ド派手に笑って、泣いて、歌って!──夢がたっぷり詰まった、“のんとも。M”初アルバム『ショーがはじまるョ!』
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女優、創作あーちすととして活躍するのんが、大友良英とSachiko Mのふたりと手を組み、“のんとも。M”として初のアルバム『ショーがはじまるョ!』を昨年末にリリース! 名曲“明日があるさ”や“ひなげしの花”といったカバー曲から、お祭り歌謡に宴会フォーク、はてはノイジーな謎ラップまで…しかも小泉今日子、尾美としのり、尾身美詞、片桐はいり、渡辺えり、百々和宏、ひぐちけいといった豪華ゲストも加わった、笑って泣ける1枚を、OTOTOYではロスレス音質にて好評配信中です。そんな今作が生まれるまでのエピソードを語ってもらった、のんへの単独インタヴューとあわせてぜひチェックを! さあ、2021年もショーをはじめよう!
『ショーがはじまるョ!』はロスレスにて好評配信中!
のんとも。M - 明日があるさ【official music video】のんとも。M - 明日があるさ【official music video】
INTERVIEW : のん
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のんが大友良英とSachiko Mと結成したのんとも。Mとその仲間達が作り上げた『ショーがはじまるョ!』。底抜けに明るく、めちゃくちゃ楽しい。そしてこんなに楽しいのに、“明日があるさ”を聴いていると涙が溢れて止まらない。知らぬ間にこの状況下で多くの負荷が心にかかっていたことに気づく。とともに、のんとも。Mがその負荷を「生きていれば明日があるさ」って少しずつ溶かしてくれる。エンタメは必要だ! これは、そのことを示してくれたとても大事な作品だ。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文・構成 : 高木理太
写真 : 沼田学
リモートでもこんな曲が作れるんだ
──まずは、のんとも。Mというユニットがどのような経緯で結成されたのか教えていただけませんか?
大友(良英)さんが毎年〈新宿ピットイン〉で年末の何日間かを貸し切ってライヴをやられていて、去年その中の1日に「Sachiko(Sachiko M)さんと3人でなにか面白いことをやりたいから来てくれないかな」と誘っていただいたんです。「じゃあ、好きに曲作ってみますし、みんなで作りましょう!」って話になって、みんなで曲を作ったり、「この曲、カバーしたいね」ってみんなで曲を出し合ったりしたのが発端ですね。
──なるほど。では、その〈ピットイン〉のライヴでは今回のアルバムの曲も既に演奏していたんですか?
そうですね、もうこのときにはアルバムに収録されている半分くらいの曲は演奏しました。
──そうだったんですね。そのときのライヴの手応えはどうでしたか?
お客さんも含めて、みんなで大宴会みたいな感じの暖かい空気のライヴで楽しかったです。このライヴが終わったあと、ライフワークとして定期的にやりたいですねっていう話にみんなでなりました。
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──なるほど、そこから世界中でコロナの影響がどんどん出始めました。のんさんの周りにもコロナに対していろんな考えの人がいたと思いますが、のんさんはどういう思いだったんですか?
そうですね、最初は本当にびっくりというかショックのほうが大きかったので、家のなかでおとなしく閉じこもっていたんですけど、3日ぐらいすると「こうしちゃいられない!」って思って。
──はやい!
コロナが流行する少し前からのんとも。Mで音源を作れたら楽しそうだねっていう話はしていたんです。自分のソロ名義で出している曲とは全然違う曲が出せるんじゃないかなっていうのもありましたし、〈ピットイン〉でのんとも。Mが演奏した私が書いた曲たちも、ソロではボツ曲だけどのんとも。Mだったらできそうだなと思って夢を膨らませていたんですけど、そうしたタイミングでコロナが拡大してライヴも録音も難しいかなという雰囲気になってて。大友さんもSachikoさんも知り合いのライヴハウスがどんどん危うくなったり、無くなってしまったりで、とてもナーバスになって落ち込んでいて。でも「そんな時こそ音楽やりましょうよ!」って持ちかけたら、「やろうやろう!」ってなって。ただ、現実的にできるのかはわからない状態だったんです。そんなときに私がナビゲーターを担当しているJ-WAVEの『INNOVATION WORLD ERA』という番組に大友さんが初回のゲストとして来てくれたときに「コロナ下でオファーを受けて、リモート録音で作った曲がある」っていって作った曲を聴かせてくれたんですね。それでリモートでもこんな曲が作れるんだと思って、それならのんとも。Mで録音しましょうっていう流れになりました。
──へぇ。どんな風に作っていったんですか?
