斎井直史「パンチライン・オブ・ザ・マンス」 第22回──CIRRRCLEとオンライン・プロモーション
今年もいよいよ残り1ヶ月半! そろそろ年末年始が近付いてきておりますがみなさまいかがお過ごしでしょうか? 先月、先々月はiriやchelmicoといったメジャー・レーベルで活躍するアーティストの楽曲を初期から手掛け、ヒップホップ・グループ、CBSのバック・バンドであるChicken Is Niceとしても活動する〈Pistachio Studio〉のプロデューサー陣による濃厚座談会を前編後編にてお届けしました。今月は通常回に戻り、東京とLAを拠点にじわじわと話題を集めるグループから分かる、ネット時代の新たなプロモーションの形について探っていきます。これを読めば今のアーティストがどう道を切り開いてるか分かるかも?
第22回 CIRRRCLEとオンライン・プロモーション
今月紹介するのは、CIRRRCLEのEP『Fast Car』。リリースが今年8月29日なのになぜ今更取り上げるのか。理由は後半にて。
Rを3つ並べたスペルが特徴的なCIRRRCLEは、リードヴォーカルのAmiide、LA在住のラッパーのJyodan、楽曲プロデュースのA.G.Oの3人によるグループです。まずはこの3人が揃った貴重なi-D JAPANでのイベントでのライヴ映像をご覧ください。
絶対良いグループですよね。AmiideとA.G.Oの動きがシンクしてるところなんて特にそう思っちゃいます。GOLDLINKのように躍動感あるフロウのJyodanと、アリーヤやシド(ジ・インターネット)を思わせるクールな歌い方のAmiide。このAmiideは才能だけでなく、かなりのバイタリティーの持ち主のようで、LAの大学にて映像制作を学んだり、帰国後もソロでのシンガーとしての活動し、AYENというユニットでも活躍されていた様子です。
加えて、Amiide自身が同性愛者である事も公言していて「アメリカではヘイリー・キヨコ、ジ・インターネットのシド、ケラーニと(カミングアウトする人は)増えてきているけど、日本では皆無。だから私がその顔となって、皆に自分らしくいる事の心地よさを感じてほしい。」とこちらで語っています。
CIRRRCLEの良さはサウンドだけでなく、ありのままの自分が曲のテーマにある事が魅力だと思っていたので、この言葉を聞いてグっと来てしまいました。例えば「Talk Too Much」はよく喋るJyodanと、それをAmiideが嗜めるというというなんでもない事なのに、なんでこんなに聴いていて楽しいんでしょ。自省するところをJyodanが悪気なくヘラヘラしちゃってる感じがリズミカルなサウンドと一緒に伝わってきて、すごい楽しい。ビデオでダンスをしているダンサー3人のGANMIも、日本の男子然とした姿で輝いていて、総じてこのビデオは本当に最高! (GANMIという名前も最高!!)
他にも遠い世界を夢見てばかりの子に、好きなのに残念な気持ちも混じってしまう心境を歌った「Foreign Thingz」など、最近のリリース曲は等身大の視点が特に顕著。A.G.Oによる胸躍らせる現行のアメリカのサウンドと、JyodanとAmiideの英語のヴォーカルという楽曲に関心が集まってしまいますが、Amiideのアートに対する意識がCIRRRCLEの魅力の強い芯となっているのかもしれません。
そんな素敵でハッピーなヒップホップグループのCIRRRCLEは、ご存じの方も多いでしょうが、海外でも人気を博しているようです。恥ずかしながらそれを知らなかった自分は彼らのTuneCoreのインタビューを読んで驚きの連続でした。まず驚いたのが、Spotify公式プレイリスト”New Music Friday”入りを果たしていた事。しかもアメリカの、です。このリストはSpotifyによる新曲リストですから世界的トップ・アーティスト達が名を連ねているんです。インタビューにてそこに至るまでのセルフ・プロモートについて語ってくれていますが、門外漢の自分にはそれが面白くて刺激を受けました。無名のアーティストが作った曲を多くの人に聴いてもらう為にはどうしたらいい? 有名アーティスト達の新曲ラッシュに流されるしかなくない?『WSHHにでも送っちゃえば?』程度のアドバイスをしかねない自分はもう過去。少し勉強してきましたので、最新のオンライン・プロモーション術をザックリと解説したいと思います!
