あくまでも個人的な想いだが、ロックは大勢に向けた音楽、ロックンロールは個人を巻き込んで人と人を結びつけて行く音楽、R&B、ソウルは個人の心に忍び込んでくる音楽、と思っている。そういった意味で、忘れらんねえよの音楽は最高のロックンロールであり、ソウル・ミュージックだ。それは人間の隠しておきたい感情、嫉妬や妬みを隠そうともしない、剥き出しの歌詞もあるが、それと共に破天荒なイメージとは対極にも思える美しく耳に残るメロディにある。曲に対する心の共鳴度が半端じゃないのだ。良いメロディと良い歌詞、カッコいい演奏。当たり前のようでめったに無い、良いロック・バンドの条件を兼ね備えたバンド、忘れらんねえよ。またひとつ、信頼のおけるロック・バンドと心に寄り添う音楽に出逢えたと思う。
1月30日(水)、ニュー・シングル『この高鳴りをなんと呼ぶ』の発売を記念した、ワンマン・ライヴがおこなわれた。その内容は、初のワンマン・ライヴにも関わらず、開催場所はシークレットの「無観客」ライヴ(OTOTOY TV♭のUSTREAM生中継)。一見むちゃくちゃで自虐的にも思える彼ららしいこのライヴのレポートを、ライヴ後のインタビューと併せて読んで頂きたい。この日、彼らの遠心力はロックンロールとは無縁に思えるおじいさんまで巻き込んだ。久しぶりに大きなムーブメントを起こしてくれそうなロック・バンド、忘れらんねえよ、間違いなく、今年大ブレイクするであろうこのバンドに注目して欲しい。
インタビュー & 文 : 岡本貴之
photo by : 石橋雅人
LIVE REPORT : 忘れらんねえよ『この高鳴りをなんと呼ぶ』発売記念 無観客LIVE
シークレットとなっていた無観客ライヴの場所は、代々木公園野外ステージ。平日の昼間だけに、ステージの付近には散歩をしているおじさんおばさんがチラホラいるだけだ。そんな中、SEが流れ、メンバーがステージに立ち、観客のいない客席に向かう。
「このライヴ、意味ないかもしれないけど、やると決めた以上本当に心を込めてやります! 」という柴田のMCから「ゾンビブルース」でライヴがスタート。寒空の下、公園の日常風景に突然現れたロック・バンドに、人々が何事かと遠目にステージを眺め始める。続いて「僕らチェンジザワールド」。なんとここで早くもファンが駆け付けてステージ前に! Ustreamを観て駆け付けるファンもいるだろうとは思っていたものの、予想以上の早さだ。バンドも熱いがファンも熱い。目の前に観客が現れたことで、徐々に演奏の調子も上がってきた様子だ。曲は代表曲の一つ、「CからはじまるABC」。ステージ付近は日陰の為めちゃくちゃ空気が冷たいのだが、ボーカル柴田は半袖、ベースの梅津はシャツ1枚、ドラムの酒田はライヴ・ハウス同様、上半身裸にベスト姿。バンドの熱い演奏に最前列のファンもコートを脱いで盛り上がる。しかし良く考えたら二列目以降は無観客。いったいなんだこれは。代々木公園をウォーキング中のおじさん達もキョトンとして眺めている。そんな空気はおかまい無しに、柴田が駆け付けたファンを煽る。そして「向こう側にいる人達! 」とUstream生中継を観ているであろう無限の観客に向けてメッセージを送る。続いて曲はニュー・シングルに収録の、疾走感溢れる曲調と「エロサイトのサーバに負荷がかかって繋がらないのは俺が1人じゃないから」という斬新な歌詞にハッとさせられる「中年かまってちゃん」。続く「慶応ボーイになりたい」では一斉に手を振り上げ盛り上がる観客(この時点での現地の観客は15名程)。気がつけば、外国人男性2人組が眺めている。ジャパニーズ・エキセントリック・カルチャーが海外流出だ。
