永田純を迎え、音楽の未来を考えるーーkilk records session 2014 復活第一弾!!
kilk recordsの主宰者、森大地が、さまざまなゲストとともに音楽業界のありかたについて語り合う対談「kilk records session」。2014年1回目となる今回ご登場頂くのは、フリーランスのエージェント / プロデューサー、有限会社スタマック代表であり一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント(MCA)代表理事を務める永田純。70年代よりコンサート制作やマネージメントとして携わり、YMOのワールド・ツアーに同行する等、音楽業界最前線で活動。現在は音楽の未来を考えるオープン・カンファレンス「YOAKE」の実行委員会としても旗振り役を担う氏は、シーンの変遷の目撃者でもある。この対談に臨むにあたり前日に訪れた「ヒソミネ」(編注 : 森大地が経営する埼玉県宮原駅にあるライヴ・スペース)の話から対談は始まった。
進行・文 : 岡本貴之
kilk records(森大地)
2010年、Aureoleの森大地により設立。「精神に溶け込む、人生を変えてしまうほどの音楽との出会い」。kilk recordsはそういった体験を皆様にお届けすることを第一に考えております。オルタナティヴ・ロック、ポスト・ロック、エレクトロニカ、テクノ、サイケデリック、プログレッシヴ、フォーク、アヴァンギャルド、アンビエント、ヒップ・ホップ、ブレイクコア、インダストリアル、ジャズ、クラシカル、民族音楽…。魂を震わせるような音楽であれば、ジャンルは一切問いません。kilk recordsが最もこだわりたい点は「独創性」です。信じられないほどの感動や興奮は「独創性」から生まれるように思えます。これから多数の作品をリリースしていきます。末永くkilk recordsにお付き合いくだされば幸いです。
kilk records official HP
永田純
音楽エージェント / プロデューサー。1958年東京生まれ。下北沢 / 高円寺で過ごした70年代中頃よりコンサート制作等にかかわり、79-80年、YMOのワールド・ツアーに舞台スタッフとして同行。84年 坂本龍一アシスタント・マネージャーを経て、85年以降、矢野顕子、たま、大貫妙子、レ・ロマネスクらをマネージメント、細野晴臣、友部正人、野宮真貴、マルセル・マルソーらを代理した。プロデューサーとしては 東京メトロ、六本木ヒルズ、東急文化村、J-WAVE、世田谷文化財団等の主催公演、NHK「みんなのうた」、セサミストリート日本版テーマ・ソング、スタジオジブリ「ホーホケキョ となりの山田くん」サウンド・トラック等にかかわる。また、オーディオ代理店、音楽出版等を手がけ、2011年秋に設立された“独り立ちするミュージシャンのためのパブリック・サービス”一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント代表理事を務める。京都精華大学ポピュラーカルチャー学部教授。元・東京シュタイナーシューレ理事。著書に「次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル」「次世代ミュージシャンのオンガク活動ハンドブック」。(文中敬称略)
次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル
次世代ミュージシャンのオンガク活動ハンドブック
ここ数十年、音楽が産業にコントロールされすぎていたと思うんだよね
――永田さんは昨日(3月26日)初めてヒソミネに足を運ばれたそうですが、いかがでしたか?
