「あぁ最悪だ最高だ」──激情を秘めるSSW新世代、イロメガネの2ndミニをハイレゾ&フリーDL配信

その歌声は倉橋ヨエコを彷彿とさせるような暗さと甘さを秘め、ヘヴィな詞すら切れ味の鋭い明るさをまとうバンド・サウンドでそうとは感じさせなくするその絶妙なバランス感覚。"激情型"とひとつ分類できるだろう女性シンガー・ソングライター群の中で、次に期待をかける存在が東 亜優(ヒガシ アユ)のソロ・プロジェクト、イロメガネだ。
彼女の2枚目となるミニ・アルバム『37.2℃』はセルフ・プロデュースにより制作。前作より2年を経て生まれた今作は、聴く人をより意識した開かれた作品となった。OTOTOYではハイレゾ配信をスタートすると共に、ラストを飾る楽曲「ブラックバードを歌って」をフリー・ダウンロード配信する。
「ブラックバードを歌って」のフリー・ダウンロードはこちら
イロメガネ / 37.2℃
【Track List】
01.勇気を持ってグッドバイ
02.あの時を
03.こわい
04.召し上がれ
05.白い橋
06.shall we love?
07.空はみずいろ
08.思春期
09.ブラックバードを歌って
【配信形態 / 価格】
[左]24bit/96kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
単曲 250円(税込) / アルバム 1,800円(税込)
[右]16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3
単曲 200円(税込) / アルバム 1,500円(税込)
イロメガネ / 勇気を持ってグッドバイイロメガネ / 勇気を持ってグッドバイ
INTERVIEW : 東 亜優(イロメガネ)
「イロメガネ」のアーティスト・ネームを名乗り活動する東 亜優の楽曲を聴くまでは、高校を辞めて2年間引きこもりの後に大学に進学、DTMで音楽制作を始めて学生映画の主題歌を制作といったプロフィールから、どことなく内向的で生真面目な音楽を想像していた。ところが今作『37.2℃』を聴いてみると、にぎやかなコーラスが印象的な「勇気を持ってグッドバイ」に始まり、明るくキュートなデュエット曲「あの時を」、ダンサンブルな打ち込み曲「召し上がれ」といったポップで心躍る楽曲が並んでいるではないか。これだけ多様なサウンドを創り出し、歌詞の中に潜む感情の機微を表現豊かに歌うのは並大抵の才能じゃない。そこで、文字通りこちらが色眼鏡で見ていたことを反省しつつ、ミュージシャン・イロメガネがどのように『37.2℃』を創り上げたのか、その核心に迫った。穏やかながらしっかりと自分の言葉で作品を伝えようという意思が感じられる発言から、彼女の音楽活動への想いを読み取ってみてほしい。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 関口佳代
うずくまって歌っているけど、決して嫌な気持ちにならないで力を与えられるような人になりたい
──2ndアルバム『37.2℃』は前作『お花畑に連れてって』から約2年ぶりのミニ・アルバムになりますが、その間どんな活動をしていたのでしょうか。
ライヴを中心に活動していたんですけど、今作のレコーディングが9ヶ月くらいかかったので、その制作期間でもありました。その間も会場限定でアコースティック音源をリリースしたりレコ発をしていたので、活動はずっとしていました。
──「155万人の引きこもり予備軍に贈る」等の謳い文句を見て、正直ちょっと構えて聴いたんですけど、とてもユニークでポップな作品でした。想像以上にミュージシャン然としているというか。
ありがとうございます。もともと、引きこもり予備軍の方々に聴いて頂きたいなという気持ちは前作からありましたけど、初めてのリリースをした後によりお客さんとの繋がりを感じるようになったので、目の前のリスナーの方をもっと意識した作品になったとは思います。

──亜優さんが音楽と出会ったのは幼少期の頃なんですか?
3歳くらいからピアノを習っていました。父の誕生日に歌を作ってプレゼントしたんですけど、「パパは~素敵、ママは~こわい~♪」という歌を作って(笑)、喜んでもらいました。ピアノは中2くらいまで習ってましたね。
──ピアノを弾いているうちに、自然と曲を作るようになったんですか?
