たかが音楽、されど音楽、足掻いて紡いだ12編──Limited Express (has gone?)『Tell Your Story』
他に追随を許さない、そのオルタナティヴかつパンクなサウンドで駆け抜け続けるバンド、Limited Express (has gone?)。2020年12月にドロップした前作EP『The Sound of Silence』はコロナ禍の状況やBLMなど時代の空気を纏いつつ、サイモン・アンド・ガーファンクルのカバーも飛び出したその作品は、その当時の世間の閉塞感に一撃を入れた快作であった。そこからもバンドは活動のペースを緩めることなく継続的なライヴ活動、2022年からは配信シングルのリリースを重ねるなかでまとまった作品としては約2年半ぶり以上、こまどり(Sax)の加入後としては初のフル・アルバム『Tell Your Story』がついに完成。過去の作品とは違ったスパンで制作を進めたことで、これまでになくコンセプチュアルな1枚になったという今作。OTOTOYではインタヴューとともに、デジタル・ブックレット(PDF)付きにてアルバムの配信がスタート。今作の鍵はメインのジャケットだけでは分からない、“それぞれの”アートワークにあり…!?
デジタル・ブックレット(PDF)付き!
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INTERVIEW : Limited Express (has gone?)
Limited Express (has gone?)がニュー・アルバム『Tell Your Story』をリリースした。2022年に3カ月連続で配信された“No more ステートメント”、“R.I.P, friends”、“INVITATION”、そして2023年に配信された“ラーメンライス”、“HATER”を経て完成した本作には、ボーカルのYou got it! Yukari!(ニーハオ!!!!)の「12個のわたしと誰にでもあるかもしれない物語を詰め込みました。聴いてくれたら次は、あなたの物語を聞かせてください」というメッセージが込められている。
また、全12曲の収録曲にはそれぞれ個別のアートワークが配されている。それらは、彼女たちが信頼するアーティストにオファーして実現したものだ。そんなトータルでコンセプチュアルな『Tell Your Story』はいかにしてできあがったのか、Yukariに話を聞いた。
インタヴュー : 須藤輝
写真 : 小野由希子
ここまで作品としてバチっとハマったのは、もしかしたら初めてかも
──ニュー・アルバム『Tell Your Story』ですが、会心の出来なのでは?
ですかね? なんか、わかんないんですよ。いつもは「アルバムを作るぞ!」って収録曲を一気に録るんですけど、今回は配信シングルをリリースしながら長いスパンでちょっとずつ録ってるから、どんなアルバムができているか、全体像が自分ではよく見えなくて。わたしは曲を作るにあたって、わりといまやりたいことを「わー!」って出していくタイプなので、それをアルバムとしてパッケージしたときのことを考えたことがないんです。それはニーハオ!!!!にしてもそうで、「わー!」って作ったものをまとめたら、だいたいそのときの感じになるじゃないですか。『Tell Your Story』はそうじゃないから、いまいち感触が掴めていないんですよ。
──個人的には、いままでのアルバムのなかで1番好きかもしれません。
それは1番うれしい感想ですね。最新作が1番好きって思ってもらえるのは。
──というか、去年の1月から3カ月連続で配信リリースされた“No more ステートメント”、“R.I.P, friends”、“INVITATION”の3曲の時点でフェーズが変わった感じがして。特に“R.I.P, friends”でそれを強く感じたんです。単に僕がこの曲をめちゃくちゃ好きだからというのもあると思うんですけど。
ありがとうございます。うん、“R.I.P, friends”はメロディがメインみたいな曲なんですけど、メロディを歌うのが怖くなくなったかもしれないです。
──ボーカルのトーンもやや抑え気味で。
いま思うと、もうちょいやりようがあったかなって。わたしは完成したアルバムを聴き直すことがなくて、『Tell Your Story』も全然聴いてないんですよ。ってことはライヴでの歌いかたが自分のなかの基準になっていくんですけど、やっぱりライヴで歌ってるときはよりエモーショナルになるし、めちゃくちゃシャウトしてるし、ライヴの動画を観てもそう感じるんです。それに慣れた状態でCDの音源を聴き直したら「すごい平坦やな」って思うかもしれない。でもまあ音源は音源で、これはこれでいいんです。