永田純(以下、永田) : すごくよかった。なにがよかったかというと本当に失礼ながら、ちょっとがんばれば誰でもできるな、と思ったの。“音楽”さえきちんと軸にあれば、 ハコそのものに必要以上にお金をかけなくても、十分にやっていける。 ああいうスペースがあと20ヶ所くらい日本中にできれば変わるなと思ったんですよ。だから俺、昨日行ってからすごく元気になっちゃった(笑)。
森大地(以下、森) : ああ、嬉しいです。ありがとうございます。
永田 : また昨日行ったプログラムがよかったと思うんだけど。埼玉大学インディーズミュージック研究会っていう。
森 : そうですね。結構独特な、他のライヴハウスだと気軽に組めないようなイベントでしたね。
永田 : そうだよね。平成生まれの音楽家たちの展覧会というさ。いろんなミュージシャンがいるんだけど、ヒソミネで観るからすごく純粋に音楽実験室でいいし、なんかみんなの意思をすごく感じたんだよね。森さんがどれだけ意識的か無意識的かを今日は聞きたいんだけど、バンドをやりながらなにがいま足りないかというのを考えたときに、まずレーベルを作って、次にヒソミネという場を作るという最も本質的なところにちゃんと行ってるのがすごいなと思ってて。だから昨日はひたすら嬉しかったです。
森 : そんなふうにおっしゃっていただけて光栄です。永田さんの本を読ませていただいたときは既にヒソミネのプロジェクト自体は進行していたのですが、再確認できたというか「ああ、まさにこれだよ!」みたいな考え方がいっぱいあって。印象的だったのが「1つのパターンで1つの事柄を成功させる」という概念を取っ払うということですね。これまでだといわゆる「成功した音楽家」のメインの収入はCD売上だったと思うんですけど、言うまでもなくいまではライヴのギャラやグッズ売上なんかがかなりの割合を占めてますよね。僕のやっているバンドで考えても実際そうですし。そんないまの時代にバンドマンが音楽活動を続けていくためには、ライヴハウスのノルマというのはいまの時代にそぐわない、決してよくはない業界の慣習だなと思ったのでヒソミネでは排除してみたんですね。その分、売上もかかるコストも全て他のライブハウスの5分の1程度に抑えて運営してるんですけど(笑)。他にもフリーCDとか定額のストリーミングサービスとか、けっこうタブーの域まで踏み込んで色々やっちゃってますが、リスナーにも音楽家にも必要なことかなと思ったものはどんどん押し進めてます。まあ賛否はありそうですが。でもまわりにどう言われようが、変えていくべきやり方はまだまだいっぱいあると思いますし、これからも時代に合わせていろんなやり方を実行していきたいなとは思っています。多分正解は一つじゃないでしょうし。
永田 : 僕も人の数だけやり方があっていいと思うよ。いままでレコード会社がやっていたことは場合によっては1年の予算の中で採算を合わせなきゃいけないわけだけど、でも例えばその人が10年で採算を合わせられればいいと思えばそれでいいわけだし、なんでもいいと思うんだ。だからフリーでCDを配るのはこれまでの習慣から見ればルールの破壊だとかいう話になるのかもしれないけど、ここ数十年、音楽が産業にコントロールされすぎていたと思うんだよね。それが聴き手や作り手のところに戻ってきて、そこから何が始まるかという所だから、僕は本当に何をやってもいいと思うしそれで1人ひとりが本当に大事に音楽をやっていくことこそが最優先されることだと思う。意地でも音楽だけで食うぞと思えば、多少の苦労をしてもやり方はあるし、自分が健全に音楽をやるためには就職することも厭わないという人もいるわけで、それも含めて全部ありというのがおもしろいと思うし、僕はそれが一番の希望だと思うので。
――ミュージシャンになることイコール「音楽だけで食べていくこと」じゃなくてもいいというか。
永田 : うん、そうだよね。気が付くと僕の周りでは死語なんだけど、プロとかアマとか最近言わなくなったじゃない?
――プロ / アマ、メジャー / インディーズという線引きはあまり意味がないような感じにはなっていますね。
永田 : 僕はそこがもっと意味がなくなればいいなと思ってるんだ。ただそれは違う観点から見れば、もっと他の所で音楽家というのをちゃんと根付かせるためにどこからやったらいいかというのはやっぱり別だし、本当は食えなきゃいけないしスターもいなければいけないんだけど。
森 : そうですね。線引きをなくすという意味でも、ある時から僕は単独で力を持ちたいなと思って、ヒソミネを始めたんですね。以前音楽事務所の設立も考えてたんですけど、ミュージシャンと両立するのは難しいなと思って止めたんです。ライヴハウスというのは、ここがひとつのシーンとして独自に発信していけるというのがいいなって。音楽シーンを変えたいという前提でいくと、まわりに左右されない独自の地盤が必要で。それまでは作品を売れさせるようとした時、ある程度自分の許容を超えた範囲での音楽業界の上の方々への媚びというか妥協というか、そこまで大げさじゃなくてもどうしても必要な場面ってある気がしまして。問題なのはそうすると取り扱う音楽自体までバランスが変わってきて、途中で「駄目だダメだ」って目が覚めたこともあるんですけど。
永田 : ああ、それは目が覚めてよかったよね(笑)。
森 : はいよかったです(笑)。でも、みんなこうやって変わるんだなって。
永田 : それって、リスナーからは本当にすぐわかるんだよね。だからそこで目を覚ましてなかったら、俺は今日会ってなかったと思う(笑)。
森 : ははははは、そうですね。
編集部 : 最近思うのが、森さんの周りで自分たちでシーンを作ろうというミュージシャン側の動きは活発になってるんですけど、逆にリスナー側がちょっとまだついてこれていない状況もあるんじゃないかと思うんですよ。商売っ気というのとは違う、芸術的な部分があるというか。そういう部分は永田さんはどうお感じですか?
