【連載】白水悠のバンド・サヴァイヴ術~MY LIFE AS MUSIC~第2回
ライター、岡本貴之が3回に渡ってお送りする白水悠(KAGERO / I love you Orchestra)へのインタヴュー短期連載『白水悠のバンド・サヴァイヴ術~MY LIFE AS MUSIC~』。つい先ごろ、KAGEROのニュー・アルバムのリリースが発表されましたが、今回はそんな作品の制作方面にフォーカスした内容になっています。(編集部)
第2回「音源制作とリリース」
KAGEROとして数年間隔でアルバムをリリースするだけでなく、2014年にサイド・プロジェクトとしてスタートしたI love you Orchestra(ilyo)では、2015年から現在(2018年8月時点)まで、オリジナル・アルバム4枚、カヴァー・アルバム2枚、コラボ・アルバム1枚をリリースしている。最近ではI love you Orchestra Swing Style(ilyoSS)としての1stアルバム『MY LIFE AS BLUE』、さらに写真集ZINE付きミニアルバム『WRONG VACATION』(オンラインショップ限定)で発売し、9月にはKAGEROの約3年ぶりとなるニュー・アルバムの発売も決定した。リスナーですら「CDが売れない」と口にしているほどの状況下にありながら、インディーズ活動をしている彼らがなぜここまで制作・リリースを連発できるのだろうか?連載第2回となる今回は、自主レーベルのこと、制作へのモチベーションについて、作品の宣伝方法への考え方に至るまで話を訊いた。
企画・インタビュー・編集 : 岡本貴之
PHOTO : Kana Tarumi
KAGERO 約3年振りとなるニュー・アルバム発売決定!自身の主催Fes“FUZZ’EM ALL FEST.2018”も全ラインナップが発表に!
KAGEROが、9月19日に約3年振りとなるニュー・アルバム「KAGERO Ⅵ」のリリースが決定。バンドのオフィシャルサイトでは、新たなヴィジュアル・イメージ、アートワーク、トラックリストが公開されると共に、9月12日には新作から「chemicadrive」のMVが公開されるとのアナウンスも。またリリース・パーティとも言える9月29日新宿〈LOFT〉で行われる自主企画フェス「KAGERO presents “FUZZ’ EM ALL FEST.2018”」も“killie”の出演が追加され、全ラインナップが出揃った。
KAGEROニューアルバム『KAGERO Ⅵ』
9月19日リリース予定
01. chemicadrive
02. LOST CHILD
03. MY EVIL
04. DESERTED
05. under
06. harsh days, dust your noise
07. SILENT KILL
08. Smiling Sky
09. Wind Me Up
10. swallow
KAGERO presents “FUZZ’ EM ALL FEST.2018”
2018年9月29日(土)新宿LOFT
OPEN 12:00 / START 12:30
出演:KAGERO, SAWAGI, 絶叫する60度, アラウンドザ天竺, memento森, about tess, Palitextdestroy, ▲'s, I love you Orchestra, conti, Manhole New World, mahol-hul, 銀幕一楼とTIMECAFE, Last Planet Opera, killie
FUZZ’ EM ALL FEST.2018のチケット詳細、タイムテーブルなどはKAGERO公式ページへ
http://www.kagero.jp/
培ってきたノウハウで自主レーベルから他のバンドのリリースも行っている
──KAGEROのデビュー当初から現在に至るまで、音源制作のやり方やリリース方法ってどう変わって行ってます?
