【BiSH】Episode79 セントチヒロ・チッチ「いまは伝えたいことをちゃんと言葉にしたい」
いまや誰しもが知る存在へと成長した"楽器を持たないパンクバンド”BiSH。2020年7月にリリースした“メジャー3.5th”アルバム『LETTERS』とベストアルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』の2作が、ともにオリコンのアルバム・ウィークリー・チャートで1位を記録するなど、コロナ禍においてもアグレッシヴに活動を続ける彼女たちの姿は、間違いなくいまの世の中に希望を与えている。オトトイでは、多忙な毎日を過ごすBiSHに12周目となるメンバー個別インタヴューを敢行。第3回は、セントチヒロ・チッチの言葉をお届けします。
BiSH、全7曲収録メジャー3.5thアルバム『LETTERS』ハイレゾ配信中!(歌詞ブックレット付き)
INTERVIEW : セントチヒロ・チッチ
チッチの言葉力がすごいな... 取材が終わった後の感想だ。発せられる言葉にはどれも芯があり、話しているだけでワクワクさせられ、1時間なんて本当にあっという間だ。毎日悩み、うまく伝えられないことにもどかしさを感じながら、それでも自分の考えを発し続けた結果なんだろう。そして彼女の存在は、いつの間にかBiSHだけでなく、WACKにとっても大きな柱となっていた。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 井上沙織
写真 : 大橋祐希
泣きそうになる日があっても「LETTERS」に救われてました
──この半年、どんな風に過ごしていましたか?
セントチヒロ・チッチ(以下、チッチ) : 外でアクティブに生きることが好きだったんですけど、外に行けなくなってしまったのでどうやって家でアクティブに過ごすかを考えるようになりました。粘土を使って陶芸みたいな創作をしたり、絵を描いたり。この前はNYLONとコラボして「いまとその先」をテーマにした絵を描きました。
──音楽ではなくアートで表現をしようと思ったのはどうしてなのでしょうか。
チッチ : BiSHとしての活動が減って、スクランブルズのみなさんとも一緒にやれない状況になったときに、自分が思い描いているものが全然表現できなくて。歌を届ければいいじゃんって思われるかもしれないけど、BiSHっていう立場がある以上何でも自由にできるわけでもなくて。音楽をいつもみたいに伝えられないから、何か違う形で自分がいま感じていることを表現していけたらと思って出てきた答えが絵だったんです。アートは観て深掘りしていくことが好きだったんですけど、時間はたくさんあるし、自分の頭のなかにあるものをやってみたら面白いかなと思って。
──好きなアーティストはいますか?
チッチ : 岡本太郎さんが好きで作品を集めています。めちゃくちゃ古いマグカップとか。長い間存在している物がいろんな人の手に渡ってリレーみたいになって、いまは私が受け取っていると考えると感慨深いですね。自分の部屋で生活していても、岡本さんの作品や言葉が部屋にあるだけで心を彩ってくれる感じがしてワクワクするんです。
──岡本太郎さんの魅力はどんなところだと思いますか。
チッチ : 独創的で個性を爆発させているところを尊敬しています。作品や写真や言葉を見ていると、この人はやっぱり何かをするべくして生まれた人だなと思って。私もそういう人間になりたいから、自分の人生の背中を押してくれる存在ですね。
──『LETTERS』はどんなアルバムになりましたか。
チッチ : いままでは自分たちの等身大を晒して「こういう風に生きていてもいいんだよ」ってがむしゃらに生きる姿を見せるのがBiSHかなって思っていたんです。だけどいまの私たちは誰かを救いたいし、生きる糧になりたいと思っていて。救うとか守るとかそんな大層なことは言えないと思っていたけど、この状況になって自分たちがどれだけ清掃員や音楽を愛していたのかっていうことに気づいたんですよね。「LETTERS」のデモを聞いたときに、こういう曲をいま届けられることにすごく意味があると思ったし、きちんと思いを言葉にしてみんなに伝えなきゃいけないなって思いました。
──「LETTERS」のデモは感染状況が一番酷いときに送られてきたんですよね?
