90年代J-POPへ愛をこめて──レトロ・フューチャー・アイドル、marble≠marbleが目論む“平成リバイバル”
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空前のシティポップ・ブームが国内外で巻き起こっている昨今。そんななか、90年代のヒット・チャートを駆け抜けた“あのころ”のJ-POPへのリスペクトを全開に活動しているアイドル、それがmarble≠marbleだ。そんな彼女が前作『The Shape of Techno to Come』から約2年半、拠点を大阪から東京へと移し、8cmシングルやネムレスとのスプリット作品などを経て産み落とした4枚目のアルバム『89/99』。今作にはシングルやスプリットに収録されていた楽曲を中心に、加納エミリ、高野政所といった面々による多彩なリミックスも収録された16曲入りのヴォリューミーな1枚に。OTOTOYではフィジカルに先駆け1週間早くハイレゾにて配信がスタートするとともに、初のインタヴューをお届けします。令和に平成は蘇るのか!?
リミックスを含む全16曲入りフル・ヴォリュームな新作を1週間先行ハイレゾ配信!
ダイジェスト ▼ marble≠marble 4th album「89/99」ダイジェスト ▼ marble≠marble 4th album「89/99」
INTERVIEW : marble≠marble
「美大卒マルチ・クリエイターを目指すTnakaが、自分自身を“作品”ととらえてセルフ・プロデュースする、ソロ・アイドル・プロジェクト」という、なかなか情報量の多い枕詞がつくmarble≠marble。2014年に大阪で3人組エレクトロ・バンドとしてスタートし、現在は東京を拠点にTnakaのソロ・プロジェクトとして活動中。Tnakaは、デザイナーとしてアートワークやMV制作、さらにはグッズ・デザインや衣装デザインなども手掛けており、そこには彼女の“90年代文化への憧憬”が投影されている。そんな彼女の4作目となるアルバム『89/99』。これまではそのサウンドが「自然と90年代っぽくなっていた」というが、今作ではニュー・ジャック・スウィングやユーロビート、パラパラといった“いかにも90年代”なサウンドを意図的に作り、早くも「平成リバイバル」を目論んでいるというのだが…。Tnaka、そして全楽曲の作編曲を行なった藤田氏に話を伺った。
インタヴュー&文 : 石川真男
逆にいまの言葉を入れることが90年代へのリスペクト
──marble≠marbleは、Tnakaさんが「自分自身を“作品”と捉えてセルフ・プロデュースするソロ・アイドル・プロジェクト」とのことですが、なんかコンセプチュアル・アートみたいな感じですね。
Tnaka: えー、そうなんですかね。“自分がアイドルをやる”っていうのはそういうことだと捉えてたんですが…。客観的に“自分を作る”っていうか。これまではそんなことをぼんやりと考えていたんですが、今回アルバムをリリースするにあたってプロフィールを新しくして、その感覚を言葉にしたらそうなったって感じです。ずっと考えてたことなんですけどね。
──ともかくも、marble≠marbleは“作品”なわけですよね?
Tnaka: そうですね。作品…そうです。
──ところで、ファンの間では常識なのかもしれないですが、marble≠marbleの間の「≠」って、何なんですか?
Tnaka : 以前はバンドとして活動していたんですが、その名前を考える時に「同じ名前を繰り返す響きがいいよね」ってなって…。で、「marble」を繰り返しているんですが、「≠」は、私がハロプロ大好きで、その頃juice=juiceが出てきてたんですが、「=」を使ってるじゃないですか。それでなんか「≠」ってカッコいいかな、みたいな(笑)。そこはあまり深い意味はないです(笑)。
──なるほど(笑)。公式HPには「90年代J-POPリバイバル・アイドル」とありました。ということは90年代のJ-POPに魅力を感じているわけですよね?
Tnaka : そうですね。基本的に90年代の音楽とか、その前の80年代とか70年代とかの文化も大好きなんですよ。でも、1番の憧れの時代が90年代で。家にCDとかが沢山あって、「こういうの作りたいな」と思っていましたね。
──ご両親が音楽好きで、CDなどを沢山持っていらしたんですか?