う~ん、根本は何も変わってないんだよね。それこそ書面上はその時その時1ショットで契約を交わしているだけだし。KAGEROは昔からずっと「何も気にしないで創りたいものをいつでも出して良いよ」って言われている状況。もともとメディアファクトリーの中にKAGEROだけのブランドってことで「RAGGED JAM RECORDS」っていうレーベルを創ってもらって。で、そのときうちのボスから「白水が好きな他のバンドの作品もRAGGED JAMから出していいよ」って言われてたんだよね。
──そうなんだ?その頃にも自由にリリースすることもできたわけだね。
そう。でもその頃は自分のこと以外に考える余力なんてあるわけないじゃん(笑)。で、数年経ってilyoの作品を出すことになったとき、そしたらじゃあまぁRAGGED JAMから出そうかってなって。だから今のRAGGED JAMはKAGEROとilyoのタイトルがズラーっとナンバリングされ続けてるんだよね。この前出したilyoSSの1stアルバム『MY LIFE AS BLUE』が「RAGC-015」だから、あれが15枚目だね。
──そうなると、2017年に立ち上げた自主レーベル「chemicadrive」はどういう立ち位置なのかな。RAGGED JAM RECORDSとの違いはどこにあるのだろう。
「白水の好きなバンドの作品出していいよ」って言われてたのはアタマの中にずっとあってさ。でもその段階でRAGGED JAM RECORDSはもう僕の音楽に特化したレーベルになっちゃってたから、他のアーティストを出すなら新しいブランドのほうがいいだろねっていうことで。それで創ったのがchemicadrive。今は銀幕一楼とTIMECAFE、palitextdestroy、BARBARSの3つ。それとilyoも『KIDS SONGS FANCLUB』とか『WRONG VACATION』とか、そういう突発的な作品はchemicadriveから出すようになって。自主レーベルって言っても書類的なものとか手続き的なものはレーベルのスタッフに任せてるから、そんなに偉そうなものじゃないんだけどね。
ただ自分がKAGEROとかilyoでこれまで培ってきたノウハウとかさ、僕とFABTONEのスタッフ達で独自に編み出してきたことが意外と色々あって。例えばBARBARSは、前まで大きな事務所にいてキングレコードからリリースしてて。でも本人たち自身は組織の運営とかノウハウとかを何も知らない状態で。だから「こうやったら楽しくできるんじゃん?こうやったら上手く回るんじゃん?」っていうことを一緒に考えてるっていうか。別に音楽的に育ててあげようとか、そんな偉そうなことじゃなくて。銀幕一楼とTIMECAFE、palitextdestroyもそう。作品を発表する場は提供できるよーって感じ。ただ当たり前に主従関係じゃないから、一緒におもしろいやり方を考えていこうねーって感じ。
──そういうときに、CDを何枚プレスするとかっていうのは、どうやって決めているの?
chemicadriveもRAGGED JAM RECORDSも、結局営業しているのはFABTONEのスタッフだから、ある時点でイニシャル(CDの初回出荷枚数)がわかるじゃん。だからその数字と、ライブで手売りできそうな枚数と、あと在庫分と、って感じでプレスかけて。もちろん今はいきなり何千枚って売れるもんでもないからね。
──どれくらいのイニシャルになるかは、営業スタッフに任せている?
そだね。
──ilyoとBARBARSのメンバーには、brainchild'sでメジャーからリリースしている岩中英明(Dr)さんがいるけど、そういうメンバーがいる場合って、自主レーベルからリリースするときに契約上の問題とかってないんだろうか。
ああ、それはヒデ(岩中)とbrainchild'sの契約の問題だからね。そこが面倒な契約になってたらややこしいことになるだろうけど、今のとこ特にそういう問題は出てないよ。
──自主レーベルからのリリースにまつわることで、「これは面倒くさいな」っていうことってない?
うーん、根本的に音楽に纏わることで「面倒だな」って感じることがそもそもあんまないんだけど…。もちろん周りが助けてくれているからってのが大きいんだけどね。JASRAC登録がどうとかプレス業者との連絡がどうとかって話もFABTONEのスタッフが助けてくれてるし、どっちかっていうとメンバーとのコミュニケーションとか、アイデア出しとか、それをやってる感じだから。だから特に面倒なことってのはないかなあ。
──それ以上に、作品を創ってリリースする充実感が大きいってことかな。
そうだね。僕自身は全然大したことはやってないつもりだけどさ、でもやっぱり感謝されるからね。メンバーとか、そのバンドのお客さんとかに。それは純粋に嬉しいことだからね。
目先のことじゃなくて、音楽作品を発表できるっていうことを大切にしようと思ってる
──リリースに関しての気持ちも以前から特に変わらない?