──“R.I.P, friends”の歌詞は、Yukariさんにしては感傷的ですよね。
たぶん、コロナ禍でいろんなことを考えていたのも関係していて、もうちょっと個人的な感情も出していいんじゃないかと思えるようになったんかな。以前はそれを抑えていたというか、別に音楽で外に出したいと思っていなかったというか… もちろん社会に対する怒りとかは歌詞のなかに入り込んできてはいたんですけど、それにも長い変遷があって。まず歌詞を書き始めた当初は、意味のあることを歌うことに意味を感じていなかったんですね。ただの情景だけ歌えればいいというか。そこから漠然と、少なくとも自分にとっては意味のあることを歌うようになり、徐々に誰にでも意味がわかるようなことを歌いたくなってきた。直接的には表現しないであえて難しく回りくどくっていう、いわば“エヴァンゲリオン期”みたいなのを経て、いまの形に変わっていきましたね。
──例えばミニ・アルバム『The Sound of Silence』(2020年)に収録された“Live or die, make your choice”の歌詞は、メッセージ性とともに物語性もありました。ここでひとつ突き抜けたというか。
うんうん。その前の“フォーメーション”(2019年)からの流れもあると思うんですけど、“Live or die”はひとつの転換点というか「もっと直接的な歌詞を書いてもいいのかも」みたいな。それが、今回のアルバムでいえば“R.I.P”に1番わかりやすく表れているんかな。そう言われてみると。
『The Sound of Silence』リリース時のインタヴューはこちら
──配信シングルを出しつつ長いスパンで作っていったアルバムですが、12編の物語を詰め込んだうえで「あなたの物語を聞かせてください」というコンセプチュアルな1枚になりましたね。
結果的に、ですね。3カ月連続で配信したときに、それぞれジャケットを別の人にお願いしたら「1個1個、違う曲ができていくな」みたいな感覚があって。このアルバムの曲は大きくは2回に分けてレコーディングしていて、だいぶ間隔が空いているんです。そのレコーディングの後半に「その感じでいいんや」って自分のなかで腑に落ちたというか。結局このバンドにおいては、アルバムのコンセプトとか各曲の意味付けとかはわたしの世界観が基盤になっているんですよ。一方、バクッとした音像とか音楽的なイメージは飯田(仁一郎/JJ)と谷ぐち(順/FUCKER)が作っていて、それにわたしはコントロールされているんですけど(笑)。
──12曲分のアートワークを作るというのも、最初から考えていたわけでは…
全然ないです。それもレコーディングの後半に「1曲1曲が個別のものでいいんやな」と思ったときに『Tell Your Story』というタイトルと一緒に閃いたというか、そこで全部つながったんですよ。だから意図していたことではないけれども、アートワークも含めてここまで作品としてバチっとハマったのは、もしかしたら初めてかも。なのでアートワークを担当してくれたみんなには本当に感謝しかないです。ただね、こんなこと言うと怒られるけど、最初に配信した3曲は、わたしのなかではもう過去の曲なんです。
──それは悪いことではないのでは?
いまさらこの3曲をアルバムに入れて、しかも今年の5月と7月にもう2曲(“ラーメンライス”と“HATER”)先行配信してるから、全12曲中、5曲は既発曲になるわけじゃないですか。まあ、それがいまのやりかたなのかもしれへんけど「そんなアルバム、誰がいるねん?」「7曲でアルバム買わせんの?」みたいな気持ちもちょっとあります(笑)。それで言ったら“PICK A FIGHT”も、また怒られるかもしれへんけど、わたし個人としてはあんまりアルバムに入れたくなくて。
──そうなんですか? “PICK A FIGHT”はニューウェイヴ的というかパーカッシヴなラテン・ファンクで、新鮮に感じましたけど。
なんか、エアロビっぽくないですか?(笑) この曲ができたのはコロナ禍の真っ最中で、歌詞もまんまそれなんですよ。だから「もう、いらんのちゃうかな?」と。でも、シマダボーイくんがパーカッションを叩いてくれたことで新しい感じになったし、「アルバムに入れても収まりいいんじゃない?」とメンバーに推されて入れたんです。『The Sound of Silence』の収録曲もそうなんですけど、あのコロナ真っ只中の感じに対していまはめちゃくちゃ違和感があるんですよね、自分的には。たぶん“PICK A FIGHT”もワンマンではやるんですけど、どういう心持ちでやるんかな?
──まだコロナ禍は終わってはいませんし、ひとつの記録としてあってもいいのでは?
まあ、そうなんでしょうね。あとリミテッドのメンバーは、少なくとも飯田と谷ぐちはわたしがなにを歌っているかとか、まったく気にしてないんで(笑)。