斎井直史のヒップホップ連載「パンチライン・オブ・ザ・マンス」 第11回──2017年度総括編
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2017年も本当に残りわずか。先月は豪華客演陣を多数迎えた重厚なラップ・アルバムにして、4年半ぶりの作品となったKOJOEの『here』を特集しました。第11回目を迎えた今月の「パンチライン・オブ・ザ・マンス」は年末らしく、2017年のヒップホップ・シーンを斎井直史による視点で総まとめ! 先日公開のblock.fmの番組「INSIDE OUT」のMC・渡辺志保を聞き手に迎えた「OTOTOYトピック2017ヒップホップ編」と合わせてチェックを! 来年も引き続きよろしくお願いいたします!
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第11回 斎井直史的2017年度総括
今月は通常営業ではなく、1年を振り返らせてください。個人的に今年は充実していました。レビュー記事はインタヴュー記事とは違いゼロから書くので、自分の感じ方を書き直しながら検証するような作業でした。孤独でしたが、いい機会を頂いたと思ってます!
では、今年はどうだったかというと実は…個人的には「豊作だったのに新しい刺激が少なかった」という印象が拭えずにいます。それもそのはずで、今年を賑わせた方々は日米含めて今まで種まきをしてきた面々ばかり。その活動が安定期に入ったという印象でした。
そんな中、今年の顔は6月に書いたJP THE WAVY。次に自分にとってのアイドルJJJ、Febb、そしてPUNPEEを今年も追いかけていた一年でした。上の4人に関しては文章を書いていて、没頭して書く事が出来ました。来年もまた楽しみです!
ですが、自分が今月言いたいのは上のような事ではありません。
今年一番衝撃を受けたのは自分でも意外ですが、ラップ・バトルでした。自分にとってラップ・バトルとは、好きなスポーツ選手が出るSASUKEみたいなものでしたから、昨今のバトル・ブームにそこまで興味を持っていなかったというのがホンネの話…。そんな自分が今年のMCバトルの頂点を決める大会、KOKのレビューを他紙で書かせてもらったのが春の事でした。頂いたのはなんと8ページ。もう何度もKOKを見返しましたが、その時に今まで感じなかったバトルの魅力に気付けるようになりました。それは勝敗を競うストイックな環境下だからこそ光る、嘘偽りのない個性です。
まず、MCバトル自体はアートというよりスポーツに近いとは思います。でも、それが良い。積み重ねられた技術や、それを磨いた過去。瞬時の工夫や、とっさの表情。戦略としての手癖や口癖など、細かく観るようになるとバトルは新譜チェックよりも自分にとっては刺激的でした。そして参加するラッパーを知れば知るほどに各々のキャラがわかり、知っているキャラが増えれば増えるほどその組み合わせの妙を楽しめるのは言うまでもありません。すごい簡単に言うと、勝負って知れば知るほど、ドラマチックに観えてきてしまうんですよね。そんなバトルに距離を置いていた自分が衝撃的だったのは、KOK2017の呂布カルマ対輪入道。Ava1anchのドラッギーなベース・ミュージックにシンクロするかの如く、ドラッグを暗喩するワードが飛び交いながら的確に攻撃をしあう二人の様子は、さながら高度な空中戦といったところでした。
一方、このスタイル・ウォーズが、今年は音源で見たかったなと。数年前はアップカミングな若手だったアーティスト達が、其々のステージを上げたが故のブームだった一方、衝撃的な新人や周りのアーティストがこぞって影響を受け始めるような作品が無かった気がします。スタイルや主張、出自がどんどん多彩になり、作品は年々スタイリッシュになっていっている事は間違いない。なのに何故か皆がアートという山を登っている印象すら受けました。その傾向を感じる度に、ヒップホップってもっと手さぐりで、あえてダサく、意図的に意味不明にする風潮が少し前にはもっと強かったと思います。その頃に戻ってほしい訳ではなく、その創意工夫を凝らすストイックさが、ラップバトルのほうが今は盛んなように感じました。
今、音源が供給過多な数リリースされて、そこまで酷くダサい曲って無いと思います。だからこそ、もしダサくてもいいから衝撃的なものが出たら目立つと思うんです。名前は流石に挙げられないけど、話題にならなかったけどその気概をヒシヒシと感じれる作品は多かったです。ぜひ来年も攻める手を緩めないでほしい。昔応援していたアーティスト達が今、芸能人のように活躍している様子を見ていると、皆が語り草になるようなエピソードを沢山残しています。我こそはという気概は後からでも実るはず。俺だって、こんなブログみたいな記事書いてる場合じゃねえぞ。みなさん、よいお年を。そして来年もまたよろしくっす!