うーん。表現者である以上さ、「作品を創ってそれを発表する」っていうのはこれ以上ない喜びっていうか、根本としてはそれだけしてりゃいいんじゃないかっていう思いがわりと強くあって。バンドマンとかプレイヤーとして、っていうより、ミュージシャン、アーティストとしてね。何を以て「売れる売れない」なのかって実際よくわからない話で、それはリクープすることなのか、ライヴに来るお客さんが増えることなのか、生活できることなのか、有名になることなのか。でもその目標を達成しても疲弊して解散したり活動休止したりすることもある、ってのがバンドで。だからそういう目先のことじゃなくて、音楽作品を発表できるっていうことをまず大切にしようって思ってるよ。
──作品を創るときに、リーダーとしてどうやってメンバーの気持ちを制作に向かせるかを訊きたいんだけども、自分がいかにモチベーションが高くてもメンバーがそれについてこないと良い作品にはならないのではないかと。
他人とやる以上、絶対にそうだね。
──作品を創るためにどうやって全員の気持ちを1つにまとめているんだろう?
すごく理想を言っちゃえば、まずそれだけのクオリティの楽曲を創ることだよね。これを演奏したい!って思える楽曲。メンバーがやる気出ないような曲書いてモチベーションあげろってのは勝手すぎでしょ(笑)。あとはやりがいのある環境にしてあげること。細かい話で言うと、作品が出たときにお店でたくさん展開される、とかさ。テレビやラジオで流れたりとか。それって普通に誰でも嬉しいことじゃん?やりがいあるじゃん。あとはもう当然に「お金」だよね。作品が沢山売れてみんなにお金をたくさん分配できるのがベスト。でもそこまでのレベルじゃなくても、最低限メンバーが一切身銭を切らずに、音楽を生み出すことに喜びを持ってもらう環境と状況を創ること。結局それ以外にないんじゃないかなぁ。
バンド活動とお金
──バンド活動をする上で、お金のことってシビアな問題なんだろうなって想像するんだけど、実際どうなんだろう。
どんな組織でも結局だいたいお金でしょ、揉めるときって。
──突然、バンドを辞めることになったりするのって、色々借金したりして回らなくなったり限界になることがあるのかなって。
まぁ借金ってこともあるだろうし、家族がいて子どもがいたりする人もいるし。あまりにお金がないとね、人の心は荒んでいくから(笑)。
──KAGEROやilyoの場合は、予算がないから地方に行くために各々で持ち出しにしたりっていうことは絶対にない?
結成以来一度もないね。持ち出しでもテンション上がるのなんて20代前半までだよ。
──でも、お金の悩みを抱えているインディーズバンドも多いんじゃないのかな。
いや、当たり前に多いでしょ。でもそれは「やり方を知らないから」だと思う。厳しくいえば「やり方を考えないから」とも思う。
──例えば、リハーサルでスタジオに入るときに、スタジオ代って誰が出しているの?
KAGEROはギャラやら印税やらの一部がバンドのストックに回るようになってるから、スタジオに限らず出費は全部そこから出てるね。ilyoも基本は同じ。でもilyoはそもそもスタジオに入らない(笑)。スタジオに入るのって時間的にも金銭的にもコスト大きいからね。まぁ「演奏できる喜び」っていっちゃえばコスト度外視できるけど。いま都内でスタジオ代って1時間2500円とか3000円とか。週に1回3時間入ったら7500円とかでしょ。一ヶ月で3万とか。週2回入ったら6万。それってTシャツ何枚分?お客さん何人分?って話で。平日の昼とかならもっと安いけど、今度は働いてるメンバーとかからしたら機会費用が出るわけで。思考停止してルーティン的にスタジオ入ってたらそりゃ大変になるよ。
──スタジオに入って練習しなきゃっていうのは当たり前になってるかもしれないね。
で、そこまでのコストかけてスタジオで何してるかっていうと、まぁ練習と曲創りでしょ。でもさ、クラシックとかプログレとかの高等な演奏技術が必要なものなら全員での練習も積み重ねるべきだけど、ジャズのミュージシャン達なんか出たとこ勝負で出来るわけで。ilyoみたいなロック的な音楽だったら各々が個人練でまかなえるはずでしょって思ってて。あとややこしいのは、定期的にスタジオが決まってるとスタジオの時間以外練習してこない人間も出てくるでしょ(笑)。曲創りだってそう。「全員で合わせないと創れない」なんてのは原曲者の甘えでしょ。だからilyoは全然スタジオ入らない。「ステージで恥かかないよう各々磨いてきてね」って。逆にKAGEROは高等な演奏技術が必要だからコスト払って毎週入ってる。今はそういう判断だね。
──なるほど。でも、各々が練習してるにしても、ilyoはスタジオに入らないでちゃんと合わせられるの?
