バンドだからこそ生まれたグルーヴ──DURANのロック・アルバムができるまで
稲葉浩志(B'z)、スガシカオ、清春らの作品、ライヴにギタリストとして参加している、DURAN。2018年のソロ・デビュー以来、多様なアップデートを遂げながら、ひとりのアーティストとしての表現力を磨いてきた。前作『Kaleido Garden』はその実力が十分に発揮されたアルバムだったが、今回リリースされた『Electric Man』は、ソロではなく、バンドとして作り上げた作品だという。そのため今回はDURANのソロ取材ではなく、メンバーのMASAE(Ba)とShiho(Dr)を招き、バンドならではの臨場感がつまった今作について3名に語ってもらった。
“バンド”として作り上げた、ロック・アルバム
INTERVIEW : DURAN with MASAE(Ba)&Shiho(Dr)
DURANは、前作『Kaleido Garden』のツアー・ファイナル(2022年6月23日 (木) 渋谷 Spotify O-EAST)のライヴ後に、ステージ上で「なにかがはじまる予感でもあります。これはバンドなんで」と言った。あれから1年半、ライヴをあまり行わずに新作のレコーディングに没頭していたDURANとバンドのメンバーたちが満を持して発表したアルバム『Electric Man』は、人間同士の阿吽の呼吸、エネルギーが濃密に詰まった、まさに本物のバンドだから創ることができたのであろう強烈無比な1枚だ。彼らはいかにしてこの作品を完成させたのか。前作に続く今回のインタヴューでは、DURANのみならずバンドのメンバーからベーシストのMASAE、ドラマーのShihoにも参加してもらい、『Electric Man』の制作過程について詳しく訊かせてもらった。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
これはバンドなんだ、という意識があった
──ずっとレコーディングしていたみたいですが、結構完成まで時間がかかりましたね。
DURAN:そうですね、なんだかんだ時間はかかりました。
MASAE(Ba):前作のツアー中からレコーディングしていたんですけど、最初の頃はどんなアルバムになるのかとかは全然見えてなかったんです。ライヴをやりつつ、ブルース・アルバム(『30 Scratchy Backroad Blues』2024年3月13日発売予定)の方も録りつつ、だんだん『Electric Man』という作品になっていった感じなので、こうやって完成したアルバムを聴くと、「おおっ! こんな風になってたんだ!? カッコイイ!」ってすごく嬉しいですね。
Shiho(Dr):今回のレコーディングを通して、「自分ってこうなんだ」っていうことが曲を作りながらわかっていった感じでした。だから私もMASAEもDURANさんも、前作に比べていろんな自分が出せたと思います。今回は本当に1から全部参加させてもらって作ったアルバムなので、完成して全部通して聴いたときはすごく嬉しかったですね。セッションで作った曲もあれば、DURANさんの頭のなかの曲をみんなで作っていって、最後に歌入れして完成したものを聴くと、自分が予想していたものとは全然違うものが出来上がっていたりして。それはライヴでもそうなんですけど、DURANさんと一緒にバンドをやる醍醐味というか。このアルバムには、その醍醐味がすごく詰まっていると思います。
──ライヴでは、次にどんな曲を演奏するかDURANさん以外のメンバーはわからずにその場でアイコンタクトしながら演奏しているんですよね。それをレコーディング作品として作り上げるときはどう伝えるんですか。
DURAN:曲を作っていくうちに、自分のなかでコンセプトみたいなものが出てきたんですけど、あえてそれは伝えないでやってました。タイトルすら決まってないときもあって、歌詞の内容もこういう感じにしたいって伝えることもなくやってた感じです。だからふたりは、わけもわからずに進んでる感覚だったと思うんですよね。パソコンで打ち込んでデモを作ってそれをもとにやるようなことはないですし、基本はもうノリで、アイディアを出し合って録りながら作っていきました。ベースにしてもドラムにしても結構ワンフレーズに対してもパターンが色々あると思うんです。そこはその人がなにを聴いてきたかが出るところなので、ふたりなら自分がわざわざ作り込まなくても音を出せば大丈夫だなっていう感じですね。
──それはずっとライブをやってきたことで培われたことですか。
DURAN:そうですね。ソロでやってる感覚じゃないですから。そこは意識の問題でだいぶ違うと思うんですよ。「ソロじゃなくてバンドなんだ」っていう意識をすることで、ライヴの仕方も変わってきますしね。だから僕自身は勝手にバンドだと思ってやってました。ふたりがどう思ってたかは知らないけど(笑)。
Shiho:私もこれはバンドなんだっていうのは意識していました。今回のアルバム制作然り、サポートじゃなくてメインのバンドとしてやっているつもりです。
MASAE:前のツアーから思いが強くなって、今回のアルバムのレコーディングに全部参加させてもらったことで、よりバンドだっていう気持ちが強くなりました。
DURAN:自分だけで作っていると、結局自分のなかで鳴っている音しか鳴らないというか。そこに入ってきてもらうと、自分のなかで鳴ってない音が出てきたりするので、想像を超える感じがするんですよね。
──アルバムを聴くと、バンドはバンドでもヴォーカル、ギター、ベース、ドラムっていうよりも全部ひとつの音になっているぐらい音の距離が近い感じがしたんですよ。前作とはだいぶ音が違いますよね。
DURAN:今回、山梨のライヴバーに楽器と、買いためておいたマイク、レコーディング機材を持ち込んで、全部自分たちで録ったんです。エンジニアも自分でやりましたし。同じ空間でアイディアを出しながら録っているというのは、テクニカルな面でも出ていると思います。
MASAE:前作のときは、スタジオを借りているので時間の制約があるので、「早くしなきゃ」みたいに気持ち的にも余裕がなかったんですけど、今回は音作りを含めて時間を気にせずにいろんなことにチャレンジできたので、自分のなかでのめちゃくちゃためになるレコーディングでしたね。
DURAN:これまでは、レコーディングする前にある程度決めていかなきゃいけなかったから、その場で実験ができなかったんですよね。要はエンジニアの人に「こういう音で録りたい」って言ってもなかなかそこまでたどり着かずに仕方なく終わったりとか。そこを納得いくまでやりたいと思って、山梨のライヴバーに全部持ち込んでとことんやった感じです。自分たちでマイキングして、動かしたらどう変わるか実験したりできたから、こういう音になったと思います。
Shiho:前作はチューナーさんにドラムの音作りをしてもらっていて、「こういう音にしてください」って言うと、すごい速さでチューニングしてくれるんですけど、その過程がまったくわからなかったんですよ。今回、自分で音作りするなかでそれがちょっとずつわかるようになったんです。それでDURANさんの曲をレコーディングしていくうちに、「この曲にはこの音が合う」っていうドラム・セット全体のことがわかってきて、DURANさんも私が出したい音をわかってくれた上でマイキングもしてくれていたので、今回のドラムの音に関してはすごく自信がありますし、すごくカッコイイ音なので、本当に聴いてほしいのひと言です。
──“Sapient Creature”のスタジオ・ライヴ映像を観ると、レコーディングの様子もなんとなく想像ができました。
DURAN:まさにレコーディングの録り方もああいう感じです。ライヴと地続きになっているのは間違いないですね。ツアーをバンバンやっているときからはじめたので、そういう体になってるんでしょうね。