【忘れらんねえよ、全作品を振り返る vol.2】──悩めるリアル中年かまってちゃん期
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忘れらんねえよが、GWの3日間で100曲を歌う〈「全曲LIVE」~忘れらんねえよの曲ぜんぶやる~〉の開催にあたりスタートしたシリーズ連載、「忘れらんねえよ、全作品を振り返る」! その第二回は、サード・シングル『この高鳴りをなんと呼ぶ』からセカンド・アルバム『空を見上げても空しかねえよ』までの軌跡を振り返ります。バンドのイメージを決定つけた作品も生まれたこの頃。フロントマンの柴田隆浩は、なにを悩みもがいていたのか、話を訊きました。今回もぜひ、音源と共にお楽しみください!
【忘れらんねえよ、全作品を振り返る vol.1】──名曲連発、初期衝動と野心のギラギラ期
アイゴンこと會田茂一氏がプロデュースで参加した、セカンド・アルバム!
INTERVIEW : 柴田隆浩(忘れらんねえよ)
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〈明日には名曲が この星に生まれんだ〉。2013年初春、今や忘れらんねえよにとって問答無用の代表曲 “この高鳴りをなんと呼ぶ” が誕生した。その想定外の好反響から知名度もライヴ動員数も上昇気流に乗ったことで、俄然勇気りんりん、やる気満々となった柴田。しかしその意気込みとは裏腹に、見上げた空は若干の曇り模様となっていく……。激動の連載第2回【悩めるリアル中年かまってちゃん期】~サード・シングル『この高鳴りをなんと呼ぶ』からセカンド・アルバム『空を見上げても空しかねえよ』まで~。
インタヴュー・文 : 岡本貴之
代々木公園のときにちょっと異変を感じたんですよね
──ファーストアルバム『忘れらんねえよ』は、この時点でのバンドのイメージを決定づけた作品でしたが、次にリリースしたサードシングル『この高鳴りをなんと呼ぶ』(2013年1月30日)の表題曲は、そのイメージを一変させました。
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柴田 : この曲は、たまたまスカイツリーを見に行って散歩してたときに、降ってきたんですよ。それまでの曲と全然タイプが違うし、コード進行もわけがわからないから、「これは佳作だな」と思ってたんです。でも一応、何となくチームのみんなに送ったら、当時のマネージャーだった樋口さんが、「すげえいい!」って言ってくれて、「えっマジすか」みたいな。ほかのみんなの反応もやたら良いから、「次のシングルこれでしょ!」って、サードシングルになったんです。そのときもまだ動員が150人ぐらいで、あとやっぱり忘れらんねえよってバカにされてる、舐められてるというか、「音楽的にアホ」みたいに決めつけられてるっていう弱点があるなと思っていて。ここで一つ、音楽シーンからリスペクトされてる人で尚且つヒットメーカーのプロデューサーを入れたいって直感で思ったんです。それで、当時木村カエラさんの「リルラリルハ」を作曲・プロデュースしていたアイゴンさん(會田茂一)に手紙を書いて、サウンドプロデュースをお願いしたらOKしてくれたんです。その判断も良かった。これがハマったんですよね。
──具体的なアイゴンさんとのやり取りは、どんな感じでしたか。
柴田 : 初めて「プリプロ」っていうのをやったんです。でも2回しかやらなくて、「そんなんでいいの!?」って。もっとやらないと駄目なんじゃないかと思ったけど、スタジオに3時間ぐらいずつ2回入って、その場でちょこちょこって、「このコードがいいかも、以上。じゃあレコーディングしましょう」みたいな。「大丈夫ですか?」って言ったら「大丈夫ですよ」って。BLANKEY JET CITYの「SWEET DAYS」みたいなイントロとかAメロは、アイゴンさんが「柴田くん好きなんでしょ?あれ、使おう」ってアイディアを出してくれたんですよ。1番の後で出てくる間奏のベースのフレーズも、「SWEET DAYS」のオマージュなんです。あとCメロのコード展開もアイゴンさんのアドバイスですね。
──“この高鳴りをなんと呼ぶ”は、後にYouTube100万回再生を達成するほどの代表曲になったわけですけど、曲を思いついた当初はこんなに支持される曲になるとは思わなかったですか?
柴田 : 思わなかったんですよねえ。だから、人に聴かせてみたいとわかんないですよね。ヒットソングって、わかんないところで勝手に広がっていくっていうことなんだろうなって思います。それとこの曲はMVも初めてライヴ映像で作ったんです。それまでちょけたMVを出してたから、やっぱり舐められてるなと。ちゃんとロックバンドであるっていうのを伝えたくて、川口潤さんにライヴを撮って欲しいって言ったんです。その判断も良かったんですよね。メロディも歌詞も、アイゴンさんのプロデュースも、川口監督のMVも全部ハマって上手くいったのが“この高鳴りをなんと呼ぶ”でした。これ、タワレコでめちゃくちゃ売れたんですよ。
──リリース日前後に、「タワレコに行ったらなかった」っていう声がSNSで広がってましたね。
柴田 : そうそう。売り切れて置いてなかった。それがマジで信じられなくて。しかも宣伝なんて全然してないんですよ?だから本当に口コミだったんだと思う。あと試聴機で聴いた人が買ってくれたりしたみたいです。それで店頭からなくなっちゃったから、バップからバイク便でタワレコにCDを送るみたいな状況でした。それと、この曲で動員がめっちゃ増えたんですよ。多分、これで次に渋谷クアトロのワンマンをやったんじゃないかな(2013年8月9日(金)東京 渋谷クラブクアトロ〈忘れらんねえよのワンマン筆おろしツアー〉)。
参考:2013年8月9日(金)に開催された、東京 渋谷クラブクアトロ〈忘れらんねえよのワンマン筆おろしツアー〉の模様
──動員が増えたきっかけの曲なのに、リリースイベントが代々木公園の無観客ワンマンライヴだったのも、初期の忘れらんねえよっぽくていいなと(笑)。
柴田 : ははははは(笑)。そうでした。でもあれもバンドの“前夜感”みたいな感じがあってよかったのかもしれない。この代々木公園のときにちょっと異変を感じたんですよね。場所を告知していなかったのに、ライヴが終わった後に結構な人数のファンがかけつけてくれたりして。そんなこと今までなかったから、何か変化を感じていました。
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忘れらんねえよ、代々木公園の無観客ワンマンライヴのレポート