永田 : リスナーを育てるって、よくあるテーマではあるけれども、作り手がそれを言い出すと間違っちゃいやすいし、究極的にはよい作品を作り続けること以上にできることはないんじゃないかな。一方で、フリーミアムってみんな言い出してるのはすごくいいことだと思っていて、僕はまさにタダで(音源を)撒けばいいと思うんだよね。そこで聴いてもらって気に入らなければ、作品に力がないわけだから、そこはもっと作り手が頑張らなきゃいけないってこと。まさにリスナーに育ててもらう、っていう。
森 : そうですね。僕の根本的なアイデアがあるんですけど、美術館とか演劇とか映画とかは生を観に行ってそこで感動してパンフレットを買って帰ったり後日DVDが出てたらそれを買いますけど、音楽だけそれが逆なんですよね。CDを買って気に入ってライヴを観に行くという。美術館なんてわかりやすいものばかりじゃないのに、いろんな方が観に来て感動して帰りますよね。音楽だけが芸術系のコンテンツの中で何故か逆のパターンになっているんですよね。それを変えるのは容易ではないですけど、でも出来る範囲でそういう仕組みをやりたいなというアイデアは考えてるんです。普通にやるとただの新曲発表会になっちゃいますけど、やり方次第で音楽に新しい風が吹くんじゃないかなと思うんですよね。
永田 : なるほど。いい音楽を聴きたいと思ったときにちゃんと開いてくれてて、しかもいい物が聴ける場がどれだけあるかということだと思うんだけど、それって本当に文化の成熟度だと思うから大変なんだけど、森さんが言った通り、それをみんなで少しずつやっていくしかないよね。
ミュージシャンも成熟していかなきゃいけない
――永田さんがMCAを立ち上げた一番の目的というのは、簡単に言うとミュージシャンが音楽制作に専念できるようにすることなんでしょうか?
永田 : MCAでやってることは大きく言うと2つあるんだけど、1つは「なんでも相談室」というもので、文字通り、どんなご相談でも、無料でお受けします、というもの。この2年で200名近い方々を迎えてきたんだけど、世代でいうとこれは下は18歳の大学生から、72歳で定年退職なさってからDTMで作曲を始めて、ここまでできるようになったからキャリアアップはどんなことがあるでしょうかっていう方まで。でも一番多いのは30前後の人達で、例えば1人で曲を作ってサウンドクラウドに上げておいたら、ヨーロッパのクラブ・レーベルから英語の契約書が届いて、自分は嬉しいから「YES」ばっかり言ってたんだけど怖くなったから見てくださいとか(笑)。もうひとつは、「なんでも相談室」を入り口にしてその人が具体的に欲してることとか、僕らがサポートできることがあればそれをやりましょうということ。制作やプロモーションのサポートとか。
森 : なるほど。逆にそんな永田さんから見て、バンドやレーベルの「成功する・失敗する」って感じたことはなにかありますか?
