発酵業界に名乗りをあげる人力ミニマル楽団“東京塩麹”とは?──ディスクユニオンからの刺客〈第3弾〉
人力サラウンド楽曲や、ミニマル × ジャズなどで新たな音楽の可能性を追求する、人力ミニマル楽団“東京塩麹”。まず目につくのが“東京塩麹”という、そのバンド名! さらに塩麹を然した食品サンプルを入れたビンに音源のダウンロードコードを入れた“ビン詰め音源”『21世紀の塩麹』の発売や人力 Remix ライヴなどなど、なにやらよくわからない活動もしているという。この東京塩麹ってバンドは一体何者なんだ?!
実はこの東京塩麹、2016年に開催されたディスクユニオン主催による初の本格的オーディション〈DIVE INTO MUSIC.オーディション2016〉の合格者なんです。これまでunizzz…、ペドラザとインタヴューを行ってきた〈DIVE INTO MUSIC.オーディション2016〉特集も今回で第3回目、そして最終回です。オーディション合格者として8月9日(水)に1stフル・アルバム『FACTORY』をリリース、OTOTOYでは今作を1週間の先行ハイレゾ配信! さらにリード曲「Tokio」を8月10日(木)までの1週間限定でフリー配信を実施します! 新世代ジャズマンの筆頭ドラマー・石若駿や、ネオソウル・バンドWONKのキーボーディスト・江崎文武も参加した今作について訊いたインタヴューを掲載するとともに、“東京塩麹”というバンド名なのに塩麹に関して全く知識がないというメンバーが、塩麹作りを体験。“発酵デザイナー”の小倉ヒラクさんをお招きして発酵に関していろいろと教えていただきました。東京塩麹が発酵業界参入へ名乗りをあげる?!
初のフル・アルバムを先行配信! ぜひハイレゾで
東京塩麹 / FACTORY(24bit/96kHz)
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/96kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?
【配信価格】
単曲 257円(税込) / アルバム 1,851円(税込)
【収録曲】
1. Factory
2. Tokio
3. ふてぶて都市
4. Time Stretch
5. Long Long Summer Vacation
6. 誰も見ていない
7. そこはか i
8. そこはか ii
9. そこはか iii
10. そこはか iv
アルバム・リード曲「Tokio」を期間限定フリー配信!
東京塩麹 / Tokio
【配信形態】
MP3
【配信価格】
単曲 0円(税込)
【収録曲】
1. Tokio
※フリー配信期間 : 2017年8月4日〜8月15日
INTERVIEW : 東京塩麹
かねてから“ビン詰め音源”(『21世紀の塩麹』)でOTOTOY界隈ではその存在を知られていた人力ミニマル・ミュージック楽団、東京塩麹。大人数で構築していく独自の音楽性を、その深い意味がありげなバンド名が表現している… のかと思いきや、意外にも「なんのこだわりもなく勢いで」ネーミングして今に至っているのだとか。なんだそりゃ! いいのかそれで!? というわけで、1stフル・アルバム『FACTORY』をリリースするにあたり自らのアイデンティティを再構築すべく、東京塩麴と名乗っている以上避けては通れない「発酵界隈」との邂逅が実現。“発酵デザイナー”の小倉ヒラクさんをお招きして塩麴作り体験をしつつ、メンバーの額田大志、渡辺菜月に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
塩麴作り体験レポート : 鈴木雄希
写真 : 作永裕範
“無駄なこと”をやるのがアートの役割
──アルバムのクレジットを見るとプレイヤーの方が大勢いらっしゃるんですが、東京塩麴のメンバーは何人なんですか?
額田大志(Composition&Arrangement・以下額田) : アルバムは14人でつくっているんですけど、6人がサポートでメインのメンバーは8人です。もともとは、僕が大学で作曲を専攻していて、現代音楽をつくっていたんです。NYの作曲家スティーヴ・ライヒの「18人の音楽家のための音楽」という18人で演奏するための曲があるんですけど、そういう大所帯でミニマル・ミュージックを演奏することをやってみたいなと思って。最初は大学や他の大学のジャズ・サークルの人を誘ったりして18人でやるっていうプロジェクトがはじまりですね。渡辺さんも別の音大で。
──渡辺さんは、どんなところに魅力を感じて加わったんですか?