父親も音楽をやっていて、自分の歌とかを聴かせてくれていたので、曲を作ることはそんなに思い切りのいることではなかったんだと思います。父はフォーク・ミュージックをやっていて、アコギを弾きながら歌っていました。私は今、エレキを弾くことの方が多いんですけど。ギターは高校1年生のときに軽音楽部に入ったときに初めて触って、ずっとFが押さえられなくてしばらく放っておいたんですけど、大学浪人時代にまた触り始めて。
──ピアノを習っていた幼少期から、自分で音楽を作るようになったのはどうしてですか。
高校を中退して引きこもりの期間が長くあったんですけど、初めはノートに日記みたいに荒ぶった気持ちを書きなぐる日々で、それを曲にしてみようと思って家にあった父が持っていた音楽機材を使って打ち込みを始めたんです。引きこもりで時間はあったので(笑)。2日間寝ないで打ち込んだりして作っていきました。その頃はほとんど外には出なかったですね。
──その分、色んな音楽に触れる機会があったのではないですか。
そうですね、音楽が大好きなので。特にレディオヘッドが大好きで。「Creep」をやった2003年の〈SUMMER SONIC〉で観たのがきっかけなんですけど。あれから自分も、うずくまって歌っているけど、決して嫌な気持ちにならないで力を与えられるような人になりたいなと思ったんです。
歌いたいというか、溜まっていたんだと思います、言いたいことが
──今年はそのとき以来、久しぶりにレディオヘッドがサマソニに出演しますよね。観に行くんですか?
行きます! そこだけはスケジュール空けてありますから(笑)。
──レディオヘッドからの影響もあるんでしょうけど、自分の曲を作るときに参考にした音楽ってどんなものがあったんですか?
初めの数年間は英語でしか曲を作ってなかったんです、レディオヘッドが大好きすぎて(笑)。後はUSインディーとかUKロックを参考にして。今の感じとは違って、すごく暗い感じでした。ポップではあったかもしれないんですけど、バンド・サウンドではなくて打ち込み然としている感じですごく暗くて(笑)。歌は入れていたんですけど。
──歌いたい、という気持ちはレディオヘッドのトム・ヨークを観てから?
そうですね。歌いたいというか、溜まっていたんだと思います、言いたいことが。
──『37.2℃』で歌っていることは、その頃とはきっと変わっていますよね。
かなり変わってきていますね。以前は本当に日記のような、思ったことを歌うパーソナルな感情のはけ口だったんですけど、だんだん聴いてくれる人たちを感じ始めてからは、外向きに変わっていったとは自分で思っています。

──最初に作った音楽は誰にどんな形で聴かせたんですか?
父親に聴かせました。仲良いんですよ(笑)。初めて人前で歌ったのは、高校1年のときに文化祭でコピーバンドをやったのが初めてですね。椎名林檎さんとかBlink-182とかWeezerをやってました。オリジナルはまだ作ってなかったですね。
──こう言ってはなんですけど、引きこもっていた亜優さんが人前で歌うことには抵抗がなかったんですか?
あります! 今でもあります(笑)。あんまり「見て見て!」っていうタイプではないので。初めはライヴ前に緊張で吐いてました、ずっと(苦笑)。ただ、ファーストを出してからのここ2年ですごくライヴが楽しくなってきました。活動自体は長いんですけど、ずっとライヴに苦手意識があって。サポートの中平(智也)さん(ローザ・パークス / I love you orchestra)とかに色々アドバイスを頂いたりしながら数をこなして行ったら、すごく楽しくなってきてそこまで緊張もしなくなってきましたね。
──ライヴを数多くこなすようになってから、そこから得たものが曲にも反映されるようになってきたのでしょうか。
1年半くらい前からアコギを弾き始めて、今回アコギで作った曲が1曲目の「勇気を持ってグッドバイ」と5曲目の「白い橋」なんですけど、この2曲にはたくさんライヴをしてお客さんに会いたい、という活動が反映されていると思います。
「思春期」は本当に大事な曲で、自分が音楽をやっていることや人生を詰め込んだ
──アコギで始まりますけど、途中からバンド・サウンドになりますよね。今作も全部、亜優さん自身がアレンジしているんですか?
