テープ・エコーを使ったり、あえて面倒臭いをことをやった
──『Electric Man』というタイトルはどこから生まれたんですか。
DURAN:そういうキャラクターを作るのが結構好きなんですよ。なにかを拝むとか信じる力って、他の動物にできない、唯一人間にだけ与えられたパワーじゃないですか? そういう存在を作りたかったんでしょうね。ツアーをやっていったりいろいろ活動していると、自分以外のなにかにすがりたくなる瞬間もあるので。そういう瞬間に、そいつが人々を救いに来るっていうニュアンスで思いついたんだと思います。そういう生命体への憧れがあるんですよね。男でもない、女でもないっていう。
MASAE:タイトルの前に、このジャケットを先に見た気がします。

DURAN:もう僕のなかでElectric Manっていう奴がいたので(笑)。イメージはあったけど、あんまり周りに伝えない方が良いなと思っていただけで。ジャケは結構前に出来てましたね。
──“Sapient Creature”はフランケンシュタインのモンスターをモチーフにしたそうですが、そうやって自分以外のキャラクターをテーマにして曲を作ることが多い?
DURAN:自分のパーソナルなことを歌いすぎるのがあんまり好きじゃないので。誰が僕のそんな歌を聴きたいんだって思うんですよね。ジャスティン・ビーバーのパーソナルな歌なら聴きたいかもしれないけど(笑)。だからだいたいキャラクターを曲にしていますね。例えば“Sweet Piñata(スイート・ピニャータ)”はドラマ『ブレイキング・バッド』の主人公ウォルター・ホワイトの歌だったり、だいたいなにかのキャラクターが曲になってます。
MASAE:“Sweet Piñata”の最後に出てくるベース・ラインは、DURANさんに「なにか考えて」って言われて、オムニバス・テレビ・ドラマ『世にも奇妙な物語』をイメージして作ったんです。
DURAN:MASAEのベースって結構ファンキーなんですよ。だからこの曲はもうちょっと怪しいフレーズを考えてくれって言って、その場で作ってもらいました。
Shiho:このリフって、朝から1日レコーディングしてヘロヘロになった状態で深夜12時を回っても考えてたのを覚えています。私は出番がなかったので待ってたんですけど、ふたりはずっと考えていて、2時間経ってからMASAEが「できました!」って完成させたんですよ。2時間ずっと考えてたんだ、本当にすごいなって思ったのを覚えています。
──1曲目の“Raging Fire”は、戦争のことを歌っているんですね。
DURAN:そうです。ちょうどウクライナとロシアの戦争が起こったときに書いたんです。ボブ・ディランの"Blowin' in the wind"を歌詞に引用しているんですけど、戦争って何度もあって反戦歌も歌われているけど、結局届いていないんですよね。だから「戦争反対です」っていう曲というよりは、もうこういう歌が世の中から無くなってほしいなと思って書きました。だからこんなにガシャガシャしてるんですよ。繰り返すリフが結構出てくるんですけど、何回も聴きたくなくなるような曲にしたかったんです。ジミヘンがウッドストックのステージで最後に弾いた「星条旗よ永遠なれ」は爆撃機をギターで表現しているんですけど、あの感じですね。1小節に1回リフを繰り返しているんですけど、「もう聴きたくない」っていう意味でやってます。それは世界が戦争を何回も繰り返しているという意味も込めていて。戦争反対な自分に浸っているというよりは、「もう二度と聴きたくない」ということを表現しました。
Shiho:“Raging Fire”って、結構グチャグチャなんですよ。DURANさんの曲には珍しいアプローチというか。だから「そういう曲だったのか!」っていま思いました。
DURAN:この曲、全然好きじゃないんですよ。演奏自体も忙しくて嫌だし(笑)。だって自分が好きなタイプの曲って“Too Late, You Waste”みたいなブルージーな曲ですから。そういう、自分がやるのも嫌になるような曲を作りたかったんです。
──“2AM Love's Code and Law”の最初と途中で出てくる声は誰ですか?
DURAN:あれは僕の息子です。この曲は離れて暮らしている息子へのラブレターですね。なんでも好きに言っていいよって言ったらこうなりました(笑)。なんの恥じらいもなくこうやって叫ぶんだから、子供がいちばんピュアにロックですよ。
MASAE:この曲は、めっちゃ夜中に一発録りしたんです。
DURAN:夜中の2時ぐらいに爆音で一発録りしていたら、ギターもアンプを2台鳴らしていたりさすがに音がデカすぎたみたいで、「苦情が来てます」って警察が来ちゃって(笑)。それで“2AM Love's Code and Law”というタイトルにしたんです。
Shiho:この曲は、「もっとだよ! もっと!」ってDURANさんに心理的に追い詰められて、「うわぁぁー!」っていうのがドラムに出ている曲です。
DURAN:最初のテイクは上手に叩きすぎて綺麗だったんで、そういうんじゃないよねって。
──ライヴでも、DURANさんがバスドラの上に乗ってShihoさんと対峙しているシーンをよく見ますけど、まさにあの感じと似ていた?
Shiho:ああ~、そうですね。なんか差し迫っているというか、よそ見をしていたら刺されてしまうみたいな、そういう感じのレコーディングでしたね。一発録りだし警察も来るし、結構追い詰められてました(笑)。でも、一発録りだからこそのテンポ・チェンジとか、勢いと気迫を音でも感じ取れると思うのでぜひ聴いて欲しいです。
DURAN:演奏をミスしたらやり直すし、歌とかも補正したりしないから。いまの時代、なんでも簡単にできちゃうじゃないですか? あえてそういうことは避けて遠回りな方法でアルバムを作ろうと思ったんです。ミックスもプラグインを極力使わずに、テープ・エコーを使ったりものすごく面倒臭いをことをやったので、時間も手間もかかるんですけど、完成したときの達成感はデカかったです。
