アメリカには、ジョアンナ・ニューサムがいる。そして日本には、Predawnがいる。
信頼するシンガー・ソング・ライターのゆーきゃんに、最近のオススメって教えてもらったアーティストがPredawn。myspaceでその天性の歌声に触れて、すぐさま特集ページのオファーをしたのが2009年の9月。遂に念願かなって、彼女にインタビューすることが出来た。
自身でも人見知りだというおどおどした佇まいの奥には、強く輝く意思がうごめいている。売れないよりも、良い音楽が作れないほうが恐ろしいってことも知っている。彼女は、いったいなにを経験してきたの? 2010年6月。日本に1人の素晴らしいシンガー・ソング・ライターがミニ・アルバム『手のなかの鳥』と共に紹介される。これから多くの人々が、彼女の歌声に救われることだろう。
インタビュー&文 : 飯田仁一郎
『手のなかの鳥』をまとめ購入頂いた方には、特典として歌詞画像をプレゼント。
interview
—— 今回発売した『手のなかの鳥』というタイトルですが、その由来を教えてください。
「手の中の一羽の鳥は、薮の中の二羽の鳥より確かなものだ」といった感じの英語の諺があって不思議に思ったんです。それから、私ちっちゃい鳥が好きなんですけど、その鳥みたいに聞くたびに違うことを言い出すような音源だなっていう印象が聞いてみてあったんですよ。
—— 違うことを言い出すような音源?
かける度に違う印象を受けるっていうか...。
—— あなた自身が、「こういう風に聞け」とか、「こんな感情を想起させろ」って意思を持って歌っているわけじゃないんですね?
そうですね。
—— 曲を作る時は、どんなイメージを持って作っているんでしょうか?
作ろうと思って作るわけじゃないんです。思いついた時に、イメージ先行でバァーっと作って、その先に何が見えるかってことを求めているのかもしれないですね。作る度に、曲に何かを教えてもらっている気がするんですよ。
—— どんな時に曲はできるのですか?
色々なんですけど、けっこう落ち込んでる時とかが多いですね(笑)。
—— どんな事で落ち込むの?
なんだろう... 言葉に落ち込んじゃう事が多いですね。言葉に対して人一倍受ける影響が強くて、言葉が頭の中を駆け巡って、それで落ち込んじゃったりとかかなぁ。
—— そんなあなたが歌う英語詩は、どのように選ばれるのですか?
英語の響きで曲を組み立てていくと、一回言葉から自由になれるというか。言葉を通しているんですけど、自分の潜在意識に植え付けられた英語というんですかね。それを選び取っているという感覚があって...。
—— アバウトな英語で曲が出来て、それに近い言葉を当てはめていくという感じでしょうか?
それが近いのかもしれないですね。日本人て戦争に負けて潜在意識にいっぱい英語が叩き込まれていると思うんですよ。なんかそこから選び取っているという感覚があって。意味と響きが固まりになってて、日本語より言葉とものとのしがらみが無く、スーっと書けるんです。
—— シンガー・ソング・ライターとして尊敬してる人は誰ですか?
そうですね。シンガー・ソング・ライターでいうとウィリー・メイソン、ジェシー・ハリスとかニック・ドレイクが好きですね。元々ピアノでクラシックをやっていたんで、歌を歌いたい、ポップ・ソングを歌いたいって思っていたんです。シンガー・ソング・ライター的ではないですけど、歌いたいと思ったきっかけはレディオヘッドなんですよ。中学2年か3年の時に、ラジオで『Amnesiac』を聞いた時ですかね。その時に、視界が開けた気がしましたね。
—— それまでは普通にJ-POPを聞いてた感じですか?
ラジオっ子でしたね。J-WAVEとかInterFMとか。後AMで米軍のラジオが聞こえてきたんですよ。福生の方からだと思うんです。そこでかかっていたオールディーズがいいなぁと思っていましたね。
—— それまで聴いていた音楽とレディオヘッドはどう違ったのでしょう?
態度がストイックというか... あれほどストイックでは無いとも思うんですけど、私の音楽に対する態度っていうのは、レディオヘッドから見い出したんじゃないかなって思っています。
—— Predawnの音楽をバンドでやってみたいと思ったりしませんか?
「やろうよっ!」っていうノリで友達と即席バンドを組んだりしたんですけど、全部仕切っちゃっていいのか、妥協するべきなのかっていうのが全部伝えられないのが歯がゆくて、自分でやっちゃえみたいな。
—— やろうと思ったけど上手くいかなかった?
そうですね。あんまり必死にメンバーを探してなかったですしね(笑)。
—— リード曲の「Suddenly」は、とてもポジティブな印象を受けました。どんな時に出来たのでしょうか?
去年のはじめ頃に作った曲だったと思います。ギターのリフみたいなのがあって、最初はすごい悲しい曲を作ろうとしていたんです。でもサビの感じを思いついて、「このリフとこのサビはいける!」ってなって出来た曲ですね。その時は、とても嬉しかった気がします。
—— 今までEccyやandymoriの作品に参加していますが、本作はとてもパーソナルですね。今後、自身の作品で、共作なりをしてみたいって思いはありますか?
