約4年ぶりとなる日暮愛葉(LOVES. 、ex.SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER)のソロ・アルバムが発売された。僕は大学生の頃にSEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERの超名盤『It’s Brand New』 を聴いてびっくりしちゃって、あわてて心斎橋のクラブ・クアトロのライブを見に行き、そのセンスに圧倒されて以来、ずっとファンである。
本作『perfect days』は、彼女のキャリア史上で最もアコースティック・ギターと歌を中心に構成されており、シンガー・ソング・ライターとしての能力の高さ、つまり曲の良さが全面に押し出される形となっている。歌詞からは、彼女の私生活での出来事や思いが決して隠されることなく溢れ出している。僕は、彼女の90年代特有のオルタナティブなサウンドにのせたこのストレートなボーカルの表現方法がずっと好きなのだ。残念なことに、僕のバンドの存在はまだ彼女には知られていなかったけれど(笑)、いつか一緒に共演出来ることを夢みつつ、ドキドキしながらインタビューをしてきました。
インタビュー&文 : JJ(Limited Express (has gone?))
アップ&ダウンがある日常が、私にとってのパーフェクト・デイズ
—このタイミングで、ソロ・アルバムをリリースすることになったきっかけはありますか?
別にこれといったきっかけはないかな。前のソニーから出したソロ・アルバムは、ソロといってもバンドっぽかったし、今作は、シンプルに耳に聴こえるようにしたかったので、自分の中のソロ1枚目な気分なんです。このアルバムは、私の恋愛が始まった初期衝動とか、夢中になる感じと相成って、創作意欲も凄くわいたんです。思春期的な気持ちを味わいながら、それを見ている客観的な自分もいて、そんな自分と共に創作したんです。
—様々な恋愛を経験して、自分を客観視できるようになったってことですか?
完全に客観視出来ているかというとそうではないです。でも、色んなシチュエーションを考えることが出来た。とにかく好きって気持ちを伝えたかったり、心配でたまらなかったり、壊れそうになったり、街角にいて自分達のことを確かめ合ったり・・・。すべて本当の話ってわけではないんだけど、フィクションでもないんですよ。
—愛葉さんは、ライブでもブログでも、自分を決して隠しませんよね。常に等身大というか・・・。
うーん。とは言っても、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERの時は、かたくなに歌詞に自分の事情を載せないようにしたし、ライブもキャラクタライズされた自分が出来あがってきてた。昔はブログとかがなかったから、そんなに自分のことを話す場所もなかったし、インタビューでも、あまり話そうとは思わなかった。だからパブリック・イメージで、シーガルの時は、さばさばして、強くて、男勝りで会うのが怖かったっていうのは今でも言われます(笑)。でもそれって別に嫌じゃないんですよ。あの頃も等身大だったし、結局、今も等身大。というか、あるがままをやっているだけ。
—前作と今作の間で変化したことはなんですか?
まず会社がかわったことかな(笑)。自分で色んなことにトライして、それでも上手くいかなかったことが前作ではあった。けれど私はエリオット・スミスみたいに、ちゃんとしたポップ・ソングを書けたり、リリックを書ける人が好きなので、今作ではなるべく一人でギターを弾いて取り組みたいと思ったんです。
—レコーディングの様子を教えてください。
鼻歌で書いたものを、ギターにおこして、それを自宅のプロ・ツールスに録音して、曲を完成に近いくらいまでつくっちゃって、それを岩谷啓士郎君に送るんです。その後、弾けない部分とかは岩谷君にも弾いてもらったり、アコギをかぶせたりという作業をします。最初は自宅で作業をしていたのですが、エンジニアのZAKのスタジオがあいたので、じゃぁ「ドラムを入れたい」って思って、月球っていうバンドの神谷洵平くんをよんで、ドラムだけではなく、トライアングルやパーカッシブなものも入れてもらいました。
—いつ曲を思いつくのですが?
決まった時はありません。だから思いついたら、テープ・レコーダーを持ち歩いていた時は、そこにすぐ入れますし、持っていない時は、携帯の留守電に入れたりします。でも、だいたい寝る前が多いかなぁ。眠りたいんだけど思いついちゃって、しょうがなく起きて録音して、さぁ寝ようって作業を3回くらい繰り返す時もあるんです。無防備な状況だから、思いつきやすいのかなぁ。逆に締め切りがあるような場合は、3日くらい「出来ない! 」って言っていたら自然に出来るんですよ。私の場合は、ずっとこのパターンですね。年を重ねたら変化したり衰えたりするのかなって思っていたけど、全くかわらないんです。
—ギターを持って「さぁ、やるぞ! 」みたいな時はないのですか?
それは一番苦手。ギターを持つと緊張しちゃうんです。自分のことをアーティストであり、シンガー・ソング・ライターであるとは思っているけれど、ギタリストとは思っていません。でもギターがうまい人は羨ましいなぁ。私はセッションが不得意ですから。
—シンガー・ソング・ライターで好きな人を教えてください。
別にソング・ライターに関わらず、声がいいとか、好きなミュージシャンはいっぱいいますよ。例えば、リンダ・ロンシュタット。彼女のフォーキーな曲が集まっているアルバムがあって、それがずっと好きなんです。後はリッキー・リー・ジョーンズやドノヴァンとか。
—ソロとバンドのLOVES.では、やりたいことは違うのでしょうか?
