死ぬ時の走馬灯で1番に出てきそうな夏になった──PEDRO、〈DOG IN CLASSROOM TOUR〉最終公演

アユニ・D(BiSH)によるソロ・バンド・プロジェクト、PEDROが全国6都市で開催した初の全国ツアー〈DOG IN CLASSROOM TOUR〉。1stフル・アルバム『THUMB SUCKER』リリース翌日に行われた、渋谷TSUTAYA O-EASTでのツアー・ファイナルの模様を、飯田仁一郎による渾身のレポートでお届けします。
PEDRO、初となるフル・アルバムをハイレゾ配信!!
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LIVE REPORT : PEDRO@渋谷TSUTAYA O-EAST
ステージに掲げられた大きなスクリーンに一匹の犬が映し出された。犬はそのまま教室へと向かっていき、教室には『最高の夏』と書かれたアユニ・D直筆の書道紙が貼られている。そして黒板に映る「日直 PEDRO」の文字とともにスクリーンが落ちると、ステージ上手にオレンジのキャビネットの上にマーシャルのヘッドアンプが乗っているギターアンプ。下手にはオレンジの3段積みのベースアンプ。さらにはドラムセット…とロッカーと「道徳」と書かれた黒板と黒板消しが。
田渕ひさ子(NUMBER GIRL/toddle)がステージに現れ、なぜかロッカーからドラムの毛利匠太が登場し、そして映像にも出演していた犬を連れたアユニ・Dが登場した。ツアー・タイトル〈DOG IN CLASSROOM〉を体現したステージでアユニが「きりつ、きをつけ、これからロックの授業を始める!」と叫んで“EDGE OF NINETEEN”がスタートした。
前半戦、特筆すべきは4曲目“NIGHT NIGHT”。シンプルな楽曲構成と印象的なメロディーは、バンドとオーディエンスの距離を近くし、フロアも呼応するようにモッシュピットで応戦する。ステージは先の状態なので、会場中が笑いながらモッシュしている姿を見て「学祭じゃん!」と思ってしまった。

8曲目〜10曲目の“甘くないトーキョー”、“MAD DANCE”、“ハッピーに生きてくれ”は、1st『zoozoosea』の曲。以前はうまく弾けていなかったアユニのベースの技術が格段に上がっており、しっかり曲が聴こえてくる。また、1st『zoozoosea』がメロディアスでスケールの大きな曲なのに対し、2nd『THUMB SUCKER』の曲たちは、よりアユニの心のうちが曲に反映されており、とても親しみやすく感じた。
その後のMCでアユニは「『THUMB SUCKER』は自分のやりたいこと、創りたいことをはちゃめちゃに詰め込んだアルバムです」と話した。全曲田渕ひさ子が弾き、アレンジにも関わったそうだ。本作はSCRAMBLESの松隈ケンタとアユニ、そしてメンバーで多くの会話をしながら創り上げたのだろう。だからこそ、連続して聴くと1stと2ndの大きな変化を感じることができた。
アユニが黒板の文字を「道徳」から「自習」に変えて後半戦がスタート。“ironic baby”、“自律神経出張中”では田渕ひさ子のギターが炸裂していく。ナンバーガールが盛り上がっているのは言わずもがなだが、Bloodthirsty butchers、toddleなどでプレイして来た彼女のギターはやはり格別で、PEDROというバンドを特別な存在として際立たせている。とはいえ、アユニもびっくりするほど上手くなっており、「アイドルがバンドをやりました」みたいに思っている不届き者がいるなら、ぜひ一度PEDROのライヴを観にきて欲しい。さらには、ライヴを重ねるごとに田渕とアユニのコーラスワークが馴染んできており、アユニのソロ・プロジェクトからPEDROというバンドになったことを強く感じることができた。
15曲目は“おちこぼれブルース”。個人的に2ndで一番好きな曲だ。PEDROの魅力の一つに歌詞がある。アユニは素直な言葉をただただ綴る。それは時にとても中二病的だけど、「それの何が悪い!」と、怒り、欲望、諦め、悲しみ、そういうものを全部ストレートに吐き出す。その言葉があまりにもむき出しなので、共感というよりもその初期衝動に圧倒されるのだ。