ライヴ当日のリハーサルがあるから(笑)。もしくは本番中のフィーリング。
──さすが(笑)。
サブスクリプション / 配信 / CD どうやって作品を売る?
──今はCDが何枚売れたからこれくらいお金が入ってきた、っていうわかりやすい形だけじゃなくて、配信やサブスクリプションもあるけど、その中で作品のリリース形態ってどう考えているんだろう。
んー、ぶっちゃけ言って僕は配信とサブスクだけになるなら、それはそれで色々楽だなーって思ってるよ。ただやっぱり日本は、特にコア層の人は今もCDが好きだからね。だからCDってパッケージも創ってるって感覚。それに勿論「モノ」が出来た方が僕らも嬉しいっちゃ嬉しいし。やっぱり作品がCDとかレコードのフィジカルなカタチになって出来上がったときって、単純に「おおーっ」てなるよねそりゃ。お店に大きく並べば当たり前にテンション上がるし、それで人の購買意欲にも絶対影響あるし。「お店でしっかり扱われているアーティスト」っていうブランディングも作用するだろうしね。だから今はそういう理由で「CD」っていうパッケージを創ってるかな。ただ僕自身はもう、CDで音楽を聴くことはほとんどない。だって使ってるパソコン4台全部、CDが入らないもん(笑)。
──そうだよね、そもそも今のパソコンにCDドライブがついてないもんね。
そうなの。デモ音源とかをCDで頂くことってあるじゃん。でもリアルに「次に車乗るときまで聴けねぇ」ってなったりする。ややこしい時代だよね。だからいま「CD」をリリースするっていうのは、とてもウェットな感情に依ってるんじゃないかな。ドライに考えたらサブスクとダウンロードだけでいい。でも人の感情ってそんな単純じゃないからね。さっきも言ったメンバーのテンション、お客さんのテンションとか考えたら、予算が割ける作品はCDも創ったほうがいいだろねって今は思ってる。2018年時点での判断ね。
──じゃあ、現時点ではサブスクだけにする、CDだけにするっていう白黒つけるような判断はしていない?
してない。やっぱりまだ作品をリリースするときの予算組みも、CDの予測売上枚数とそれにまつわる物販とで計算するようにしてるもん。配信とかサブスクでの売り上げっていうのはプラスアルファ。まだ完全には読めないから。ただ予算を割きづらい作品だったら配信限定は全然有りだし、積極的に活用するべきだと思う。売り上げを期待しないで大丈夫な低コストで音楽を創れる環境ならね。
──サブスクで曲は配信されているけど、どれだけお金が入ってくるのか把握できてないっていうバンドマンもいるんじゃないかな。実際、どんなシステムでお金が入ってきてるんだろう?
すごく大雑把にいうと、ユーザーごとに月額費用980円とかがあるでしょ。で、ユーザー毎の再生回数トータルの分母があるじゃん。で、再生した曲単位の分子を分母で割ってるってイメージ。それをパーセンテージでサブスク側とレーベルで分配して、そこからまたレーベルとアーティストが分配してってシステム。だからまぁ仕組みはカラオケ的なものだよね。今は全体のユーザー数も変動しまくってるし法人毎にパーセントも違うし、ちょっとまだ収支は予測しづらいかな。だから今は最初から計算に入れないでプラスアルファで考えて。出版社から明細が届くから、それを見て「へえ~」って。
──「えっこんなに入るの?」っていうときもあるの?