永田 : 最近おもしろいと思うのは「成功ってなに?」って話になるじゃない。本当はそれって人の数だけあるんだよね。とりあえず金を生むことが成功という人もいれば、お金はいいから続けて行きたいんですという人もいるし。最近多くの人が口にするようになって嬉しいのは「お金はいいから自分の音楽を多くの人に聴いてほしい」ということで、みんながまずそこにフォーカスしてきたらすごくおもしろいし、食べていけるようになることも含めて、そこから新しいシーンが生まれるかなと思うなあ。
森 : はい、そうですよね。
――そうなると、既存の音楽業界の仕組みで必要のないものってすごく浮き彫りになると思うんですが。
永田 : うん、はっきりしてくると思う、それは。そして、今、なにが足りないのかもね。やっぱりミュージシャンがまずもっと勉強して周りのことをちゃんとわかるようにならなきゃいけないなというのがあって、それってライヴハウスのノルマの話にも繋がるんだけどさ。
森 : はい。
永田 : 勉強するって言っても沢山本を読んでどうのっていうことじゃなくて、人間として、目の前の共同作業している人と、どういう関係で、なにを託しているのかということをどれだけちゃんと認識しているかということなんだよね。だからライヴハウスのノルマについても、バンドが客を呼ばなかったら店も打撃を受けるわけだよね。そういうことに関して責任を持たなきゃいけないというか、それも含めてミュージシャンも成熟していかなきゃいけないというのはあるよね。
森 : そうですよね、それは確かにそうです。
永田 : 一方でネットの時代だしミュージシャンひとりでもできるし、中間業者がいなくなった分どうのという意見には一抹の危機を覚えてて。やっぱり音楽を届けるには当然その音楽に対して批評する人も必要だし、僕らが道に迷ってる時に拠り所になるショップだったりサイトだったりとかもいっぱいあるわけじゃない。だからいまある形ってそれなりの必然性があってのことだから、間にあるものが不必要になってきたという言い方はちょっと危険だなというのは感じるんだよね。例えば仮に僕がアーティストだったら今日の取材にマネージャーやレーベルの担当者がいたりするわけじゃない。でもそういうことって僕とその人達との関係性で、その人たちは来なくていいこともあるわけだよね。だけどこの取材が会社同士の話で出来たものなら、当然その人たちも立ち合いに来るわけで。それは僕が寝坊したときの責任も含めて(笑)。
森 : (笑)。
永田 : そういうところを見た方がいいと思うんだよね。例えば『次世代ミュージシャンのオンガク活動ハンドブック』の中で言うと、高野寛さんのマネージメントの飯田さんというすごくクレバーな女性がいらっしゃるんだけど。高野さんってメジャーと付き合いのある中でのツアーも組めば、カフェ・ツアーみたいなこともやっていて。飯田さんはカフェ・ツアーなんかに自分が行けば経費出ないのはわかっているから、電話一本で信頼関係ができているカフェならちゃんと高野さん1人で行かせるんだよね。でも自分が行かなきゃいけないようなイベンター相手ならちゃんと行くわけ。そういうことがちゃんとできれば幾らでもきめ細かいことはできるんだよね。だから一口にマネージャーの同席なんていらないって言っちゃうのも大事なことを見失うと思う。
森 : そうですね。僕がAureoleの他にやってるMagdalaっていうユニットで10日間で11公演休みなしで車でツアーに行ってきたんですけど、行きたい県のカフェを検索して1つひとつ連絡してブッキングして行ったんです。
永田 : おお~、いいねいいね。
森 : それで直島とかにも行ったんですけど、夜食事をしているカフェで演奏したら、よかったって言って旅の記念ということもあってCDを買ってくれるんですよね。小さいカフェのライヴでも10枚くらい売れたりして、高速代、ガソリン代、宿泊代を全部補えてさらにプラスだったんですよ。10日間で100枚以上CDが売れたんで。
永田 : へぇ~! それはすごいね。
森 : それって大きいライヴハウスでやるよりも効率がよくて、お客さんの数は5分の1でもCDを買って帰る率は10倍くらいだったんで、おもしろいなと思ったんです。
永田 : いまのはすごくいい話だよね。やっぱり産業になると、どうしてもシステムになってルーティン化して1個1個のサービスが形骸化してしまって、意味を考えなくなってしまうんだけど、そういう環境でいいライヴをやったらお客さんは絶対買ってくれるっていう本質をできるだけいつも見られる状態にしたいなというのはあるよね。