Tnaka : そうですね。父がすごい音楽好きなんですけど、どちらかといえばライヴハウスに行くタイプではなくて、レコードをディグったりするタイプで…。父と一緒にレコード屋さん回りとかしてました。
──一緒にディグられたわけですね。
Tnaka : はい。訳もわからずやってました(笑)。家にCDが散らばっていて、ジャケットを沢山見る環境にあったので、そういったデザインにすごい憧れがあって。音楽も好きですが、ジャケットとかそういうのに関わることがしたいな、と小さいころからずっと思っていました。
──音楽のみに惹かれたのではなくて、デザイン的に「面白いな」と思われたわけですね。
Tnaka : はい。ワクワクしていました。今回ジャケットには90年代ファッションに身を固めた私が何人もいるんですが、PUFFYを意識したものもあるんですよ。家にPUFFYの8cmCDが沢山あったのですが、私、PUFFYのジャケットが本当に好きなんです。PUFFYのジャケットって基本的にイラストなんですけど、めちゃくちゃ細かいんですよ。それをめっちゃ眺めたり、落書き帳に書いたりとかしてました(笑)。
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──「80年代のリバイバル」はこのところ盛んですが、僕の世代からすると「90年代」って、まだ“少し前”ぐらいの感覚で(笑)、“レトロ”って感じでもないんですが…。
Tnaka : まぁ、お客さんには結構言われますね。「え? 最近じゃない?」って。「90年代はレトロに入るの?」みたいな(笑)。
──ちょっと距離感が掴みにくい感じがありますよね。
Tnaka : 「レトロに入るの?」ってびっくりされるんですけど、「あ、あったね、そういうの」「懐かしい」みたいな。そういうのを思い出す感じで、すごく楽しんでくれるお客さんもいて。そういうのを引き出せるようにしたいなって思ってます。
藤田 : 「90年代をレトロと言っていいのか」についてはすごく悩んだんですが、「ちょっと先取りしていこう」ってことになったんです。「レトロ・フューチャー」っていうと、例えばアナログシンセとかを使った80年代の流れを汲むテクノポップとかがイメージされやすいと思うのですが、そういうものがひとしきり流行った後で、「次は90年代がレトロって言われる時代が来るかな」って思っていて…。時代を先取りしたいっていうのもあります。
──そういうわけなんですね。では、90年代のどこに惹かれるんでしょう?
Tnaka : 古いものだとなんでもいいってわけではないんですけどね。でも、自分にグッとくるものは、昔のものの方が圧倒的に多いです。昔のものって、いいものだけが残ってるわけじゃないですか。いまの時代のものだと色んなバイアスが掛かっていて「いい」と思えなかったりすることもあるんですが、昔のものは何のフィルターもなく自分の感覚だけで「いい」って感じることができるんですよね。
──もしもTnakaさんが90年代に青春を迎えていたら、「いい」と思えないものも沢山見ていたかもしれないですよね。
Tnaka : そうですね。それこそ周りの人が…。私、90年代のアーティストでは小室哲哉さんとB’zが大好きなんですが、たぶん90年代に青春真っ只中だったら「みんな聴いてるから嫌だ」みたいになってたかもしれないですね(笑)。でも、いまはそういうのが何もなく、フラットに楽しめるっていうのがいいなって思います。
──そうですよね。いまなんてサブスクがあって色んな時代に自由に行けるわけですから。で、公式HPにあったと思うんですが「ちょっとだけ現代風にアレンジ」とありました。それは重要な部分ですか?
Tnaka : あぁ、そうですね~。
藤田 : 要は、古い機材を使って再現するというところには特に重きを置いていないんですよね。音圧とかエンジニアリング的な面では割りといま風にやっているということで、そんなに深い意味はないです。
Tnaka : 私的には、例えば歌詞とか…。“PARA PARA Shi Night”という曲があるんですが、敢えて「スマホ」とか「リプ」といった単語を入れたりして、「2021年の曲だぞ!」「令和の曲だぞ!」っていう部分を出したかったんです。90年代だったら、それが「電話ボックス」とかになったりして、後世の私が聴くとそこに哀愁を感じるんですが、逆にいまの言葉を入れることが90年代へのリスペクトになるかなと思うんです。90年代の曲には当時の言葉としてそういう単語が入っていたわけですから、そういう感覚を大事にしたいな、と。
──なるほど。現代の視点から見て「懐かしいな」と思う表現をするのではなく、あくまでその当時の視点や感覚で表現する、と。“同時代”の言葉で表現することが大切なわけで、それが現代なら「スマホ」や「リプ」という単語になるわけですね。
Tnaka : そうですね。