アンコールのMCでは「バンドでやるツアーは初めてだし、始まるのが怖かった。夏も嫌いだし。でも田渕さんや毛利さんや周りの人に支えられて、すごく楽しい夏になった。死ぬ時に走馬灯として一番に出てきそうな夏になった。BiSHを続けてきて、色んな出会いがあって、続けていくことには意味があるんだって気づいた」と話した。
このMCはめちゃくちゃ心に響いた。アユニはとても不器用で、インタビューでもBiSHとPEDROの関係性をうまく伝えることができていなかった。でも今日のMCでは「BiSHがあるからPEDROがあって、そして今がある」そんな当たり前のことをちゃんと言葉にしていた。彼女は本当にPEDROをやって成長したんだと思った。
最後は、“うた”、“ラブというソング”を続け、バンドらしくジャンプで終了。そしてまさかまさかのダブル・アンコールは、セットリストにもなかった“透明少女”のカヴァー! 新宿LOFTでのNUMBER GIRLの復活ライヴで会ったアユニは、どれだけ自分がNUMBER GIRLを好きで田渕ひさ子を好きかってことを必死に伝えてくれた。だからなのか、本編が終わってホッとしたのもあるのだろうが、今日一番に楽しそうな笑顔をして“透明少女”をやりきったのだ。
やりきった。その言葉が今日のPEDROにはとても似合っていた。初々しかった初ライヴは、2018年9月の新代田FEVER。その後の今年5月のLOFTワンマンは、自身でも満足がいっておらずとても悔しそうにしていた。それを挽回しバンドになってツアーから戻ってきた8月6日の渋谷クアトロ。そしてまさにバンドとして集大成となった8月29日の渋谷O-EAST。決して終わりではないけれど、駆け抜けたPEDRO。

今日のライヴのキーワードでもあった「夏」、そして「ひと夏の青春」。「死ぬ時に走馬灯として1番に出てきそうな夏になった」と自身も言っていたように、必死に練習して、リハーサルをして、ツアーを回って、ライヴをして。アユニ自身が積み上げていく思い出とその心の震えが、演奏を通して伝わってくるからどうしようもなく感動してしまう。もちろん技術はまだまだだけども、感情をぶちまけて、必死にバンドをする。そのことだけでこんなに感動できるからこそ、ロックはいつの時代も最高なんだって思い出させてくれた。彼女の姿を見てバンドを始める人もいるだろう。バンドなんて、ロックなんて、高尚なものでも、敷居が高いものでもない。誰もができる、最高の武器なんだ!
最後はアユニ自身で「自習」から「俺の夏終了」と書き換えてライヴは終了した。来春からはまたツアーをするらしい。今度は2020年の夏が始まる!
セットリスト
01.EDGE OF NINETEEN
02.アナタワールド
03.玄関物語
04.NIGHT NIGHT
05.GALILEO
06.ボケナス青春
07.SKYFISH GIRL
08.甘くないトーキョー
09.MAD DANCE
10.ハッピーに生きてくれ
11.NOSTALGIC NOSTRADAMUS
12.ironic baby
13.自律神経出張中
14.ゴミ屑ロンリネス
15.おちこぼれブルース
16.猫背矯正中
17.Dickins
18.STUPID HERO
ENCORE
01.うた
02.ラブというソング
ENCORE 2
01.透明少女
文 : 飯田仁一郎
編集 : 高木理太
写真 : kenta sotobayashi
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PROFILE
PEDRO

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーであるアユニ・Dによるソロバンドプロジェクト。
ベースボーカルに加え、全楽曲の作詞から一部作曲までを行う。
セルフプロデュースで放たれる彼女の持つ独特の世界観や感性が大きな支持を集める中、この夏いよいよ本格始動する。
アユニ・D Twitter : https://twitter.com/AYUNiD_BiSH
PEDRO Twitter : https://twitter.com/PEDRO_AYUNiD
Official HP : https://www.pedro.tokyo/