まずはどの曲をリモートで録音しようかという話になって、〈ピットイン〉でも演奏した“lalala にちようび”と“いつでも君は”をリモートで録音しました。
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──なるほど。今回のアルバムの選曲はどなたが?
選曲もみんなで出し合い絞っていった感じですね。
──選曲も含め、のんとも。Mだからこその雰囲気というのがアルバム全体に詰め込まれていますね。
アルバムの1曲目が“ショーがはじまる!”という曲なんですけど、“歌謡ショー”のような、いろんな曲調が詰まったアルバムになっているんじゃないかなと。
のんとも。Mだったらすごい楽しく派手にできそうだなと思って
──オリジナル曲もありますが、カバー曲も多数収録していますよね。このカバーの中でのんさんが選んだ楽曲はあるんですか?
“Sherry”と“ハッスルホイ”と“ひなげしの花”が私が選んだ曲で、“Sherry”は今回のアルバムがきっかけで、“ハッスルホイ”と“ひなげしの花”は〈ピットイン〉のときにカバーしたいと提案した曲ですね。
──それぞれカバーしたいと思った理由を聞いていきたいんですが、まず“Sherry”は?
コロナ下で私の仕事も全部ストップしてしまったんですけど、そのときにNetflixやHuluとかを観ていて『ジャージー・ボーイズ』をやっと観たんです。そしたらおもいっきりフォー・シーズンズにかぶれてしまって(笑)。それでやりたいってなりました。
──なるほど(笑)。それでは、“ハッスルホイ”と“ひなげしの花”はなぜカバーしようと?
“ひなげしの花”は、自分のアルバムだったら、カバーする雰囲気じゃないと思っていたんですけど、のんとも。Mだったらめちゃめちゃ素敵になりそう! っていうのと、私が好きな曲なのでやりたいと推してやらせていただきました。
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──めちゃくちゃ良いアレンジになってますよね、とてもよかったです。
本当ですか? やったー! “ハッスルホイ”は私が植木等さんに憧れていて、『クレージー作戦 くたばれ!無責任』がすごい好きなんですよね。で、その映画のなかで歌っていた“ハッスルホイ”をずっと普段から歌っていて、のんとも。Mだったらすごい楽しく派手にできそうだなと思って。
──この曲は強烈ですよ。これこそ、のんとも。Mじゃないとできない。この曲の〈およびでない こりゃまた失礼しました〉の部分をうちの息子が気に入って、何度も繰り替えしかけさせられてます(笑)。
そこの部分いいですよね。“ハッスルホイ”は大友さんがノリノリで、「僕はクレイジーキャッツ世代だから」って自信満々で。間奏の〈この世は極楽〉とかも大友さんの発案で。
──大友さんのクレイジーキャッツ愛が溢れてますよね。のんさんにとって、カバー曲を歌うのってどんな気分なんでしょう?