チッチ : そうですね。本当に一番大変なときで、聴いてめっちゃ号泣しました。サビの歌詞はデモからほぼ変わっていなくて、皆同じことを思っていたのが嬉しかったし、やっと私たちにもできることがあるんだと思えて。なんでもないのに泣きそうになる日があっても「LETTERS」に救われてましたね。「LETTERS」のMVでは大きく旗を振っているんですけど、この曲が私に旗を振ってくれて、いまはその旗を私たちが振りながら進んでいる感じです。
自粛期間中は清掃員かってくらいBiSHの映像を見ていた
──『LETTERS』をリリースしてもうすぐ2ヶ月が経ちますが、反響はいかがでしたか。
チッチ : Twitterで感想を送ってくれたり、友達や親戚から「『LETTERS』聴いたよ」って連絡があったり、一人ひとりに確実に届いているなと感じています。聴いてくれた人たちがお返事の手紙をくれるんですよね。あなた宛ての手紙として伝えてきたものが、私にも私宛の手紙として返ってきてすごく嬉しかったです。あと、オリコンのアルバム・ウィークリー・チャートでベストアルバムに続いて一位を取れたのも嬉しかったです。自分たちが必死に伝えたかったことがたくさんの人に届いて本当によかったなって。
──『LETTERS』の中で好きな曲はありますか。
チッチ : アユニが歌詞を書いた「スーパーヒーローミュージック」がすごく好きです。斜に構えていた時期を抜け出して、好きな音楽に正面から向き合っているアユニが素直に描かれている曲で。「いつか枯れるために咲いた花のようなものだから そうだ 置かれた場所で咲きまくれ」って部分を私が歌っているんですけど、アユニの人生を表しているフレーズだと思うし、いつも走馬灯のようにアユニの過去が浮かんでくるんですよね。
──先日の〈TOKYO BiSH SHiNE 6〉では『LETTERS』の曲を全てやっていましたが、よくやり切りましたね。
チッチ : 振り付けも立ち位置もギリギリまで練習していました。新曲を一気にやるのはパンクしますけど、〈TOKYO BiSH SHiNE〉はBiSHが大事にしてきたイベントだし、せっかく『LETTERS』ができたんだからここでやるしかないと思って。お客さんがどう楽しんでくれるのかっていうのを一番に考えましたね。
──チッチが作詞した「I'm waiting for my dawn」では「サラバかな」の歌詞が引用されていますよね。モモコも好きな曲として挙げていました。
チッチ : 嬉しいです。私はお客さんのことを友達みたいに感じちゃうから、ライヴができなくなって大勢の友達を失った気持ちになっちゃったんです。自粛期間中は清掃員かってくらいBiSHの映像を見ていて、「サラバかな」の向かい合って手を伸ばすところですごく一体感を感じて。「I'm waiting for my dawn」の歌詞を書こうと思ったときにその光景が浮かんだので、リンクするフレーズを使わせてもらって、私が音楽に救われた部分と清掃員のみんなと歩んできた素直な気持ちを書きました。その部分は初期メンバーの3人で歌いたいと思って松隈さんに言ったら理解してくれて。「モモコ、ここチッチが歌ってほしいみたいやけん、ちょっと歌ってみてくれん?」って言ってくれて、歌ってもらった思い出があります。
──いい話ですね。
チッチ : いまBiSHは6年目で、結成メンバーとは丸々5年苦労を共にしてきたわけで。初期の頃のステージで「サラバかな」を歌ったとき、手を伸ばしてくれるお客さんは数えるくらいしかいなかったけど、いまは何万の手になって私たちに向かってきてくれている。やっぱり私の中でそこに対する思いは強くて、もちろんリンリンもアユニもあっちゃんも同じくらい大事だけど、また別の絆みたいなものがありますね。
CDショップもライヴハウスもBiSHを育ててくれた大切な人たちが生きる場所
──『LETTERS』は伝えることを強く意識した作品だと思うんですが、いまチッチ個人が伝えたいことはありますか?
