武道館公演を終えたMOROHAへ送る1通の手紙──客席で感じた違和感、そのときアフロはなにを思っていた?
ライター、斎井直史による連載〈パンチライン・オブ・ザ・マンス〉。今年2022年2月11日開催されたMOROHA初の武道館での単独公演を観た斎井。彼とMOROHAの付き合いは遡ること約10年前。このOTOTOYとMOROHAによるイベント〈40分〉を共に企画したところから始まりました。そこから随分と時は流れ、MOROHAは遂に武道館へ。この武道館でのライヴを観終えたら、久しぶりにMOROHAに関する原稿を書かせてくれないかという連絡を貰いました。武道館を終え、どんな感想が送られてくるのかと思いメールを開くと、そこには決して賞賛ではない文章が。「この日に感じた違和感、MOROHAにそのまま伝えられないかな?」ということで今回は斎井直史からMOROHAへ1通の手紙を送ります。それに対する返信もアフロから届きました。あの日アフロは武道館というステージでなにを思っていたのでしょうか?
斎井直史からアフロへ
「俺らフジロックにいつか必ず立つから!」と、搔き分けるほどの客がいないフロアに降り、バーまで行って騒ぐ坊主頭。それが、筆者が初めて見たアフロでした。当時2009年。良くも悪くもダンスフロアに静寂を作るMOROHAは、徐々にクラブ・イベントではなくライヴハウスに招かれるようになりましたが、もしも、その後彼らが国内のラップ・シーンで活躍していたならば…。時々、そんな妄想をします。
その小さなクラブでみた坊主頭が、フジロックのみならず、日比谷野音やZepp DiverCityを単独で埋め、遂に日本武道館へ。活動の場だけでなく、音楽に乗せるメッセージが成長して変化しても、常に狂気じみたパフォーマンスを見せてくれるのが彼らのブレないところです。初の日本武道館で、どんな桁違いの情熱を届けてくれるのか。特別なライヴを期待して、お祝いに行くような気持ちでチケットを購入しました。
もうひとつ、特別な思いを乗せていた理由があります。ロックやフォークのアーティストと並ぶことが多いMOROHAを、筆者はヒップホップのアーティストとして語りたいからです。ラップが世界的な人気ジャンルとなり、ネットで世界中の曲が隔たりなく聴けるいま、トレンドに対する反応の早さよりも、オリジナリティにこそ価値があります。MOROHAはその点において、桁違いの存在です。手と肘でアコースティックギターを叩きながらループを奏でるUKは、アフロの地元の友達でありX-JAPANに憧れてギターを始めたという、日本らしいバックグラウンドを持ちます。アフロのラップには、スラングや隠語はおろか、「Yo」の類のアドリブすらもありません。ひたすらに続く自問の末に絞りだした言葉。それがアルバム全編休まず、フルラウンド続きます。しかも平易な表現なのに、似た言い回しを使わない。こんなラッパーは稀有です。例えば世界中の様々な国のラップを横並びにしたとき、サウンドの独自性と狂気といえるほどの熱量は、突出した印象を聞く者に残すはずです。ヒップホップがオリジナリティや、ルーツに根ざしたスタイルに価値を見出す文化だとしたら、彼らはその結晶のような存在です。活躍のシーンが離れすぎてラッパーとして注目されてないこのふたりこそ、実は日本のシーンが海外に誇れるラップの独自進化ではないだろうかとすら、思います。だからこの日は、日本語ラップ史には乗らないかもしれない、ラッパーによる日本武道館制覇を見届ける思いで、田安門をくぐりました。
しかし帰り道。複雑な思いで九段下の坂道を降りていました。ここからは個人的な感想ですが、MOROHAが日本武道館でも、小さなクラブでライヴしていた頃のように悔しがっていた姿に、どうしても違和感を覚えてしまったからです。喜ばしい気持ちで向かったのに、久しぶりに見るアフロは昔よりも顔を歪めては、激しく悔しがり、ときに虚空を睨んですらいたのです。晴れ舞台でのその心は、正直なかなか想像するのが難しい。確かに、彼らはインタヴューでは活躍の場が広がっても悔しさを感じる日々だと語ります。彼らよりも成功しているアーティストに勝つべく、日本武道館で止まるわけにはいかないのも分かります。でも、今日この瞬間は流石に特別じゃないか。時々、嬉しそうじゃないか。本音で語らないと、どんな言葉だって虚勢に思えてしまうだろう。
「MOROHAと俺では、見ている世界が違いすぎるのかもしれない」「曲を演じ切るため、嬉しい気持ちを押し殺したのかもしれない」「顔をゆがめるような曲をやってきたんだ。隣の席の人なんて終始泣いていたじゃないか」そう、自分のなかで勝手に折り合いをつけようとする気持ちもあります。
…でも、やっぱりモヤモヤする。いいにくいが、本人に訊いてみよう! 筆者は10年前、バンドマンとラッパーとMOROHAでライヴを競いあうようなイベント『40分』を共に企画した仲です。知らない仲じゃない。久しぶりの対話が数多受けてきたような質問で申し訳ないけどさ、日本武道館でも悔しがるとき、心には何が見えてるんだい!?