すっごく楽しかったです。日頃から歌ってるだけあって喉が自由というか。“ヒナゲシの花”だけは何度かボイトレも重ねてからメロディを掴んでやりましたけど。
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──アルバムの曲だと、“眠れない”なんて大友さんもよくこんな歌詞をのんさんに歌わせるなって思いましたよ。〈深夜に大声出してるんじゃねえ、このクソガキ〉ですからね(笑)。
“眠れない”は〈ピットイン〉のライヴの時にはもうあった曲なんですよ。「のんちゃんをイメージして作ったんだ」って言われたんですけど、すごい歌詞だなと(笑)。
──大友さんはそういうのんさんの気質を理解されてるんでしょうね。
ありがたいですね。私が〈ピットイン〉のライヴに向けて、なんでもいいから曲が出来たら送るっていうことをやってたんですね。いつもそれを送るのが深夜の3時くらいだったので、「のんちゃん眠れないんだな」ということで作ったみたいです。ちょっとオヤジっぽい歌詞になっちゃったって言ってましたけど(笑)。
最初のイメージ以上に夢が膨らんだアルバム
──アルバムには3人以外にもたくさんの人が関わっていると思うんですけど、録音メンバーだったり編曲は大友さんが決めたんですか?
そうですね、全て大友さんにお任せでやってもらったんですけど、まさかのビッグバンドを連れてきてくれて(笑)。「良いんですか!?」みたいな。
──あとはやっぱり“明日があるさ”の話も訊きたいなと。MVを見てもレコーディングはすごい楽しかったんだろうなって。
MVを見返しても他人事のように思えるくらい、夢のような時間でしたね。小泉(今日子)さんと尾美(としのり)さん、(片桐)はいりさん、(渡辺)えりさんと仲間が加わっていくんですけど、のんになってからのかたとも一緒にやりたいなと思って尾身美詞さんに依頼して、過去からいま、そして明日に繋がっているっていうのが見えるようなゲストの方々に集まっていただきました。小泉さんが来るってなったときは心臓バクバクで帰りたい! ってくらい緊張したんですけど、小泉さんが入って歌うと小泉さんの曲になって、改めてすごいなって思いました。尾美さんには、打ちのめされたりとか諦めたりとか感情の出てる部分を歌っていただいたんですけど、その表現がすごく良くて。録るごとに違う表現で演技を乗っけてやってくださるので面白かったです。あとは尾美さんって本当に美声ですよね。
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──“明日があるさ”って日本のほとんどの人が知ってる曲じゃないですか。原曲がすごすぎてなかなか超えられないということってあると思うんです。でもこの曲は奇跡が起こっていて、原曲と同じ、もしくはそれ以上だなと思いました。のんさんが以前に一緒にドラマをやった人がいて、いま関わっている人たちもいて、そしてコロナの中でもやりきる。その精神が奇跡を産んだのだと思います。そしてその後がまさかの“さなえちゃん”っていうのもいいですよね。
ビックバンド、そして豪華なゲストの後は3人きり(笑)。“さなえちゃん”は録ってみたはいいけどどこに入れよう? ってなって。最初か最後だよねなんて話してたんですけど、豪華な“明日があるさ”の後に3人きりの音に戻るのが綺麗なんじゃないかなと。
──念の為訊きたいんですけど… これは練習テイクじゃないですよね(笑)?
違いますよ(笑)! 結構ぐちゃぐちゃで手探りで録音したんですけど、「元もそんな感じだから大丈夫だよ!」って言われて原曲を聞いたら全然もっとしっかりしていて(笑)。でも楽しさが伝わればいいかなと思ったし、パワーだけはすごくある曲になったと思います。
──確かにそうですね(笑)。大友さんとSachikoさん、おふたりの魅力って一体どういう部分だと思います?
夢は大きく、自由な精神を持ったおふたりだと思います。
──夢は大きく… というのは?
私はこのアルバムにビックバンドが参加するなんて思いもよらなくて、“ショーがはじまる”、“ハッスルホイ”、“明日があるさ”とかはビックバンドじゃないと出ない賑やかさと温かさが加わったので、最初のイメージ以上に夢が膨らんだアルバムだなと思ってて。そういう風に最初に想像した夢をさらに増幅してくれるおふたりだなと思ってます。
──コロナでミュージシャンも役者も普段のようには活動ができないなかで、それでものんさんはクリエイティヴを止めないじゃないですか。改めてのんさんとして今どんな状態ですか?