「ここにいる人たちに、向こうにいる人の為に歌っています。今日平日じゃん? しかもこんな昼間に。普通仕事していますよね(笑)。でもお客さんちょっとだけ増えたね」とステージ前にかぶりつきのファン、そしてパソコンの前にいるであろう観客へ再びメッセージ。確かにステージ付近の観客数は20~30人程に増えている。「バンドの力だけじゃ、見た事がない景色を見に行けないから、みんなの力が必要なんだよ! みんなに背中を押してもらいたいんです。みんなで見たことがない景色を見に行こう。よろしくお願いします! イェー! 」熱い柴田のMCから「この街には君がいない」へ。ふと見ると、近くにいたおじいさんが、跨ったチャリンコのベルを曲のリズムに合わせて「チリンチリン」と鳴らし出した! おじいさんも、何かたぎるものを感じ取ったに違いない。まさに無観客ライヴでしか有り得ない光景だ。そしてライヴはクライマックスへ。「北極星」で観客が跳ねまくる。バンドの演奏もより熱を帯びて来た。続いて曲は「忘れらんねえよ」へ。このバンドの持つ叙情的なフィーリングを凝縮した名曲だ。ステージ前に集まったファンは全員肩を組んで横に揺れて合唱している。そうだ、良い音楽には場所なんか関係ないのだ。Ustreamで観ながら駆け付けたい気持ちを抑えているファンもいたことだろう。「真っ直ぐな気持ちを込めて」と柴田のMCから本日発売の新曲「この高鳴りをなんと呼ぶ」。早くも曲が浸透し、ライヴで聴くことを楽しみにしていたであろう観客の反応だ。キャッチーで心の琴線に触れるサビのメロディを力一杯叫ぶ柴田、ベースを時折高く振りかざすようにして弾く梅津、その2人を前に押し出すように叩く酒田のドラム。気が付いたら、その姿と曲の力にウルウルしてしまった。ここで本編は終了。アンコールの声に応え、すぐに再び姿を現すと「ここからは、今ここにいる人達に歌います」と再び「僕らチェンジザワールド」でライヴは終了。最後、柴田が投げたギター・ピックと、酒田が投げたドラム・スティックは、最前列を遥かに越して誰もいない地面に落ちた。そこにはいつかきっと、満員の観客がいるはずだ。そんな期待と確信を感じた、「無観客ワンマン・ライヴ」であった。
ライヴ終了直後のメンバーにインタビュー
――お疲れ様でした!
メンバー : お疲れ様でした!
――「無観客LIVE」と銘打っておきながら、意外と早い段階で人が駆け付けてきましたが、どうでしたか?
柴田隆浩(ヴォーカル・ギター) : そうなんですよ。前に「オールナイトニッポン」でお客さんゼロのライヴをやった時に、もうそういうもんだと思って、録音機の向こうにいる人に向けて、3人の集中力が集まって点になった気がしたんです。でも、今回はモニターの向こうに集中しようとしたら、前にお客さんが来たから「ア~!? 」って(笑)。
――(笑)。どっちつかずな気持ちに?
柴田 : そうそう。最初そうだったんですよ。だから、これは俺のモードとしては良くないと思って、ここらへん(お腹の辺りを指さして)に気持ちを戻して。凄く概念的な話なんですけど。ここを燃やしあげればいいやって感じでやってたんですけど、それでも確信が持てなくて、探り探りやっていて。最後の方、「北極星」とかやってる時に、「あっ! 」って「点」 が見つかったんですよ。ここを狙えば、前にいるお客さんもモニターの向こうのお客さんも、遠くで見てた知らないおっさんにも(笑)たぶん伝わるなという「点」が見つかったんで、そこから先は良い演奏が出来たんじゃないかなと思ってます。
――そうですね、確かに最後の方はかなりグワーっと来るものがありましたね。
柴田 : ね? なんかね。
――あの、僕は後ろの方で見ていたんですけど、近くにチャリンコに跨ったおじいさんがいて、曲のリズムに合わせてベルを「チリンチリン」って鳴らしだしたんですよ。
一同 : (笑)。
柴田 : マジで? 作り話じゃなくて(笑)?
――(笑)。いや、本当です本当です。
酒田耕慈(ドラム) : ライヴ・ハウスじゃ絶対に無い光景ですよね、それ(笑)。
――だから、これはこのライヴをやった甲斐があったんじゃないかなと(笑)。
柴田 : やったー嬉しい! いや、最後に全体を包むヴァイブスが生まれたなって気はしたんですよ。
――なんかこう、遠心力というか、巻き込んでいった感じはありましたね。
柴田 : ね!? だからそこに行きつけたから良かったけど、今までだったら途中で日和って、「もう無理だ止めてえ~」ってなってたけど、ず~っと探し続けて最後見つかったから良かったです。
――ライヴ中は葛藤してました?
