rira──札幌を拠点にパーティーをメイクするDJ・トラックメイカー
数多くいるアーティストのなかから編集部がグッときたアーティストを取り上げるこのコーナー。第23回は札幌を拠点にパーティーをメイクし続けているDJ・トラックメイカーのriraをご紹介します。気鋭のライター、佐藤 遥による渾身のレヴュー、ぜひご覧ください。
第23回 : rira
文:佐藤 遥
riraの紹介に欠かせない単語は「90年代ダンス・ミュージック」。ハウスを主軸にダンス・ミュージックを幅広く分析し、現代の視点から再構築するDJ・トラックメイクが彼の持ち味だ。「94年レイヴ」や「93年プログレハウス」などのキャプションを添えた制作音源の投稿、ジャンルや歴史を踏まえてのDJ・作曲に関する丁寧な分析からは洞察力の高さが窺える。加えて、文化が脈々と継承され自分達の世代に繋がっていることに心を動かされている様子や、それがコロナ禍において途切れることを危惧する発言は、まさに彼のアンダーグラウンド・シーンへのリスペクトを物語っているだろう。それはそうとなぜハウスを作るようになったのかが気になるところだが、本人曰く意識しているわけではなく結果的にハウスになることが多いらしい。しかし私が思うに、彼の敬意が行き着いた先が今のスタイルなのだ。DTMを始めた6年前から多様なジャンルのイベントに出演するようになった現在までの過程で、ダンス・ミュージックの根幹としてハウスを捉えるようになり、自ずとそこを軸とする表現方法へ帰着したのではないだろうか。そして昨年10月には、その音楽性が十分に発揮されたEP『Feel Dolphin』がStones TaroとLomaxがオーナーを務める京都のハウス・ミュージック・コレクティブ〈NC4K〉からリリースされた。このアルバム、街中でも踊り出しそうになるほどダンサブル。90年代ハウスのニュアンスそのままとでも言うべきか。タイトルトラック“Feel Dolphin”は今後彼の代表曲となっていくに違いないだろう。イタロハウスを意識して制作されたこの曲は、独特なベースパターン、コンガを用いたハイテンションなリズム、陽気なウワモノによるフレーズが繰り返され、そこにカットインするハッピーなピアノのフレーズが気持ちいい。クラブでも夏の海でも大きな音で聴きたい。
そんな彼の活動の場は〈PLASTIC THEATER〉や〈sound Lab mole〉にて行われるDJイベント。ジャンルはベースミュージックからアニソンまで幅広い。せっかくだからここで箱の紹介もさせてほしい。まず〈PLASTIC THEATER〉は老舗イベントスペース。出演者の年代は幅広く、地元DJたちのダンスミュージックイベントがよく行われている。コンパクトさや照明、音響が相まって札幌でいちばんの没入感が得られる場所ではないだろうか。過去にはSEKITOVAのイベント出演もあった。そして〈sound Lab mole〉はクラブよりもライブハウスとしての認知度の方が高い箱。クラブイベントとしては道外のDJやトラックメイカーが出演する場にもなっており、札幌のシーンとの橋渡しを担っている。2019年はSeiho、okadada、DJ WILDPARTY、パソコン音楽クラブ、in the blue shirtなどがイベントに参加していた。肝心の彼のDJだが、自身の色としてのスロージャングルやブレイクビーツハウスを中心に、場の雰囲気を的確に読んで盛り上がる曲を配置していて、誰も置いていかないプレイをしている印象。またriraが活動する〈PLASTIC THEATER〉や〈sound Lab mole〉を中心としたシーンは出演者が多くはないため、ひとりのDJが様々なジャンルのイベントに出る傾向があり、それが幅広くダンス・ミュージックを聴いて考察することを後押ししているとも考えられそうだ。
そして2020年12月3日放送の〈2 otaku radio〉では「来年の目標は人気曲を出すこと。DJも作曲も自分の好きなものを追求するフェーズが終わり、みんなの好きなものを作ってみたい」と語っていた。彼が活動しているシーンは、かつてPARKGOLFやBUDDHAHOUSE、Qrionなどが活躍していたが、イベントの集客は決して良いとは言えないのが現状だ。その点を踏まえ、共演のハナカミリュウと共に「クラブは開かれてる場所だからこそ楽しいし、様々なコンテンツを駆使してクラブへの導線を増やしたい」とも話している。もしかしたら彼の人気曲を作りたいという意識も、この思いを反映しているのかもしれない。
また11月に行われた〈NC4K〉のイベントにてStones Taroがriraの“Mt.Fuji“をかけたことをきっかけに彼を知った人もいるようだ。彼を知るということは札幌のトラックメーカーたちの存在を知ることでもある。多数のイベントに出演しつつ、自身のトラックによってシーンの間口を札幌の外にも広げている彼は、間違いなく札幌のトラックメイカー主体のクラブシーンを牽引していく存在だ。
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rira
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