自分のアイデンティティを残してくれるフレーズを提供してくれて。“Light us”とかはシンバルレガート(シンバルを使った4ビートの基本的なリズム)を取り入れてくれて。僕ちょっとジャズが好きなんですけど「まさかこの曲に入るとは」って思って。「ああここでこれ使えるんだ、嬉しい」みたいな、そういうこともあって。
越雲 : スタジオで休憩時間に叩いていたり、彼らが弾いているフレーズみたいなのが割と耳に残っていたりして。そういうのが好きなんだな、じゃあここに入れてみようかなっていう。そういうインスピレーションがあって。1曲に1つずつくらいは彼らっぽいフレーズを残して(デモを)投げるんですけど。
高岩:凄いおもしろみがあると思います。

──もらったデモテープのフレージングとか、自分の裁量で変えられる部分はどれくらいあるんですか?
高岩:大まかなところは越雲さんが作ってくれて。細かい所は(自分で)。
越雲 : 曲によって絶対に変えないでくれっていうこともありますけど、「この曲のこのフレーズはちょっと考えてみてもいいよ」っていう場合もある。自分で作ってる以上、他の3人よりも絶対にいいフレーズを作ってやろうみたいな気持ちが僕にはあるんですよ(笑)。
──よくあるのは、ドラムを叩かない人がドラムのフレーズをつくると、絶対に(ドラマーが)叩けない感じになるとか(笑)。
高岩:そうなんですよ!(笑)
──手が3本ないと無理だよ!みたいな(笑)。
越雲 : それはあった(笑)。
高岩 : それはちゃんと言います。“A.O.T.O”とか、最初の(デモ)音源、無理でしたよ(笑)。あれは16ビート叩きながら、手が4本くらいないとダメみたいな。話し合ってやりやすいように変えてもらいました(笑)。
越雲 : 作品としてそれは妥協なんだけどね(笑)。
高岩 : 妥協って!(笑)物理的に無理なんだからしょうがないじゃん!(笑)
──pollyはギターが2本いるバンドで、コンポーザーである越雲さんも弾いていますが、もう1人のギターである飯村さんはご自分がやるべき事はなにだと思いますか?
飯村 : 僕はキレイなシンセっぽい音とか、ギターだけどギターじゃないような音を求めてますね。普通だったらギタリストって自分が気持ちいい音を出すと思うんですけど、pollyをやってる以上は普通の音じゃなくて、外れたもの、プラスアルファなものを自分で追求していかないといけないなっていうのはあって。例えば“窓辺”、“Farewell Farewell”とかそうなんですけど、ギターシンセの音を多用してたり。普通に聴いたら「これってギターなの!?」「どれがギターなんだ?」っていうクエスチョンマークがつくようなのがおもしろいのかなって思うんです。