そだね。アーティスト印税、著作権印税ってのが3カ月毎に分配されて、アーティスト印税のほうに入ってる。著作権印税はテレビとかラジオでの使用分とかも入ってくるから、まぁ結構面白いよね。著作権の管理はJASRACに預けてるからこっちには使用許可申請とかこないから、いきなり使われていきなり振り込まれる(KAGEROは2年間に渡り「NEWS ZERO」(日本テレビ系)で毎日曲が使われていた)。明細には番組名までは載ってないからさ、未だに昔のKAGEROの曲とかがガンガン使われてるみたいで、どんな番組なのかすげえ気になるよね(笑)。まぁそのへんのメディア使用に関しては、インストってのはもしかしたら少し有利なのかもね。
一部店舗での熱狂的な展開はなぜ起こったのか?
──そういえば、「HMV札幌ステラプレイス」とかで、KAGEROやilyoがリリースするたびに、すごく熱狂的に展開をしてくれるでしょ?あれはどうしてああなったの?
HMV札幌ステラプレイスに関しては、100パー現場スタッフさんの熱意。むかーしKAGEROが札幌でライヴをしたときに、担当の人が観に来てくれてて。実はそれまで札幌ってタワーレコードの方が力を入れてKAGEROをやってくれてて。そしたら今度はHMVが盛り上げてくれて。だから当たり前に大切な存在なわけで。でも札幌タワーもさ、「2017年のベストアルバム10選」みたいのにilyoの『Trigger』入れてくれてて。だから札幌はなんかちょっとおかしい(笑)。
──ははははは(笑)。
だから、これからも大切にしていこうって思います。でもそれってレコ屋だけの話じゃないけどね。メディアにしても、カメラマンにしても、映像監督にしても、エンジニアにしてもそう。僕らのことをすごく大事にしてくれる人たちは、僕らも大事にしていこうって思うじゃん。だからHMV札幌が最初に大きな展開してくれたとき、こっちも積極的に周りに発信した。これだけSNSが発達しているんだから、そうやって相乗的に高め合って行くとおもしろいじゃん。そういう高め合いの結果が今の状態なんじゃないかな。やり始めてくれた頃からすごかったんだけど、さすがに今ほどじゃなかったから。シェアしてワイワイやっていくうちにさ、向こうも引くに引けないみたいな感じでどんどんエスカレートしちゃったっていうか(笑)。でも全部そういうものの積み重ねでいいかなーって思ってるんだよね。僕の音楽ってもともとマスに落とし込むような表現じゃないじゃん。そうやってミクロでもショップがデカくやってくれるんだったら、そういうミクロを可能な限り尊重していければなーって。
──普通、ショップであれだけの展開をしてもらうには、お金がかかるわけだよね。
そうだね。お店の展開の看板とかは普通にアーティストサイドがお金払ってるわけだからね。真正面から営業かけてあんな展開してもらったら相当な金額だわ。
──それを、熱意でやってくれているということ?そういうことってショップの店員さんの裁量でできるんだ。
タワーレコード川崎店とかもすごく展開をしてくれてるけど、あれも向こうの店員さんが自発的にやってくれてて。昔は全部のレコ屋で出来たんだろうけど、大手はセントラル制になっちゃったからね。だから、いや知らないけど、やっぱり実力があるんじゃないのそういう店員さん達って。ilyoとかもああいうお店では店頭でめちゃ売れてるわけだし。一周回ってこれからのCDショップの1つの形なんじゃないかなーって思うけどね。セントラルから「これをこれだけ売れ」って言われてもさ、そういうマスなタイトルほどサブスクの影響をより食らってるだろうし。「売れるものを売る」って仕事はあんま楽しくなさそうだしね。「いいと思ったものを売れるように考える」ってほうがクリエイティヴだから。お客さんをコア化させる思考っていうか。
──お客さんをコア化させる?
