変わらない“スタイル”と、変化した“感覚”の間で──CBS、5年ぶりのアルバムが出来上がってから
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ライター、斎井直史によるヒップホップ連載〈パンチライン・オブ・ザ・マンス〉。前回から4ヶ月ぶりとなる今回は、古くから交流のあるラップ・グループ、CBSのインタヴューをお届けします。過去にも彼らが在籍するクルー〈Pistachio Studio〉特集を行いましたが、今回は昨年2022年末にリリースされたアルバム『Classic Brown Sounds 2』について、近いからこそ切り込める話をたっぷりと。
第36回(2022年11月掲載)はこちら
過去の〈Pistachio Studio〉特集はこちら
INTERVIEW : CBS
予定時刻よりも先に、ひとり待ち合わせの場所に佇むryo takahashi。常に落ち着いていて抜け目がない印象の彼は、プロデューサーになるべくしてなったのでしょう。彼はchelmicoと鈴木真海子のソロを手がけて知られるようになりましたが、そのキャリアのスタートにはCBSというラップ・グループがあります。
遊び心があるkyonのラップと、抑揚あるフロウのbasho。ふたりを引っ張るような気骨ある声のtakaya。彼らに質素で繊細なビートを提供するsuppleの4人で活動していたCBSですが、バックDJでもあったsuppleの帰郷により、新たに加入したのがryo takahashi。彼が加わってからCBSの魅力がより広まったのは、CBS以前から彼らと遊んできた筆者が感じるところです。そんなCBSの魅力は、どこか懐かしくもタイムレスな一品物の古着のよう。その魅力に自然と集まったメンバーで結成された”ご近所録音クルー”こと〈Pistachio Studio〉は、ESME MORIやTOSHIKI HAYASHI(%C)などラップにとどまらない活躍をするプロデューサー達が所属しているのですが、CBSの5年ぶりとなるアルバムは彼らの人脈に頼ること無く、前作同様完全自己完結。その名も『Classic Brown Sounds 2』。録り溜めた曲をサクッと出したような、ド直球なセルフ・タイトルのアルバムでした。ただ、近年世の中は大きな混乱を経験し、メンバー内には結婚や出産もありましたが、意外なほどそれらはリリックに現れません。これは意図したものなのでしょうか? 彼らはコロナ禍をどう過ごしていたのでしょうか? 色々と尋ねると逆にアーティスト側から問い詰められて、「じゃあ本音で言うけどな」なんてこっちが切り出したのは初めてかもしれません。小粋な彼らに無粋に絡んだインタヴューをどうぞ!
写真(文中) : TOSHIKI HAYASHI(%C)
5年ぶりのアルバム『Classic Brown Sounds 2』
セカンドは作ったものそのまま
──遂に出た2作目、おめでとうございます。前作『Classic Brown Sounds』は周りのプッシュがあってアルバムができたわけだけど、今回はなにがきっかけで?
basho : 新代田FEVERでやった〈Brighten〉(2022年5月21日)に出てから、リリースに向けて動き出したよね。
ryo takahashi(以下、ryo) : その前から人に会うと次のリリースをすげえ聞かれるしね。
kyon : そのときに「出ますから〜」とか言っちゃったからね(笑)
takaya : 俺らのなかでアルバムを作ろうという目的意識はあんま無くて、ファーストを出したあともずっと作ってたから、今回リリースした曲はだいぶ前から出来上がってたよね。ただ、アルバムを出すタイミングじゃなかった感じ。
ryo : コロナが始まって、もうライヴはしないって決めたのね。みんな家族がいるのに、家族の了解をとったあとにダメになったり、無理に来てもらうのも嫌だし。それでCBSが休憩モードに入っちゃった(笑)。
──その間、集まれなくて制作方法も変わったり?
ryo : コロナに入ってすぐ、全員分のオーディオ・インターフェイスとマイクを買い与えたのよ。
kyon : 機材を同じものに揃えられたのは結構良かったよね。集まらなくても録れるしさ。でもまあ、セカンドの曲はコロナに入ってから作ってないから。
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──え? そんなに前の曲なの?
basho : 「これ以上録ったらアルバムに収まらなくなるから、一旦ここで足すのをやめよう」とryo君が。
ryo : SoundCloudに出てる曲も会わずに録ったよ。
takaya : …なんかこのグループ、色々やばいなぁ(笑)。
ryo : ね、俺もいま思った(笑)。良い答えが全然出てこない(笑)。
takaya : とにかくkyonが曲を作りたくても、bashoは遊びたいモードで、俺は子育てモードだった。ryoは(鈴木)真海子とかの仕事が忙しくなってきてね。
kyon : それにもう当面ライヴはやらないと決めたから、アルバムを出してもライヴができなくて勿体ないじゃん?
──ちなみに、前作と比べると今回のアルバムは本人としてはどう?
basho : 俺としては、前のアルバムではアイデアを絞ってた。でも、セカンドは作ったものそのままっていう印象。集まって、今日は3曲つくると決めたりしてね。
takaya : ファーストはコンセプトとかを考えたけど、セカンドに関してはアルバムを考えて作った曲じゃない。ってか、あんま覚えてないんだよな(笑)。そこに尽きるわ!
ryo : いまになってみれば、それくらい昔の曲なんだよな。
──とはいえ、今作はkyonが目立っていたよね。ジャケの表紙だからじゃなくて、耳に残る瞬間が1番多かったと思う。
kyon : 俺? まじか。
takaya : たしかに。今回はkyonが主導で作ったから、お前が言う通りkyonが引っ張ったアルバムかもな。
basho : それに、リリックが前よりもソリッドだよね。
kyon : あのころは仕事に疲れてたから、リリックに棘があるのかも。
──そう。スムースな前作に比べて、鬱憤を吐き出すラップが多かったと思う。
kyon : まぁ、セカンドはめっちゃ遊ばせてもらった感じがする。ファーストは聴きやすさを重視したし、言ってしまえば“Stay Up All Night”とか分かりやすい曲も多かったじゃん。けど、その後ライヴして「次のアルバムは少しピリっと引き締めて、バック・トゥ・ザ・ベーシックなラップにしよう!」って皆が思ってたよね。
──前作リリース時のインタヴューでも、kyonは次回はもっと自由にやりたいと言ってたんだよね。
ryo : 要は、ファーストを録り終えたときの気持ちがセカンドだよね。
kyon : それに〈Pistachio Studio〉は真海子の『ms』(2021)があったり他の活動でPistachioらしさを出せてるからこそ、気が楽になったな。