そうですね。LOVES.は、アコギを弾いたりはしたくない。アコギを弾いたとしても、ソロのようなアプローチではないんです。LOVES.は、あくまでも新しい場所を探求したい場所。ソロは、新しいことというよりは、自分の愛している物や曲を自分なりに表現出来る場所なんです。
—LOVES.の新作の予定はありますか?
来年の春には出せると思います。もう音源は8割がた出来ていますよ。
—子供の存在が非常に大きいとブログで書かれておられました。子供から与えられたものってなんなのでしょう?
日常生活から子供を切り離して考えることは無理ですね。子供がいて、自分がいるっていう順番です。でもステージにあがったりレコーディングする時は、なるべく自分のことを先に考えようと思っています。でも、それって結構努力しなくちゃ出来ないんです。子供の存在が明るすぎて・・・。凄いエネルギーで存在していて、冬なら暖房、夏なら花火みたいな存在なんですよ。意図して娘のことを書こうって思ったことはないけれど、子供の存在が曲に影響していないってことは考えられないですね。
—子供を育てながら音楽を続けることは難しいですか?
幸い、うちはおじいちゃんとおばあちゃんが凄く好意的に預かってくれるので、そこでストラグルすることはないですね。ツアーにも良くきてくれるし、生まれて10ヶ月くらいから、ずっと彼女は私のライブを見ています。
—タイトルの『perfect days』に秘められた思いを教えて下さい。
例えば、レコーディングが凄く上手くいった日とか、子育てが凄く上手く出来た日とか、彼とデートして楽しかった日とか、そんな「パーフェクトだなぁ」って思える日はあるけれど、そういう日が続くパーフェクト・デイズって私にとってはありえない。このアルバムの中では、感情の起伏を表現しています。元気な曲もあるし、落ち込んでいる曲も、迷っている曲も、でまた楽しい曲も出てくる。そういう脈絡はないというか、脈の激しい、アップ&ダウンがあるそんな日常が、私にとってのパーフェクト・デイズなんです。
—最後に長く音楽を続ける秘訣を教えてください。
病まないことですかね(笑)。クリエイティブな職業の人は、色んな状況に直面する時が多いと思うけど、そこでひとつひとつちゃんと解決していってほしいです。
愛しいうたものをレコメンド
LOLA & SODA / 石橋英子×アチコ
石橋英子(PANICSMILE)とアチコ(KAREN)によるデュオ。歌とピアノのみから繰り出されるサウンドは、無限大に広がり、誰も聴いた事がない新しい歌ものを生み出しています。AxSxE(NATSUMEN)の手により音楽ホールで一発録音された、真のエモーショナル・サウンド。
dis is the oar of me / Discharming Man
蛯名啓太のソロ・プロジェクト、Discharming man。今作では、札幌シーンの最重要人物の一人、bloodthirsty butchersの吉村秀樹もギター、プロデュースで全面的に参加しており、尋常じゃない重量感と張り詰めた空気感を醸し出しています。そして、特筆すべくは唄。決して孤高の世界で完結しない、全霊で思いの全てを吐き出す唄には感情を揺さぶられます。
わたしのふね / 埋火
現代和製ロック界に大衝撃!! 二階堂和美、トクマルシューゴに続く、埋火(うずみび)による正式デビュー盤にして大名盤。レトロでサイケ感漂う雰囲気を兼ね備えながらも、サウンドはエモーショナルでキャッチーなメロディー、静と動が入り混じったこのロック・サウンドはクセになります。
PROFILE
日暮愛葉
2002年、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER 活動休止後、ソロ活動スタート。
2003年、Ki/oon Records からシングル「NEW LIFE」にてソロ・デビュー。アルバム『Born Beautiful』をはじめ、3枚のアルバムをコンスタントにリリースしていく。2005年より、ニュー・プロジェクトとして、秋山隆彦(drs : downy/Fresh!/KAREN)、岩谷啓士郎(gtr,mpl. : KIB/トクマルシューゴ/フラバルス/golfer)と自身のバンドLOVES.を結成。都内を中心に精力的にライブ活動をスタート。2007年LOVES.名義での1st ALBUM『LUCKY ME』をリリース。同年10月には松尾スズキ監督脚本の映画「クワイエットルームにようこそ」の主題歌『NAKED ME』を含むsplit single「 NAKED ME」をリリース。 2008年にマンスリー・ライブを6ヶ月にわたり開催。9月に自身で立ち上げた新レーベルchance! dance! recordから2nd アルバム『NOW IS THE TIME! 』をリリース。現在、ソロとして執筆、楽曲提供を手がけながら自身のバンドLOVES.(日暮愛葉 and LOVES! )のニュー・アルバムに向けREC準備、先日10年振りに伝説のユニット! 愛葉×TSUTCHIE(シャカゾンビ)とのRAVOLTAも活動を再開し、ライブ、そしてコンピレーション『PUBLIC/IMAGE.SOUNDS』へも新録にて参加。
日暮愛葉 web : http://www.aiha-h.com/