チッチ : どうやって愛を伝えていくかというのが私のいまのテーマですね。BiSHでもBiSHらしい愛の伝え方をしていきたいなと思っていて。私の意志はBiSHの中でも大きな意志になると思っているので、責任を持って考えるようになりました。
──チッチの存在はBiSHだけでなくWACKにとっても柱になりつつあるんじゃないかなと思います。
チッチ : 自分の中に湧き出る言葉や感情がちゃんと存在するようになったんですよね。前は迷いや不安があって自信を持てなかったけど、思っていることを伝えるのは大事だし、自信がないなんてすごく無駄な考え方だったなって。BiSHとしてもWACKとしても、先頭に立って喋るときはちゃんと自信を持って素直な言葉を伝えるようにしています。最近はMCも決め込んでいないんですよね。
──〈TOKYO BiSH SHiNE 6〉の最後のMCでも「愛してます」って言っていたのが印象的でした。
チッチ : 伝えたい人が目の前からいなくなってからでは遅いから、いまは伝えたいことをちゃんと言葉にしたいと思っていて。〈TOKYO BiSH SHiNE 6〉では吐き出し切ったし、私も肩の力がふっと下りた状態で、泣いたり笑ったり感情的になっちゃったので最後はめちゃくちゃ疲れましたけど(笑)。6人でまだまだやれるなって思いました。いま逃げてられないし、新しい形に添いながら音楽を届けていかないとBiSHも止まってしまうから、難しいことを考えないでできることをいっぱいやっていきたいなと思えた日でしたね。
──ライヴの再開が待ち遠しいですね。
チッチ : もちろんツアーはメンバーもスタッフさんもやりたいですけど、やりたいだけじゃダメだと思うんです。だからいま何ができるのか考えるしかないし、現状を受け入れて、いまできることに必死になってその先を願うしかないですね。
──この半年で活動の仕方が変わって、個人での活動もたくさんあったと思いますが、自分自身にどんな変化があったと思いますか。
チッチ : ひとりでも伝えられることはあるんだなと気づけました。自分の好きなことを発信して、それがお仕事として楽しくできたことが多かったので、好きなことを好きと言ってきたことは間違いじゃなかったんだなって。中でもライヴハウス支援プロジェクト「LIVE FORCE, LIVE HOUSE.」の支援ソング「斜陽」に参加したことは大きかったです。Kjさんから突然連絡がきて、曲作りから一緒にさせてもらって。すごく尊敬している人たちとライヴハウスを救うための曲を歌えたのは嬉しかったし、改めて音楽の楽しさや仲間の大切さを実感しましたね。私に割り振ってくれた歌詞に「夢に飛び込め」ってフレーズがあるんですけど、KjさんなりのBiSHに対する思いなのかなと感じていて。Kjさんにはすごく感謝しています。
──チッチはライヴハウスに出るだけじゃなくて観に行く人だったから、より思いは強かったですよね。
チッチ : 何もできない状況の中、ライヴハウスがなくなってしまっていくのがすごく悲しかったですね。CDショップもすごく苦しい状況だったし。CDショップもライヴハウスもBiSHを育ててくれた大切な人たちが生きる場所で、その場所を守りたいっていうのはそれぞれが思っていたから、ベストアルバムを出すかたちで支援できることになって本当によかったです。私たちを支えてきてくれてきた人たちがいま一番苦しい状況じゃないですか。ライヴハウスもそうだし、音響さんとか照明さんとかライヴに携わってくれる人たちも。だからたくさんライヴをしたいし、どうにか私たちも手を引いて一緒に生きていけたらなと思っています。
BiSH、全7曲収録メジャー3.5thアルバム『LETTERS』ハイレゾ配信中!(歌詞ブックレット付き)
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PROFILE
アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなる楽器を持たないパンク・バンド。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。ツアーは全公演即日完売。1stシングルはオリコン・ウィークリーチャートで10位を獲得するなど異例の快進撃を続けている。