みんなこうした状況で心が揺さぶられて、落ち込んでると思うんです。そして音楽とか映画は不要不急のなかに入れられていって、エンタメが悪者みたいになった時にそんなわけない!と思いました。生きていくうえでの娯楽の優先順位が世界的に低くなってると思いますけど、自分は映画とか音楽とかアートに影響を受けていまの自分が形作られているので、悔しいっていうのがすごくあって。だからこそ、こうして豪華で暖かくて明るいアルバムが誕生したと思うので、お茶の間で流れていた昭和の歌謡ショーのようにみんなに楽しんでもらえたらなと思います。
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編集補助 : 百瀬涼、津田結衣
『ショーがはじまるョ!』のご購入はこちらから
過去作はこちらにて配信中
PROFILE
のんとも。M
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のん
女優、創作あーちすと。
1993年兵庫県生まれ。 2016年公開の劇場アニメ「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭「審査員特別賞」を受賞、高い評価を得る。 作品は同映画祭で作品賞、第40回日本アカデミー賞では最優秀アニメーション作品賞を受賞した。 2020年「星屑の町」「8日で死んだ怪獣の12日の物語」出演。
2017年に自ら代表を務める新レーベル『KAIWA(RE)CORD』を発足。
シングル『スーパーヒーローになりたい』『RUN!!!』とアルバム『スーパーヒーローズ』を発売。 2019年6月ミニアルバム「ベビーフェイス」を発売。
2020年5月よりオンラインライブ『のん おうちで観るライブ』を毎月開催。
創作あーちすととしても活動を行い、2018年自身初の展覧会『‘のん’ひとり展‐女の子は牙をむく‐』を開催。
■のん HP:https://nondesu.jp/
■のん Twitter:https://twitter.com/non_dayo_ne
■のん Instagram:https://www.instagram.com/non_kamo_ne/
大友良英
ギタリスト/ターンテーブル奏者/作曲家
映画音楽家/プロデューサー
1959年横浜生れ。十代を福島市で過ごす。常に同時進行かつインディペンデントに即興演奏やノイズ的な作品からポップスに至るまで多種多様な音楽をつくり続け、その活動範囲は世界中におよぶ。映画音楽家としても数多くの映像作品の音楽を手がけ、その数は70作品を超える。
近年は「アンサンブルズ」の名のもとさまざまな人たちとのコラボレーションを軸に展示する音楽作品や特殊形態のコンサートを手がけると同時に、障害のある子どもたちとの音楽ワークショップや一般参加型のプロジェクトにも力をいれ、2011年の東日本大震災を受け福島で様々な領域で活動をする人々とともにプロジェクトFUKUSHIMA!を立ち上げるなど、音楽におさまらない活動でも注目される。
2012年、プロジェクトFUKUSHIMA ! の活動で芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門を受賞、2013年には「あまちゃん」の音楽他多岐にわたる活動で東京ドラマアウォード特別賞、レコード大賞作曲賞他数多くの賞を受賞している。
■大友良英 HP:http://otomoyoshihide.com/
■大友良英 Twitter:https://twitter.com/otomojamjam
Sachiko M
sinewaves, 即興演奏家,作曲家
テスト用の信号音(サインウェーブ)を使った電子楽器を演奏し世界的に活躍する即興音楽家。2003年アルスエレクトロニカ・ゴールデンニカ賞受賞。サウンドインスタレーション作品発表、写真集出版など活動が多岐にわたる中、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」劇中歌の作曲に参加。大 友良英と共に手がけた「潮騒のメモリー」で第55回日本レコード大賞作曲賞受賞。以降、ドラマの劇中歌、劇伴音楽、作詞作曲などの活動をすることとなる。
2014年"Asian Sounds Research" プロジェクトディレクターに就任、「OPEN GATE ~〜動き続ける展覧会」をキュレーション&ディレクションし、「音楽」と「美術」の間に切り込む新たな試みを探求し続けている。
■Sachiko M HP:https://teamsachikom.wixsite.com/sachiko-m
■Sachiko M Twitter:https://twitter.com/teamsachikom