まず、上のTuneCoreによるCIRRRCLEのインタビュー中で出てくるSubmitHubという言葉を聞きなれない人もいると思います。これはレーベルや有名ブロガー・キュレーターへ楽曲をサブミット(送信)できるサービスで、課金すれば96時間以内に最低20秒は送り先に必ず聴いてもらえ、フィードバックが貰えるサービス。有意義なアドバイスが返ってくるとは限りませんが、フィードバックすら貰えなかった場合は返金されます。似たサービスにPlaylist Pushというものもあり、これは400人以上フォロワーのいるプレイリストターにお金を払って自分の音楽を聴いて貰うもの。YouTubeの人気アカウントであるMajesticやTrap City、Spotifyの数多ある有名プレイリストに入り込むことができれば、爆発的に聴かれる事は間違いない。国内だとluteやSpincoasterといったブランド・カラーを持つメディアも、アーティストと共に制作する事も増えてきましたね。大海のようなインターネットの世界で、自分の音楽を受け入れてくれる感性を持つ耳へと楽曲を導いてくれる素晴らしいサービスだと思います。
CIRRRCLEはそういった新しいツールを利用するだけでなく、日経MJからの取材によるとメンバー全員で合計1000件以上(!)はSNS上で影響力がある友人へDMを送った事や、自分たちの音楽がどこの国に聴かれているのか分析した上でInstagramに広告を出したり、マンパワーでの宣伝なども含めて地道なプロモーション活動も欠かさなかった事を語っています。いやぁ、自分はここまで良いグループは勝手にバズるのかと思っていましたから、頭が上がりません。
余談ですが、アーティストによるオンライン・マーケティングを語るうえで近年外せない存在がAmPm(アンパン)。海外のSpotify有名プレイリスト入りを何度も果たしている日本人アーティストです。顔を隠しライブも行っていなかった彼らが、いかに世界規模のファンを獲得したのか。そのあらすじだけ説明しますと、デジタル・マーケティングの会社を経営する2人は実験としてAmPmを発足します。最近のヒットからBPMやキーのトレンドを考えて曲を制作し、様々な広告を試していた結果、Spotifyにて反響が現れ始めた為にSpotifyでリストに載る為にアルゴリズムのソース・コードを推測。Spotifyを集中的に攻略するべくリリースの度に試行錯誤を重ねて今に至るそうです。(詳しくはこちらの記事)ちなみに先月は公式グローバル・プレイリスト”Signled Out”という世界の新曲から反響の大きかった30曲をピックアップしたリストにも選ばれました。日本人の快挙とすら言えます。
CIRRRCLEもAmPmもSpotifyで得られた分析データを基にInstagramでの広告を投じたそうですが、個人的に興味があったのでSpotifyとIGに並ぶ欠かせないあのサービス2つの攻略法も調べてみました。
「SoundCloudでもYouTubeでもメタデータとアートワーク、タグとプレイリストの4点を疎かにしない事」「大事なのに意外にも疎かにされがち」と注意深く呼びかけるのがこちらの彼。
Smart Rapper TVというYouTubeチャンネルですが彼はRob Levelという名前で曲もリリースしており、YouTubeでもRob名義は15万、Smart~でも13万の登録者です。音楽におけるマーケティング系ブロガーという限られた分野で見れば、たった2年前にできたチャンネルなのに最も多くの購読者を誇ります。
まずはメタデータ。楽曲ファイルにはアーティスト名やアルバム名、リリース日等の情報を記入するところがありますが、それをSoundCloudは読み込んでくれます。加えてジャンル、サブジャンル名はもちろん、ムード(雰囲気)まで詳細にタグに記入する事。YouTubeやSoundCloudはアルゴリズムからユーザーが気に入りそうな音楽をリストにしてくれますが、タグがある事でアルゴリズムに引っ掛かりやすくなるそうです。「やたらと関係ないタグを盛り込むもんじゃない。量より質を意識してタグ付けしないと自分の価値を下げ、正しいリスナーに出会えない」とも彼は注意していますが、交流が無くてもタイプの近しい有名アーティストやサンプリング元くらいは入れてもいいでしょう。
次にアートワーク。当然すぎるアドバイスですが、確かにYouTubeの画面を埋める膨大な動画を、我々はサムネイルだけで捌きます。せっかくの自信作なのに、見た目で弾かれたら損。いい音楽かどうかよりも前に、眼を引くアートワークにする必要がありますから「50ドルから150ドルくらいはかかるけど、プロに頼む価値はある」とRob氏。
最後にプレイリストを整理する事。そんな事? と思った自分は後から膝を打つ思いでした。日本のアーティストってSoundCloudのリポストに消極的な傾向があります。おそらく、自分のホーム画面は自分に関連した楽曲だけを揃えたい心理が働くのかとおもいますが、CIRRRCLEのA.G.Oが語るように海外のアーティストはリポスト文化が盛んでお互いがお互いのファンを紹介しあっている印象です。またプレイリストを作るとフォロワーに通知されるので、新曲をリリースしなくても自分の画面を開いてもらえるかもしれません。
以上、マッチョでいかにもリア充という感じのRobさんですが、誰でもできる小細工なしの正攻法を熱く丁寧に紹介するあたりが逆に好感を持てます。だって、お金で有名アカウントにリポストをお願いできちゃうRepost Exchangeを紹介していませんからね…。リポストやフォローがビジネスになった事でSoundCloudをダサくしたという意見もよく聞きますので、こちらは自己責任でお願いします。
最後に当コーナーの下書きを公開する感じで、自分もSpotifyのプレイリストを作成してみました。随時追加して、原稿のネタが決まったら白紙に戻します。よかったら、時々チェックしてみてください。
https://open.spotify.com/playlist/4yFGJLMkAp41Mvh9rglQaz
CIRRRCLE『Fast Car』はこちらにて配信中
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