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『40分』2011.9.17@新宿MARZ-Live Report-
『40分』Vol'3
2011年9月7日@新宿MARZ
Live : 田中光&MASAYA YONEYAMA(応募枠)、キリコ、撃鉄(バンド枠)、ISSUGI、MOROHA
photo by yukitaka amemiya
テーマは異種格闘技
短い時間のショウ・ケースにしか恵まれないラッパーが多い中、「時間をたっぷり使って本気のライヴをやり合おうじゃないか」というヒップ・ホップ・ユニットMOROHAのMCアフロの声から生まれたイベント『40分』。今年から新宿のライヴ・ハウスMARZではじまったこのイベントは、3度目となる。今までは手探りをしている感もあったが、今回の『40分』には、今まで掲げて来たコンセプト以上の、新しい方向性が生まれた瞬間があった。
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毎回『40分』の1セット目に登場するのは応募枠のアーティストだ。今回は1MC&1DJの田中光&MASAYA YONEYAMA。ラッパーらしからぬ長髪の謎めいた風貌とは裏腹に、田中から放たれる純粋で熱い言葉が、初見のオーディエンス達をも静かにステージへと引き付けて行く。ふと、用意したイスに座り、中盤はポエトリーに近いラップ・スタイルを聞かせる田中光。MASAYA YONEYAMAがブレイクに挟むテクニカルなスクラッチにも観客から歓声があがる。「僕らはこれをラップと思わず、自分の音楽としてやっているんですよ」と語る田中光は、暗い照明と煙たいトラックの中で清々とした表情でマイクを握っていた。第2セットは歯に衣せぬアーティストDisが沢山詰まったサード・アルバム『DIS IS IT!!』で話題となったキリコ。トラック・メイカーとしても名を馳せるDJ OLDFASHIONを引き連れての登場だ。前半は主に攻撃的なジャズの音を取り込んだ曲を中心に披露してゆく。その様子は、ややクールすぎるようにも見えたが、「極悪JAZZ」後ライト・アップされたキリコは「COMA-CHIをディスってから、イベント呼ばれなくなっちまったよ」と自虐を皮切りに「B-BOYはオシャレじゃない。見ろ今日の俺を。頭のデカさを考えてのチョイスだ」「Twiggyの新譜を聴いたけどS.L.A.C.K.の影響受けまくりじゃないか」と、彼らしいユーモアを交えたトークに会場のムードが笑いに包まれる。「哀愁GRIME」では前半とは打って変わり、激しく踊りまくるキリコ。引き続きグライム系統のトラックを使った「プチョヘンザ!!!」では、「なんちゃって」の文字が書かれた紙袋を使い、観客にレスポンスのラッシュを求める。しかし、途中ヘトヘトに踊り疲れたのか、リリックが飛ぶアクシデントが… ! だが、そのドタバタも彼の愛嬌ある一面。ディスりまくるヒップ・ホップを貫きながらも「フリー・スタイルなんてできないぜ」などと言って笑いに変えられるのは彼のキャラの強みだ。結果的に、キリコのユーモアがとても活きたライヴだった。アルバムなどからは細い声のフロウでディスばかりするようなイメージを持たれやすいが、それを逆手に取ったパフォーマンスは流石だ。
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第三セットはパンク・ロック・バンドの撃鉄。ファンも多く押し寄せ、スタートから一体感のある盛り上がりとなっていた。そこへ縫いぐるみの虎を二匹担ぎ、下半身は豹柄タイツ、上半身はジャケットの姿でヴォーカルの天野が登場。観客を睨みつけるようにゆっくりと見渡すと即座にジャケットを脱ぎ捨て、「ヒップ・ホップのダボダボの服着た奴らぁ~!!! 」とオーディエンスを煽りまくる。乗っけからエンジン・フル回転。しかも、撃鉄のエンジンの回転数は上がる一方。汗を飛び散らして暴れまくるライヴにもかかわらず、全く中だるみは無い。徐々にエスカレートして、天野はステージから鉄骨を登り、観客にダイヴ。しかし、あまりの高低差のため誰も受け止めずに床へ落下する天野。「良かったよぉ。運動神経良くてよぉ」と若干ふてくされて話しだす彼によると、どうやら撃鉄は某フェスのオファーを断って『40分』に参戦してくれたとの事。かといって撃鉄が今回だけ特別なパフォーマンスをしているわけではなく、パンク・ロック・バンドがライヴをしている時に放つエネルギーというのは、ヒップ・ホップとはタイプが違う。そして、エネルギーの総量もケタ違いだ。彼らに匹敵する暴れ方ができるラッパーが果たしてどれだけいるのだろうか? 唯一のバンド枠と最もアウェーな環境ながら、そのパフォーマンスでヒップ・ホップ・イベントの色を塗り替えてしまった。