森 : そうなんですよね。先程の美術館とかの話にしてもそうなんですけど、“その場で買う”ことがプラスアルファになっているんですよね。だから上手く売る場所というのを決めておけば、そっちの方が売れちゃうんじゃないかなって。今CDをただ店に置いて500人に買ってもらうのは大変ですけど、100人入るライブを一年に5回やって、そこでしっかり聞き手に届くライブをすれば、きっとまだまだCDも売れると思うんですよね。
永田 : どれだけ、ちゃんとお客さんの顔をいつも思い浮かべながら、変なシステム論に走らずにやれるかだよね。
森 : そうですね、はい。
時代に合わせて色々変えて行くということは正しいと思います
永田 : 今日、聞いてみたかったことのひとつは、kilkレーベル代表の森さんがプロデューサーとしてどれだけミュージシャンの音楽のクリエイティビティに口を挟むのか、挟まないのかということの線引きということなんだよね。
森 : 作品にもよりますけど、Ferri(フェリ)の1stアルバムなんかはプロデュースしています。原曲のメロディもここがおかしい、とかあればガッツリ録り直したりとか。結構もう自分勝手にとことん変えさせてもらってます。それは第三者から見たFerriのよさを活かした部分で、その結果よくなったと思うんですけど。とは言ってももちろんあくまで作品の中核はFerriの描く世界観ですし、僕だけでは決して作れない素晴らしい作品ですね。一方で最近出たarai tasuku君の『Sin of Children』というアルバムは、あれは僕は入り込まない方がいい(笑)。あれくらい極端に寄せたほうが売れるんですよね。とことん振り切って、ほとんどを諦める勇気っていうのも必要だなと思いますね。
永田 : ははははは! そうだよね。
森 : ジャケットも含めて功を奏したというか。嫌いな人は嫌いで全然いいと思うんですよね。
――森さんから見て永田さんの活動から得られたヒントってどんなことが有りますか?
森 : 固定観念というか、これじゃなきゃいけないというものがひとつじゃないということと、決めた目標というのもそこに着いたときにまた新しいことを始めるというか、サバイブしていくという生き方ですね。元々音楽家なんて公務員みたいに安定しているわけじゃないですし、時代に合わせて色々変えて行くということは正しいと思いますし、永田さんの本を読んで気が楽になりましたね。あとはある程度成功した後に巨大なものにする為にはどうしたらいいのかということをご教示頂ければと思います(笑)。
永田 : それって、僕も全く見えてないから楽しみなんだけどさ。でも最近思うのは、元々コンピューターもインターネットも、60年代にヒッピーが考え始めたことなわけじゃない? それはどれだけ情報の格差をなくしたりとか、既得権を持ってる人とそうでない人をどれだけフラットにできるかということとかでさ。金の流れというのは資本主義の中では絶対的なものだし、産業というのは右肩上がり目指して行くわけで、それが音楽と相容れなくなって一回壊れたのが現状だと思っているんだよね。しかもそうじゃないところでちゃんと音楽を信じて続けようという連中がリスナーとどういう関係を作るかということに於いて、クラウドファンディングみたいなものが可能性を開いてくれていることは、僕はひとつの革命だと思ってるんだよね。だからいま、本当に音楽を“発してる人”と“欲してる人”の新しい循環がどうすればできるんだろうってずっと考えていて。本来、経済ってそういうことだったはずだし、リスナーだって絶対に新しい音楽を求めているはずだから。どうやったらフェアで長続きする関係ができるかなということを念頭に多少時間がかかっても、それは歯を食いしばるしかないかなという感じかな(笑)。
森 : なるほど。
永田 : あと個人的な話を最後にすれば、僕自身結構勘だけを頼りに生きている人間で(笑)、あんまり自分のやっていることの意義とかを考えたことはないんだけど、今回取材依頼のメールを頂いた時にすごく嬉しかったんだよね。「あ、繋ぐ役割なんだな」って最近思っていて。それは縦と横があると思ってるんだけど、横というのは、所謂ジャンルだったりとか、インディーズにいた人・メジャーにいた人だとか、そこをとっぱらってどれだけやって行けるか。マンガとか映像とか、音楽以外のものまで含めて。縦というのは、僕の本に登場してもらった人でいうと一番若いのは22歳のtofubeatsで、一番上は曼荼羅の代表で72歳なわけ。そうすると僕は組織の論理じゃないところで「あ、俺50年くらい繋げるんだ」と思ったんだよね。そこは90年代に音楽を聴き始めて周わりを見てきた人からしたら見えにくいこともあるし、ポピュラー音楽の歴史の中で歴史は繰り返すということもあるんで、それをどれだけシェアしていけるかなと思って、だから『YOAKE』みたいなイベントに改めて意義付けをするとしたらまさにそういうことなんだよね。
――そういう視点から、森さんにはどんなことを期待されますか?