うん。そういやilyo始めてから、コアなお客さんのことをすごく大切にしようって意識するようになったね。KAGEROしかやってない頃はあんま気にしてなかったけど。コアなひとがいるから計算もできるし。それがないとマジで予測なんて不可能だから。そのバンドがいくら良い音楽やっててもさ、コアなお客さんがまったくいないとマジで動けなくなるなって。ライヴ1本やって、でもヘタしたらお客さん0人とかだったら、もうイベントに呼ばれなくなっちゃうだろうし。計算が立たなくなるよね。
──「このバンドはこれだけお客さんを呼べる」っていう計算が?
んー。外部的にも、内部的にも、だね。物販ひとつとってもそう。コアなひとが10人いれば、色んな予測ができるようになってくるから。上手くまわってるバンド、上手くまわってないバンドの違いって、結局コアなひとの有無は大きいなっていうのは周りみててもすごく思う。
──ilyoを始めてから、「コアなお客さんを大事にした方がいい」っていう考えになったのはどうして?
KAGEROだけやっていたときは、そういうのがカッコ悪いと思ってたんだよ。ilyoは「ilyoだから何してもいいだろ」って感覚が今でもあるから。打ち上げでお客さんと飲んだりもするし。そういう意味だとやっぱりilyoの存在ってデカいよね。
──昔は、お客さんにおもねるようなことがカッコ悪いと思ってた?
なんならお客さんと会話することすらカッコ悪いと思ってた(笑)。それが美学だったっていうか。まあ、今でも本当は別にそんなもんなくてもいいじゃんっていう気持ちもうっすらあるんだけど。
──とはいえ、聴いてくれる人がいてこそだし。
そうそう。でも面白いよね。KAGEROしかなかった頃ってさ、1つの物事に対して1つの答えしか見つけようとしてなかったんだよね。ilyoのおかげで、そうじゃない見方っていうか逆側の思考に回り込めるようになって。生き方とか手段の多様性につながったね。
カメラマン、デザイナー、エンジニア…… クリエーターとの関係
──多様性っていう意味だと、物販でも多様なグッズを創って売り出してるけど、そういうものを創るのにも、「これだけ売れる」っていう計算のもとに、クリエーターを動かしているわけだよね。
んー、でもうちは物販に関して外注の部分が少ないほうだから、切迫した計算をしなくていいようにできてるけどね。説明しづらいんだけど、「お金が必要で創ってる」わけじゃなくて「出したいものがあるから創ってる」って感じだから。最近のchemicadriveのデザインは僕と梨央ちゃん(BARBARSの湊梨央子)の二人でやってるから、それって音楽を創ることに近いわけで。だからやっぱりどこまでいっても副次的な話なんだよね、お金の話って。
──自分1人ではできないこと、デザイナーやカメラマン、エンジニア等のクリエーターに関しても、レーベルのスタッフ同様、一緒にやってる人はずっと変わらない?
そうだね。でも「最初に出会ったから」って理由でその人とやってるわけじゃなくて。今みたいにクリエイターを固定できるようになるまでは結構時間かかったんだよね。それこそリリースする作品ごとにクリエイターが違う、みたいな状態も長くて。KAGEROの1stアルバムの頃は僕もまだ26、7歳くらいだったからさ、音楽以外のことは「何もわからずとりあえず任せてる」って状態だった。でもそこからまぁ色々経験する中で「このカメラマンがいい」とか「このエンジニアがいい」ってわかるようになってくるじゃん。そこに対する発言権は最初から持ってたんだろうけど、でも経験がないとそんな判断できないじゃん。だから今は「良いな」って思った人とは長く一緒にやっていくようになったし、もちろん根本は自分のためで、でもそれって相手の為にもなるわけじゃん。経済面でも社会面でも。メンバーに関してもそうだよね。レーベルとの関係もそうだし。結局相手が自分のことをわかってくれないといい作品なんてできないし。自分1人じゃできないから。もしかしたら、ベーシストだから最初からそういう思考なのかもね。
──ベーシストだから、というと?