そうです。ドラムからギターソロのフレーズまで打ち込んで、サポート・メンバーの方々に渡しています。もちろんまるっきりそのままではなくて、この人になら変えてもらっても良いというすごく信頼できる人たちとやっているので、“私はこういうイメージです”というのを提示しています。あ、でも“ここだけは変えないで”というところはたくさんあるんですけど(笑)。ある程度の部分は信頼してデモを投げてお願いしました。
──1曲ごとに表情豊かなアレンジになっていますよね。
ありがとうございます。そこはこだわっているつもりなので。
──「ブラックバードを歌って」というビートルズの「ブラックバード」をフィーチャーした曲がありますが、「ブラックバード」が収録されている『ザ・ビートルズ』(ホワイトアルバム)の実験的な要素からも影響されているんでしょうか。
いや、そんなにはないですね(笑)。ただ、実験的なことが好きなんです。箱に小物を入れて“カサカサカサ”っていう音をひたすら録ったり、ディレイタイミングをずらして行ってドラムのスネアロールを試してみたりとか、咳を重ねてみるとか(笑)。そういう音遊びとか変な音を入れてみるのは好きですね。
──そういう音遊びをひたすらやっていた期間があったから、今の音作りに繋がっているんですね。
ああ、それはそうですね。
──「思春期」で〈いら立ちが支配する思春期を懐かしむ〉と歌っていますが、亜優さんは音楽を作って行くことで思春期の自分から抜け出したんでしょうか?
「思春期」は本当に大事な曲で、自分が音楽をやっていることや人生を詰め込んだ曲だと思っているんです。でも実は、「思春期」はこのアルバムの中では本当に初期の曲で。まだ抜け出せなかった頃に、そんな自分を俯瞰して見ているつもりで作った曲なんです。だから抜け出せて作れた曲じゃないんです。いつもライヴで「思春期」をやると泣いちゃうんですよ。今までのこととかを思い返してしまって、どうしても涙が抑えられなくて。この曲をこうして発表できるのは幸せですね。生きてきて良かったなって思います。

──ピアノやアコギを弾くソロの女性のアーティストだと、弾き語りスタイルになる人も多いと思うんですが、あくまでもアレンジはバンドサウンドにしたいんですよね。
そうです。たぶん、本当にバンド・サウンドが好きなんだと思うんです。攻撃的なものや広がりがあるものや、自分の音楽はバンド・サウンドでこそ表現できる曲だと思っています。
──打ち込みで作ったデモを聴かせるのではなくて、スタジオで弾き語りをみんなに聴かせて一緒にアレンジしていくという方法もあると思うのですが。そういうことはやってみたことはあります?
ないんですよ。たぶん、人に責任を持ってもらうのがあまり得意じゃなくて、全部自分でやりたくなっちゃうんです。アレンジを人任せにすると、すごく口を出しちゃうと思うんですよ。自分の曲を自分が一番良いと思う形で出したいから、全部自分で打ち込んでます。
──打ち込みといえば、「召し上がれ」がすごくおもしろいサウンドだなと思ったのですが、エレクトロとダンスロックとディズニーが混ざっているような。
これも全部自分で打ち込んだんです。ギターソロは中平さんが弾いていますけど。フレーズはもともと自分で打ち込んだものですね。
──「あの時を」のBメロは違う人が歌っていますよね。
これはプラグラムハッチの相澤瞬君に歌ってもらいました。この曲は2年前に『お花畑につれてって』のリリース・パーティーをやったときに、入場特典で全部打ち込みで作った「あの時を」のCDを配布したんです。それがすごく好評だったので、今回リテイクしてアルバムに入れました。
微熱を帯びている感じ、私が感情的になっている感じもすごくイメージとピッタリ
──アルバムの全曲はすでにライヴで披露されているそうですが、ライヴを観たお客さんからはどんな反響がありますか?
「思春期」と「白い橋」が好きって言ってくださる方がすごく多くて、女性のお客さんだと泣いてくれる方もいて。それはすごく嬉しいですし、ミュージシャン冥利に尽きますね。
──前作に「なによりも、へいおんを。」という曲が収録されていますが、この言葉は曲のタイトルとしてだけでなく、亜優さんご自身のテーマになっているのでしょうか?