渡辺菜月(Trombone) : 最初は、額田君の友だちからお誘いの連絡があって参加しました。私はもともとジャズをやっていたんですけど、大人数でミニマル・ミュージックをやるっていう自分としても初の試みで。ミニマル・ミュージックをやる機会自体がなかなか少ないんですけど、演奏も特殊奏法というか。普通に音を出すだけじゃなくて、例えば息だけを入れて音を鳴らさないで息の音だけを使ったりということが多くて。ただ、東京塩麴はちゃんと譜面になっていて音もあって各楽器でアンサンブルがあって、しかもわりとポップな感じでミニマル・ミュージックをやっていたので、そこに魅力を感じてやってみようかなって思ってからいまに至ります。
額田 : わかりやすくミニマルと言ってはいるんですけど、最近はようやくメンバーが固まってきて音楽も4年間くらいやってきて方向性が見えてきたので、いまは音楽的にはミニマルの概念からどんどん離れているような気はしていますね。ミニマルをやろう、というよりはバンドの音楽をやっていこうというスタンスに変わりつつあります。
──東京塩麴というバンドの音楽になってきたということですね。ところで“東京塩麴”というバンド名について教えてもらえますか。
額田 : これは、本当に安直でよくないんですけど(笑)、結成当時の2012年に塩麴がブームになっていて。バンド名を付けるのに迷って、なんのこだわりもなく勢いで付けました。
──そうなんですか? 音を発酵させて音楽をつくりあげていく、みたいな深い意味で付けたのかと(笑)。
額田 : 深い意味はないです(笑)。なので、申し訳ないと思っていまして。東京塩麴と名乗っているのに、塩麴について知らないというのが本当に申し訳ないと思っているので、今日は小倉ヒラクさんに教えてもらおうと思っています。
渡辺 : バンド名については何回か尋ねた気がするんですけど、たぶんそのときにしっくりくる返答を聞いてなくて(笑)。2012年の塩麴ブームに乗って付けたということだけは聞いてたのでそこだけ記憶に残ってました。でも東京塩麴って言いやすいと思うし、「東京塩麴っていうバンドに入ってる」っていうと、結構一発で覚えてくれるので、インパクトがある名前だなというのはしみじみ思います。
額田 : でも「東京 塩麴」でググると僕らが1番に出てきちゃうので、東京で塩麹を製造・販売している方に対して、ちょっと後ろめたいというか申し訳ないですね(笑)。
──音楽はミニマル・ミュージックを謳っていながら、『ビン詰め音源』を出したりHPが企業風(http://shiokouji.tokyo/)だったりとか、対照的ですよね。
額田 : そうですね。前作に当たるビン詰め音源をつくった理由は2つあって、僕はいままでCDを買ったことがライヴの物販ぐらいでしかなくて。もうCDを聴く世代でなくなっているんですけど、でもCDショップには現物を何か置きたいなって考えたときに、CDじゃないメディアで作品をつくりたいというのが1つ。もう1つは“無駄なこと”をやるのがアートの役割という気がしていて。今はなんでも早さや正確さを求められますけど、アートくらいは無駄だったり非生産的なことをしたりしていても唯一怒られないものだと思っていて。なのでこういった本当に無駄にしか見えないものをつくるということが活動指針の1つだと思って作りました。
──今回は1stフル・アルバムですが、どんな作品にしようと考えてましたか?
額田 : まず「ビンで出すのはやめよう」と。
渡辺 : あははははは!
額田 : 前作に引き続き、CD屋さんに置けるCDじゃないメディアをつくりたかったんですけど、ビン詰め音源の最大の欠点はCDの5枚分の厚みがあって、5アーティスト分の場所を取ってしまうので、CD屋さんですぐにどかされてしまうという(笑)。今回はフル・アルバムとしてちゃんと音源を出そうということでCDをつくりました。バンドとしても、1回ちゃんと音楽で勝負しようと思って(笑)。どうしてもビン詰め音源とかHPがなぜか企業風だとかそういう側面で見られがちなので。今回は4年間の集大成として、音楽の内容に強くフォーカスを当てるべく、CD形態のフル・アルバムとしてリリースしました。
──「Tokio」と「誰も見ていない」には女性ヴォーカルが参加していますね。
額田 : 彼女はermhoiという日本のエレクトロ・アーティストなんですけど、ビョーク的というか、アイルランドの感じというか。本人も日本とアイルランドのハーフなんですけど、良い意味で日本人離れしたサウンドのトラックとヴォーカルに感銘を受けてオファーしました。
──これまでのライヴの経歴を見ても、U-zhaan×mabanua、三浦康嗣(□□□)、スガダイローといった著名な音楽家たちと共演していますけど、それはどんなつながりから実現しているんですか。
額田 : 僕がイベントを企画するのが好きで、メールを色んな人に送りまくって。それこそ〈夏の魔物〉みたいな感覚で。
──成田大致さんのような感覚で、ということですか?
