究極のエンターテイナー、愛はズボーン!──誰も知らない感情と遭遇する新世界を
“愛はズボーン”という概念をアップデートしたニュー・アルバム『MIRACLE MILK』。「ミラクル」「マジカル」「ケミカル」をテーマに制作された収録曲は、言葉と音で遊ぶことで愛はズボーンがこれまで構築してきた独自の世界観をより強固なものにしている。未知なる世界への入り口となり得る今作に内包された、ユニークでトリッキーな発想はどのように生まれたのか。フロントマンである、金城昌秀とGIMA☆KENTAに冒頭で尋ねると、その答えは大喜利だった。予想以上のポップな返答に早くもワクワクしながら、インタビューを進めていく。
テーマは、「ミラクル」「マジカル」「ケミカル」!
INTERVIEW : 愛はズボーン
愛はズボーンのニュー・アルバム『MIRACLE MILK』のリリースが告知されたのは、昨年末のこと。ライヴのステージ上から、リーダーの金城昌秀(Vo / Gt)が「完璧なアルバムができました!」と、自信満々で発表したことを覚えている。「これはすごいアルバムになるに違いない」とワクワクしながら聴いた4thアルバム『MIRACLE MILK』は、期待感のハードルを悠々と飛び越える傑作だ。ヒップホップにはじまり、怒涛のオルタナティヴ・ロック、打ち込みのテクノまで、あらゆる音楽を咀嚼してオリジナル曲にしていく自由な探求心。音楽のみならず、その生き方には羨ましさすら感じてしまった。今回、バンドを代表して金城とGIMA☆KENTA(Vo / Gt)に話を訊いた。これまでも「誰にも似ていなくてどこにもいないバンド」だった彼らは、今作でさらに "愛はズボーン" になった。
取材・文 : 岡本貴之
写真:日吉”JP”純平
マジカルな曲とケミカルな曲を行ったり来たりする
──昨年末に下北沢シェルターでライヴを拝見したときに、GIMAさんと白井(達也/Ba) さんのステージでの立ち位置が変わってGIMAさんが中央で歌っていましたが、あれはいつ頃変わったんですか?
金城昌秀(Vo / Gt):半年近くはあれでやってます。なにがきっかけだったか忘れたんですけど、ステージングについて話していたときに、「GIMAちゃんを真ん中にしてやったらめっちゃいいんじゃないか」みたいな話になって。
GIMA☆KENTA(Vo / Gt):一昨年のイベントがきっかけですね。
金城:そのときにGIMAちゃんを真ん中にしてやってみたら、もう自分らでも信じられんぐらいバッチリはまったんです。そこからあのスタイルでやってます。
GIMA:いままではふたりでひとつみたいな感じでライヴをしていたんですけど、その気持ちは持ったまま意識が変わったというか。対バンすると、いろんなバンドの真ん中に強烈なヴォーカリストたちがいるので、いちヴォーカリスト、いちフロントマンとしてそのヴォーカリストたちと戦うぞっていう意識みたいなものは出てきましたね。あと、真ん中に立つと会場全体が見えるので、ライヴハウスのお客さん全体を見渡しながらライヴができたり、メンバーが常に右左後ろにいるので、視野が変わってヴォーカリストとしての存在感の出し方はより意識するようになりました。
──そういう変化も作品に反映されてるのかな、と思いつつアルバムを聴いたら、1曲目がいきなり2MCのヒップホップだったので驚きました。思いっきりふたりで前に出てるなと。
金城:ライヴと音源は別物で考えよう、っていうのは4人のなかでめっちゃあります。特に白井くんと富ちゃん(富永遼右 / Dr)はだいぶそういう感じがあって。1曲目の"IN OUT YOU~Good Introduction~"は、タイトル通りグッドなイントロダクションを作るっていう曲だったので、ライヴでどうやって演奏するかを考えずに作ったんです。ライヴのための曲ばっかり入っていても、かっこいいアルバムになるとは思うんですけど、あんまり生活になじまないというか。ライヴハウスに来ない人にも聴いてもらえる、「誰かの生活に入り込める音源」を考えて作ってみました。
──今回は「ミラクル」「マジカル」「ケミカル」の 3つのワードをテーマにしているとのことですが、2022年4月に"まじかるむじか"、8月に"ケミカルカルマを配信リリースあたりから今作につながるテーマができていたわけでしょうか。
金城:そうですね。いままでは「愛はズボーンが"愛はズボーン"をテーマに」曲を作っていたんですけど、"まじかるむじか"を作った2年ぐらい前にそのやり方を1回やめて、なにかテーマを決めて作っていけば、いままでと違うアルバムができるんじゃないかという話をしていて。それでいちばん最初に「マジカル」をテーマに魔法チックな曲を作ろうと思って出来たのが"まじかるむじか"です。僕の脳内では、ディズニーの映画『ファンタジア』みたいな世界観を作った気がします。そこからダジャレというか言葉遊びで"ケミカルカルマ"っていう、魔法チックなものと逆に化学=ケミカルをテーマにして作ったんです。今回のアルバムは全編通して「マジカル」「ケミカル」のどっちかに寄った曲、もしくはどっちも混ざった曲たちが集まってます。
GIMA:これまで「マジカル」「ケミカル」をテーマに配信シングルをリリースしたり、対バンツアー〈CHEMICAL WEST〉〈MAGICAL EAST〉をやったりしているなかで、「今回はこういうコンセプトを持ったアルバムにしよう」ということを言っていて。今作は基本的に、金城君の閃きみたいなものをメンバーできいて、それを具現化していきました。金城君が持ってきたお題に対して瞬発力でどう対応していくかみたいなところが、いちばん詰まったアルバムになっているのかなって思います。
──金城さんが出したお題にメンバーが応えるっていう、大喜利的な作り方をしている?