柴田 : そうですね。葛藤というか、「どこだ~!? 」みたいな。
――でも最後は着地できた、と。
柴田 : そうですね。良かった。
酒田 : いつも最近はお客さんがたくさんいる前でやらせてもらってたんで、僕らの演奏にお客さんが応えてくれてたんです。良いキャッチボールが出来てたんですけど、今日ライヴをやってみて、今までお客さんに助けられてたんだなってことを実感しました。
柴田 : お客さんとの熱量のやり合いが今日は無かったからね。それが。
――それでも駆けつけて盛り上がってくれるファンがいますもんね。
柴田 : ね~、本当ありがたいです。
――バンドとお客さんとのエネルギーのやり取りが周りを巻き込んで行ったら、カッコいいですよね。
柴田 : そうですね。でも俺、今日はモニターの向こうから感じましたよ。「来てんな~! 」って。まあ俺の勝手な妄想なんですけど(笑)。
――向こう側から?
柴田 : 世界が繋がった! みたいな感じがあったから良かったです。
酒田 : 途中から何にも考えずに出来るようになったから、結果的にそれがお客さんとのキャッチボールになったと思うし、良くなったと思います。
――またやってみたいですか?
柴田 : いや、もう二度とやらない!
一同 : (笑)。
酒田 : 僕はやりたいですけど(笑)。
柴田 : やりたいんだ(笑)? まあでも修行というかね、独特の技術が付くよね。無観客ライヴ用のスキルがつくというか。
――そのスキル、必要ですか(笑)? 最後に柴田さんが投げたピックと酒田さんが投げたスティックが、誰もいない客席に落ちたのがカッコ良かったな、と。
一同 : (笑)。
柴田 : それいいね(笑)。
――個人的な想いもあって、最後の「この高鳴りをなんと呼ぶ」はウルウルしながら聴いてました。
柴田 : うわ~それは嬉しい。ありがとうございます。
――是非またライヴを拝見させて下さい。今日はお疲れさまでした!
一同 : ありがとうございました。お疲れ様でした!
セットリスト
2013年1月30日(水)@代々木公園野外ステージ
1. ゾンビ・ブルース
2. 僕らチェンジザワールド
3. Cから始まるABC
4. あんたなんだ
5. だんだんどんどん
6. 中年かまってちゃん
7. 慶応ボーイになりたい
8. サンキューアイラブユー世界
9. パンクロッカーなんだよ
10. ドフトエフスキーを読んだと嘘をついた
11. この街には君がいない
12. 北極星
13. 忘れらんねえよ
14. この高鳴りをなんと呼ぶ
・アンコール
15. 僕らチェンジザワールド
LIVE INFORMATION
日々ロックフェスティバルVOL.2 powered by RADIO DRAGON
2013年2月1日(金) 新宿ロフト
w/さめざめ、THE NAMPA BOYS
SANUKI ROCK COLOSSEUM ~BUSTA CUP 4th round~
2013年3月20日(水)
ボーカルギター柴田 プレミアム弾き語りインストアイベント
プレミアム弾き語りツアー新宿公演
2013年2月8日(金)
タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
プレミアム弾き語りツアー大阪公演
2013年2月15日(金) 19:00
タワーレコード梅田NU茶屋町店
プレミアム弾き語りツアー名古屋公演
2013年2月21日(木) 19:00
タワーレコード名古屋近鉄パッセ店
プレミアム弾き語りツアー浜松特別公演
2013年2月22日(金) 18:00
イケヤ浜松メイワン店
「この高鳴りをなんと呼ぶ」リリースツアー
2013年3月3日(日)愛知県 池下CLUB UPSET
2013年3月9日(土)大阪府 梅田Shangri-La
2013年3月29日(金)東京都 代官山UNIT
PROFILE
忘れらんねえよ
柴田隆浩(ボーカル、ギター)
梅津拓也(ベース)
酒田耕慈(ドラム)