僕が自分で弾き語りで歌ったりしてる人間だったら、それってある意味自分1人で表現を完結できるじゃん。根本的にベーシストだから、誰かと一緒にやらないとそもそも音楽として成立しないでしょ。いや成立する音楽もあるけど、まぁ一般的には成立しないよね。だから相手あっての表現活動だなーってのは自然と身に染みついてるのかもしれない。だからこそ「なんでこの相手と一緒にやってるのか?」ということは掘り下げて思考するようにしてる。相手になんでもかんでも求めるんじゃなくて、まず自分ができるようになる。いっちゃえば、今はもう作品の制作から発表までに必要なことって僕1人でもできる状態なわけで。それでもエンジニアの大津(友哉)君に音周りを頼もうって思えるのは、僕がやるより圧倒的にクオリティが高くなるから。音、写真、映像、デザイン。全部そう。FABTONEとの関係にしてもそう。「自分より勝るスペシャリストに外注してる」っていうイメージ。まず一通り自分でできないと、相手のことって評価できないからね。
──それができるから、「これはこの人に頼もう」っていうジャッジもできるようになった?
そだね。
「そういうもんだから。みんながやってるから」的な思考停止が一番ヤバい
──そのジャッジでいうと、作品を出すときの広告の出しどころというのは、どういう判断をしているんだろう。
ちゃんと活用できるんだったらどんなメディアに出稿しても良いと思う。ただ、現時点で僕に一番フィットしてるのはYouTube広告だね。費用対効果的に考えても他の広告を凌駕してるって感じる。ilyoの4thアルバム『Trigger』をリリースしたときに初めて出稿してもらったけど、結局広告って大切なのはターゲティングじゃん。そういう点で紙媒体に比べてWEBってターゲティングに適してるけど、コンバージョンをどこに置くのかって考えたら、いちミュージシャンとしては「音楽を聴かせること」になるわけで。
──それはそうだよね。
YouTube広告はそこに直接引っ張れちゃうから。メディアに出稿費を払ってインタビューを載せて、そこで興味を持ってもらってYouTubeにアクセスしてもらう、じゃなくて。「普段こういう検索してこういうことに関心があるひと」っていうセグメントが可能だから、その人がYouTubeにアクセスしたときに自分の作品を見せることができる。もう出稿の時点でコンバージョンしてるやんけ、っていう。そこから実際チャンネルまで飛んできてくれたひとの統計と分析も取れるし、Apple MusicとかSpotifyとかのリンクを貼っておけばそこから購入っていう導線も引ける。まぁレーベル目線でみればその「購入」がコンバージョンだね。「自分の音楽はこういうひとに聴かせれば伝わるはずだ」って自信があるなら、今の時点では一番費用対効果がいい広告だと思う。まぁ広告だけじゃなくて、CDのリリースにしても物販にしてもそう。思考停止的にやってたら、時代時代に対応なんてできるわけないじゃん。「CDを創るってこういうことでしょ」的な思考でレコーディング、マスタリングにお金費やして、ショップに看板代と試聴機代払って、よくわからんフリーペーパーに出稿してってのをマジで何にも考えずにやってたら、そりゃ次の作品なんて出せないよ。回収できないもん。理由があるなら全然いいよ。ただ、「そういうもんだから。みんながやってるから」的な思考停止が一番ヤバい。「昔はこれでいけたから」って思考も完全にヤバい。
──こういうインタヴューに関してはどう感じてるんだろう?リリース時には色んな媒体で取材を受けると思うんだけど。
媒体のインタヴューに関してはコア層のファン、もう僕たちのことを知っている人たちへ向けてる側面が強いな。今の僕らの思想をより深く知ってもらうためのものって捉えてるよ。僕も好きなアーティストのインタビューが読めるっていうのは嬉しいしね。でも知らないひとのインタヴューとかはもうわざわざ読まないなぁ。だから新規ファンの獲得じゃなくて、既存の方々のテンションをあげるため、って考えてる。ニュースリリースにしてもそう。「メディア越しのニュースってことは気合の入ったお知らせなんだろな」って捉えてもらえるじゃん。それがなんかの間違いで新規の人まで興味を持ってくれたら儲けものだねってくらい。
──SNSを使った宣伝っていうのも、ダイレクトにコアなお客さんに向けられているわけだよね。