平穏になれないからこそ、平穏を求めていますし、そうなれると信じているんです。以前は「平穏が欲しい」って叫ぶことで救われる方法が音楽だったと思うんですけど、今は、自分が叫ぶことで救われる人がいるということに、自分が救われている感じです。ただ、聴き手の方に届けたいという気持ちが常々あるので、ポップソングにしたいんです。
──コーラス・ワークを多用していますし、賑やかな音がたくさん入っていますよね。それは意識的に明るく賑やかにしているのでしょうか?
そういうのが好きなんだと思います。ツラいことがあっても、「ハイ! ハイ!」って言ってたらどうにかなるような、救われる曲が好きなので。振り切りたいんだと思います。
──OTOTOYからはハイレゾ配信されますが、ご自分で音源を作っているだけに音質へのこだわりもあるんじゃないですか?
「これをこのまま再現できたら良いのに!」って思います。やっぱりCDにすると、「なんでこんなに変わっちゃうんだろう?」ってことがすごく多いんですよ。今作で言うと、特にアコギを使っている生の曲の空気感が、ハイレゾ配信なら伝わりやすいと思うので、ぜひ聴いてみてほしいですね。
──ところで、アルバム・タイトルの『37.2℃』にはどんな意味が込められているのでしょうか。
私は『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』というフランスの昔の映画が好きなんですけど、その原題が『37.2℃』なんです。今回のアルバムの大きなテーマとなったのがいびつな愛情だとかいびつな方が愛おしく感じたり… 自分がそんな恋愛をしていてツラいときに作った曲が結構多かったので。まさに『ベティ・ブルー』がいびつな恋愛、激情の恋愛について描いた映画なので、そこから拝借しました。それと、37.2℃というのは女性が1番妊娠しやすい体温らしくて。微熱を帯びている感じ、私が感情的になっている感じもすごくイメージとピッタリだったんです。
──5月27日に大塚Heartsでリリース・パーティーが行われますが、ライヴでは打ち込みも使うのでしょうか。
今回、ソロになってから初めてライヴで同期にも挑戦する予定なので、超緊張してます(笑)。リリース・パーティーは自分にとって節目だと思っているんです。自分が引きこもりからこういう風にステージに立っているという姿を、是非見届けてほしいですね。
LIVE INFORMATION
イロメガネ『37.2°C』リリース・パーティー
2016年5月27日(金)@大塚Hearts+
出演 : イロメガネ / ヘンレの罠 / エコ怪獣 / 無敵キャンディ / DJぞんびちゃん/ イロメガネアコースティック(オープニングアクト)
イロメガネ『37.2℃』インストアイベント(ミニ・ライヴ&サイン会)
2016年5月29日(日)14:00〜@タワーレコード浦和店
イロメガネ『37.2°C』リリース・ツアー
2016年6月26日(日)@京都VOX hall
2016年6月27日(月)@南堀江knave
2016年7月4日(月)@名古屋APOLLO BASE
2016年7月30日(土)@静岡Sunash
2016年8月2日(火)@新潟GOLDEN PIGS BLACK
2016年8月4日(木)@西川口Hearts
2016年9月9日(金)@大塚Hearts+
PROFILE
イロメガネ
東 亜優(ヒガシ アユ)のソロ・プロジェクト。幼少期のころよりピアノを習い、3歳の時、父の誕生日に初めてピアノで作曲をし歌を歌いプレゼントする。 イジメにより高校を中退、2年間引きこもりの後に大学に進学。 唯一の趣味である音楽に自分の存在意義を感じ、DTMによる音楽制作を始める。
2009年、「イスラエル・パレスチナ学生会議」における学生映画の主題歌を担当。
2009年8月、YAMAHA 3rd music revolution 山野楽器 東京大会 特別賞受賞。
2010年、バンド「イロメガネ」での活動を経て、
2012年7月、ソロ・プロジェクト「アユイロメガネ」を、重厚なサポート・メンバーを迎え、活動開始。
2014年6月、名称を「イロメガネ」に戻し、初の全国流通ミニ・アルバム『お花畑に連れてって』をリリース。 TOWER RECORDS 渋谷店 週間チャートJ-INDIES 2位、週間総合アルバム9位、デイリー総合4位を獲得。
2016年5月、2ndミニ・アルバム『37.2℃』を全国リリース。