額田 : そうです(笑)。共通の知り合いもいないところから、メールを送って出てもらいました。だからもともとのつながりは全然ないんです。でもそのおかげで、今の活動につながっていることは確実にあって。スガダイローさんに出てもらったときは、マネージャーのノイズ中村さんという、荻窪ベルベットサンを経営されている方がいるんですけど、いまだに仲良くさせてもらっていたり、フレネシさんとか三浦康嗣(□□□)さんなど、実際に知り合って色々と話して刺激を貰えたのはとても良かったと思ってます。
──〈夏の魔物〉を観にいったりしていたんですか。
額田 : いや、観に行ったことはないんです。すみません。ただ、音楽性は全然違いますけど成田大致さんのことが好きで。自分が20歳くらいのとき、イベント企画をいっぱいやっていて、周りに同世代がいない中で頑張ってるなと思い込んでいた時期があったんですけど、成田さんを見ると10代から山を崩してその土地を売ってフェスをやっているので、「負けたな」と思ったんです(笑)。1回会ってみたいです。会ってご飯食べに行きたいなと思ってます。
──7曲目から最後の10曲目までは「そこはか」というタイトルで組曲になっていますね。これはどんなコンセプトでつくられたんですか。
額田 : 最初は、音楽じゃないところから音楽をつくろうと思って、色んな街をフィールドワークして、その街の体験を元に楽曲をつくってワンマン・ライヴでその曲だけを演奏するというプロジェクトがあったんですけど、途中で挫折してしまって。
──挫折したというのは?
額田 : 1月だったんですけど、東京のすごい奥の方にある村に行って山に登ろうとしたんです。そしたら雪がすごくて、崖みたなところで滑っちゃって怪我をしてしまって。遭難ギリギリみたいな感じになって泣きながら下山したんですよ(笑)。それで、さすがに無鉄砲に散策するのは危険だと思い、13の街をフィールドワークする予定が4つの街だけになって(笑)。初演は3年ぐらい前なんですけど、もともとは街を音楽化するというコンセプトでした。でも、どんどんライヴでブラッシュアップを重ねていくうちに変わって行って、今はこの4曲がミニマルの歴史をなぞるような構成になっています。1曲目はライヒのオマージュがフレーズとして入っていて、2曲目はギタリストのパット・メセニーがミニマルに傾倒した時期の『THE WAY UP』っていうアルバムにインスパイアされていてて。3曲目はブラント・ブラウアー・フリックというドイツの人力ミニマル・アンサンブルに対するバンドなりのアプローチになっていて、4曲目が僕ら、東京塩麴の音楽として手法を追求した作品で、ある種1960年代からガーッとミニマルの歴史を辿って今に至る、という組曲になっています。
──なるほど、じゃあ一旦ここでインタヴューは休憩して、塩麹作りを体験しましょう。
>>塩麹作り体験の様子はこちら<<
塩麴作り体験終了後
──塩麴作り体験、いかがでしたか?
