ステージ上にはギターとマイク、iPhoneのみ──幽体コミュニケーションズの丹念な音設計に迫る

3人組バンド、幽体コミュニケーションズが成すサウンドは作り込まれているが密度は薄く、計算された音の隙間は心地がいい。バランスのとれた男女混成ヴォーカル。エフェクターを器用に使いこなし、様々な音色へと変化するエレキ・ギター。自宅やスタジオだけでなく、トンネルや公衆電話を使った屋外録音など様々な方法を駆使したレコーディング。必要最低限かつ、ユニークな音作りで構成された新作『巡礼する季語』は、1枚を通じて季節を巡っている。バンドにとって、重要なワードである「季節」をテーマに制作されたファースト・ミニ・アルバムは一体どんな作品になったのか。
季節を巡る、幽体コミュニケーションズの新作ミニアルバム
INTERVIEW : 幽体コミュニケーションズ

ステージの上には、ギターとマイク、iPhoneのみという斬新なスタイルでライヴをする音楽集団、幽体コミュニケーションズ。京都の音楽フェス〈ボロフェスタ〉に昨年11月に出演した際、主催の飯田仁一郎はその洗練されたパフォーマンスに惹きつけられたという。まだ謎が多い彼らを知るべく、ファースト・ミニ・アルバムをリリースするタイミングで、オトトイは取材を決行。バンドの結成から制作方法について、また新作の収録曲について飯田がきいた。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 梶野有希
写真 : 大橋祐希
複数でできる表現に大事なものがあるような気がしたんです
──バンドはどうやって結成されたんでしょう。
paya(Vo/Gt):複数で音楽をやるという大前提が自分のなかにあったので、僕からメンバーに声をかけました。複数でできる表現に大事なものがあるような気がしたんです。
──というと?
paya:音作りの面もそうですけど、音以外の面でも複数でやることで立体感が生まれるんじゃないかなと。ひとりだと一面しかないけど、人数がいればそれだけ他の面が生まれるじゃないですか。表現を色々な角度からみれるところがいいなと思ったんです。
──いししさんはpayaさんからバンドに誘われたときに、デモとか渡されました?
いしし(Vo):はい。「学内のイベントで一緒にやろう」って声をかけていただいたのがきっかけですけど、そのときにカヴァー2曲とpayaさんのオリジナル1曲を持ってきてくれました。
paya:「旅の予感」という曲だよね。リリースはしていませんけど。
──オリジナル曲を聴いた印象は?
いしし:「単純に嬉しかった」というよりも、「わくわくした」という気持ちが大きかったような気がします。ふたりで演るために曲を持ってきてくれるという経験がはじめてだったので、ここから練習を経て育っていくであろう曲に対して明るくひらけるような気持ちでしたね。親しみやすい詞と弾むメロディが魅力的な曲だなと思いました。
──カヴァーはどなたの?
いしし:1940年に公開された、映画『支那の夜』の劇中歌にもなっていた「蘇州夜曲」という曲です。主演を務めた、李香蘭(山口淑子)さんの歌唱を前提に作られた曲で。それと、マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)さんの「まーらいおん」という曲があるんですけど、それをマヒトさんと、青葉市子さん、下津光史(踊ってばかりの国)さんの3人によるユニット、おばけがカヴァーしたバージョンがあって。私たちはそれをカヴァーしました。
──ヴォーカルやコーラスはpayaさんが考えているんですか?
いしし:歌い分けは一緒に決めたり、payaさんが決めたりバラバラですね。コーラスは自分で一度つけてから相談して決めています。ふたりで合わせて歌う部分は練り合わせることが多いですけど、ソロパート、スキャット、ハミングなどはかなり自由に歌わせてもらっています。
──幽体コミュニケーションズは、ヴォーカルの構成も特徴のひとつですね。
paya:そうですね。僕ができないことをできるヴォーカルがいてほしいと思っていて。僕はわりとラップを入れたり、リズムからアプローチをする歌い方をしますけど、対照的に曲線的な歌い方ができて、ハーモニーをうまく作れる人がいいなと考えていたんです。そういう意味で、いししと一緒にやりたいと思いました。

──吉居さんはどういった形でバンドへ加入されたんですか?
吉居大輝(Gt)(以下、吉居): payaさんといししがサークルのイベントでカヴァーやオリジナル曲をやっている時に、僕はPAをやっていたんです。それで一緒にやりたいって思って。いままで弾いたことがないギターのアプローチを自分はできると思ったし、ふたりの世界観を活かせるようなギターを弾けるという自信も少しあったので、ぜひ一緒にやりたいと僕から伝えました。
──ヴォーカルがふたりいて、打ち込みでもいい可能性のあるものを生でやる、という難しさがこのバンドにはあると思います。その辺りで苦労されていることはありますか?
吉居:それはずっとはじめから、いまでも苦労しています。でもそれが僕がこのバンドにコミットできる部分でもあるので、楽しい部分でもあります。あとは打ち込みだけ、ギターと歌唱だけでも完結する曲に、あえて自分が入る必要性がないと思うときももちろんあって。そのときは全然ふたりでやってもらうスタンスでいます。
──今作にもギターが入っていない曲がいくつかありますね。
吉居:いままではもともとふたりでやってた曲にギターを付けるパターンが多かったんです。今作はいないというよりも、いるような、いないようなギターを付けることが多かったのでそこは変化した点ですね。
──payaさんといししさんは、吉居さんのギターに関していかがですか。
paya:僕が曲を作る段階では、ギターの音が鳴っていないことが多いんです。そもそもの音楽の出発点がクラシックから入ったので、エレキギターのような発想があまりないんですよね。でもそこに無理やりギターのレイヤーを差し込むことが大事で。本来ギターがなかった曲にギターが入っていたり、馴染むように歪に変形したギターが入っていたり、そういうことをしてくれるのが吉居なので、このバンドにはなくてはならない人間ですね。
いしし:環境音をイメージさせるような音や、楽曲をきらっとさせたり、欲しい部分の要素を生で入れてくれるんです。だから、このバンドにとって重要な役割を担ってくれているし、ギタリストとしてすごいなって思います。