そう。だからSNSだけでいける例もあるとは思うけど、そうじゃないこともあるだろうから、そういう時は色んなものを活用すれば良い。ツイッター芸人みたいになるのもダサいっしょ。ただ、ちゃんと情報を知らないといけない。最新の情報を。表現自体もそうだけど、情報もアップデートを繰り返していかないといけない。たとえばあのメディアのページヴューは今いくつで、どういう層が購読してて、とかって情報がなかったら広告なんて打てるわけないじゃん。物販だってそう。みんなと同じようなものを思考停止して創ったって難しいに決まってる。もし外注するんだったら、何がどれくらいのロットでいくらなのか、じゃあそれはいまの自分達のブランディングで適正価格はいくらなのか。ってことに頭使わないで組織運営し続けてたら、そりゃ困難も多くなるだろうし、ある意味一緒に歩んでるメンバーとかをナメすぎでしょ。
──衝動だけでやっているのではなくて。
根本は衝動だけなんだけどね。でもその衝動を保ち続けるために思考と手段が必要っていうか。僕1人だけだったら別になんでもいいんだけど、メンバーとやる以上、一緒にやってる人も幸せじゃないとダメでしょ。そのためにお金は当然大事だし、でもお金儲けに走るんだったらもういっそ音楽じゃない方が簡単だろとも思うし(笑)。そこのバランス感覚を常に持って、自分たちが面白がりながらお客さんのことも面白がらせて、「こんなの出たんだ!買いたい!」って思わせるような作品を創ればいいわけで。「お願い」ベースで生きていくのなんてイヤじゃん。
レーベル的に全タイトル全て黒字化できてるからこれだけリリースしてこれた
──アンコールとかでステージから物販の新商品を紹介したりしないもんね。
そだね。次のライヴの告知もしないもんなぁ。だって関係ないじゃんね、次のライヴなんて。今、目の前にいるんだからさ(笑)。
──そう言われてみれば確かに(笑)。
別に誰かに何かを「お願い」するために音楽をやってるわけじゃないし「応援してもらうため」に生きてるわけじゃないからねぇ。いや、応援してくれたらそれはとても嬉しいことだけど、応援をお願いするってなんかすげぇ話だなって(笑)。今を楽しむために、今を楽しませるために音楽は存在してるんだから。
──実際、KAGEROもilyoも、リリースしたけど赤字だから次の作品は出せないっていうことはないんだよね。
一度もない。RAGGED JAM RECORDSもchemicadriveも、レーベル的に全タイトル全て黒字化できてる。だからこれだけリリースしてこれた。それは買ってくれたみんなのおかげ。そして支えてくれたスタッフ達のおかげ。あと、作品を創る衝動を守り続けてこれた自分達のおかげだね(笑)。
編集後記 : バンドとビジネスを衝動から切り離す冷静さ
今回、リリースのこと、スタジオ利用のことから宣伝についての考え方まで、幅広い事柄を取り上げた。アーティストとして作品を生み出す衝動と、バンド活動をビジネスとして成立させるための施策を俯瞰で見ている冷静さがよくわかる記事になったのではないかと思う。今回の記事を作成するにあたって白水に校正をお願いしたところ、より細かく具体的な話を盛り込んで加筆してくれた。この連載がインタビュー時に意図してたところから若干軌道修正したことを汲んでのことだ。まさに、こういうところだなと。今何が求められているのか冷静に判断する思考能力がある男である。ちょっと毎回ほめ過ぎなのでこのへんで(笑)。次回はライヴ活動における考え方と、バンド運営の未来についてのまとめをお届けしたいと思う。(岡本貴之)
※第3回「ライヴについて~バンド運営の未来」へ続く
KAGERO、配信中の近作
レーベル Ragged Jam Records 発売日 2015/12/09
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
I love you Orchestra、配信中の近作
レーベル Ragged Jam Records 発売日 2018/01/01
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
レーベル Ragged Jam Records 発売日 2017/10/11
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
レーベル Ragged Jam Records 発売日 2016/09/14
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12.
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