額田 : ようやく、自分がこのバンド名を名乗って良いな、と思えました。本当に今まで無知過ぎたので。今までは塩麹を美味しいと感じたことがなかったんですけど、直に作ってみて、食べてみて、小倉さんの話を聞いて、興味を持たざるを得ないというか(笑)。ちゃんと失礼のないように東京塩麹と名乗って行こうと思いました。
渡辺 : 最初に作っている時点で「あっ楽しい!」って思いました(笑)。それと意外だったのが、塩麴ってこんなに簡単につくれるんだなって。発酵期間も、いまみたいな夏の30℃くらいのときは約1週間くらいでドロドロになるというのを聞いて、意外に手軽にできるんだなと思って、自分でやってみようと思いました。
──小倉さんは「塩麴はミニマル・ミュージック」とおっしゃってましたが。
額田 : 言い得てるところもあるなって。やっぱりミニマル・ミュージックが他の音楽と違っておもしろいのは、「構造的である」というところだと思っていて。麹があって塩があって… みたいに、歌で聴かせるとか綺麗なメロディを聴かせるというのではなくて、音楽の音が持っているおもしろさだけで構成するというのが強いと思います。構造的であるという意味では塩麹と通ずると感じました。
──強引にアルバムの話に戻りますが(笑)、今回はCDとLP、OTOTOYからはハイレゾ配信でのリリースになります。その辺りの聴きどころを教えてもらえますか。
額田 : 今回ミックスをお願いしたのが、森安裕之さんというMr. Childrenやsalyu × salyuとかを担当されている方で。僕はsalyu × salyuがすごく好きで、ミニマルに近いものがあると思い、森安さんにお願いしたら引き受けてくださったんです。森安さん自身もいろいろ提案してくださって、楽曲の音色から奏者のプレイに至るまで。ドラム1つの音に関してもシビアに選んで頂いたり、マイクも曲ごとに替えて頂いたり。今回のアルバムのドラマーは、同世代で活躍している石若駿。そこの相乗効果はすごくあって、ドラムは聴きどころの1つだと思います。
それと今回、ミニマルを人力でやる意味をすごく考えた作品で。打ち込みじゃなくてなんで生演奏でやるのかがわからない時期もあったんですけど、なんとなくわかった気がして。それはレコーディングしたときに、例えばピアノのペダルの音だったりとか、服がちょっと擦れる音だったり、トロンボーンだったら息の音が残っていて、今回それをあえて消さずに残したんです。アルバムのタイトルは『FACTORY』“工場”ですけど、工場を動かしているのは結局人で、製造者の顔が見えるというか、なんども同じフレーズを繰り返す機械的なアプローチでありながら、消せない人の姿が浮き出てくるのは大事なんじゃないかと思って。特にハイレゾだとそこに実際に人がいるリアルさというのはより出てくると思うので、是非そういうところを楽しんで頂けたらと思います。
渡辺 : アルバムを通して、頭から順番に聴いてほしいなっていうのがありますね。最後に「そこはか」というすごく長い曲もあるので、ある意味自然にこういう曲順にはなりましたけど、やっぱり通して聴くと、いま東京塩麴がやっている活動が詰まっていてよくわかるなと思います。楽器の編成も変わっていたりして全部性格が違う曲なので、通して聴いて頂くと楽しめるかなと思います。
──8月20日(日)六本木SuperDeluxeで〈東京塩麹 1st Full Album"FACTORY"リリースパーティー〉がありますがどんなライヴになりそうですか。
額田 : 初めてのフル・アルバムということもあって、リリース・ライヴも熱量を込めてみんなでつくっています。東京塩麴は今までミュージシャン、アーティスト、ダンサー、役者、色んな人がごちゃまぜで参加していた団体なので、この日はそれをとにかく大勢出そうというプロジェクトで動いていて(笑)。会場全体を使った演出があるのでそれを楽しみにしておいてほしいのと、対バンに京都のアーティスト中村佳穂さんが出てくれます。ソロのはずが急遽バンド編成で出演してくれることになって、特別なライヴになると思うので、是非多くの方に観に来て欲しいです。
──今日の塩麴作り体験がステージにも活かされそうですか?
渡辺 : 活かしたいですね(笑)。
額田 : 小倉さんに教えてもらって発酵界隈にも箔が付いたので。MCで塩麴について喋ろうと思います(笑)。
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LIVE SCHEDULE
〈TOKYO SHIOKOUJI FACTORY RELEASE PARTY〉
2017年8月20日(日)@六本木SuperDeluxe
出演 : 東京塩麹 / 中村佳穂BAND
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〈リフォーム〉
2017年10月28日(土)、29日(日)@横浜 BankART Studio NYK Kawamata Hall
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PROFILE
東京塩麹
2012年末に結成された人力ミニマル楽団。音楽史上初“ビン詰め音源”の販売や、人力だからこそなし得るグルーヴィーな演奏が持ち味。これまでに3度の単独公演を開催し、人力サラウンド楽曲やミニマル × ジャズ、そして近年では人力 Remix ライヴなど様々な隠し味を秘めている。2016年秋にはディスクユニオン主催〈DIVE INTO MUSIC. オーディション2016〉に合格、2017年8月9日(水)に1st Full Album『FACTORY』をリリース。