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そして、嵐のような撃鉄のライヴの後のMARZには、アンダーグラウンド・ヒップ・ホップ特有の煙たい空気を纏った男達が徐々に集まっていた。幕が開くとDJ Scratch Niceがターン・テーブルを回し始める。序盤から見せつけるジャグリングが、さっきまでのムードを一気にクラブの鬱蒼とした空間へと切り替える。そして、本日の四番打者であるISSUGIの登場だ。初っ端から盟友・仙人掌も参加し、キラー・チューン「NEW DAY」を披露してオーディエンスを釘付けにする。その後もTAMUやMr.パグなど、ISSUGIの属するDown North Camp(以下、D.N.C.)のメンバーが次々と登場し、曲を披露してゆく。途中、フリー・スタイルを挟めども、D.N.C.のメンバーが揃い、タイトなラップで展開をしてゆく。ファンにはレアでたまらないショウだ。終盤にはS.L.A.C.K.とO.Y.Gが参加し、Sick Teamの「Killin' It」を披露。撃鉄やキリコとは異なり、オーディエンスとの掛け合いなどは無くとも、その無骨さこそがISSUGIの魅力なのだと思わせるほど見せ付けてくれる。客層やライヴ・ハウスの空気に流される事なく、自らのスタイルを貫き切ったISSUGIは立派に『40分』を使いきったライヴを観せた。
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最後はMOROHA。これまではバンド枠の後に登場していた彼等だが、今回は初めて自らがトリを務める。新宿MARZがホームである彼らは、いつも通り序盤から「俺のがヤバイ」で今回の共演者全員を煽ることで、自らアウェーの空気を作り出す。この日は「どんな名曲を産み出しても、シーンで成功しなければ忘れられてしまうんだ」とアーティストとして生き残る厳しさをメッセージにした新曲も披露した。アーティストとして足掻く様子綴るMOROHAが、実際に目の前で身を震わせながらライヴをして、他のアーティストのファンまで食ってしまっている。アフロは言葉を聴かせるタイプのラッパーだが、彼は顔作りから身のこなしまで荒削りでピュアだ。その出で立ちには、他のラッパーには真似できない才能を感じる。これまで出演してきたどの出演者にも引けをとらないこのライヴは、その夜のラストを括るに相応しかった。そこで終盤に差し掛かった頃「俺はヒップ・ホップもロックも、何かに反発するエネルギーを原動力としてる音楽だと思うんです。だから戦わないアーティストは、どんなに有名でもクソだ思ってます。童子-Tに呆れたのは俺も同じだよキリコ! 」と叫ぶアフロ。続けて「だから、ラッパーだったら『フリー・スタイルできません』なんて言うんじゃねぇ‼ 」と叫び、フロアへと降りる。観客が左右に分かれ、フロアで直接対峙するアフロとキリコ。唐突に指名されたキリコは驚きを隠せていなかったが、しっかりとアフロからマイクを受け取りフリー・スタイルを返しきる。そこでフロアは大きな興奮と声援に包まれ、キリコとアフロは熱く抱擁を交わす。そこには段取りも予定調和も無いからこそ生まれる、実力をむき出しにした者同士がぶつかり合うという本当のエンターテインメントがあった。ライヴを見せ合うイベントであった『40分』であったが、アフロが仕掛けた展開に観る者は皆奮い立ち、一体感を持ったヴァイブスが途切れることのないまま、MOROHAはステージを終えた。
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ホットかつスタイルの異なるMC2組とバンド1組を招き、応募枠を1組設けた、いわば出演者全員にとってアウェーなイベント、『40分』。この『40分』がヒップ・ホップによくあるパーティー・イベントと異なる趣旨を掲げている理由は、いわゆる"身内ノリ"を排除するためだ。そのため、ライヴの実力がオーディエンスの盛り上がりと直結し、脚色の無いエンターテインメントを作る。まるで異種格闘技のようなテーマ性を引き受けて参加したアーティスト達による真剣なショウにより成功を収めてきた『40分』を成功させてきたが、ライヴ中のアーティスト同士の掛け合いが起きた今回は、より一層テーマ性を強く感じた回となった。次回、1月そして一周年の3月に、どのような猛者達の40分一本勝負が観れるのか楽しみだ。(Text by 斉井直史)
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アーカイヴでこれまでの出演者を振り返る!
2011年3月25日『40分』Vol'1の様子はこちら
2011年6月11日『40分』Vol'2の様子はこちら
応募枠も募集中!
まだまだ挑戦者募集!! 条件はラッパーが40分ライヴ出来る事です!
件名に「『40分』応募枠希望」、本文に氏名/住所/電話番号/アピール資料をご記入、添付の上、info(at)ototoy.jp までメールをお送りください。
当選者の方には、追ってメール、電話にてご連絡します。
※あらかじめ info(at)ototoy.jp からのメールを受信できるよう設定ください。
>>>『40分』開催の声明文はこちらからチェック!
MOROHA PROFILE
2008年に結成されたMCのアフロとGtのUKからなる2人組。結成当初は、渋谷Familyや池袋bedなどでクラブ・イベントをメインにライヴを行うが、ビートの無い編成ゆえに出演者やオーディエンスから冷ややかな視線を浴びることも多々あった。こうした現場を通して屈強な精神力を培う。言葉から汗が滲み出る程に熱量を持ったラップ、そして、ギター1本だからこそ際立つUKの繊細かつ獰猛なリフ。個々の持ち味を最大限に生かす為、この MC+Gtという最小編成にこだわる。抽象的な表現を一切使わず、思いの丈を臆面もなく言い切るそのスタイルとリリックは賛否両論を巻き起こしている。鬼気迫るLIVEはあなたにとって毒か薬か!? 雪国信州信濃から冷えた拳骨振り回す。