あまり友達がいないんで...(笑)。音に隙がある方が好きなので、ガシガシ人を呼ぶのも違うのかなぁって思ったりしていて。今までブラスはやった事があるので、ストリングスは、後々誰かにお願い出来たらいいなぁって思ってますね。土臭い感じの(笑)。
—— 土臭いっ(笑)。
なんか「ザラっ」とした、奇麗過ぎない感じでしょうか。
「確かなもの」を探し続ける事
—— マイペースな活動をされているなぁと感じるのですが、どんな音楽生活を送りたいと思っていますか?
本当にマイペースなんです(笑)。音楽をずっと好きでありたい、嫌いにはなりたくないって思っています。嫌いになるくらいなら、音源を出したりするのもやめちゃうかもしれないし、ライブもやめちゃうかもしれません。
—— 嫌いにならないためには?
やばいなって思ったら、自分から避けている気がします。例えば、ピアノは4歳の時から高校まで続けていて、大学にいく時に音大とか専門学校とかに行けばって言われても、「嫌いになる気がする」って思って、普通の大学の文学部に行ったり。
—— 大学はどこに?
長野の信州大学に行ったんです。なんか、北の方に行こうと思って。
—— そこで弾き語りで音楽をやり続けていたんですか?
そうですね。ギターを持っていって、弾いたり歌ったりしていました。
—— なるほど。音楽を専門にするのではなく、生活の一部にし続けるってことでしょうか?
生活に根付いたっていうか、息をするように、食べるように、歌いたいなぁって思っています。
—— 音楽を作る上で意識していることはありますか?
特にはないですね。本当にふっと湧いてくるものを大切に、自然にいようって思うことでしょうか。期限があったって、出来ないものは出来ないって感じですね。でも行き詰まったなぁって思った時に、ふとギターを取ると、曲が出来たりとか気持ちが楽になったりとか、なんか救われたりするんです。ギターは、救急箱みたいな感じですね。
—— 次は、アルバムを出したいとか思っていますか?
これから考えます。曲はいっぱいあるので、アルバムを作れるなら作りたいです。でも、このぐらいがやっぱりちょうどいいなあと思ったら、またミニ・アルバムになっちゃうかもしれないですけど...。
—— 今回のミニ・アルバム・サイズには理由があるんですか?
物語性を出しつつも、さらっと聞ける一枚が作れたらいいなと思って。全部自分でやっているので、いきなりのアルバムは、ハードルが高すぎると思ったのもあって。
—— 一番最初におっしゃった「確かなもの」って、あなたにとってなんでしょうか?
「確かなもの」はないっていうか... 探し続けるものですかね。音楽が確かなものであってほしいという願いはあるんですけど、そうじゃないのかなって思う時もあるし... だから、今は「確かなもの」を探し続ける事が確かなんだと思っています。
心に灯りをともす音楽
Joanna Newsom / Have One On Me
未曾有の体験、未曾有の感動! ハープを抱いた歌姫ジョアンナ・ニューサム、待望のニュー・アルバム。フル・オーケストラを配し、唯一無二のジョアンナ・ワールドが展開される。10 分を超える大曲から、2分弱の小品まで、おそろしく完成度の高い楽曲の充実ぶりに加え、時にジョニ・ミッチェルを彷彿させる、よりいっそう表情豊かになったヴォーカルも実に素晴らしい。
Andrew Morgan / Misadventures In Radiology
エリオット・スミス所有のスタジオで録音された今作は、エリオット・スミスなどのシンガー・シングライターが好きな方は勿論、60年代のSSWが好きな方にもお薦め出来るような時代を超えた魅力を持つ、知的で詩的な洗練された音楽です。
扇谷一穂 / たくさんのまばたき remixed by egamiyu a.k.a eg dub
本作は、4月28日にリリースされた彼女のオリジナル・アルバム『たくさんのまばたき』より、「on the line」「baby you're my destiny」「草とウサギ」の3曲を、異なるバックトラックでリミックスしたもの。リミックスはegamiyu a.k.a eg dub、マスタリングは高橋健太郎が手掛けました。アルバム購入者へは、彼女自身がアートワークを手掛けた、オリジナル・ウェブ・ブックレットをプレゼント。絵画と音楽と異なる二つの手法で、心に広がる風景を表現する彼女の世界を是非体感してください。
PROFILE
清水美和子のソロ・ユニットとして2008年に本格的に始動。若干23歳の女性シンガー・シングライター。類い稀な声質と楽曲センスを有し、全国リリース前にも関わらず、 Fuji Rock Fes '09、ap bank fes 09に出演。すでに業界関係者や耳の早いリスナーの間で話題になっている。また、対バンや口コミによりミュージシャンからもファンが続出しており、今までにandymori、QUATTRO、Eccyの作品に参加。くるり佐藤氏の連載コーナー「今月のデモ・テープ」や、ストレイテナーのホリエ氏のブログに紹介されるなど数多くの支持をうけている。
LIVE info
- 5月25日(火)@下北沢 basement bar
- 6月1日(火)@下北沢 440