エネルギッシュでカラフルなJAZZをどうぞ! 大野雄二トリオが最新アルバムをリリース
ルパン音楽の生みの親、大野雄二率いるYUJI OHNO TRIOが最新アルバム『LET'S FALL IN JAZZ AGAIN』をリリースした。前作のアルバム・タイトルに「AGAIN」が付け加えられた本作の世界観はただの続編にあらず! 気になるその全貌をレヴューでお届けする。
“JAZZは難しいものではなく、格好良くて楽しいもの”が体現された最新作
「前作が水墨画だとしたら、今作は総天然色の油絵ってことになるかな」
リリースにあたっての大野雄二のコメントである。思わず「大野御大、その心は!?」と尋ねたくなってしまうこの言葉をヒントに、YUJI OHNO TRIO『LET'S FALL IN JAZZ AGAIN』を聴いてみた。今作は、2017年に発表されたアルバム『LET'S FALL IN JAZZ』に続く大野雄二トリオの最新作。さまざまなジャズ・ミュージシャンとのセッション、レコーディングで活躍する上村信(Ba)、Yuji Ohno & Lupintic Sixのメンバーでもある市原康(Dr)と大野雄二(pf)からなるこのトリオは、都内のジャズ・クラブを中心に継続的にライヴ活動を行っている。ホールコンサートが多くよりエンタメ色の強いYuji Ohno & Lupintic Sixとは対照的だ。
ジャズ・トリオと聞くと、延々と渋いインプロビゼーションを繰り広げる古のジャズ・メンのムードを想像してしまうのは筆者だけではないはず。今作はそんなイメージをガラリと変えてしまう、ポップで親しみやすい作品となっている。まず驚かされるのが、1曲目のオリジナル楽曲「LET'S FALL IN JAZZ AGAIN」だ。3コードで循環しながらリラックスムードで繰り広げられる演奏に、ヴォコーダーがかかったヴォーカルによる“LET'S FALL IN JAZZ”のリフレインが乗る。AIが浸透してVtuberが音楽業界で次々とデビューする時代を反映させているかのような、渋いジャズ・トリオという想像をいきなり覆す大胆なアレンジだ。前作の冒頭を飾る「LET'S FALL IN JAZZ feat. Lyn」では、ゲスト・ヴォーカルにYuji Ohno & Lupintic Sixでもコーラスとして参加するシンガー・稲泉りんをフィーチャーしてオーソドックスなジャズ・ヴォーカル曲として聴かせていただけに、このあたりに早くも前作との違いが浮き彫りとなっている。
ゲスト・ヴォーカルとして参加している稲泉りんは、ジャズスタンダード「ALL THE THINGS YOU ARE」、オリジナル曲「JAZZ SQUALL」の2曲を歌唱。妖艶な魅力漂う前者、スリリングな演奏と渡り合う後者、それぞれで見事な存在感を発揮している。また、「ルパン三世 PART5」エンディングテーマ「セーヌの風に…(ADIEU)」をトリオ編成での新たなインストアレンジとして収録しているのも今作の大きな聴きどころだ。そのほか、ラテン・フレイヴァー漂う「TIO PEPE」、Yuji Ohno & Lupintic Sixの最新作『LUPIN THE THIRD ~GOODBYE PARTNER~』にも収録された「カランコエ Forever ! feat. 沢城みゆき」「KALANCHOE FOREVER~serenade for you」のトリオ・バージョン「KALANCHOE FOREVER」といったオリジナル曲、「LOVE FOR SALE」「GOLDEN EARRINGS」等のジャズスタンダードナンバーをバランスよく収録。いずれの曲も緊張と緩和の中で随所に3人の辣腕ミュージシャンのテクニックが満喫できる。また、ハイレゾ音源ならなおのこと、鍵盤へのタッチ、スネアに触れるブラシ、アップライトベースの弦が指に引っかかる瞬間など、繊細かつダイナミックな演奏をよりいっそう堪能することができるはず。冒頭に挙げた「前作が水墨画だとしたら、今作は総天然色の油絵」というのも頷ける、エネルギッシュでカラフルな楽曲が油絵のごとく立体的に聴くものに訴えかけてくる。
そして今作は、決して難解ではないのが最大の特長だ。大野は、2009年に“JAZZは難しいものではなく、格好良くて楽しいもの”を表現することをスローガンに掲げた「LUPINTICレーベル」を設立している。ロック、ポップスファンがジャズに感じている敷居の高いイメージを払拭して、もっと気軽に楽しめる音楽であることを、「ルパン三世」の音楽を入り口にして啓蒙してきたのが、ここ10年の大野の仕事だったといえる。『LET'S FALL IN JAZZ AGAIN』は、そんな大野の仕事ぶりが、これからの時代も音楽界にとって大きな財産であることを感じさせてくれる。だからこそ、ロック・ポップスファンにも気軽に聴いてほしいと思うのだ。 (Text by 岡本貴之)
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LIVE SCHEDULE
大野雄二トリオ
2019年6月4日(火) 東京・Jazz Club さくらんぼ
2019年6月7日(金) 神奈川・Motion Blue YOKOHAMA
2019年6月17日(月) 東京・御茶ノ水NALU
2019年6月28日(金) 東京・新宿J
Yuji Ohno & Lupintic Six
2019年6月2日(日) 茨城・牛久市中央生涯学習センター 文化ホール
2019年6月15日(土) 山口・周南市文化会館 (with Fujikochans)
2019年7月3日(水) 北海道・カナモトホール(札幌市民ホール)
2019年7月4日(木) 北海道・名寄市民文化センター EN-RAYホール
2019年7月5日(金) 北海道・北見市民会館 (with Fujikochans)
2019年8月6日(火) Billboard Live TOKYO
2019年9月8日(日) Billboard Live OSAKA
PROFILE
大野雄二
静岡県熱海市出身。 小学校でピアノを始め、高校時代にジャズを独学で学ぶ。 慶應大学在学中にライト・ミュージック・ソサエティに在籍。 藤家虹二クインテットでJAZZピアニストとして活動を始める。 その後、白木秀雄クインテットを経て、自らのトリオを結成。解散後は、作曲家として膨大な数のCM音楽制作の他、「犬神家の一族」「人間の証明」などの映画やテレビの音楽も手がけ、数多くの名曲を生み出している。 リリシズムにあふれた、スケールの大きな独特のサウンドは、日本のフュージョン全盛の先駆けとなった。その代表作「ルパン三世」「大追跡」のサウンド・トラックは、70年代後半の大きな話題をさらった。 近年は作曲活動としては「ルパン三世」とNHKテレビ「小さな旅」に絞り、再びプレイヤーとして活動を開始。大野雄二トリオでの活動に加え、 2006年にYuji Ohno & Lupintic Fiveを結成し精力的な作品リリースを続け都内ジャズクラブから全国ホール公演、ライブハウス、ロックフェスまで積極的にライブを行う。
大野雄二 Official HP : http://www.vap.co.jp/ohno/index.html