個人的に食らった曲の数々
DOGGIES「DOGGIES GANG」
言わずと知れた「雹と雪が降る」「野菜も食べる」のフック。音源ではギャグのように聴こえても大丈夫。生で観ると鳥肌が立つほど鋭く聴こえるから。
Khary & Lage Kale「Stronger」
メロウなのに歌いやすくて盛り上がりのあるフック、ピカイチ。また、過去のとの決別みたいなこの曲のような内容は、最近の一種の傾向でもあると思う。
JJJ「SOUL」
ほぼ全てのリリックがクールなのに温かみがある。
JJJ「ELA」
追随を許さない音抜きの美学。
JJJ「HPN ft.5LACK」
パンチラインというより、ビートの不安定感と曲のテーマがぴったり。
レーベル FL$Nation / AWDR/LR2 発売日 2017/02/22
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12. 13.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
Jarrerau Vandal 「Someone That You Love」
フックのコーラスが明るすぎて、嘘じゃなくなぜか涙が出てきました。個人的に今年ベスト。
JP THE WAVY「Cho Wavy De Gomenne」
ヒップホップが嫌いな妹が、この曲にすごいハマっていた事にこの曲の強さを感じました。
Will「On Call」
メロウなサウンド需要を担っているVaporwave系。「ビッチと会う」とどちらか悩みましたが、あまり話題にならなかったこの曲を。Drakeの「Hotline Bling」からインスパイアーされたような曲です。
Rich Chigga「Gospel Featuring XXXTENTACION & Keith Ape」
ヒップホップがパンク需要を食っている証明みたいな曲。またこの2人と低音が暴走しまくるからこそ、Rich Chiggaの魅力が跳ね上がってます。
鈴木真海子「Contact」
フックの「ふやけた愛です」という言葉は、もはや発明。トラックも音がふやけてて最高。
一十三十一「Let It Out」
ラップでは全くないのですが、こんなに胸が高鳴る事はなかったので入賞。
VLUTENT ALSTONES「雰囲気でイカせるヤバいよう(pro.KABEYAM)」
実はこの曲が個人的には今年のベスト・ラップソング。狙ってたら引き出せないであろう会長の魅力が、VOLOさんの手によって見事引き出されてます! CD限定なので、絶対買え! 細かい事を気にせず、格好つけず楽しめる貴重な1曲。
※ 該当曲の配信はございません
Mya「Ready For Whatever」
音数少ない妖しいサウンドと、Myaによる3連単フロウを意識したメロディーに、ミーハーな自分はノックアウトでした。全然話題にならなかったけど、こちらは個人的に突出してベストR&Bソングでした。
GRADIS NICE & YOUNG MAS「Music Hustler」
込み上げる自信と気概がタイト言葉になっている。久々にラップのアルバムを聴いたような気持ちにさせてくれた1枚。
レーベル DAWG MAFIA FAMILY MUZIK / AWDR/LR2 発売日 2017/10/04
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
PUNPEE「Bitch Planet」
今年を代表するアルバム『Modern Times』終盤のこの曲を聴けばいつでも、念願のPUNPEEのアルバムは最高だった…と静かに気持ちが上がります(笑)。RAU DEFのギャル男感溢れる入り方は何度聴いてもアルバム中でもハイライト。
レーベル SUMMIT 発売日 2017/10/11
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
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「パンチライン・オブ・ザ・マンス」バック・ナンバー
第10回 KOJOE 『here』
https://ototoy.jp/feature/2017111501
第9回 PUNPEE 『MODERN TIMES』
https://ototoy.jp/feature/2017101103
第8回 GRADIS NICE & YOUNG MAS 『L.O.C -Talkin About Money- 』
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第7回 夏の妄想を、湿気で腐らせない2枚と夏休みの課題図書
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第6回 気持ちのいい夏の始まりのイメトレに適した3枚
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第5回 JP THE WAVYとGoldlink
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第4回 SOCKS 「KUTABARE feat.般若」
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第3回 Febb's 7 Remarkable Punchlines
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第2回 JJJ『HIKARI』
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第1回 SuchmosとMigos
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