GIMA:大喜利ですね(笑)。
金城:確かに、そんな感じはします(笑)。いま僕以外の3人の瞬発力がめっちゃ高くなってるというか、すごくおもろいっすね。富ちゃんはほんまにいちばん大喜利してると思います。僕が「例えばこういうフレーズ」みたいなことを言うんですよ。ヒップホップ調の曲やけど、ちょっと(スティーヴ・)アルビニのサウンド的な感じでレコーディングするから、16分のハイハットに対してハーフのスネアでみたいな。でも「いま僕が言ったやつはもう僕が言ってるからこれは無しで」っていう(笑)。それ以外でドラムフレーズの答えを出してください、みたいにお願いするというか。だから富ちゃんからしたらめちゃくちゃだるいと思いますよ。でもそれもわかりながら楽しくできたんかなという感じはしますけど。
──好きな音楽とか、共通言語を持ってないとわからないみたいなこともありますよね。お題に対して、こういう曲になると思わなかったみたいな曲もありましたか?
金城:それはメンバーからあんまり聞いたことないですね。GIMAちゃんそういうのある?
GIMA:"ヘルステロイド" や "ケミカルカルマ"は、金城君と面と向かってノートを囲みながら一緒に作詞したんですけど、最初に"ヘルステロイド"っていうタイトルがあって、それを自分で噛み砕いてイメージしつつ、そのタイトルに向かってお互い正解を持たずに歌詞を書いていったんです。自分のなかで、ステロイドという言葉自体を、ドーピング的な「やったらあかんやつ」みたいなものに置き換えて歌詞を書いていったというか。
金城:そこでミスリードが生まれてるのがおもしろいんです。僕はアレルギーの痒みを抑えるために「ステロイド入りの軟膏」を体に塗るんですけど、皮膚が弱い人の悩みとして、薬を塗れば塗るほど、塗らなくなったときに余計痒くなるっていうのがあるんですよ。それで次また強いステロイドの薬をもらって塗ると、だんだん強い薬を求めてしまうという地獄のループに入っていくっていうことで "ヘルステロイド" っていうタイトルをつけたんですけど、GIMAちゃんが言うようにスポーツ選手とかがドーピングに使うのもステロイドの注入だったりしますよね。2人ともそこまで話し込んでないから、どんどん違う歌になっていくのがおもしろくて。
──なるほど、それで〈コーナーリング〉とかっていう言葉が入っているわけですね。
金城:そうなんです(笑)。もともと、"イッチーピーチ"っていう、桃の果汁が口に飛び散って痒くなるのを、「口は災いのもと」っていうか、いらんこと言っちゃってそれが口にこびりついて自分は痒みを抑えられないというテーマの曲を、"ヘルステロイド"の「自分を治すにはステロイドしかなくて、でも塗り続けていくと地獄がはじまっていくよね」っていうテーマと繋げて考えていたんです。それをGIMAちゃんと作ってる間に、全然また違う解釈が生まれてきたので、なにか不思議な体験ができたというか、「それもOKにしよう」みたいな感じでしたね。
──まさにケミストリーが起きたというか。
金城:そういうことですね。ケミストリーって勘違いですもんね。
──"イッチーピーチ"には、〈サルトル曰く地獄〉という、哲学的なことを連想させる歌詞が出てきますね。
金城:サルトルはフランスの哲学者なんですけど、彼の言葉に「他人とは地獄である」というのがあって。自己完結できるものだけで生きていけば天国におれるのに、人は他者との繋がりを求める、それを求めてしまった時点で実は地獄なんだよっていう。"イッチーピーチ"で歌ってるのって、自分が言った言葉に自分の首を絞められて、どんどんしんどくなっていくみたいなことなんですけど、〈サルトル曰く地獄〉って歌詞を入れることで、"ヘルステロイド"の地獄の世界に繋がるなと思って入れました。そんな風にアルバムを通して自分のなかでは12曲ともリンクさせていて、それを誰かが気づく気づかんは置いといて、マジカルな曲とケミカルな曲を行ったり来たりするというのが、僕のなかでの今回のテーマでした。