永田 : レーベルに関してはいまはお友達の寄合いか、クリエイティビティを含めて必然性があるかのギリギリの所にいるんじゃないかなと思うんだよね。でもレーベルであり続けるためにはクリエイティビティこそが必要なんだと思うし、それはごく近い未来に嫌でも直面することだと思うから、一回ちゃんとそこに対峙したうえで乗り越えて次に行ってほしいなと。全く目線は間違ってないと思っているので、もうひたすら耐えて忍んで頑張って欲しいですね。たまに欲望が違うほうに行きそうになってもフラフラしないで(笑)。
森 : そうですね(笑)。ありがとうございます!
kilk recordsの最新音源をチェック!!
arai tasuku / SIN OF CHILDREN
【配信価格】
単曲購入
WAV 250円、mp3 200円
アルバム購入
WAV 2,310円、mp3 1,500円
【Track List】
01. Al is like the boogeyman / アルバートは夜が好き
02. Lizzy's delights / エリザベスの絵の具
03. Irma learns to swim / イルマは瞼に包まれて
04. Ed flips the pillow / エドワードは枕をひっくり返す
05. Henry and Viora lost themselves / ヘンリーとヴィオラ
06. Mr.East loves mom / ママに咲いたカーネーション
07. Time passing Bell / ベルの時計は壊れない
08. Moon Maniac / ジョンのベッドは水中へ
09. Aileen's unseen things / アイリーンの宝物
10. Drawing in Dreams / ヴァージニアは嗤う
11. Myra's wish on the star / マイラの願い
12. Sin / リチャードのかくれんぼ
Ajysytz / UNKNOWN NOSTALGIA
【配信価格】
単曲購入
WAV 200円、mp3 150円
アルバム購入
WAV 2,310円、mp3 1,500円
【Track List】
1. mirror, mirror
2. I know you, you know me.
3. ノイ
4. apathy syndrome
5. Night Flight
6. Tanzen
7. うたたね
8. チェリオ
9. Synchronicity
10. Typhoon Night
11. elm tree
12. メトロ
13. Stream Story
「新音楽時代」のバックナンバーはこちら
kilk records session vol.1 森大地(kilk records)×虎岩正樹(残響塾)「新しいアーティストの考え方」
kilk records session vol.2 森大地(kilk records)×木戸崇博(Ricco Label)「新しいレーベルの考え方」
kilk records session vol.3 森大地(kilk records)×竹中直純(OTOTOY代表取締役)「新しいメディアの考え方」
kilk records session vol.4 森大地(kilk records)×海保けんたろー(SONALIOドラマー、ワールドスケープ代表取締役)「新しいアーティスト・マネジメント」
kilk records session vol.5 森大地(kilk records)×出川光(CAMPFIRE)「新しいプロモーションの考え方」
kilk records session vol.6 森大地(kilk records)×劔樹人(神聖かまってちゃん、撃鉄マネージャー、あらかじめ決められた恋人たちへ)「新しいマネージメントの考え方」
kilk recordsの連続企画「kilk records session」公開中!
kilk records session vol.1 野心の可能性
kilk records session vol.2 歌姫達の女子会
kilk records session vol.3 クロスオーバーの可能性
kilk records session vol.4 2012年レーベル座談会 レーベルの野心
kilk records session vol.5 2012年レーベル座談会 未来への野心
kilk records session vol.6 CDショップ座談会
kilk records session vol.7 ライヴ・ハウス座談会
kilk records session vol.8 Deep Moat Festival座談会
kilk records session vol.9 オーガナイザー座談会
kilk records session final レーベル・メイト座談会